マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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Q:恋が原因で掛かったウマ娘から逃げるにはどうすればいいですか?


6話 危険って割と身近にある

 

 メッチャ長い惚気(1時間)がやっと終わってお茶を全員に出して一息ついた所で、改めて相談員の仕事を始める事にする。とはいえ、

 

「そもそも論、恋愛相談の相手が俺で良いのか?」

 

 そもそも論だが三十路のオッサンに恋愛相談って、絵面が異様すぎる。という訳でシリウスシンボリとマヤノトップガンに目を向けるが、

 

「私はたまに男から声を掛けられるが、どいつもこいつも碌な奴じゃなかったから当てにするな」

「んー……、マヤは恋愛のアドバイスをした事はあるけど、今回は慎重にやらなきゃいけないと思うの」

「うーん……」

 

 これは戦力は俺も含めてどんぐりの背比べって感じだな。

 

「そういうアンタはどうなんだ? 年齢=彼女なしってやつか?」

「いや、昔付き合ってたやつはいたぞ?」

「え、トレーナーちゃん彼女いたの!?」

「現役時代にな。ただ今回の相談内容の参考にはならん」

 

 合コンで気が合って半ばノリで付き合ってた女はいたけど、すぐにフラれたからな。今回のクソ重い恋愛相談には何の参考にもならない。

 それはともかく、いい加減問題に取り掛かろうか。

 

「つーてもこの問題、言っちゃなんだが中々難しいぞ?」

「というと?」

「でっかいハードルが二つある」

 

 ウマ娘がトレーナーに恋するってのは地方、中央問わずトレセン学園であればよくある話ではあるが、よくある話だからと言って解決難易度が低いって訳でもない。

 

「田川って偶に話すから覚えてるけど、そもそもあいつって女だぞ? あいつってソッチの気はあるのか?」

「どうでしょう……。ただこの間中々彼氏が出来ないってボヤいていました」

「いきなり高層ビルレベルの高いハードルが現れたな」

 

 今時はLGBTとかで色々言われているからワルツナイトがLだろうがBだろうが問題にはならないが、肝心の相手がLかBじゃないと話にもならない。

 

「あとトレーナー側からすれば告白されても断るしか選択肢がない」

「性癖的に?」

「いや教師と生徒の関係的に。仮に告白したとして、トレーナー側が全くその気がなかったら、これを盾にして確実に逃げる」

 

 根本的にはトレーナーとその担当が交際するのは、社会的にもアウト案件だ。そのため確実に告白を断る事になる。実際、俺も酒が飲める歳になってから出直せ、で乗り切った。因みにトレセン学園には一部なんか怪しい奴らもいるにはいるが、本人たちはトレーナーとその担当の関係だと全力で押し通してたりするぞ。

 

「それじゃあ、諦めなきゃいけないって事?」

「そんな!?」

「落ち着け。あくまで現時点では、だ」

 

 悲鳴を上げるワルツナイトをなだめるシリウス。相変わらず面倒見は良いな。とはいえ、マヤノが言ったように諦めてもらうのがベストではあるんだ。ただ今回はそれが出来るかというと微妙すぎる。

 ワルツナイトを落ち着かせたシリウスが、俺の隣に座り耳打ちをする。

 

「おいどうするんだ。これほっといたら確実に強硬手段だぞ」

「それな」

 

 多分田川に彼氏とかいたら、全力で寝取りに行ってたと思う。そう考えるとフリーだったのは不幸中の幸いか?

 それはともかくさっきの惚気と今の反応で、放置したら面倒な事になるのはよくわかった。出来れば爆弾は早めに処理したい。

 

「……いっその事、正面切って告白するのも手か?」

「え?」

「本気か?」

「上手くいけば一発で解決できる。世間体は二人で何とか誤魔化してもらう事になるがな」

 

 因みにこの案は失敗確率が滅茶苦茶高いが、むしろフラれるのがメインだ。今のワルツナイトの状態は言ってしまえば今は掛かりだ。失恋のショックを利用してワルツナイトを落ち着かせる事も出来るかもしれない。

 そんな思惑を潜んだ提案だが、今度はマヤノが制止した。

 

「待ってトレーナーちゃん。勝機が薄いのに告白するのは、いくら何でもダメだよ!」

「つーても、埒が明かないし……」

「それはそうだけど!」

 

 マヤノが慌てて俺の隣に駆け寄り耳打ちをする。

 

「それに断られたら、ワルツナイトさん絶対暴走すると思う」

「……やっぱり? ショック療法でワンチャンとか考えたんだけど」

「流石に無茶が過ぎるだろ。私でも分かるぞ」

 

 ついでにシリウスにもダメだしされて、玉砕ショック療法案は合えなくボツとなった。

 とはいえこのままでは八方塞がりで確定敗北なのは変わりない。そのせいかワルツナイトがうつむきながら呟き始める。

 

「……やっぱり今のままでは難しいですか。なら流行にのって、少し強引にでも全力でぴょい()して私の良さを分かって――」

「オーケー落ち着け。流石にそれは不味い」

「俺が悪かったから瞳孔ガン開きで呟くの辞めてくれ……。てか目の前に教員ポジがいるのに、堂々とぴょい(桃)とかいうなよ」

 

 シリウスと一緒に落ち着かせる。ヤバい、アホやったせいで、この子事の困難さに気付いて闇落ちしかかってやがる。

 

「もう、トレーナーちゃんはデリカシーがないんだから……。マヤに任せて」

 

 マヤノは小さくため息を吐くと、色々とヤバいオーラが出始めているワルツナイトに向き直った。

 

「ワルツナイトさん」

「なんですか? これからうまぴょい(運動)するための道具の候補を考えていたんですけど」

「あっうん、その道具を用意する前に話を聞いて。マヤにいい案があるから」

「いい案?」

 

 マヤノの言葉にピクリと反応した。

 

「確かに今告白したらフラれちゃうかもしれないんだよね? それなら告白してもフラれないように準備をすればいいんだよ」

「準備?」

「これはひらめきだけど……、トレーナーさんにとってワルツナイトさんが『側にいるのが当たり前』って考えるようになればいいんだよ」

「側にいるのが当たり前? それって私とトレーナーさんの関係と同じような」

「ううん、それだけじゃ弱いの。それこそワルツナイトさんが卒業しても側にいるのが当たり前、って関係じゃないとダメ」

「でもそこまでの関係って、それこそ恋人同士じゃないと……」

「恋人同士じゃなくても時間を掛けていけばそういう関係になれると思うよ。家族とか、友達とか。今からそれとなくアプローチを掛けてジックリジックリ下準備をすれば、トレーナーさんも自然と受け入れてくれるよ」

「なるほど」

 

 琴線に触れるものがあったのか、マヤノの説明に素直に頷くワルツナイト。瞳孔も普通に戻った。ただ今の説得で気になった点が一つある。

 

「……それ要するに時間を掛けてレズ落ちさせようぜ、って事か?」

「多分合ってるが、黙ってろ」

「はい」

 

 余計な口出しをして暴走状態に入ったら目も当てられないから、素直に黙っておく。

 

「でも私が卒業するまでに、そこまでの関係になれるかどうか……」

「その時は卒業した後もアプローチを続ければいいんだよ。休みの日に一緒に遊びに行くとか……、あっ、シェアハウスとかもいいんじゃないかな!」

「そっか、シェアハウス! それなら下準備も出来るし、新婚生活の予行演習にもなる!」

「後は……トレセン学園に就職するのもアリじゃないかな? 一緒の職場にいるのも効果的だろうし」

「それに男の影があったらそれとなく排除出来ますね。……いえ、それだったらいっその事トレーナーになって、トレーナーさんのサブトレを目指すのが一番ですね」

「それ、アリだね!」

「――うん、これなら!」

 

 ワルツナイトは目を輝かせ一つ頷いた。そこには先ほどまであった怪しいオーラは完全に引っ込んでいる。

 

「皆さんありがとうございました! あのまま勢いで告白していたら、大変なことになるところでした!」

「あ、はい。方向性が決まって良かったよ、うん」

「それでは、早速これから具体的なプランを練るので失礼します!」

 

 そう言うと、ワルツナイトはとっても良い笑顔で相談室から飛び出していった。それを見送り、一つ息を吐く。

 

「セーフ」

「やったよ、トレーナーちゃん!」

「おう、よくやったマヤノ」

 

 いやホント助かった。こいつがいなかったら冗談抜きでヤバかった。

 

「……確かに暴発せずに済んだが、あれは問題の先送りなんじゃないのか?」

「今暴発しなけりゃよし」

 

 なおシリウスが根本的な問題を投げかけてきたが気にしない。これ以上人様の恋愛相談に巻き込まれたくないし。

 

「こりゃお礼をしないとな。そういえば、この後甘いモノ奢るって言ったよな?」

「うん」

「ついでに晩飯も奢るわ」

「いいの!?」

「おう、好きな所に連れてってやる」

「お、良いね。私もお邪魔させてもらおうじゃないか」

「むーシリウスさん、解決したのはマヤだよ!」

「分かってるよ。甘いモノだけご馳走になるだけだ。ついでに良いデートスポットも教えてやるよ」

「んー、それならいいよ!」

「……あれ? いつの間にかシリウスにも奢るの確定してる?」

「トレーナーちゃん、ダメ?」

「……えーっと、だな」

 

 結局、マヤノのお願いには勝てず、近場のケーキが有名な喫茶店で二人に奢る羽目になった。

 

 

 

 

 

「フォーム意識、フォーム意識!」

 

 件の恋愛相談(仮)から一週間。俺が率いるチーム・デネボラはグラウンドでの練習の真っ最中だ。各々が各々の状態に合わせたメニューに則って練習をこなしている。

 

「おおおおおおぉぁ!」

 

 そんな中、シリウスが全速力でゴールラインに突っ込んでくる。現状、チームメンバーの中で一番練習に熱が入っているのがこいつだ。レースが決まったという事もありモチベーションは高い。

 

「ああああぁ!」

 

 シリウスがゴールラインを駆け抜ける。それと同時に手元のストップウォッチを止め、手元を確認。

 

「……どうだ?」

「中々良いタイムを出してるぞ」

「よし!」

 

 実際、タイムはこいつの最速タイムに近い。この調子なら問題はないだろう。

 

「んじゃ、来週からは実践スタイルで行くか」

「今からでもいいんだぜ? そこに女帝サマとフラッシュとマヤノがいるじゃないか」

「フジを抜かしてやるなよ……」

「寮長はマイラーだろ」

「いや、2000mは普通に行けるからな? それはともかく、今日は無しだ。メンバー全員でやっても、実践っていうにはメンツが微妙に足りない」

「それもそうか。ならもう一本行くか?」

「おう。折角なら自己ベスト更新と行こうじゃねーか」

「オーケー」

 

 身体をほぐしながら獰猛な笑みを浮かべるシリウス。仕上がりは中々だし、モチベーションを更に上げるためにも、是非ともここで自己ベストを更新してもらいたい。

 

「相変わらず熱が入ってるわね、武藤」

 

 そんなことを考えていると、不意に後ろから声が掛かった。振り返ってみると、ジャージ姿の短い黒髪の女とその後ろにどこかで見たボブカットが特徴の青鹿毛のウマ娘の姿があった。

 

「あー、田川か。どうしたよ? 金なら貸さないぞ」

「借りないし、借金なんてした事ないわよ。要件は宣戦布告とお礼よ」

「ん? 宣戦布告って事はレースか?」

「そ。そこのシリウスシンボリが出るレースに出る事になったのよ」

「で、挨拶周りか。また律儀だな」

「シリウスさん。よろしくお願いします」

「ああ、遠慮せずに全力で来な」

 

 頭を下げるワルツナイトとそれをいい笑顔で迎えるシリウス。元々の関係性もあるので、実に平和だ。

 

「で、お礼ってのが何なのか見当がつかないんだが?」

「あなたがワルツナイトの悩みを聴いてくれたみたいだしね。それのお礼よ」

「…………………………あー、そっちかー」

 

 あれを解決と言っていいのだろうかは甚だ疑問だが。

 

「あの子、最近どこか思い詰めていた様子だったのよ。私が聴いても何も答えてくれなかったから、助かったわ」

「あーうん、主に答えたのはマヤノだけどな。……因みにあれ以来、何か変化とかあったりするか?」

「変化? そうね、悩みが解決出来て明るくなったのは当然として……、最近はよく私に差し入れをしてくれるようになったわね」

「……うん、いい子じゃないか」

「早速計画が始まってるな……」

 

 シリウスが田川に聞こえないような小声で呟いた。その間にも田川の語りは続く。

 

「それとレース以外の将来の目標も出来たみたいね。トレーナー志望らしくて、練習の後もよく私の仕事を見てるわ。後、トレーナー試験の勉強を教える事もあるわね」

「……お、おう。将来を見据えるのは良い事だぞ。うん」

「……事情を知らないと本当に良い事だからタチが悪い」

「後は……あの子からおすすめの少女漫画とかも教えてくれたとかかしら」

「……因みにジャンルは?」

「女同士の恋愛モノが多いわね。興味はなかったけど、読んだら結構面白かったわ」

「…………そっかー」

「…………順調なようだな」

 

 ちらりとワルツナイトの方を見る。すっげーいい笑顔をしているが、田川に向ける視線が獲物を品定めしている猛獣のそれだ。

 

「っと、これ以上練習の邪魔をするのもダメね。それじゃあもう行くわ」

「あ、ああ……」

「……頑張れよ、色々と」

「はい、シリウスさん。失礼します」

 

 ぴったりと(一方的に)寄り添いながら去っていく二人の姿を前に、黙って見送る。二人の姿が見えなくなった所で、ようやくシリウスが口を開いた。

 

「……何か言ってやらなくて良かったのか?」

「……バラしたら後が怖いし」

「……そうか」

 

 恋する乙女は色々怖い。それが肌で良くわかった出来事だった。

 

 

 




A:まず掛かる前に気付いて対策しましょう。気づけなかった? ……頑張れ
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