マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
新しい街に入る前、露骨なデストラップを回避しようとしたら、三人から軽いノリで己の命運を任される事になっちまった。それも使ったモノ的にもガチでR-18な事とか強制出来そうな代物を、だ。
……正直な話言うぞ? 三人に首輪(仮)を着けた時、邪な発想が過ったわ。
何せこの世界、娯楽ってモンがない。
ファンタジー世界がベースだからネットやテレビみたいな慣れ親しんだコンテンツはないし、民家とかにある本も元のゲームじゃ工数削減のためか白紙。ならメシはどうかと言えば、飲食物は完全に罠だから封じられているし、趣味の筋トレも自重トレーニングばかりでマンネリ気味。満足に満たせる欲求が睡眠欲位しかないが、イベントなのかは知らないが、偶に寝込みを襲撃されて、それも十分に満たせない。
そんな所に性欲を満たせそうなブツを渡されたもんだから、本気でヤろうか迷ったな。まあ、信用を裏切る真似なんぞ出来ないから、やらなかったけど。
それはともかく、だ。三人に首輪っぽいなにかを使う事で先に進む事が出来たんだが、同時に若干パワー不足が見えていた三人の戦力を向上させるって副次効果も付いて来たりもする。
ダーレーが俺に渡してきた首輪(指輪)は、俺らがよくザコ敵を捕まえる時に使う安っすいモンじゃなく、「隷属の首輪(最高級)」とかいう代物だ。
なんでも一日三回までではあるが、首輪を着けた相手に命令を下す事で様々なパワーアップ効果を発揮するらしい。分かりにくい? 要するに令呪だ。しかも最高級なんて言葉もついてるから、その効果も絶大だとかなんとか。
――Q:そんな代物を、レースでのトップクラスのウマ娘と戦えるような三人に使うとどうなるの?
「ダーレー、ゴドルフィン、バイアリー! STR強化!」
「来たか! 行くぞ皆!」
「ええ!」
「はああああっ!」
『ギギャアアアアアアアアアァアアアア!?』
A:無双ゲーになる
いやもうこのダンジョン、やたらと敵が大量に要るんだがそいつらが三人のパンチやらキックの度に纏めてぶっ飛んでいくんだよ。しかも明らかに物理耐性が高そうな敵が出てもお構いなく物理で潰していくもんだから、あの三人を止める手立てがない。お陰で俺の出番がなくなっちまった。そんな訳で、
「んー、剣とかいらねぇな」
俺は実益と暇つぶしを兼ねて、三人がブッ倒したエネミーからの剥ぎ取り作業に専念中だ。
因みにドロップ優先度は、首輪>金>>>>その他アイテムだ。何で首輪が最重要アイテムになってるんだって? そりゃミートシールドを安全に運用するには首輪が必須だからな。こうなるのも当然だ。
そんな感じで順調にダンジョン攻略をしていると……、不意にピコンっという電子音が響いた。
「ん?」
聞き慣れた、だが久しく聞かなかった音だ。直感的にモニターを呼び出すと、そこには「応答して下さい」と表題が付けられているメッセージが届いていた。
「武藤氏より返信が来ました!」
「よし、これで伝達手段が確立したな!」
トレーナーからのメッセージを受信したのを見た、サトノの技術者たちが大きくガッツポーズを取った。
4人の無事は先程の画像で分かってはいたが、救出するとなるとやはり当人たちとの相互の連絡は必要不可欠だ。文字によるメッセージによる通信とは言え、連絡手段を確立出来たのは大きな一歩だろう。
「トレーナーからの返信の内容は?」
「『4人全員、心身ともに無事』との事です」
「そうか、よかった……」
こういった場面でトレーナーは嘘を付く事はないから、これは事実なのだろう。……正直、あのたわけには三女神との関係について今すぐ問いただしたい所だが、流石に自重する。安堵している所と、間を置かずモニターにトレーナーからのメッセージが届いた。
『現在、自力での脱出手段模索のために、封印プログラム内を探索中。なお封印プログラムはゲームを元にしていて、製作者により改造が施されている模様。俺たちのサルベージは出来ないか?』
「サルベージか……」
トレーナーからの要望にチラリと開発五課の派遣リーダーに視線をやる。だが彼は少々渋い顔で口を開いた。
「武藤トレーナーだけなら、こちらの操作ですぐにでも救助は可能です」
「三女神は?」
「まだまだ時間が掛かるでしょう。武藤トレーナーが早めに救出できるのも、現実世界に肉体があるからですし」
「……ねえ、エアグルーヴ。これどう思う?」
「……あちらの状況次第だな」
私たちとしては、一刻も早く戻ってきて欲しいのは本心だ。だがトレーナーの性格を考えると、この提案を素直に受け取るとは思えなかった。もちろん、三女神の安全が確保されているのなら、トレーナーも素直に帰還するだろうが――、
『なら現時点で俺だけの帰還は断らせてもらう』
『なっ!?』
「だろうな」
「トレーナーさんらしいですね」
「だね」
少しでも3人が危険ならば残ろうとするのがトレーナーだ。まさかの拒否のメッセージに驚愕するサトノの技術者たちを余所に、トレーナーからのメッセージは続く。
『封印プログラムの世界は3人露骨に狙っているのは分かった。現時点でイレギュラー枠兼バフ要員の俺が残った方が3人の安全はある程度確保できる』
「あくまでも一定レベルだ! 完全な安全じゃない! 三女神AIだけでなく、生身の武藤トレーナーにも危険はあるんですよ!?」
サトノの管理責任者が叫んだ。音声入力になっているのか、彼の言葉はそのままトレーナーに送られる。
『俺が帰ると、残った3人が危険に晒される確率が滅茶苦茶高くなる。それだったら、俺が残った方がいい』
「なら、三女神をどこか安全な所で待機すればいい!」
『不可能だな。どうもこの世界、一定時間同じ所で留まってると、敵が襲って来る仕組みになってるらしい』
「ぐっ……。……貴方が死ぬかもしれないんですよ!?」
『今更だな。封印プログラムに巻き込まれた時から、覚悟は決めてる』
「分からず屋め……! こうなったらこちらの操作で強制的に――」
「やめときな」
業を煮やしてキーボードを打とうとした管理責任者を、シリウス先輩が強引に止めた。
「何を!?」
「大方、上の連中から早くトレーナーを現実に戻せってギャーギャー言われてるんだろうが、アイツが帰ってきた所ですぐにVRの世界にトンボ帰りするだけだぜ」
「ぐっ……」
『こりゃシリウスか? 助かる』
「今度埋め合わせしろよ?」
『おう。つー訳だサトノの技術者さんよ。俺たち全員が帰還出来る手段が出来たら、また呼んでくれ』
「……勝手にしてくれ」
管理責任者が不貞腐れたように吐き捨てたが、そんなものはどうでもいい。マイクを取る。
「貴様が帰還しないと言うならば、全員の帰る手段が出来るまで私たちがサポートをしてやろう」
『エアグルーヴもいるって事は、チーム全員がいるって事か。こりゃ頑張らないといけないな』
「ああ、頑張って無事に帰ってこい。それで何かして欲しい事はないか?」
『情報が欲しい。もしかしたらネットに転がってるかもしれないから、スクショして画像データを送ってくれ』
「ああ、そういえば貴様のいる世界はゲームが元になっているんだったな。タイトルは分かるのか?」
『淫獄ダンジョン~淫靡に沈む者たちの挽歌~』
『……んん!?』
……色々な意味でとんでもない単語が飛び出してきた!?
「うお、タイトルにRがついてないって事は、回収された方じゃん!」
「マジかよ。こんな所でお目に掛かるなんてな!」
「発禁版はやった事ないけど、リブート版は持ってるな」
「俺も俺も。エロ抜きにしてもやり込みが凄かった」
「実は俺、これ持ってるんだー」
「マジで?」
「マジマジ。発売初日にパッケージ版を買ったんだよ」
後ろで五課の方々が頭の痛い会話をしている気がするが、今はそんなことはどうでもいい。
トレーナーたちがいるプログラムがそういうゲーム世界という事は、つまりうまぴょい(淫)が身近な世界と言う事でもある。そんな世界にトレーナーと三女神がいて、更に先の三女神によるトレーナーへの不穏な言葉を考えると……、
「……ヤったのか!? ヤってしまったのかたわけ!?」
4人でうまぴょい(乱)したとしか考えられん!
「え、もしかして三女神様全員とぴょいしたの!?」
「ほー、中々倒錯してるじゃないか。そういう趣味か」
「……帰ってきたら皆でお話しないといけないようだね、トレーナーさん」
「ですね。場合によっては覚悟を決めなければいけません」
皆も目が座っている。どうやら私たちの心は一つのようだ。
――帰ったら覚悟しておけトレーナー。
オマケ。ある開発五課職員の悲劇
「やめろー! やめてくれー!」
「許せ! 三女神とマッチョの救出のためには必要なんだ! 淫獄ダンジョン初版版の解析をさせてくれ!」
「ちゃんとデータは残すから我慢してくれ!」
「こいつの家からPCを持ってきたぞー」
「なにシレっと不法侵入してんだよ!?」
「寮に連絡したら、快く鍵を開けてくれたぞ?」
「よっしゃ、解析するぞ! システムを丸裸にしてやれ! あと元の持ち主に邪魔されかねないから、抑え込んどけよー」
「うーっす」
「やめろー! 解析するって事は俺が育て上げたキャラも見られるって事じゃんか!?」
「せやな! 安心しろ、公言はしないから!」
「ここにいる全員に見られる時点で公開処刑と変わんねぇよ!?」
「ゲーム起動! ……お、プレイヤーキャラは黒一色の騎士か。いい趣味してんな!」
「あああああああああああああああああ!」
ヒトを助けるためだから、公開処刑をやっても仕方ないね……!