マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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サーモンは何とか掘れました。後はイベントをクリアするだけ……!


67話 時にはスルーしてあげるのも優しさ

 

 武澤さん曰く、

 

「移籍屋とは言われているけど、移籍で解決できるのはまだ矯正が出来る位に恋心が淡い間にいる子だけだよ。恋心が強い子だと僕じゃどうしようもできない。それを見極めるためにも、事前に相手のトレーナーから話を聴くのが大切なんだよ」

 

 との事だ。本人はセーフと思っていても、第三者視点から見ればアウトって案件はよくあるらしい。無事に移籍出来る条件が限定されている以上、しっかり見極めないといけないのはよくわかる。余談だがアウト判定を受けたトレーナーだが、そのまま放り出すって訳でもなく、相談役として話を聴いてるとの事だ。武澤さんも大変だな。

 

 その事を踏まえて、だ。

 

「うーし、んじゃ始めるか」

「うん」

 

放課後の俺のトレーナー室。フジと一緒にノートパソコンにボイスチャット用のマイクをセットし、武澤さんから教えてもらったボイスチャットツールを起動。これで準備は完了。後は予約の時間になったら、相手(まだ相談段階って事で匿名)から通話が繋がるって仕組みだ。

移籍屋武澤ならぬ、移籍屋(仮)武藤の初仕事だ。

 

「でもまさかこんな事になるなんて思いもしなかったよ」

「せやな」

 

 ちょっと声を掛けに行ったら、特殊な仕事を手伝ってくれとか流石に読めなかったぞ。

 とはいえこういった仕事ってのはお互い様ってのもあるし、更に武澤さんもプライベートでゴタゴタしていて移籍屋としての仕事に支障をきたしているとなると、流石に一時的にヘルプに入らざるを得ない。

 

「ゆーて俺の仕事は相談だけだからな。流石に移籍まではしないし、俺もやる気はない」

「それを聴いて安心したよ」

 

 俺の指導力だと、今の五人で手が一杯なんだよ。てか武澤さんも「君が移籍までやると、君を狙うウマ娘が更に増えそうだね」とか言い出したから、俺は相談限定にして移籍可能な案件を見つけたら武澤さんに繋ぐって形になっている。……決して、フジがスッゴイ目で俺を睨んでいたから、こんな形式になった訳じゃないぞ?

 

「てか相談の内容的にフジが横にいるのはマズい気がするんだが?」

「そこはちゃんと弁えているから大丈夫だよ」

 

 ……まあ、フジならここで聴いた情報を言いふらすとかはないだろうからいいけどさ。とりあえずここにフジがいる事は、武澤さんには黙っておこう。

 

「でもここで聴いた事は、今後のために参考にさせてもらうかもね」

「おい」

「あはは、冗談――じゃなくて本気だよ?」

「よーし、やっぱり追い出すか」

「ゴメンゴメン、冗談だよ。それより、早速誰か通話してきたよ。早く出ないと」

「へいへい」

 

 フジにせかされる形で通話ボタンを入れる。直後、どことなく切羽詰まっているような声色がスピーカーから響いた。

 

『ああっ、繋がった! すみません、移籍依頼をさせて下さい!』

「あー落ち着け。とりあえず、状況を説明しろ」

『って、誰だよ。武澤さんじゃないのか?』

「移籍屋関連で事前通知があったろ。読んでなかったのか?」

『……そういえば、通知があったな。中身までは読んでなかったけど』

 

 そこまで気が回ってない辺り、大分追い詰められてるっぽいな。

 

「武澤さんに頼まれて相談の代役をしてんだよ。ともかく状況を説明してくれ。状況次第では武澤さんに取り次ぐから」

『あっああ、分かった。実はついさっきなんだが、担当に告白されちまったんだ。その時は卒業まで待ってくれって言って何とか躱したんだが、このままだと担当に捕まっちまう。だから今の内に何とかしたいんだよ』

「……お、おう」

 

 曖昧に返事を返すが……、中々の詰みっぷりに頭痛がしてきた。俺の脇で話を聴いてたフジがコソコソと小声で俺に話しかける。

 

(ねえ、これってほぼ詰みなんじゃ……)

(ホンマそれ)

 

 この相談者、余りの衝撃に忘れてるかもしれないが、移籍が出来るのは担当の恋心がまだ小さい時限定だぞ。

 

(どうするの、トレーナーさん?)

(誤魔化してもしょうがないし、しゃーない。あー、相談者さんや。とりあえず話は分かった」

『ああ、だから武澤さんに取り次いで――』

「明らかにアウト案件だから、移籍は諦めてくれ」

『おおい!?』

 

 とりあえずバッサリ切り捨てておく。てか初心者の俺でもこの案件は武澤さんに話を通すまでもない事は分かるわ。

 

『なら俺はどうすればいいんだよ!?』

「落ち着け。一応確認するがお前の気持ちはどうなんだ?」

『担当はいい子だが、流石に付き合うのは流石にな……』

「オーケー、その方針な」

 

 まあそこら辺は極々普通の意識だな。変な事考えてなくて良かった。

 

「とりあえず、今後担当が何かしらアプローチを掛けてくるのは確定している。それを躱しつつ、徐々に距離を取っていけ」

『……それしかないか。何とかやってみよう』

「おう、頑張れよ。ただし注意点として、一気に距離を取ろうとするな。ゆっくりと距離を取るんだ。いいか? ゆっくりとだ」

『ああ、分かった。それじゃあな』

「おう、健闘を祈る。……ふー」

 

 通話が切られた。一応ながらも初めての仕事が無事に終わり小さく息を吐く。

 武澤さん、いっつもこんな奴らの相手やってたのか。本当に頭が下がる。

 

「お疲れ様、トレーナーさん」

「おう。いやー、まさか初手で手遅れな奴が来るとは思わなかった」

「今のは私でも手遅れって分かったかな。確か武澤トレーナーは移籍が出来る基準を周知してるんだよね? 今のトレーナーは知らなかったのかな?」

「どちらかというと、焦ってそこら辺を忘れた感じじゃないか? もしくはダメ元で訊いてきたとか」

「そっか。それにしてもトレーナーさん、今の相談の対応だけど随分手慣れてる様に見えたけど?」

「ほら、今の俺の状況って普通なら担当に捕まってても可笑しくないのに、未だに喰われてないじゃん。そんなもんだから、何か担当に捕まらないコツがないかって相談を持ち掛けられる事が多いんだよ」

「へぇ、他のトレーナーからはそう見られてるんだ」

 

 因みに武澤さん曰く、俺が無事でいられている理由が、明確に「大人になってから答えを出す」とゴール地点を決めている上で、距離を取ろうとせずむしろ積極的にかつ平等に担当たちと関わっているため、フラストレーションが溜まらず無事でいられているらしい。ただしこの方法だと、担当たちの恋心に定期的に燃料を投下し続けるので、決断の日まで気持ちが変わらない可能性が大きいとも言われているが……。

 

「武澤トレーナーはそれを知ってたから、トレーナーさんにこの仕事を持ち掛けたんだね」

「ゆーて俺の相談相手が上手くやれてるってのは、あまりないんだけどな?」

「え?」

「具体的には成功率は1割切ってる」

「……私たちウマ娘的にはいい事だけど、だからってその成功率はどうなの?」

「ゆーて、俺の場合は完全手遅れな奴しか相談に来ないし……」

 

 むしろ約一割の打率があるだけ褒めて欲しい。

 

「まあアウト案件の相談については俺に一任されてるし、適当にやっていくさ」

「それでいいんだ……。あっ、次の相談相手が来てるよ」

「おっと。はい、こちら移籍屋代理」

 

 こんな軽い感じで移籍屋の窓口の仕事は続く。

 

 

――以下、ダイジェスト!

 

『誘惑がキツイ……。そろそろ耐えられないんだよ……』

「分かってると思うが、手を出したらその時点で試合終了だからな? 煩悩を取り払うために写経でもやってみるか?」

 

 

『最近担当が作る味噌汁の味が、実家の味になってるんだがどう思う?』

「実家に電話でもしてみ? 確実に担当が手を回してるから」

 

 

『最近、担当が僕を獲物を見るような目をしてる気がするんです。でもこれって気のせいですよね? 僕彼女がいるし、そのことは担当も知ってるんですけど』

「それほぼ確実に気のせいじゃないからな? あいつ等、彼女がいても関係なく寝取ろうとして来るぞ。覚悟はしとけ?」

 

 

『クリスマスに誘惑に負けてヤッちまった……』

「俺にどうしろと……」

 

 

『助けて! 今担当に押し倒されてるんだ!?』

「だからそうなった時点でどうしようもないから……」

 

 

 とまあ、みんな愉快()な相談ばっかりだったぞ! まだ相談の仕事中なのに頭痛くなってきた!

 

「うん、みんな順調みたいだね!」

 

 対して横でウマ娘側が善戦している事を知ったフジは中々いい笑顔してやがるぞ! ついでにウマ娘たちの奮戦に充てられたのか、相談がボイスチャットオンリーなのをいい事にボディータッチし始めてきた! むしろ俺の方がヤバいかもしれん。

 

「つーか、武澤さんって毎日こんなんやってんのか。こんなんよく平気でやれるな……」

「それはベテランだからこそなせる業なんだろうね。ほらほら、そろそろ次の相談者さんが来る時間だよ。今日はこれで最後だから頑張ろう?」

「へいへい。次は……『もしもし。相談の予約を入れたのだが、今いいかな?』って、ボイスチェンジャー?」

 

 今まで地声での相談だったところに、唐突に合成音声っぽい声が差し込まれたもんだから、思わず面を食らってしまった。

 

『ああ、申し訳ないけど色々と事情があってね。ボイスチェンジャーを使わせてもらっているよ』

「あー、それだったら構わない」

 

 武澤さんが言っていたが、それなりにベテランや地位が高いトレーナーも相談に来ることがあるらしいが、そういった奴は問題が外に漏れるリスクを考えてボイスチェンジャーを使う奴もいるらしい。今回もそれなんだろうな。

 

「それで移籍の依頼か?」

『いや、もう移籍は無理な段階だからね。相談だけさせて欲しいんだ』

「分かった。それじゃあ状況を教えてくれ」

『……最近私は妻に逃げられてね。それを知った担当の一人が私に色々と手伝ってくれるんだよ』

「あー……離婚はご愁傷様とだけ……」

 

 チーフといい武澤さんといいトレーナーの離婚率ってのは高いね。

 

「それでその担当はどういう感じで動いてるんだ?」

『実は私には息子がいるんだが、トレーナーなんてやっているとどうしても帰りが遅くなるなんてザラでね。そんな時は僕の家まで行ってくれて息子の面倒を見てくれるんだ。しかも夜が遅くなる時はわざわざ家に泊まってくれる事もある』

(……フジ)

(うん、栗東寮にそういった理由で定期的に外泊届を出す子がいるよ)

 

 中々に攻めてるなその担当。てかこの身の上話最近聞いたぞ。

 

「……因みにその息子さんの反応は?」

『担当の事を大変気に入っているようだ。息子と話していると、担当がご飯を作ってくれたとか、遊んでくれたとか、勉強を見てくれたとか、そんな話ばかりだよ』

「……息子さんが寂しがっていないのはいい事ではあるな」

『ああ、担当も息子をいい子だって褒めていたよ……』

「担当も全力で家族になる気満々だな……」

 

 もう外堀が埋まってるやん。

 

『こう……どうしたらいいんだろうね? こういった事はよく聞くけど、当事者になると混乱するものだね』

「……とりあえず、そこまで行くとほぼ喰われるのは確定だから、今の内に覚悟を決めとけばいいんじゃね?」

『……そうだね、これからの人生を担当と過ごすのもいいかもしれない。今日はありがとう。僕は君より先で待っているから、君も頑張ってくれよ? 武藤君』

 

 お礼と励ましの言葉と共に通話が切られた。……んじゃ、そろそろツッコミ入れていいよな?

 

「あんたまで当事者になってどうすんだよ武澤さん……」

「ボイスチェンジャーを使ってたけど、家庭環境が独特過ぎて相手が直ぐに分かったよね」

 

 頭痛くなってきた。てか武澤さんも俺が相手を察してるのを分かった上で話してたしよ。

 

「でも話を聴いた限りだと、武澤トレーナーを狙ってるのは一人だけみたいだし、本人も覚悟は決めてるみたいだから平和に終われるんじゃないかな?」

「せやな」

 

 アッサリ割り切ったのは経験のなせる業なのか、本人の性格なのかはわからんが。

 てか、チームトレーナーが複数人から惚れられてチームの中がギスギスしてるってのが珍しくない中で、学園最大規模のチームを率いているにも関わらず狙ってきた担当が一人だけな辺り、やっぱりあの人スゲェわ。狙われた時点でアウトとは言ってはいけないけど。

 

「てか武澤さん最後の最後にエグイ事言ってたんだが?」

 

 先で待ってるって、つまりは俺も追いつくの確定って意味だよな?

 

「でもトレーナーさんって、他のトレーナーからはいつか必ず担当と一緒になるって思われてるんでしょ? なら武澤トレーナーがそういうのは当然じゃないかな」

「あー、うん。それ言われたら反論出来ねぇ……」

「だから出来るだけ早く、二人で一緒に武澤トレーナーの所に追いつかないとね、トレーナーさん?」

「あー……」

 

 とってもいい笑顔のそんなことを宣うフジに、俺は曖昧に呻くしか出来なかった……。

 

 

 

 




ミイラ取りがミイラに……!
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