マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
「開発五課、ですか……」
樫本さんとお互いの担当のトレーニング方針について話していた時、ぽろっと開発五課とグダグダをやった事を話した所、なんか樫本さんが滅茶苦茶渋い顔をした。
「あいつ等の事、知ってるんですか?」
「以前URAの職員をしていましたから、それなりにURA内部の事情は把握しています」
そういえば樫本さんって完全にトレーナーとして馴染んでるけど、学園に戻ってくる前はURAの幹部職員だったっけ。そりゃ知ってるのも当然か。
「開発五課はレースやライブに関連する舞台装置の開発を主に担当していた部署です。最近ですとライブ用のドローンは五課の代表作ですね」
「あれあそこで作ってたんですか」
この間は頓珍漢な事してきたが、あいつ等ガチじゃん。ライブで使うドローンは俺もよく見るが、操作スタッフがドローンを作ってる会社の物よりもこっちの方が性能がいいって褒めてたぞ。
「他にも理事長のお気に入りの『ダート整備マシン・耕し君3号』も五課の開発です」
「……ドローンと完全に別方面の技術の結晶が出てきたんですが?」
「こう……あそこは技術力は凄いので、今は色々な物を作っているんです」
「あ、はい」
そっと視線を逸らす樫本さんの前に、ツッコミを入れられなかった。
「そんな奴らが何でグッズを作り始めたんです?」
「そこまでは分かりません。……ただ開発五課は昔から様々な分野に手を出している事で有名な部署です。部署内で何かがあったのかもしれません」
「……なんか変な組織内闘争に巻き込まれてるとかないですよね?」
「いえ、それはありません。URAは大組織なだけに派閥争いはありますが、開発五課が巻き込まれた事は一度もないそうです」
ハッキリ言い切るね。ますますそんな部署がグッズを作りたい理由が分からん。いや、それよりもだ。
「その開発五課ってのはどんな連中なんですか?」
基本冷静なタイプの樫本さんがここまで露骨に顔を顰めてたり、露骨に視線を逸らしたりとか明らかに何かあるよな……。
「……技術力の面で言えば一流企業にも引けを取りません。そしてその技術力を支えているのは、五課の技術者たちです。その能力だけを見れば多くの一流企業がスカウトに来ること間違いなしでしょう」
「おー、そりゃ凄い。……能力だけを見れば?」
「はい、能力だけを見れば、です」
「……」
言い切っちゃったよ。これはつまり、
「……要するに能力以外に問題がある?」
「はい」
「……具体的には?」
「……色々とありますが、共通する事として――」
樫本さんが俺を見据える。なおその瞳にはハイライトがない。
「変人揃い、とだけ」
……樫本さんとこんな会話をしたのが、数日前。そして今、俺は樫本さんがどうしてあんな態度を取っていたかってのが嫌って程理解させられた。
『歓迎! シリウスシンボリ様!』
開発五課のあるURA奥多摩支部の入り口に、デカデカと横断幕が掲げられている。そして入り口前には多くの職員と思われる面々が陣取っているんだが……
「シリウス様じゃー! 生シリウス様じゃー!」
「ゆくぞ! 歓迎の舞じゃ!」
「おう!」
更に職員と思われる奴らは、『シリウス命』とか『シリウスLove』とか書かれた法被を着こみ、両手のシリウスのイラストが描かれた団扇を歓声を上げながら振るっていた。
「よっしゃっ! シリウス様のご尊顔が撮れたぞ!」
「あ、いいなー。後でデータ送ってくれよ!」
「おう! これはプリントアウトして家宝にしないとな!」
ついでに一部の職員っぽい奴は一眼レフでシリウスを連射しつつ、己の欲望丸出しな事をほざいている。
奥多摩支部の入り口の空気は、G1のウイニングライブのそれ以上の熱気を醸し出している――!
「見なかった事にして帰っていいか?」
なおそんな奥多摩支部の面々の前に、シリウスは死んだ目でそんな事を言い出していた。
「安心しろ、俺も帰りたい」
「どこに安心できる要素があるんだよ。いや、それよりもあれは何だ。ヤバいカルトか何かじゃないのか……」
「御本尊はシリウスっぽいから、シリウスのいう事は聴くだろ。……多分」
「そこは言い切れよ……。仮にアンタが私と同じ立場だったら、平気でいられるのか?」
「速攻で帰るな」
「即答かよ。……そもそも開発五課の熊田って奴がワガママ言い出しただけだし、わざわざ付き合ってやる必要はないよな?」
「……そういえばそうだな」
「……帰るか」
「おう」
「お二人とも、お待ちしておりました!」
『ちっ!』
噂をすれば影とはよく言うが、見た事がある顔、つまるところ先週押しかけてきた熊田が近寄ってくる様子に、二人揃って思わず舌打ちしてしまう。
「ようこそURA奥多摩支部へ! 開発五課一同歓迎いたします!」
「あーうん。歓迎してるってのは痛い程分かった……」
「むしろドン引き物だけどな?」
「すみません、シリウスさん。シリウスさんがここに来るって事を言ったら、五課どころか他の部署の職員も歓迎したいと言い出したもので」
「この支部にはヤバい奴しかいないのかよ……」
「よかったな、奥多摩支部全員がファンだぞ」
「黙れ」
「はい」
だからアイアンクローはやめて? 頭からミシミシって嫌な音してるから。
「ではお二人とも、試験場へどうぞ。そちらで各種試作品の説明をさせて頂きます」
「試験場? 普通は応接室とか会議室か何かでやるものじゃないのか?」
「いえ、そこでは狭すぎてプレゼンが出来ないので」
「……それ本当にグッズか?」
「当然です」
シリウスの質問に熊田が当然とばかりに頷いてるが、普通は試験場とか使わないからな?
「てかそもそもの話、開発五課ってステージギミックとか作る部署って聞いたぞ? そんな部署が何でグッズを作る事になったんだよ」
「ああ、そのことですか。以前五課で今後の開発についての会議をしたのですが、最近大型機械の開発ばかりでマンネリ気味だから、試しにグッズでも作ろうってなったんですよ」
「恐ろしくノリが軽いな」
「それでトレーナーと私のグッズを作ろうとしてるのはなんでなんだ?」
「武藤さんに関しては先日お話した通りです。後シリウスさんのグッズに関しては、五課はシリウスさんファンが多いのでその流れで作りました」
「そうか……」
「てかウマ娘のグッズの開発って開発一課の仕事って聞いたぞ? 勝手にそんなことしたら色んな所から文句出るだろ」
「え????????」
「何変な事言ってるの? って顔すんな」
「おい、トレーナー。本当にこいつ等大丈夫なのか?」
頭痛くなってきた。樫本さんも言ってたけど、開発五課は優秀だけど癖が強すぎる人材の収容所ってのは間違いじゃないんだな……。
そんなこんなで、結局熊田に連れられて件の試験場に通された。支部の建物の隣にある広めのグラウンドで、所々によくわからん機械が置かれている。なお支部の職員もついてきていて、遠巻きに俺たちを見守ってるせいで色んな意味で圧が凄い。
“それでは商品の説明に入らせて頂きます!”
『わああああああああああっ!』
「職員ノリノリじゃねーか」
「試作品のプレゼン会の空気じゃないな」
マイクを片手に司会をやってる熊田と観客やってる支部職員がハイテンションで、完全に祭り状態なんだが。ノリについていけない俺たちを余所に、プレゼンは始まった。
「エントリーナンバー1番! シリウスさんの次世代型の仮面です!」
試験場の真ん中で白衣姿の男が取り出したるは、祭りの屋台とかで売られてそうな、デフォルメされたシリウスの顔が描かれた仮面。
「なんかメッチャ普通の奴が来たな?」
「使い方ですが、こちらの仮面を被り額のボタンを押しますと――」
男がボタンをタップするとガチャガチャガチャと仮面が男の顔を覆っていく。最後にプシューという空気が抜ける音。そこに現れたのは、
「このようにシリウスさん仕様のフルフェイスヘルメットに変形します!」
「わざわざ私の顔をモチーフにする理由はあるのか!?」
デフォルメされたシリウスの顔の造形のヘルメットを被った男の姿が! 頭だけ着ぐるみの頭を付けた感じになってるから、中々にシュールだな!
「え? シリウスさんのグッズなのですから、シリウスさんをモチーフにするのは当然では?」
「着ぐるみの頭だけつけてバイクにでも乗れってか!?」
「てかそれ前が見えるのか?」
「こちらのヘルメットですがカメラを通して前方を見る形になっています」
「小型化といい無駄にハイテクだな……」
「後カーナビもついてます。もちろん声はシリウスさんです」
「……待て、声の収録なんてした覚えがないぞ」
「それですが、URA公式の動画から音声を取り出して、色々と加工しました」
「おい」
“ではシリウスさん! 判定は!?”
「ボツに決まってんだろ。どんだけデザインセンスがないんだ」
『ええええええええええ!?』
「観客のこの反応よ」
こいつ等全員センス×かよ。
「く、仕方ない! 今度はリアルなシリウスさんの顔に変形できるように改良を――」
「だから私の顔から離れろ」
“うーん、私的には良かったと思ったんだがね。春間君惜しかった。では続いてエントリーナンバー2のヒート君、よろしく!”
「はーい!」
そんな威勢のいい声と共に、白衣姿のウマ娘が黒い金属製の塊を載せた台車を押しながら登場する。
「私が開発したのはこちらの特殊スーツです!」
「……スーツ?」
「はい、特殊スーツです!」
明らかに金属の塊なんだが? しかもよく見たら肩掛けヒモが生えてるけど。
「どう見ても金属の塊だぞ」
「今から説明させて頂きますので、楽しみにしていてくださいシリウスさん! 百聞は一見に如かず、武藤さんこちらへどうぞ」
「おう」
ご指名を受けたんで試験場の真ん中へ。
「では、武藤トレーナー。これを背負って下さい」
「……この金属の塊を?」
「はい」
「クッソ重そうなんだが……」
“武藤さん、ここで時間をかけてもしょうがないんで、サクッとお願いします”
「へいへい……」
渋々ながら黒い金属塊を背負う。大きさは軍隊で使ってる背嚢程度だからサイズは合ってるが、重量は中々だ。これ60㎏以上あるぞ。
「おー、流石マッチョさん。五課の男とか立てなかったヒトもいたんですよ」
「そりゃ、この重量はなぁ……。それで、これからどうするんだよ」
「右肩にあるボタンを押してください」
「あいよ――って、うおっ!?」
押した瞬間、背中の金属の塊がガチャガチャと動き出したと思ったら、急速に身体にまとわりつくように覆っていく。そして頭から足の先まで金属に覆われ、視界にモニターが映し出され外の様子が分かるようになった。
“戦闘モード、起動するぞ”
そしてなんか聞こえてきたシリウスの声と共に、モニターの脇にEとか名前が付いたゲージまで映し出される。
「はい、こちらトレセン学園のトレーナー様方からの需要を考慮し、五課で作成しました『護身用特殊スーツ うまだっち1号』です!」
「超絶なハイテクから繰り出されるクソみたいなネーミングセンスよ……」
某アメコミヒーローのパワードスーツを再現してるんだから、もうちょっとマシな名前にしろよ。
「でも性能はガチですよ? パワーはウマ娘を超えていますし、防御力もウマ娘に本気で蹴られても壊れません」
「ホントにガチじゃん」
「まあ飽くまで壊れないってだけなんで、衝撃は思い切り響きますけど」
「いや、十分十分」
軽くシャドーボクシングやってるけど、動きも全然違和感がない。多分これが夏合宿の時にあったら、赤い蹄鉄の三人組程度なら秒殺出来るな。
「所でこれ着た時にシリウスの声が聞こえてきたんだけど?」
「こちらもナビゲーションにシリウスさんの声を使っています。当然AIの性格もシリウスさん仕様です」
「だからわざわざ私を使うな」
「後、何もしなくてもEのゲージがガンガン減ってるんだけど、これなに?」
「それはスーツのエネルギー残量ゲージです。それが無くならないように気を付けてください」
「これゲージの減るスピード的に稼働時間は1分もないな? 因みにゲージが無くなったら?」
「当然パワーアシストがなくなります。そうなったらただの重たい鎧になるますね」
「うーん、制限も強いな……」
技術の限界って奴か。
「特に燃費はまだ改良中なんで。ただ私たちもこの問題を放置していませんよ? エネルギー切れでも動けるようにするために、別の機能を付けています」
「別の機能? あっ、電源が切れた」
「丁度いいので、緊急時用の機能も説明しますね。まず視界の確保についてですが、ヘルメットはバッテリー切れと同時にロックが外れますので、自力で脱げます」
「おっ、ホントだ」
ヘルメット脱ぐのはどうかとも思うが、視界確保は大事だからそこはいいとしよう。
「でも頭だけ外してもな」
「いえいえ、次が本番ですよ。左腰にボタンがあるので、そこを押してください。これで結構な重量軽減になります」
「アーマーパージで機動力を確保しようって感じか」
言われた通りにボタンを押すと、バシュって音と共にアーマーの一部が剥がれた。お陰様で風通しが良くなった。
「はい、骨盤近くにある一番重いバッテリーをアーマーごとパージ出来ました」
「よりにもよってそこかよ」
なおパージしたお陰で腰と太もも辺りの装甲はなくなったんだがな! つまり大事な所が丸見えだぜ!
「お前、ここは一番守んなきゃダメな所だろ!?」
「でも機動力は確保出来ますし、スピードでかく乱してください。当たらなければどうという事はありませんって」
「そのスピードはウマ娘相手だとどうやっても勝てないからな? むしろウィークポイント(棒)を晒すだけだからな?」
しかもバッテリーをパージしてもまだ重いし、ウマ娘からすりゃだたのプレゼントだぞこれ。
“いやー見事な機能だね!”
「そう見えるんなら眼科行け。もしくは頭の病院に行け」
「それで武藤トレーナー。うまだっち1号はどうです?」
「ここまでボロクソに言われたのに、それ訊くのかよ……。将来性はあるのは確実だが、流石にこんな研究段階の奴を持ってこられても困るだろ。後重量もキツイから、そこも何とかしてくれ」
「なんだかんだで真面目に答えてくれるんですね」
「あと、腰のアーマーパージだけは止めろ」
“うーん残念! 今後の開発に期待だね! ヒート君撤収!”
「はーい。それじゃあ武藤さん、アーマーを解除しますねー」
「……リモコン一つでアーマーパージ出来るのって、これはこれでヤバいだろ」
ヒートが散らばったアーマーを回収し、俺も自分の席に戻った所でプレゼンが再開される。
“ではエントリーナンバー3の夏川君”
“はい! 夏川、行きまーす!”
試験場備え付けのスピーカーから声と共に、重音なエンジン音が周囲に轟く! 更に試験場のゲートが開かれ、何メートルもありそうな巨大ローラーと見るからに強固な車体を試験場に乱入!
“よっと!”
その巨体に似つかわしくない軽快な軽快なドリフトを披露すると、マシンは試験場の真ん中に綺麗に停止する!
そして運転席の扉が開かれ作業着姿の男が現れると、彼は高らかに声を上げた!
「これぞ我が班の新開発! 芝ダート整備マシン『耕し君4号』です!」
『こんなもん見せられてどうしろってんだ』
そして俺とシリウスは心を通わせてツッコミを入れた。
「えっ! これ今も活躍中の耕し君3号の後継機ですよ!? そんな反応はないじゃないですか!」
「いや、それを買ったのはウチの理事長だからな? 別に俺が買った訳じゃないからな?」
そりゃ3号の活躍で色々と恩恵を受けている側ではあるけど、一介のトレーナーでしかない俺にこんなもんのプレゼンをされても困るんだが。
“夏川君、中継中中継中! とりあえず耕し君4号の説明を頼むよ!”
「はい課長!「アンタが課長かよ……」「この課長フットワーク軽いな。てか中継って何処に繋がってんだよ」 この機体ですが、中央トレセンでお馴染み、そして海外のURAにも輸出され世界中のレース場で活躍している耕し君3号の後継機になります」
あの巨大整備車、そんなに事業展開してんだ……。
「そしてこの4号ですが、一部の芝整備のために新たな機能を搭載しました」
「散水とかか?」
「ではお見せしましょう! 変形、芝整備モード!」
「変形?」
不穏な言葉が放たれたと思ったら、
“メインシステム 芝整備モード起動”
車体に設置されているスピーカーから響くシリウスの声と共に、耕し君4号の車体が轟音を響かせながらその車体を変えていく。折り畳まれていたアームが展開され、操縦席も段々と上へ上へとせり上がっていく。最後にガシャンと一際大きい音が轟いた時、それは完成した。
“これが4号の目玉機能、芝整備モードです!”
『人型にする意味合いはどこにあるんだ!?』
人型ロボに変形した耕し君4号のコックピットでドヤ顔中の夏川職員に、また二人してツッコミを入れざるを得なかった。
“こうした方が芝の整備に都合がよかったんです。後ロマン”
「コイツ欲望駄々洩れな事言い出したぞ」
「……さっきはツッコミ入れたけど、巨大二足歩行ロボは確かにロマンあるんだよなー」
“分かりますか、武藤さん!”
「おいトレーナー、アンタまでそっち側に行くな」
“後、4号のナビゲーターのボイスですが、当然シリウスさんです”
「だから当然のように私の声を使うな」
“うーん、武藤さんはともかく、シリウスさんの反応は芳しくないみたいだね。シリウスさん、判定をどうぞ”
「理事長にでもプレゼンしとけ」
“うーん、辛辣!”
「てか2番といい3番といい、グッズじゃねぇだろ。せめて一般人が買えるモン見せろや」
“うーん、そうなると8割消えますね”
「お前ら本当にグッズ作る気あるのか……?」
“当然やる気はありますよ! でも自由な発想に任せたらいつもこうなります”
「誰か制御しろ!?」
俺たちが巻き込まれたバカ騒ぎはまだまだ続きそうだった……。
「……これはいいな!」
後日。
「わはははははっ!」
「理事長、また無駄遣いして! 耕し君3号があるじゃないですか!」
「変形! 次は芝コースの散水だ!」
「人型に変形した!?」
トレセン学園で耕し君4号の姿が度々見られるようになったとかなかったとか……。
そして五課は作者が作中舞台を回すために作りました。(思いっきりぶっちゃけていくスタイル) あと、本棚にあった終わりのクロニクルが目に入ったのも原因です。