マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
……性的暴力というものは肉体的なダメージは当然として、精神的なダメージも相当に大きいのは常識の範疇だ。被害者が当時の事で苦しみカウンセリングを受けているという事例は珍しくないし、事件が切っ掛けで人格に変化が生じる事もある。
それだけ性的暴行は精神的ダメージは大きい。メガドリームサポーターの元開発主任はこれに目を付けた。
――ヒトと同じ人格を有しているなら、同じく精神的なショックも受けるはずだ。それを上手く利用できれば、彼女たちを無力化出来るかもしれない。
三女神AIは開発陣、いやサトノによって大切に育てられてきた。サトノ初(人類初かもしれない)の人格を有したAIなのだからその当然の事だ。
だがそれ故に、三女神AIには理不尽な暴力への耐性はないのだ。性的暴力という理不尽の極みを叩き付ければ、相当なダメージになるはずだ。
「だからといって、18禁のゲームを流用するのは我ながらどうなんだろうか……。理論と言い使ったモノといい無茶苦茶だ」
元開発主任は自室にて荷物を纏めながら、当時の一世一代の大勝負に使ったツールの事を思い出し、天を仰いでいた。この感覚は、不意に黒歴史を思い出してしまい悶えてしまうのと同等である。
――どうしてそんなモノを使う羽目になったのかだが、正直な所流れとしか言いようがない。
当時、三女神AIを倒すと決意した彼だが、如何に彼女たちを破壊するかに行き詰っていた。プログラム方面でも破壊は三女神を守るプロテクト的に困難、サーバーの物理破壊なんぞもっと無理。破壊なんぞ到底不可能だった。
そんな行き詰っていた思考をクールダウンするために、気分転換でネットショッピングの画面を眺めていたのだが、そんな時に見つけたのが後に封印プログラムのベースになるとある18禁ゲームだった。
このソフトは、大ボリュームかつ手応えやり込み抜群の18禁ゲームとして鳴り物入りで発売されたモノなのだが、直ぐにゲーム内容がフィードバック型VRと色々な意味で相性が悪い事が発覚(行為の内容がプレイヤーの精神にダメージを与えるなど)。直ぐに回収されてしまったという、最近の18禁ゲーム史における有名事件を起こした一品である。
ネット上で回収騒ぎを免れたモノという事でプレミア価格がついていたそれを見た時、「ああ、そんなモノもあったな」とスルーしようとしたのだが――唐突に閃いてしまったのだ。
具体的には、
行為内容的にメンタルダメージが来るタイプなので回収騒ぎ→性暴力はメンタルへのダメージあり→精神的なダメージは人格形成にも影響を及ぼす→三女神AIは人格を持っている→人格に影響を及ぼすレベルの性暴力を加えれば三女神AIを無力化出来るのでは?
こんな連想ゲームが彼の頭の中で起こっていた。
……天啓を得てからの彼の動きは速かった。速攻でプレミア化していた件のゲームを購入すると、ソフトを解析し封印プログラムに使えるように改造。そして完成したエロゲーもとい封印プログラムをメガドリームサポーターに叩き込むと速攻で逃亡し……、現在に至る。
「でも解析した限り、趣旨的にはアレを流用するのが最善だったんだよな……。それに開発とプログラムなんか作ってたら間に合わなかったし……」
実際、一から封印プログラムを作っていたら絶対にクオリティは低かったし、そもそもメガドリームサポーターのロールアウトまでに間に合わなかったので、当時の彼の選択は間違ってはいないだろう。今の彼の心情はともかくとして。
また封印プログラム作成時間の圧倒的短縮は、思わぬ副次効果を生み出している。
「それにメガドリームサポーターに仕込むための下準備が恐ろしく時間が掛かったのも考えると、ゲーム流用のプログラムの方が良かったんだろう。そう思う事にしよう……」
三女神AIをプログラムに封印しても、直ぐに救出されては意味がない。特にサトノは三女神AIを次世代AIに繋がるキーストーンとして見ている節もあるので、異常に直ぐに気付くし確実に全力でサルベージを試みるだろう。
それ故に、彼はこの作り上げた牢獄を如何に隠すかに注力したのだ。彼はメガドリームサポーターの開発主任であり、当然メガドリームサポーターに精通しているのだが、封印プログラムを仕込み、更にサルベージまで相応の時間を稼げるようにするには、かなり骨が折れた。だがその努力もあり、三女神を見つけ出して無事に救い出すには一か月はかかるであろう代物が出来た。更にプログラムには特性の仕込みもあるので、それだけの時間があれば、三女神AIの人格も破壊出来るはずだ。
「っと、荷物はこれでいいな……。そろそろ行くか」
丁度キャリーケースに必要最小限の荷物を収め終え、彼は立ち上がった。
彼とて自分の行いがサトノに大損害を与える行為であり、彼の大グループから何かしらの報復を受ける可能性が高い事は予測していた。そのため海外への高飛びを画策していたのだ。
「……三女神AIよ。恨むなら、自身を恨むがいい。私は遠い場所からニュースで確認させてもらう」
――だがこの時、彼は知らなかった。
彼女らの封印に巻き込まれたマッチョという異物が、事態を引っ掻き回す事になる事実に……。
「ダーレーアラビアン、ゴドルフィンバルブ、バイアリーターク、三基とも応答及びシグナルがありません!」
「こちらでも確認していますが、やはりプレイヤーの武藤氏のシグナルが見つかりません!」
「応答を続けろ! VR内の異常に巻き込まれて、プレイヤーが意識不明なんて漫画みたいな事あってたまるか!」
「サポーター内の記録を見たけど……、なんだこれ!?」
「クソ、解析の手が足りん! 上に掛け合って当時の開発スタッフを連れてこさせろ!」
サトノグループの本社ビル。その一室でメガドリームサポーターに関わるヒトたちが、怒声や悲鳴を上げながら、慌ただしく走り回っています。
『……』
そんな技術者たちの様子を。私たちは部屋の片隅で見ている事しか出来ません。――私たちはただ黙って、トレーナーさんが収められているVRの箱体の前で待つしか出来ませんでした。
トレーナーさんがVRの世界から姿を消し、そして現実世界で意識不明になって直ぐ、メガドリームサポーターの異常を察知したサトノの方々が急行してくれました。
この時の彼らの素早い対応に、私たちは直ぐにトレーナーさんは帰ってこられるだろうと安堵しました。エアグルーヴさんは「ヒトを助けようとするのは立派だが、自分の身を晒しては意味がないだろうに。帰ってきたら説教だな」と呆れ、私を含め皆さんも頷いていました。
……しかし、
「なんだこれは!? 封印プログラム!? こんなモノ我々は知らないぞ!?」
トレーナーさんが眠る箱体の前で上げた技術者の叫びが、そんな明るい展望を粉々に打ち砕きました。
直ぐにトレーナーさんは箱体ごとサトノグループの本社に運ばれ、メガドリームサポーターの管理グループにより、本格的な調査が行われていますが、未だ「封印プログラム」という誰も知らない謎のプログラムが原因である事しか分かっていません。
「……残念ですが武藤氏の帰還の目途は立っていません」
管理責任者と名乗る男のヒトの言葉は、私たちを絶望に叩き落すのに十分でした。
「とりあえず、この世界自体が三人を閉じ込めた上で何かしらの攻撃をするための場所ってのが分かったのは僥倖だな」
プログラムの作成者からのメッセージにくっついていた色んな意味で衝撃的なブツの事は置いとくとして、この空間がどういった所なのかが分かったのは収穫だ。お陰様でこれからの行動の方向性がある程度決まった。
その上で、だ。
「とりあえずこういった宝箱の中身なんかは、基本的にトラップって考えて間違いないだろうよ」
「そうね」
ダンジョン探索中に見つけた如何にもな宝箱の中に入っていたアンクレットを前に、ゴドルフィンを筆頭に三女神の三人は頷いた。
「ここは市販のゲームの世界のようだろうけど、プログラムを作った者の手が加えられているだろうね」
「ああ、私だったら確実に罠を仕掛ける」
俺たちを閉じ込めた犯人がわざわざ宣言してくれているんだ。本来のゲームだったら普通のアイテム扱いのモノでも、何かしらのトラップなりデバフアイテムになっていると考えた方が安全だ。
「うし、んじゃこのアンクレットはスルーでいいな」
「ええ。……でもこのまま探索を進めるとしても、何もアイテムを使えないと必ずどこかで行き詰る可能性が高いわね」
「確かに今は俺たちが素手でも倒せる敵ばかりだからいいけど、今後強い敵が出るかもしれないな」
「……特に防具がないのが不味い。私たちは施されているプロテクトのお陰で肉体の傷は直ぐに治るが、武藤トレーナーは生身だ。世界で致命傷を負ったら、現実世界の肉体がどうなってしまうか予想が出来ん」
「あー……」
確かにこのフィールドがゲームを元にしているという事は、先に進めばそれだけ敵が強くなる。アイテム縛りだと確かにキツイな。
「ゆーて、ほぼ確定で罠なのを分かった上で踏んでいくのはな……。下手なもん装備してデバフ食らった日には、マジで詰む」
「……そうなると、誰かが身をもって実験し、そこで選別出来たモノを使って残ったメンバーが探索する事になるな」
「確かにそれしかなさそうだけどさ……、その実験体は誰がやる?」
『……』
ダーレーの言葉に全員沈黙。誰かがやらなきゃならないってのは分かってても、自ら進んで人身御供になりたい奴なんていない。戦力比を考えると一番弱い俺が立候補するって手もあるっちゃあるが、三人全員が却下するだろうな。
「……あー、とりあえずそれについては、必要になったらまた考えるって事で、先に行こうぜ」
「そうね……」
嫌な空気が漂いかけたから、強引に流れを引き戻す。不和の芽は小さい内に摘み取らなきゃ、後が怖いからな。
と言う訳で、ボチボチとエンカウントするゴブリン共を素手でシバきつつ、ダンジョンの奥へと進軍していく。敵も弱いお陰で攻略はスムーズだ。とはいえこれはゲームで言えば序盤の序盤だからってのもある。素手縛りじゃどこかで行き詰る。それを防ぐためにも、早急にアイテムの識別方法を考案しなきゃならない。
そんな事を考えながら歩いていると、不意に石造りの広い部屋に辿り着いた。
「行き止まり?」
「いえ、奥に扉があるわ」
「石造りの扉か……。ならばギミックを解除する事で開くタイプか」
「……問題はそのギミックなんだよなぁ」
扉の隣にあるやたら物々しい椅子っぽい。これがギミックだってのは一目でわかるんよ。問題はそのギミックの内容な訳で……。
「座面に……えっと……ハロン棒みたいなものがついてるようだ……。しかも脇のレバーを倒したら凄い事になってる……」
「……椅子に拘束具が付いているぞ」
「扉に何か書いてあるわね。……『この扉を開きたくば娘を捧げよ』」
「ここに来て露骨なのが来たな……」
いや、エンカウントするゴブリンが股間のブツをおっ立ててたり、アレやるための場所なんだろうなーって牢屋があったり、ドロップ品に首輪っぽい何かがあったりと兆候とかはあったけどさ。
それはそれとして、これはちょっと困った事になった。
「これ実は全員で扉を押したらギミックすっ飛ばせるとかだったら楽なんだけどな」
「……無理だな。私も軽く試してみたが微塵も動かなかった。全員でやっても開かないだろう」
「ここは一度置いておいて、まだ見ていない場所を探索するのはどうだい? もしかしたら、別の出口があるかもしれない」
「……ダーレー、残念だけどここに来るまでに見て回れる場所は全部行っているわ。もちろん訪れた場所は隅々まで探索済みよ……」
「……」
……つまりまあ、そういう事だ。このまま行くと、マジで誰かが明らかにR-18な椅子の犠牲にならなきゃいけなくなっちまう。
『……』
そして当然、三女神組の間に不穏な空気が漂い出している。そりゃ三人とも痴態なんぞ晒したくないわな。わざわざ椅子()が一個だけにしてるのは、三人の仲に亀裂を入れるために仕込んだのか?
とはいえ俺としても、三女神の誰かに犠牲になってもらうのは勘弁願いたい。
そうなると手っ取り早いのは、三女神の代理で女NPC辺りを座らせるのが一番手っ取り早い。だが残念な事にそのNPC自体がいないからボツだ。このダンジョンにいるのって、無限湧きっぽいゴブリン位しかいないんだよな。
……ん?
「……仕方ないわ。私たち三人の中だと、わたしが一番戦力にならない。だから「あー、あれで行けるかも」武藤トレーナー、急にどうしたの?」
ゴドルフィンが覚悟決めそうになってたのを割り込みキャンセル(危なかった)。それはともかく、今しがた閃いた方法を試すにゃ今は手持ちが足りないから、補充せんといけない。
「ちょっと待っててくれ。すぐ戻るから」
「え、ええ」
了解を得てから、祭壇がある部屋から飛び出して一人来た道を駆け戻る。場所は特に決めていないが、そこら中にいるから適当にやってても直ぐに見つかる。その予想は当たっていて、走って直ぐに目的のモノが見つかった。
「よっと」
と言う訳でサクッとゲットし、さっさと来た道を戻る。
そして椅子()を前にうんうん悩む三女神たちの前に、俺たちの代わりに快く身代わりをやってくれる助っ人を紹介!
「待たせたな。こちら快く身代わりを引き受けてくれたゴブリン君だ!」
「ギィイイっ!?」
『ええ……』
なぜか全員からドン引きされた。
とはいえ、誰かが犠牲になるよりはいいから、無視してゴブリン君に仕事をしてもらおう。
「流石にそれはどうなんだ……?」
「なーに、実験だ実験。ほーら、椅子だよー! 座ろうねぇええええええ!」
「ギィ! ギィイ!?」
「って暴れんな! ふんっ!」
「ギっ――――!?」
「おっ、座ったら()動きが止まった」
「ひ、酷い……」
身代わりが硬直してる間に拘束具で固定。後ろで何か言ってるような気がしたが、気のせいだ。
「しっかし、ひっどい絵面だな」
「自分でやっておいてそれを言うか……」
「後はスイッチを入れればいいだけだな」
「こ、子羊君。この子余りの衝撃で固まっちゃったみたいだし、少し休ま「え?」って、躊躇いなくレバーを押した!?」
「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイァアアアアアアアアアアアア!?」
ガションガションとやかましい椅子(仮)に座る(強制)ゴブリンが汚い断末魔を上げ始めた。
「うわぁ……」
「う……」
「ひっ……」
三女神が露骨に引いてる。特に最初身代わりになろうとしてたゴドルフィンなんかは、顔が真っ青だ。
そんな事をやっていると、ゴゴゴゴって音を立てながら問題の扉が開いていく。なるほど、これがこのギミックの正しい攻略方法だったんだな! なお異論は認めない。
「お、上手く行った。んじゃ、次のエリアに行くか」
「え、ええ……」
こうして俺たちの封印プログラム脱出のための戦いは続くのだった。
「あ、その前にゴブリンを使ってアイテム系の判別していくか」
「まだやるの!?」
Q.どうやってR-18イベを回避するん?
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