マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
トレーナーによる担当ウマ娘に惚れられ、そしてうまぴょい(パワー)されてしまうのがトレセン学園の名物だ。
なに? 今は誘い受け系が流行ってるから、悲劇は減ったんじゃないかって? 確かに最近はパワー系が少なくなったが、代わりに誘い受け系が増えてるから、トレーナーと担当ウマ娘によるうまぴょい(メンタル)の総計自体は変わっていないんだよ。
こうしたうまぴょい(総量)被害に学園とトレーナーたちは昔から頭を悩ませていて、上手く担当との距離感を維持するため方法について研究したり、制度面から対策をしようとごちゃごちゃとやっているのもいつもの光景だ。
そんなうまぴょい(研)対策の代表例として真っ先に挙げられるのが、「対ウマ娘恋愛回避マニュアル」、通称「うまぴょいマニュアル」だ。
この通称だとヤル事を推奨しているようにも見えちまうのはともかく、内容はガチのガチ。トレセン学園創立から現在に至るまでのうまぴょい(推進)に至るまでのパターンを勘案し、その対応策が記載されているのがこのマニュアルだ。これは新人からベテランまでの全てのトレーナーたちに配布されている。これの効力? 察しろ。
そんな大層な癖にあんまり使えないマニュアルではあるが、無いよりはマシって事で定期的に更新とかしてるんだ。……その情報を前提にするとだな?
「マニュアル更新に俺は参考にならないんじゃ?」
理事長室に呼び出されたと思ったら、理事長にうまぴょいマニュアルの改訂のために協力してくれなんて言われても、こんな答えしか出せないんよ。俺って強面マッチョなのになぜか担当全員から告られてんだぞ?
「否定! 普通ならうまぴょい(食)されていても可笑しくないにも関わらず、武藤トレーナーは無事にトレーナーを続けている! これは実に貴重なパターンだ!」
「そんなもんですかねぇ? てか俺自体が将来誰かに喰われる未来がほぼ確定してるんですが……」
当事者としては期日になったら全力で取り立ててくるタイプの借金の感覚なんだけどな。しかもこれは俺と担当の関係を知ってる奴ら全員の感想だから、未来予測の精度としては滅茶苦茶高そうだぞ。
そんな感想を抱いていると、理事長の側に控えている駿川さんが苦笑する。
「その将来が待てない娘ばかりなのがトレセン学園なんです。もちろんウマ娘たちの自制もありますが、武藤トレーナーの努力があるからこそ、無事でいられるんですよ?」
「努力って言っても、やってる事が担当の要望に出来る限り答えるなんですが?」
「うむ。我々も武藤トレーナーの担当ウマ娘との接し方については関係性管理テストである程度把握している。だが! 武藤トレーナーの行動は我々にとって貴重なモデルケースでもある!」
「モデルケース?」
なんか唐突に変な事を言い出したぞこの幼女。
「普通でしたら武藤トレーナーの状況であれば、担当の誰かしらが耐え切れなくなって武藤トレーナーを襲うのが普通なんです。そんな状況にも関わらず、ウマ娘たちは大きなアクションを起こしていません。この状況は最善とは言えませんが、次善パターンとして最適なんです」
「……将来担当からのアタックがほぼ確定してるのに?」
「無論! 学園を卒業していれば、我々としては関知しないことだ!」
「そこを断言しないで下さいよ……」
間接的にトレーナーと担当ウマ娘がくっつく事を肯定するって意味だぞこれ。
「自由! 卒業後ならトレーナーと担当ウマ娘が結ばれる事は、歓迎する事案である!」
「学園在籍中にうまぴょい(業)するのが問題なので、卒業しているのなら学園としては全く問題はありません。もちろん、結ばれた後でもトレーナーが在籍する事が前提の話ですが」
「あ、はい……」
学園のトップからしてトレーナーと付き合うのは卒業してから派かー……。いやウマ娘のために私財を投げうってる理事長だし、在籍中でもトレーナーとくっつくのOKとか言い出さないだけマシなのか……?
「とりあえず、理事長の言いたいことは分かりました。それで、俺は何をすればいいんですか?」
「記録! 武藤トレーナーの担当との行動記録を作成してもらいたい!」
「その際、どのような考えの下でそのような行動をしたかも記載してください。出来る限り詳細に」
「うっす。因みに期間はどのくらいです?」
「うむ! まずは2週間分だ!」
――こんなやりとりをやったのが丁度二週間前。
通常業務終わりにひーこら言いながらレポートを書き(後半面倒臭くなって日記っぽくなった)、詳細に、なんて念押しされたもんだから、なんだかんだで膨大になったデータを理事長に送り付けたのが今朝だ。
そんな、俺が丹精込めて作り上げたレポートを受け取った理事長の反応だが……、
『うーん……』
なんか駿川さんと一緒になって微妙な表情で唸ってた。
なんでこんな反応になるんだよ。理事長に言われた通りに、俺の行動を書いただけだぞ?
「これ事実だけを書いたんですよね?」
「そうですね。嘘書いてもしょうがないですし」
「うむ、それが分かっているのならいい。だがこれは……どうなのだ?」
突き返される資料を受け取る。うん、書き忘れとか抜けはないな。
「何か問題が?」
「正直問題しかありません。なんで四六時中担当ウマ娘と一緒なんですか……」
「そんな事言われましても……」
事実だからしょうがないんだが。
「……とりあえず、一つずつ確認しますね? とりあえずこの火曜日平日です。まず起床から朝食ですが……、なんでここでエイシンフラッシュさんが登場するんですか。泊まってたんですか」
「いや、朝のランニング後に俺の所に来る感じですね。因みに朝ウチに来るのはローテーションになっています」
「変な所で秩序立っていますね……」
「そもそも、なぜこのような事になっている?」
「いやまあ、担当全員からの要望でして」
全員からの要望だから断り切れんかったんよ。
「登校はそのままエイシンフラッシュと共にしているようだが、途中でシリウスシンボリが合流している。これは?」
「シリウス曰く気が向いたからだそうです。登校時の合流は自由ってなってます」
そもそも論、登校時間学生寮もトレーナー寮も学園の敷地内だから、校舎まですぐなんだよな。それも登校時間での合流は行っても行かなくてもよい事になっている。
「午前の仕事中はウマ娘の名前はなし、と」
「流石に授業がありますからね。仮に来たとしても追い返します」
「うむ、当然の判断だ。……その代わり、昼食時には当然のように担当と共にいるようだが」
「フジキセキさんとトレーナー室でランチですか……。しかも当然のようにお弁当を受け取っているようですが……」
「因みに俺の弁当は筋肉にいいメニューになっています」
「フジキセキさん、完全に慣れてるじゃないですか……」
しかも俺が作るより担当たちが作った弁当の方が上手いんだよな。割と真面目に食事関係は改善されてたりするぞ。
「午後はチームでトレーニングですか。ここは変な注釈は付いていませんね」
「仕事のプライベートじゃないですけど、オンオフはちゃんと切り替えていくように全員に指導してますからね。トレーニングはちゃんとやってますよ」
「……その代わりトレーニングが終わったら早速マヤノトップガンさんとお出かけですか。このまま夕食ですか?」
「いや、その日はマヤノが同室のテイオーとお菓子パーティーするって言ってたんで、それの付き合いですね」
「むう、意外だ」
「そりゃ友達と遊びたいときだってありますし」
貴重な十代に友達との思い出作りが出来るとか、ホントいい事だからな。
「そして夕食は……エアグルーヴさんとですか」
「既知! この流れは読めていた!」
「普通にメシ喰ってました」
「その割には門限ギリギリまで武藤トレーナーの部屋にいたようだが?」
「駄弁ったり、レース関連の相談とかやってました」
因みにローテーションが組まれてるのは、朝昼夕のメシ時とその後の余暇時間だ。プライベートの時間? 夜の門限が過ぎて以降だけだな。
「……とりあえず、この報告書に間違いはない事は分かりました。その上で、正直な感想をいいですか?」
「はい」
「これ第三者から見ると、女をとっかえひっかえしているクズ男にしか見えません」
「うーん、反論できない」
薄々分かっちゃいたが、真正面から言われると頷くしかない。
「ちなみに、このレポートはマニュアル改定の参考になりそうですかね?」
「無理に決まってるじゃないですか」
「ですよねー」
俺もレポート書いててそう思ったもん。こりゃ無駄骨だったな。
「否! まだ結論を下すのは早い!」
と思ったら、理事長の方は諦めていないようだ。
「武藤トレーナーのレポートのお陰で分かったが、チーム・デネボラのメンバーはよく自制出来ている事が分かった!」
「そうですね。暴走するような担当ばかりだったら、毎日リアルファイトする羽目になってますし」
「うむ! 故に武藤トレーナーが無事でいられるのは彼女たちが鍵であることが明白! 彼女たちの観察をすれば新たな発見があるかもしれない!」
実際あいつ等が色々と自重した上に仲良くやってくれているお陰で、ある意味で平和に過ごせてるからな。理事長の言っている事は間違いじゃない。
とはいえ、これはこれで問題が横たわっている。
「観察ってどうするんです? 俺の時みたいにレポートを出させるんですか?」
「それは断られるのでは? 仮に書いてくれたとしても、本当の事を教えてもらえるとは思えません」
「せやな」
自分の手の内を晒せって言ってるようなものだからな。しかも用途がうまぴょいマニュアルの改訂なんだから、絶対に口を閉じるだろうし。
「安心! 私にいい考えがある!」
だが理事長は腹案があるらしく自信満々だ。扇子を突き付け高らかに宣言する。
「監視! モニタリングを行う!」
『はい?』
……この幼女、変な事を言い始めたぞ。
書いててなんだけど、武藤って色々と凄い生活してる……。