マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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油断大敵(ゆだんたいてき):気を緩め注意を怠ると失敗の原因となり危険だという戒め。


幕間3 6・5話 油断大敵 エアグルーヴ・オリジン

 

「かー……」

 

 今日は休日。ついでにいつもは何かと担当たちに何かしら誘われたりもするが、今回はなんもナシでドフリー。こんな貴重な時間を有意義なものにするために、俺は今、ベッドの中にいる。

 

「くー……」

 

 え、もうとっくに日が昇っているのに寝てるのは時間を有意義に使っていないって? 馬鹿野郎、人間の三大欲求の内の睡眠欲を満たしてるだろうが。つーか、仕事の日は毎回早起きを強制されてんだよ。偶には惰眠を貪らせろ。

 

「……おい」

「くかー……」

 

 とりあえず今日は丸一日気ままに好きなことをしようと心に決めている。もう少し寝たら牛乳飲んで体操して飯食って、牛乳飲んで筋トレして、銭湯で風呂入って牛乳飲んで、帰ったら飯食って牛乳飲んで寝よう。牛乳飲みすぎ? 何言ってんだこれはドイツの有名な軍人がやってた健康法だぞ。ついでに牛乳は筋肉作りにもいいからな。毎日欠かさず飲んでる。

 

「……おい、貴様」

「うぐ……かー……」

 

 そうそう、俺はとっくに成人しているけど、酒は飲まないタイプだ。てか筋トレする人間にとってアルコールは天敵だぞ。筋肉を作るためのホルモンが減ったり、筋肉が分解されちまうからな。俺自身も酒は別に好きでも嫌いでもないから、プライベートじゃチートデイでも全く飲まん。

 

「……ええい、いい加減起きんかたわけ!」

「ふぁっ!?」

 

 怒声と共に布団が剝ぎ取られた。思わず目を開けると、そこには俺を見下ろしているよく見慣れたウマ娘の姿。

 

「まったく。とっくに朝なのに、いつまで寝ている」

「……エアグルーヴ?」

 

 呆れ顔のエアグルーヴを前に思わず首を傾げる。

 

「まだ寝ぼけているのか? 顔でも洗ってこい」

「あーいや、目は覚めてる」

 

 実際、さっきので目は覚めた。ついでに俺の自室にいつの間にかエアグルーヴが上がり込んでいる事も、悲しいかなよくある事になっているので別に驚かない。

 

「ならリビングに行くぞ」

「おう」

 

 言われるがままにエアグルーヴの後についてリビングに到着。そこにはトーストに目玉焼きを中心とした朝食セットが二人分すでに用意されている。 

 

「ん? 明らかにウチの冷蔵庫にない食材が使われてるんだが?」

「私が買ってきた。……最初は在り物で作ろうと思ったが、碌な食材がなかったからな」

「あー、そういえば卵が切れてたっけな」

「たわけ、それどころか碌な食材がなかったぞ。何で冷蔵庫の中がサラダチキンのパックと鶏むね肉とトマトとブロッコリーだけなんだ」

「何言ってんだ、身体(筋肉)作りには良い食材が揃ってるだろ」

「……因みに、調理方法は?」

「茹でる」

「……それだけか?」

「うん」

「……インスタント食品やコンビニ弁当よりはマシだが、もう少し文化的な食生活をしろと言っているだろう」

「解せぬ……」

 

 中々理不尽な事を言われて凹む。マッチョなら常識なのに……。それはそれとして訊いておきたいことがある。

 

「そういえば俺に何か用があるのか?」

「む? どういう事だ?」

「いや、今日は俺含めてメンバー全員フリーにしただろ。それなのにここにいるって事は用事があるって事じゃないのか?」

「そんな事か。――別に用事はない」

「まさかの答えだよ」

「強いて言えば何となくだ。そもそも貴様の家に行くのに理由が必要なはずがないだろう」

「お、おう……」

 

 この娘めっちゃ自然体でとんでもない事言ってきたんだけど。ここまで堂々とされると俺も頷くしかないわ……。

 

「それよりもさっさと席に就け。私はミネストローネを温めておく」

「わかった。……所でどうやってこの部屋に入ったんだ?」

「寮の管理人から借りた」

「えぇ……」

 

 前に管理人には鍵を貸さないように言っておいたのに……。そんな事を考えながら席に着いた。

 

 

 

 

 

 コンロに火を掛けながら、ふと現状に思いを巡らせる。

 

 度々トレーナーの部屋に通い、料理を作り、一緒に食べ、共に過ごす。まさに通い妻そのものだ。第三者がこの光景を見れば私とトレーナーの関係が、唯の競走バとそのトレーナーの域に留まっていない事は直ぐに分かるだろう。

 だがそんな環境にあるにも関わらず、私の胸の内には常に焦燥感が渦巻いている。

 

――あの時、慢心などしなければ……!

 

 今の私たちの環境は全て私の怠慢が引き起こしてしまった事だ。私がもっと早く動いていれば、あの時慢心などせず一歩踏み出していたら、こんな事にはならなかった。

 

 私のトレーナーは今でこそ何人もの担当を持っているが、一番最初に担当になったのは私だ。初めての出会いが私が管理している花壇と、トレーナーの容姿を考慮するといささか場違いではあったものの、後にお互いに色々とあった末に専属契約を結ぶことになった。

 トレーナーについてだが、私はすぐに気に入った。

 性格は中々愉快なものを持っているが、私との相性は悪くはなかった。トレーナーとしての能力も、レース戦術については並ではあるものの、筋力トレーニングを始めとした身体作りの分野にはついては一級品であり、それが私の戦績の土台となった。

 また私の生徒会の仕事や信念についてもトレーナーは否定する事はなかったし、トレーナーが怪我をしている者や伸び悩んでいる者に積極的に声を掛けアドバイスをする姿は、私が目指すモノの答えの一つに見えた。

  

 だからだろう。私がティアラ三冠を勝ち取った頃には、あのトレーナーがこれからも私の隣にいるのが当たり前の事だと思っていた。この頃にはトレーナーは周囲からは、「女帝の鎚」やら「スタンド」やら呼ばれて(私は頑なに女帝の杖と呼称しているが)周知されていたし、私たちの仲もはじめの頃と比べてずっと深まっていたと思う。更に二人で始めた生徒たちに道を示すために始めた合同訓練も順調に行われており、充実した毎日を過ごしていた。

 だからそんな私たちの間に割って入るような者はいない。そう思い込んでいた。

 

――もっとも、すぐにそれが唯の私の思い上がりだったと思い知ることになったが。

 

 すべての始まりは、トレーナーが理事長から担当を増やすよう辞令を受けた事だ。

 この辞令自体は何ら不自然なものではない。外部から見れば私のトレーナーは新人にしてトリプルティアラを勝ち取った将来有望な人材だ。トレーナー不足に悩むトレセン学園としても、一人でも多くのウマ娘を育て上げてもらいたいと考えるのは当然だろう。

 あの時点では私も「私のトレーナーが評価されてた」と素直に喜んだものだ。あれだ、勝者の余裕というものだな。

 

 ……だがあのたわけが新しい担当バとして連れてきたフジキセキが、地雷を通り越して核爆弾だったせいで、全てが滅茶苦茶になってしまった。

 

 最初は問題はなかった。それどころかむしろ歓迎していた。フジキセキとは生徒会の関係で幾度も顔を合わせていていたから人となりは知っていたし、彼女が強い事は周知の事実だ。実際フジキセキとはトレーナーの下で切磋琢磨し、私は以前より確実に強くなれた。

 状況が怪しくなったのがフジキセキの皐月賞勝利後、つまり脚質問題が発覚した頃だ。ダービーや菊花賞まで時間がないという事で相当無茶な脚質改善のためのトレーニングを組むことになったが、そのせいであのたわけはフジキセキに付きっきりになってしまった。

 ……いや、そうしなければならなかったのは私もわかるぞ? 短期間での脚質改善なんていう無茶を押し通す関係上、少しのミスが怪我に繋がってすべての努力が水の泡になりかねんからな。それにトレーナーもフジキセキに付きっきりとはいえ、私の事をおざなりにしていた訳ではなくしっかりと私に指導をしていたから、競走バの立場から言えば文句はない。

 だが女帝としてはいい気分とは言えなかった。私の杖を他人が使っているようなものだからな。傍から見ればいささか子供染みた嫉妬だったが、やはり面白くないのは事実だ。とはいえあの時は、トレーナーがフジキセキに付きっ切りになるのも菊花賞が終わるまでという事を知っていたから、まだ心に余裕があった。

 ……思い返せばあそこが致命傷を回避できる最後のチャンスだった。

 

 フジキセキの菊花賞への挑戦が無事に終わった時、私はどこかホッとしていた。これでフジキセキ優先は終わり、トレーナーはまた私の隣に戻ってきてくれる。これまで通りの日常が戻ってくる、と考えていた。

 だがそんな予想は裏切られてしまった。確かに脚質強化期間が終わってトレーナーもこれまで通りの指導体制に戻したのだが、代わりにフジキセキがやけにトレーナーにべたべたしてくるようになった。具体的には腕を組むといったボディタッチが増えたし、休日にトレーナーを外出に誘ったりしていた。

 流石にこれには不審に思い、フジキセキに尋ねたのだが……、とんでもない返答が返ってきた。

 

「菊花賞が終わったその日に、トレーナーさんに告白したんだ」

 

 ……この時ばかりは思考が停止してしまったぞ。お陰でフジキセキが話していた内容が半分も頭に入ってこなかった。

 フジキセキと別れた後、信じられなかった私は即座にトレーナー室に強襲しあのたわけに問いただしたのだが、結局告白が事実だった事がわかり思わず泣き崩れてしまった。ドラマで妻が夫に浮気されて泣くシーンはよくあるが、まさに心情はそれと同じだった。

 ……あの時の私は、第三者から見ればまさに道化だろうな。トレーナーがずっと一緒にいてくれると勝手に思い上がり、恵まれた環境に胡坐をかいて告白もせず、挙句に後からやってきた者にトレーナーを取られたと泣きじゃくるなど、見苦しいにも程がある。

 その後、落ち着いた私は改めて事の顛末を訊き――、こう……その場の流れで思わず告白をしてしまったのだが、……答えは言うまでもなく保留だった。トレーナーのなんだか色々と複雑そうな表情が印象に残っている。

 

 ……終わってしまったものをいつまでも悔いていてもしょうがない。ともかく冷静に状況を見よう。

 残念なことに私の杖に恋愛感情を向けている者がやけに多い。これは紛れもない事実だ。フジキセキを始め彼女たちは強敵であるし、そんな強者たちを前に私は大きなミスをしてしまったのは紛れもない事実だ。

 

――だから次は間違えない。

 

 今、このレースで先頭に立っているのは紛れもなく私だ。共に過ごしてきた年季が違う。このリードを保ったまま逃げ、そして差し切らせてもらうぞ。

 

――待っていろよ、トレーナー。女帝が迎えに行ってやるからな。

 

 




チャンミはとりあえずグレードで行きますが、所要(具体的にはリアルの仕事と艦これイベント)により育成が余りできなかったのでA決勝に行ければいいなって感じで行きます。

因みに艦これの方は前段階が今日終わりました。割と資源が減ったので、後段までに少しでも貯蓄しないと……。
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