マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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ネタ切れにつき以前より温めていたシリアスストーリーを始めたいと思います。


87話 夢を目指すウマ娘

 

「はあああああっ!」

「おおおおおおっ!」

「っ! そこ!」

 

 俺ら少し離れたコースの中盤ストレート。そこで担当たちがバチバチに競り合っている真っ最中だ。今は実戦形式でのトレーニングってのもあって、お互いの動きを読み合い、騙し、出し抜こうと高速で駆け引きをしている。

 そんないつもの光景だが、今日はこの実戦形式にいるのは担当たちだけではない。

 

「っ、当り負ける……!」

「何とか止め……、すり抜けられた!?」

「まだまだぁ!」

「もう一度!」

 

 今日はいつものトレーニング――ではなく、本日は毎度恒例の週に一度の合同練習の日で、わざわざ俺たちのトレーニングを受けるために何人も生徒が集まってくれている。

んで、折角人手がいるんだからって事で、普段ではできない実際のレースと同じ人数での模擬レースを開催してるって訳だ。

 これが担当たちにとっても、合同練習参加者にとってもいい刺激になる。

 担当たちはデビュー前とはいえチームメイト以外の相手と実際のレース形式でトレーニング出来る。合同練習参加者は普段戦えないG1クラス相手と戦える。ウィンウィンの関係って奴だ。お陰様で、この模擬レースは合同練習の恒例行事になっている。

 

「うんうん、皆いい感じだな」

 

 皆やる気十分。活気があるのはいい事だ。この分なら、あっちは勝手にやってくれるだろう。そんな訳で俺は俺で改めて仕事をする。

 

「ほーら、あと20回! 頑張ってみようか!」

「うわあああん!」

「う、腕がプルプルするぅううう……」

 

 ダンベルをえっちらおっちら持ち上げている生徒たちに発破をかける。

 ただいま合同練習の参加者の中でも、怪我をしている面々を集めて筋トレの指導をしている真っ最中。流石にリハビリ目的の生徒を走らせるわけにはいかないからな。俺が直々に筋トレを見てるって訳だ。

 

「私もう脚痛くないから走らせてよー!?」

「折角トレーニングに来たのに筋トレばっかりってどうなの?」

「ずっとダンベルしか持ってないんだけど!?」

 

 とはいえこの筋トレ指導、当の本人たちには不評だったりもする。とはいえこれについては、俺にも言い分がある。

 

「いやお前、痛くない=完治じゃないからな? ちゃんとスポーツドクターの言う通りにしとけ」

「でも少し走ってもいいっていってたし!?」

「あくまで『少し』だろうが。今は軽い負荷にしとかないとまた怪我するぞ」

「むー!」

 

 そもそも論、この合同練習に来るようなウマ娘ってのはトレーナーと未契約の奴ばかり(契約してんなら、普通にトレーナーに指導して貰えばいいし)。そんな奴が怪我をしてるってなると、その原因は真面目にトレーニングに取り組み、いや真面目過ぎてトレーニングしすぎた事によるオーバーワークが大概だ。

 そんな奴がちょっと怪我が良くなったからって事で好き勝手トレーニングをさせてみろ。遅れた分を取り返そうとオーバーワークやらかすのが目に見えている。だから足に負担を掛けないトレーニングとして、全力で上半身の筋トレをさせてるって訳だ。

 

「というか何で上半身を鍛えるトレーニングなの!?」

「いや、走りってのは上半身の力も必要だぞ? 腕の振りとか腰を安定させるとか、タイムに繋がるんだから。授業でもやってたろ」

「そういえば聞いた事あるような……」

「おう、ちゃんと授業は聞いとけな?」

「はーい……」

「てかお前ら、自主トレだと大方走ってばっかだったろ。下半身に対して上半身が貧弱なんだよ。折角だから脚を治してる間に、上半身も下半身に見合う程度に強化しとけ」

 

 そんな訳で今回は自主トレなんて出来ないレベルまで徹底的に上半身を苛め抜いてやるんだ!

 

「……いや、貴様の言い分も分かるが、本当に終始上半身の筋力トレーニングだけなのはどうなんだ」

「あ、お帰りエアグルーヴ」

 

 と思ったら、模擬レースから帰ってきたエアグルーヴにツッコミ食らった。

 

「ゆーて後々の事を考えると、ここで一挙に上半身強化した方が速くなれるんだよ」

「それは確かではあるが、黙々と筋トレをさせられる側の気持ちにもなれ」

「むう……」

 

 確かに余計にフラストレーションが溜まるか。しゃーない。

 

「んじゃ、後でフォーム確認って事で軽く走らせるか」

「そうしろ」

『エアグルーヴ先輩、ありがとうございます!』

 

 筋トレ組がクッソ嬉しそうにエアグルーヴにお礼してやがる。そんなに嫌なのか筋トレ……。だがな筋トレ組よ、ちょっと忘れてないか?

 

「代わりに全力疾走しそうになったら、止めてくれよ?」

「怪我が治りかけている大事な時期だ。当然だろう。もしそうなったら、最悪取り押さえてでも止めてやろう」

『……え!?』

 

 あくまでも筋トレオンリーにダメだししただけで、好き勝手走って良いとは言ってないからな? やらかしたら速攻で止めるに決まってんだろ……。

 そんな感じでワチャワチャやってると、

 

「たのもー!」

 

 そんな威勢のいい声が飛んできた。振り返るとジャージ姿の短髪の栗毛が目立つウマ娘がそこにいた。

 

「あー、どちらさん?」

「その筋肉! アナタが武藤トレーナーですね! チーム・デネボラに模擬レースを申し込みます!」

「いや唐突」

「と言う訳で、勝負です!」

「勝負です、じゃないからね?」

 

 あらやだこの娘話聞かない……。そんなやり取りをしていると、ひょっこりとエアグルーヴが顔を出した。

 

「む? フレアハーモニーじゃないか」

「エアグルーヴ先輩! こんにちは!」

「あー、知り合いか?」

「私の後輩だ。彼女の事は貴様も以前教えたはずだぞ?」

「……あー、あの時の」

 

 確かエアグルーヴに連れられて神社に参拝に行った時に、遠目から見たんだったなこの娘。

 

「しかし今日はどうしたんだ。お前は先日レースをやったばかりだろう」

「え、そうなん?」

「ああ、重賞レース初参加だったが好走できたらしい」

「もうちょっとで勝てそうだったんですけどね」

「だが初の重賞で三位は十分健闘している」

「ほー、そりゃよかった」

 

 こりゃ路線が合えばエアグルーヴとの先輩後輩対決が出来そうだな。って、待てよ。

 

「そうなると休養期間じゃないのか?」

「いえ、明日からトレーニング再開です」

「それ要するにまだ休みですって事じゃん……」

 

 しれっとヤバいこと言ってんじゃねぇよ……。

 

「あ、そこは大丈夫です。いつもの休養期間なら今日にはトレーニングが出来てたんですけど、今回はトレーナーが出張する関係にいつもより延びてるだけなんで」

「ゆーて、休んどけって言われてんだろ?」

「トレーナーからはG1で戦ってるウマ娘のトレーニングを観察するようにって言われたんですけど、やっぱり実際に戦ってみないと実感できないかなって思って」

「で、殴り込みかよ。アグレッシブだね……」

 

 うんレースに対するやる気ってのはよーくわかった。色々とぶっ飛んでるけどレースに対して真摯なのはいい事だ。それを踏まえてな?

 

「と言う訳で模擬レースお願いします!」

「いや、流石に無理」

 

 飛び入り参加は無理だって。

 

「なんで!?」

「休養明けにいきなり模擬レースは負荷高すぎんだよ。あとせめて自分のトレーナーに許可を取れ。俺がやらせたってなったら相手のトレーナーと揉めるんだよ」

 

 担当ウマ娘の健康管理はトレーナーの仕事だからな。よそ様のウマ娘とはいえ、休養明けに無理はさせられん。

 

「うーん、見た目からしてノリとか勢いとか重視してそうなのに、なんか意外」

「そういうのだけじゃ、トレーナーなんて出来ないからな?」

「そういえば、トレーナーも武藤トレーナーはなんだかんだでリスク管理が出来るヒトだから、中々賭けが成立しないって言ってたような」

「……ちょっと待った」

 

 シレっと気になる単語が飛び出してきたぞ。

 

「賭けってなんだよ」

「あれ、知らないんですか? トレーナーたちの間で武藤トレーナーが誰とくっつくかって賭けになってるってトレーナーが言ってましたよ?」

「ほう?」

「何それ知らない……」

 

 あいつ等そんな事やってんのかよ。そしてエアグルーヴよ、食いつくな。

 

「私たちが賭けの対象になっている事に思う所はあるが、誰が人気なのか気になるな」

「オッズ表も見せてもらったんですけど、一番人気なのはエアグルーヴ先輩でした」

「ふ、当然だ」

 

 おうエアグルーヴ、ドヤ顔すんな。てかそんな話をこんな所でするの止めろ。そんな事やってたら、

 

「おうおう、面白そうな話をしてるじゃねぇか」

「興味深い話ですね」

「今後の参考になりそうだね」

「ねえねえ、マヤは何位?」

「皆来ちゃったよ……」

 

 噂をすれば影とは言うけど、当然のように担当全員が合流して話がややこしくなるんだよ……。

 

「確かエアグルーヴ先輩、フジ寮長、シリウスさん、フラッシュさん、マヤノちゃんの順だったかな?」

「ほー、おおよそ担当になった順番そのままって所か」

「ただオッズ的には全員大きく開いている訳じゃないみたいですね。むしろ盛り上がってるのは、くっつく過程の方の賭けみたいです」

「過程?」

「ほら武藤トレーナーって素手でウマ娘を倒せるじゃないですか。だから告白されて受け入れるか、うまぴょい(盛大)されてかで賭けになってるらしいんです」

「おう、そんな所を賭けにすんなや」

「私に言われても……」

 

 本気でトレーナー共何やってんだよ……。

 

「人気順は、成人するまで待って告白、誘い受けに負ける、在学中に告白、チーム内で揉めてレースで決める、うまぴょい(労)みたいです」

「うまぴょい(力)が最下位なのは、流石トレーナーといった所か」

「しかし一位から三位と五位は分かりますが、四位はどういう事でしょう?」

「ああ、それはチーム内でトレーナーを巡って争っている時によく使われる決着方法だね」

「あ、それマヤも知ってる! 模擬レースをして勝ったウマ娘がトレーナーをモノにできるんだよね!」

「あるな、そんな文化……」

 

 因みに勝者が決まった直後うまぴょい(win)だ。もちろんトレーナーに拒否権はないぞ。

 

「オッズは一位から四位が団子で、五位が大穴です。普通なら逆になりそうなのに凄いですよね。だからこそ賭けになってるらしいんですけど」

「……因みに俺が逃げ切るってのは?」

「あるにはありますけど、倍率1000倍以上の超大穴です」

「知ってた」

「そもそも私たちが逃がす訳ないだろ。覚悟しなトレーナー」

 

 知ってた……。

 

「でも四位のレースも人気があるなんて思わなかったね」

「普段と違ってレース後は告白なんだろうけどね」

「んー、チーム・デネボラの皆さんでやるとしたら2000mで勝負になるんですよね?」

「その距離でしたら、全員走れますね」

「ああ、そうだな」

 

 不意にシリウスがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「折角だ。試してみるか」

「おい……」

「もしもの時のために事前練習をするのはアリだね」

「フジも乗るなよ」

「確かに最近全員で模擬レースをする機会はなかったな」

「うん、やろうやろう!」

「これは気合いを入れないといけませんね」

「おーい……」

 

 全員完全にやる気スイッチ入っちゃって、俺の制止完全無視だよ……。そんな光景を前に事の発起人のフレアハーモニーはニッコニコだ。

 

「いやー、とんでもないことになっちゃいましね!」

「お前が焚きつけたんだろうが……」

「偶然ですよ偶然。あ、エアグルーヴ先輩! 折角なんで私も参加させてください!」

「ってオイ。だから許可を取れって言ったろ」

「そこは大丈夫! 話してる途中でトレーナーにメッセージアプリを使って許可を取っておきました!」

「手際良いね君……」

 

 そんなこんなしている内に、チーム・デネボラ全メンバーがスタートラインに立った。

 

「さーて、手加減は無しだ。覚悟しな」

「それはこちらのセリフです、シリウス先輩」

「二人ともやりすぎないようにね」

「えー、そういうフジ寮長も目が笑ってないよ?」

「ふふ、それはマヤノさんもですよ?」

 

 なお全員から異様なオーラを纏ってるぞ! お陰で合同練習に来てた面々が思いっきり引いてやがる!

 

「武藤トレーナー! スタートの合図お願いしまーす!」

「そして君はシレっと混ざるのな」

「G1戦線で戦ってるウマ娘と本気で戦えるなんて早々ないですし」

「逞しいねホントに……」

 

 こうしてチーム・デネボラ+αによる本気の模擬レース(ウッドチップ2000m良馬場)が始まった!

 

 




なおシリアスになるのは次回からの模様。
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