マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
「中央トレーナーが結婚相手って、ウマ娘的にはアタリってのはよく聞くじゃないですか」
「ええ」
「じゃあ、ウマ娘の親的には結婚相手がトレーナーってのはどう思うものなんでしょうかね?」
ふと気になったんで、隣に座る樫本さんに訊いてみる。担当ウマ娘が自分のトレーナーを狙うのは学園じゃよくある話だけど、そこでトレーナーを捕まえたとして、担当ウマ娘の親も喜ぶもんなのか?
「やはり、ひと悶着する事は多いらしいです」
「あ、やっぱり?」
「歳の差もありますが、やはり教育者とその生徒ですからね。ウマ娘とその親で多少は揉めるそうです」
「その割にはそのままくっつく奴らばかりのような?」
「基本的にウマ娘が全力で押し切るそうです。なんでも生徒たちの間で代々受け継がれている、両親を説得するためのマニュアルが存在するとか」
「何それ怖い」
そんなもん受け継いでんじゃねぇ……。
「ただ同時に、交際を歓迎するご両親も多いとは聞きます」
「……え、多いんですか?」
「揉めるのと歓迎の比率は、おおよそ五分五分だとか」
「まさかの半数だよ……」
どんだけ多いんだ……。
「特に家があまり豊かではないウマ娘ですと、両親が狂喜乱舞するパターンばかりだそうです」
「やっぱ金かぁ……」
「仕方ないと言えば仕方ないのでしょう。我々トレーナーは世間一般のサラリーマンよりも多くの給金を得ていますので」
「そこら辺、中々に面倒な事になりそうですね……」
「実際、トラブルが起こるケースはあるようです。中には義実家がやりすぎた結果、トレーナーとウマ娘が激怒して縁を切った事例もあります」
「うーん、残当」
金絡みのトラブルはどこでも起こるもんだ。俺も当事者だったから、よーくわかる。
「一番トラブルが少ないのは一般家庭です。先程のような事例はほぼ起きる心配はありません」
「まあ、余計なトラブルを抱え込む羽目にならないのはいい事なんでしょうかねぇ」
「ただし一般家庭の場合ですと、義両親への交際報告時点でのトラブルが一番多いそうです。やはり社会的常識の観点から反対する事が多いとか」
「……そしてウマ娘は代々継承された裏マニュアルで押し通す?」
「その通りです。大半の場合トレーナーの方が社会的地位や年収が高いのも相まって、そこをプッシュされて敗退するとか」
「貧困層と同じパターンかぁ。義実家と金のトラブルがないだけマシだろうけど……」
「我々中央のトレーナーは、世間からはエリートとみられていますので、娘がそのエリートと結婚するとなれば将来安泰だと考える方々が多いそうです」
色々と俗っぽくて生臭いけど、娘の将来を考えると俺らトレーナーはマジで優良物件に見えるんだろうな……。
「そういえば名家なんかは、トレーナーを狙ってる所もあるってシリウスから聞いた事がありますね」
「ええ、レースに力を入れている家では常識といっても過言ではありません。有名なのはやはりメジロでしょうか」
「筋トレ友達のライアンもしっかり自分のトレーナーを捕まえましたよ」
「他のメジロのウマ娘たちも、全員が自分のトレーナーと結ばれています。流石はメジロといった所でしょうか。レース関連の名家と言えばシンボリもそうですが――」
「しっかりとアピール食らってます……」
「ああいったレースに関わる名家は家族もトレーナーを取り込むべく動くので、頑張ってください」
「そうですね……」
前にシリウスのオカンと話をする事があったけど、ウマ耳をピコピコさせながら娘をアピールしてきたのには参った。
「そういえばレースに関わらないタイプの名家とか金持ちにとって、トレーナーってどうなんです? そういうのって事業拡大のために婚姻とかも使うってのはよく聞きますから、あまりトレーナーは狙わないとか?」
「婚姻関連の事情についてはやはりその家それぞれで事情が違うそうですが、おおよそ歓迎されるとは聞きます」
「あ、そうなんですか?」
「中央のトレーナーとなるには厳しい試験を突破しているので、この時点で相手が相応の能力と人格を有している事の証明になります。自分の家に取り込むには十分な要素でしょう」
「あー……」
「また似たようなケースですと、ウマ娘の実家が個人経営の店の場合でも当てはまります。むしろ大歓迎だそうです」
「結婚相手が責任を取ってトレーナーを辞めたとしても、そのまま優秀な従業員を取り込める。辞めなかった場合なら娘の将来は安泰、ですか」
「どっちに転んでも得しかありませんので」
貧困層の時と違う意味で生臭い話だなこれ。
「ああ、トレーナーと担当ウマ娘の交際が相手両親に認められるかについて、もう一つ大きな要素がありました」
「なんですか?」
「担当の母親がウマ娘であるか否かです」
「あぁ……」
確かにそこら辺は重要だな。ウマ娘ってのは愛が深いってのはよく聞く話だし。
「ヒト同士の場合だとどうなんです?」
「そこはやはり五分五分です」
「それでも五分か……。んで、本命の母親がウマ娘の場合は――」
「その場での受け入れ率は約8割」
「おお、高い。やっぱり娘の気持ちが分かるからですかね?」
「その通りです。そして母親が過去にレースに関わっていた場合、正確には父親がトレーナーもしくは元トレーナーの場合は100%歓迎します」
「知ってた」
このオチは読めてたわ……。
「完全に若いころの自分と同じことをしてるんですから、そりゃ賛成しますわな……」
「なお、このケースですとほぼ確実に父親も賛成に回ります」
「それって絶対親父が自分と同じ立場に引きずり込むために賛成してる奴ですよね? もしくは同情してるやつ」
「その通りです……」
この場合、全力で娘に援護射撃するんだろうなぁ。まあそもそもウマ娘に捕まった時点で、早々逃げられないだろうけど……。
「そうなると樫本さん」
「はい」
ここで聴けた情報をしっかりのみ込み、視線を壇上に向ける。
「今回のケースはどれに当たるんでしょうね?」
――そこには白いタキシード姿の男と、ウエディングドレスのウマ娘の姿が!
俺たちは、俺の同期のトレーナーと元担当ウマ娘による盛大な結婚式にお呼ばれしていて、ただいま披露宴の真っ最中だ! 新婦がスッゴイ幸せオーラを醸し出しているのに対して、新郎が遠い目をしてるのは気のせいじゃないな!
余談だが俺たち以外にも職場の同僚枠として多くのトレーナーが出席していたりするぞ。なおそいつらの新郎に向ける視線は基本的に同情を多分に含んでる模様。これも恒例行事だ。
「私も彼の元担当について少し調べましたが、義実家は一般的なサラリーマン家庭の様ですが、母親はウマ娘です」
「八割に引っ掛かったかぁ」
「ただ元担当ウマ娘の祖父母は、地方の元トレーナーと元担当ウマ娘だったようです」
「うーん、複合パターン」
新婦の親族席にいる爺様がやけに悟ったような目をしてたけど、経歴を考えりゃそんな目にもなるわ……。
「対する新婦友人枠で出席しているトレセン生のテンションがヤバいですよね」
「それもトレーナーと担当の結婚式ではよく見る光景です」
俺たちから少し離れた席に目をやると、トレーナーたちとは対照的に目をキラキラさせているウマ娘たちが多数。なおその中にはマヤノも混じってるぞ。
「……トレーナーを捕まえて幸せそうにしている先輩を見て担当ウマ娘が奮起→トレーナーをあらゆる手段で捕まえる→結婚式で後輩にその幸せを見せつけて奮起させる。恐ろしい無限ループだ……」
「十中八九、武藤トレーナーもそのループの当事者になりますので、今の内に覚悟はしておいてください」
「勘弁してください……」
こうして式はつつがなく進行していく……。
オマケ1 ブーケトス争奪戦!
「ウマ娘たちが、スッゲェギスギスしてる……」
「G1並の空気が漂っていますね。学園関係者以外が皆引いていますよ」
「ですね……。そういえば、樫本さんは参加しないんですか?」
「……あの中に入る勇気はありません」
「ですよねー……」
「いくよー!」
『きゃああああああああ!』
「あ、始まった」
「凄いですね。皆さんスタートが完璧です」
オマケ2 ブロッコリートスっていう男版ブーケトスがマジであるんだとか
「よーし、お前ら行くぞー!」
「やめろー、やめろー!」
「こっちを狙うんじゃねぇ!?」
ただいま会場は混沌としている真っ最中だ! 男たち――というより結婚式に参加している野郎トレーナーが強制的に広間に集められており、これから始まる惨劇に慄いている!
「お前ら式の間ずっと嗤いやがって! お前も同じ所に来やがれ!」
「お前の場合は、誘惑に負けて担当に手を出したんだろうが! 自業自得だろ!?」
「うるせぇええええええええ!」
そんな俺たちを二階のテラスで血走った目で睨みつつ、ブロッコリーの投擲体制に入る新郎!
先程壮絶な争奪戦が繰り広げられたブーケトスの次に始まるのが、男版ブーケトスであるブロッコリートス! 新郎が道連れを作るための邪悪な儀式だ!
「トレーナーさん、頑張って!」
「気合いでキャッチしてよトレーナー!」
なお周囲には各々のトレーナーの担当ウマ娘が声援を上げている! 次の花嫁になるためにってのもあって、応援にも気合が入ってるぞ! 余談だがこの担当たちはトレーナー逃亡防止のための壁役でもある。
「トレーナーちゃん頑張って! トレーナーちゃんのパワーなら絶対取れるから!」
「やめよ? ここで応援するのやめよマヤノちゃん?」
なおこのブロッコリートスには、当然俺も参加する羽目になってるぞ!
「せーのっ!」
『ああああああああああ!?』
高々と放り投げられるブロッコリー! 叫ぶトレーナーたち! こうして新たなる戦いの火蓋(押し付け合い)が切って落とされた……!
新郎「つぎはお前だ!」