遊戯王ZEXAL 追放された神が自由に生きる   作:お腹いっぱい

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肝心のデュエルは短く、ダラダラと話が続いてしまいました…



邂逅

 

俺はデパートに入る前に、ふと入口の横にカードが1枚落ちているのを見つけた。鈴は気づいていないようで、普通にデパートへと入っていったが、そのカードが気になった俺は拾うことにした。

 

「《No.(ナンバーズ)86 H-Cロンゴミアント》…?」

 

 大抵のカードはほぼ全て持っているし、ナンバーズも割と所持していると自負していた。しかし俺の持っているナンバーズには、ナンバーズとの戦闘でしか破壊されない、などという効果は無いし、86番なんて初めて見る。だが効果を見た限り、俺のデッキとの相性はかなりいい。エクスカリバーを抜いて採用しよう。

 

「ラーイーヴィースー、なにやってんのー!」

「ああ、悪い悪い」

 

 俺が居ないことに気づいたのか、鈴が呼びに戻ってきたので、拾ったカードをエクストラデッキにしまって、鈴に並んでデパート内を歩き始めた。

 どんな用事があるかと思えば、夏の私服と夕飯の材料が足りないらしく、買いに来たという至って普通の物だった。ただ、私服が似合うかどうか見てほしいと頼まれたのだが、俺は女物の服についてどう判断していいのかわからない。まあ、俺の基準でいいと言われたので素直な感想を述べるとするか。

 そんなわけで、まず夏服を買いにデパート3階のブランド物の洋服店に来たわけだが、女子高生にブランド物の服なんて…いるんだろうなあ、今時は。

 

「お前、わかってやってるだろ?」

 

 さっきから鈴が選んでくる服といえばどれもこれも派手で露出の高いデザインの服ばかりで、確かに夏に合っているといえば合っている。しかしスカートは短かったり胸元の開けた服だったりで、とても健全とはいえない格好だ。いや、逆の意味で健全なんだろうか。

 

「…気になる男でもいるのか?」

 

 鈴も年頃だしな、浮かれた話の1つや2つあってもおかしくない。アピールするためと言えば合点がいく。

 

「ま、まあそんなとこかなー?」

「だとしたら派手すぎる格好はやめておくことだな。遊びかなんかだと思われるぞ」

 

 俺の基準だから参考にはならないけどな、と付け加えて、俺は買うのが決まっている服をレジに持って行って、会計する。すると、慌てて鈴が寄ってきて財布を取り出したので、俺はそれを止めた。

 

「お前の小遣いが吹き飛ぶぞ。奢ってやるよ」

「えっ、でも…!」

「いいから、人の厚意は素直に受け取っとけ。今日俺の暇つぶしに付き合ってくれた礼だ」

「10点で8万3000円になります」

「やっぱり流石に悪いって!」

「そう思うならまた機会があった時に俺の暇つぶしに付き合ってくれ。俺はお前以外知り合いがいないからな」

 

 問答無用でレジの店員に現金8万3000円を渡す。店員はちょっと困った様子だったが、丁度頂きます、と言って受け取り、服の入った大きな紙袋を手渡してくれた。

 

「ほら、お前のだ」

「あ、ありがとう」

 

 鈴が素直に礼を言うのは滅多にない。まあ、嬉しそうな顔をしているし俺も奢った甲斐があったというものだ。まあ、人間の間ではだいたい男が女に奢ることが多いという嘘か本当かわからない情報を信じてやってみた次第だが。俺は振る舞いとか言動は男だし問題ないよな。

 それから1時間くらい経過して、そろそろ帰ろうか、という空気になった時だった。最上階付近から、何やらガラスが割れた音や、悲鳴が聞こえる。強盗かなんかか?

 

「鈴、先に帰れ。危ないから」

「そう言うのズルいじゃん?あたしも興味ある。ライヴィスが守ってくれるし、いいっしょ?」

「仕方ないやつだな…俺から離れんなよ?」

 

 と、次の瞬間だった。周りの時が一斉に止まったかのように、周りの客の動きが止まったのだ。鈴も例外ではない。俺が無事な理由は…よくわからんが、神だからってことにしておこう。とにかく、時計も進んでいないようだし、時間が止まっていると見て間違いないだろう。その後しばらく経つと、屋上から1つの悲鳴が聞こえてきた。何かと思って上がってみれば、そこには生気を失った様子の男と、黄色い逆立った髪の黒い服を着た男がいた。バットを持っていることから、多分倒れている方が強盗だろう。どちらもこの空間で普通に動いている。強盗犯の方は動いていた、か。そういえば、ここに上がってくるまでにもう1人この止まった時の中で動いている少年がいたような気がしたが…まあ気のせいだろう。

 黒い服の男は俺を見ると、突然赤い紐のようなものを飛ばし、俺の腕に巻きつけた。赤い紐は消えたが、すぐにそれが俺をこの場から逃さないためのものだと理解する。まあこんなものはいつでも解除できるしどうでもいい。…それとも振り回してやろうかな?

 

「お前もナンバーズを持っているようだな。お前はこのデュエルアンカーに繋がれている限りデュエルが終わるまで俺と離れることはできん。狩らせてもらうぞ!貴様の魂ごと!」

「…お、おう。お前は誰だ?」

「人は俺をナンバーズハンターと呼ぶ」

「ナンバーズ?そんなもん何十枚も…あっ、ああ、あれのことか」

 

 こいつが言っているのは俺の持っているナンバーズじゃなくて、さっきデパート前で拾ったあれのことなのだろう。あとで複製しようと思っていたのに狩られるのは残念だな。

 

「また今度にしてくれないか、今日は連れがいるんだが?」

「貴様の都合など知ったことか」

「そうか残念だ。まあ、連れがいるから早めにな」

 

 魂ごと狩るとか冗談だろ。…と思いたいけど、この倒れている強盗犯を見ると冗談じゃなさそうだ。

 

「デュエルディスクセット」

「デュエルモード・フォトンチェンジ!うおおおおおお!」

 

 次の瞬間、男の服が白くなって、左目が赤くなった。眼の色が変わるのって俺だけじゃなかったか。でも、多分こいつとは気が合わないから友人にはなれないな。

 俺の左腕に鎌の刃のように鋭く黒いデュエルディスクがセットされた。少し大型だし、相手のフィールドが確認できるようなモニターも付いていない、どちらかと言えば旧式のデュエルディスクに近いものだが、これが案外使いやすい。

 

『ARビジョンリンク完了』

 

「「デュエル!」」

 

先攻はあっちの…そういや、名前を聞き忘れた。まあいいか。

 

「先攻は俺だ、俺のターン!俺は手札から魔法カード《フォトン・リード》を発動。このカードは手札からレベル4以下の光属性モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。俺は《デイブレーカー》を特殊召喚する。このカードの特殊召喚に成功した時、手札の中から同名カード1体を特殊召喚できる。現われろ、もう1体の《デイブレーカー》!新たに現れた《デイブレーカー》の効果発動。更に《デイブレーカー》を特殊召喚。俺はレベル4、3体の《デイブレーカー》をオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!現われろ《No.10 白輝士イルミネーター》!」

 

馬に乗った白い騎士…、まあまんまそんなモンスターが現れた。

 

「俺はイルミネーターの効果を発動!1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使うことで手札1枚を墓地へ送り、カードを1枚ドローする」

「えっ…」

 

思わず声に出してしまったが、相手に聞こえていないようでよかった。3体のモンスターを使うにしてはやけに弱いな。攻撃力も2400とデルタテロス未満だ。まあ世の中色々なカードがあるし、それを使うか使わないは自由だからいいか。

 

「墓地へ送られた《ライト・サーペント》は特殊召喚される。更に俺は《プラズマ・ボール》を召喚。レベル3のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚、現われろ《No.20 蟻岩土(ギガント)ブリリアント》!」

 

今度は巨大な顎を持った蟻が現れた。攻撃力は1800、次第点だろう。

 

「蟻岩土ブリリアントの効果発動!このモンスターは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ取り除き、自分のモンスターの攻撃力を300ポイントアップする。俺はこれでターンエンドだ」

 

 

カイト

LP4000

手札:0

No.10 白輝士イルミネーター ATK2700

No.20 蟻岩土ブリリアント ATK2100

 

 

「俺のターン」

 

手札全部使って大型モンスター2体を並べたのはいいけど、伏せカードなしとは…でも、さっき拾ったやつ同様あいつらもナンバーズ以外との戦闘では破壊されないんだろうな。まあ、デュエルに時間がかからないのはありがたい。もう1人ここに誰か近づいて来ているようだし、さっさと終わらせて引き上げよう。

 

「悪いが時間が押しているので速攻でいかせてもらう、《星因士ベガ》を召喚。こいつは召喚成功時に手札からテラナイト1体を特殊召喚できる。俺は《星因士デネブ》を特殊召喚して、その効果でデッキからアルタイルを手札に加える。ベガとデネブでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚、来い《輝光子パラディオス》!」

 

ナンバーズの戦闘破壊耐性は所詮モンスター効果にすぎない。モンスター効果さえ無効にしてしまえば、普通に戦闘で破壊できる。さて、どっちのナンバーズを破壊しようか。手札交換をされるのは面倒だ、イルミネーターを始末しよう。

 

「俺はパラディオスの効果発動。オーバーレイユニットを2つ使って、イルミネーターの攻撃力を0にし、その効果を無効とする!」

「なんだと!?」

 

No.10 白輝士イルミネーター ATK2700→0

 

「パラディオスでイルミネーターを攻撃!」

 

パラディオスがイルミネーターを馬ごと一刀両断した。その後爆発し、爆風が白い服の男を襲う。男は少しは耐えたが、結局吹き飛んだ。

 

カイト LP4000→2000

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 

ライヴィス

LP4000

手札:4

輝光子パラディオス ATK2000 ORU0

伏せ:1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は《貪欲な壺》を発動。墓地から《デイブレーカー》3体と《No.10 白輝士イルミネーター》、《ライト・サーペント》をデッキに戻し、2枚ドロー!」

「ほう」

 

 この土壇場でいいカードを引いたな。ブリリアントを攻撃しておけば貪欲な壺の発動条件が整うこともなかった。結果論だが破壊する方を間違えたな。

 

「俺は《フォトン・クラッシャー》を召喚」

 

光子を撒き散らす、鉄製の棍棒を持った戦士が現れた。

 

「俺は攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして、特殊召喚!!」

 

奴のフィールドに、紅い十字架のようなものが現れる。奴がそれを掴んで高く放り投げると、勢い良く回転して光の粒子を集め、眩しい光を放った。次の瞬間、銀河の眼を持った、青き竜が出現していた。

 

「《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》!!」

 

銀河眼の光子竜 ATK3000

 

「へぇ、こいつはなかなか強力なのが出てきたな」

 

 銀河眼の光子竜か。俺も持っているから大体の効果はわかる。問題はナンバーズと同じように俺の持っている光子竜とこいつの光子竜で効果が違うのか否か。

 

「《銀河眼の光子竜》は通常召喚できず、攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして手札から特殊召喚できる」

 

あ、違う。それに、あの光子竜からは何か普通とは違う、得体のしれない力を感じる。とにかく、銀河眼の光子竜相手では次元幽閉は役に立たないし、大人しくパラディオスを破壊させて1枚ドローしよう。

 

「俺は《銀河眼の光子竜》で《輝光子パラディオス》を攻撃!破滅のフォトン・ストリーム!!」

 

銀河眼の光子竜のブレス攻撃がパラディオスを破壊、そのまま俺に直撃した。このくらいでは狼狽えない。

 

ライヴィス LP4000→3000

 

「破壊されたパラディオスの効果で、1枚ドローする」

 

 リベリオン・フォースを引いたか。でも奴の手札は0だし、フィールドには銀河眼が1体いるだけ。これを使うまでもなく次のターンで決着がつくな。

 そう思っていた時、とうとう下から近づいていた気配がすぐそこまで迫ってきたのを感じた。奴は標的がもう1人増えるだけだからいいだろうが、俺はできるだけ人目にとまる真似はしたくない。ここで倒しておけば当分の間俺のところには来ないだろうが、後でまた狙われるならその時に叩き潰せばいいだけだと結論づけて俺は撤退することにした。

 右手に黒い光が集まり、洗練された片刃の長剣に変わった。その剣で不可視のデュエルアンカーを断ち切ると、剣が再び光となって消えた。男は信じられないような表情を浮かべていた。多分デュエルアンカーを切られたことか、急に剣が現れたかのどっちかに驚いている。

 右腕にデュエルアンカーを巻きつけられたなら、実は本物の刃になっているデュエルディスクで切ればよかったものの、左腕に巻き付いていたせいでデュエルディスクじゃ切れなかった。こういう特殊能力を人間の目の前で使うのは褒められたことじゃないが、緊急事態だから仕方ない。

 

「どうやらここまでみたいだ。悪いがこの勝負預ける、面倒なことになりそうだからな」

「貴様逃げる気か!」

 

 男が激昂する。獲物にあと少しと思っているところで逃げられたら当然怒るだろう。向こうは俺が戦術的撤退であることを知らない。

 

「まあちょっと違うけどそう思ってくれていい、俺の名はライヴィス、覚えとけ」

 

 名を告げてデュエルディスクを消し、懐から閃光弾のピンを抜いて叩きつけて炸裂させ、気配が向かってくる方とは逆の方向から飛び降りる。あの男もハンググライダーのようなものを背中に装着して、穴が開いた天井から飛び去った。獲物を仕留め損なったのか、悔しそうな表情だ。

 すぐに時間の流れが元に戻り、天井のガラスの破片やらが降ってきて最上階は大変なことになっているようにみえる。俺はその直前にギリギリ鈴の隣に戻り、何もなかったようにすることにした。

 時間が動き出したことで、さっきまでの騒ぎはまた別のものになった。何やら前頭部に逆だった赤毛のある少年も一緒に巻き込まれて捕まっているようだ。彼がさっきの気配の正体か。

 

「ん、なんか様子が変わったな?」

「嘘、犯人が倒れてるし、あの子一体なんなのさ!?」

「俺が知りたいくらいだ」

 

 それよりあの少年のそばにいる青白い何か…幽霊か?本当にいるもんだな。こういうのは恐怖心が生み出す幻影みたいなものだと思っていたが…。なんだか、今日は色々と面倒なことに巻き込まれた気がする。

 

「なんか白けたし、今日はこのへんにするか」

 

 ナンバーズハンター…か、また変なのに目をつけられたものだ。魂を狩るとか言っていたな。本当なら鈴がナンバーズに触れないようにしないといけない。廃人状態同然になった鈴は見たくないからな。

そんなことを頭の隅で考えながら帰ろうとした俺の手を鈴が掴んだ。

 

「待って。明日さ、あたしの家で夕飯一緒に食べない?」

「…ああ、お前1人暮らしだったな。いいのか、俺なんか家に上げて」

「ライヴィスだからいいんですけど?」

「俺だから?…よくわかんねぇけど、お言葉に甘えるとするか。…ちょっと待て、お前料理できんのか?」

「ふふん、あたしを誰だと思ってんの?ひと通りの家事は楽勝じゃん!」

「そうか」

 

 得意げな顔でそう言った鈴に、思わず素っ気ない反応しかできなかったが、よく考えればこいつの家に邪魔するのは初めてだ。

 時間は午後6時を回った頃、家庭によってはもう夕飯時ではある。

 

「鈴の家はここからどれくらいだ?」

「んー…15分位かも」

「そうか…荷物、大変そうだな。片方持とうか?」

「いいっていいって、なんか今日奢ってもらってばっかりだしさ、これ以上は悪いよ」

 

 そう言って平気そうに荷物を持って歩くものの、多数の洋服が入った紙袋と、夕飯の材料が入ったビニール袋が嵩張って邪魔そうだ。俺は鈴の左手にぶら下がっている、より重量のある夕飯の材料が入ったビニール袋を取り上げた。

 

「その調子じゃ紙袋が破ける。こっちは俺が持つ」

「もう、強引だなあ…」

 

 その日は結局、鈴を家まで送ってから俺は帰った。

 翌日正午10分前、鈴と待ち合わせ場所のショッピングモールの入り口に行った。正午丁度に鈴はやってきた。

 

「よう」

「やっほー」

 

 彼女の服装は驚くべきことに、露出を控えめにした清楚ささえ感じさせるものだった。いやわかっている、普段過激な格好だからそういう風に見えるだけなのだ。しかし、昨日買った服のなかに2着くらいそういう服があった記憶はある。普段の鈴からは到底想像できない格好だ。スカートも短すぎず、調度良い物といえるだろう。思わず見つめていたようで、どったの、と聞かれるまで言葉が出なかった。

 

「いや、お前…普段そんな普通の格好しないだろ?一体どういう風の吹き回しだ?」

「いや、そのさ…昨日ライヴィスがいろいろ言ってたじゃん?だからね」

 

 俺は何か鈴の服装を劇的に変えるようなことを言っただろうか。…ああ、あまり派手だと遊びだと思われる云々と、確かに言った。

 

「…まあいいか、とりあえず夕飯時までどっかで時間潰そうぜ」

「オッケー」

 

 昨日と同じように夕飯時まで時間を潰し、鈴の家に足を向けて10分程歩いた時だった。雲行きが怪しかったが、空が我慢できなくなったかのように雨が降り出した。すぐに近くの建物の軒下に行き、雨宿りする。

 

「天気予報だと9時ごろからだったんだけどなあ」

「参ったな」

 

 仕方がないので俺のコートを鈴に被せて行こうかと思った時、ふと目を道路に向けると2人の中学生くらいの男女が走っているのが見えた。少年の方は昨日強盗犯と一緒に取り押さえられた子だ。少年が横断歩道を走って渡り、遅れている少女を急かした。少女が仕方なさそうに走り、横断歩道に差し掛かった時、大型のトラックがクラクションを鳴らしながら走行してきた。少女が悲鳴を上げるが、あの距離ではもう遅い。少年が振り返り、慌てて、小鳥、というのか少女の名を叫び、少女を突き飛ばした。今度は少年が轢かれてしまう、そう思った瞬間だった。その瞬間、世界が反転したかのような感覚が襲い来ると同時に、周囲の時が止まった。昨日の強盗犯の時と同じだ。

 少し経つと、少年のいる場所の斜め向かいから、口笛が聞こえてきた。その主は紛れもなく昨日のナンバーズハンターと名乗った青年だった。

 彼らが何を話しているかは聞こえないのでわからないが、少年の腕にはデュエルアンカーが巻き付けられた。きっと少年は、俺のように強引にあれを切る方法を持っていない。デュエルに勝つまで逃げられなくなったわけだ。

 鈴はやはり時を止められていている。そこで、ふと思いついた俺は徐に鈴の左手を握った。すると、鈴はハッとした反応を示した。

 

「え?…あれ、ライヴィス何やってんの?」

「まあ予想通りだな」

 

 もしやと思ってやってみると、やはり止まった時が動いた。俺は手を離すなよ、と一言言って、始まったナンバーズハンターと少年のデュエルに目を向けた。鈴もつられて同じ方向を見た。

 

「何やってんのあれ」

「見ての通りデュエルだ」

「いや、さっきまであんなところに人なんかいなかったじゃん」

「時を止められているんだ。あのデュエルには、たぶん少年の魂が賭けられてる」

「えぇ!?冗談でしょ」

「本気だ」

 

 10分くらい経っただろうか。少年の敗北寸前、けたたましいアラート音が鳴り響いたかと思うと、青年は近くの変わった形のロボットが変形したバイクに乗って走り去った。どうやら緊急事態だったのか、あと一歩のところで魂を奪われていたであろう少年は九死に一生を得た。

 時間が再び動き出した。

 少年の悔しそうな叫び声が辺りに響く。鈴はそれを困惑した表情で見ていた。俺はどう言っていいかわからない。少しして、人気がすっかりなくなると、雨も止んだ。

 

「あ、悪い」

 

ずっと手を握っていたことを思い出し、離した。

 

「別にライヴィスならいいけどね」

「どういう意味だ」

「えっ?あ、い、いや、なんでもない!なんでもないから!」

「よくわからん奴だなぁ、お前も」

 

 言いたいことがあるなら素直に言えばいいのに、2度と握るなと言われればその通りにするだけだ。ただ、3年間も縁が続いているわけで、嫌われているとは思いたくない。一応並の感情はあるわけで、これで嫌われていたら結構ショックだ。

 少し歩くと、鈴の家、もといマンションについた。4階の一番奥の玄関の前で1人の少女が立って待っていた。黒いが若干茶色がかったロングストレートヘアに、シンプルだが洒落た服をきっちり着こなしている。まさにお嬢様といった様子だ。鈴に誰なのか問う前に、鈴はその子に右手を挙げて、おっす、と一言挨拶した。

 

「こんばんは、鈴音。そちらの方は?」

「前に言ったじゃん、ライヴィスだよ」

「あら、これは失礼しました。私、天鳳堂 媛乃と申します。よろしくお願いしますね」

「えっ、あ、ああ。ライヴィスだ、よろしく」

 

 あまりの礼儀正しさと堅苦しさに思わず呆然としてしまい、言葉が出てこなかった。こういうタイプは今までに接したことがないから、どう話していいのか全く分からない。目で鈴に助けを求めたが、俺の困った顔を見てニヤニヤしている。後で覚えてろよ、と、口には出さないが内心呟く。

 

「ま、ここで立ち話もなんだしあがりなよ」

 

 鈴が玄関の鍵を開錠し、ドアを開けた。

 普通のマンションらしい間取りで、廊下の突当りの扉を開けるとそこがリビングだった。整理整頓されていてきれいな部屋だ。

 

「ほう、こりゃ驚いた。本当に家事ができるんだな」

「当然じゃん!とりあえず媛乃とちょっと話してくるからここで待っててよ、好きにしてていいからさ」

「じゃあ遠慮なく」

 

 鈴が退室したあと、ふとテレビの横にある棚に目を向けると、2つの写真立てが置いてあった。よく見えないので近づいて手に取る。片方は鈴の家族の写真だろう。幼少期の鈴とその両親と思える人物が写っていた。しかし、妙だ。両親共、鈴に似ていない。人間の子は両親のどちらかに似るものだと聞いていたんだが、それはそうと、もう片方は…。

 

「俺…?」

 

 いつ撮ったのか定かではないが、左手で俺の袖を引っ張りながら正面を向いて、右手でピースサインを作って笑っている鈴と、こちらに振り返っている俺の写真だった。撮ったのは誰なのだろうか。イマイチ思い出せない。

 

「ん?」

 

 家族写真の方に違和感を覚え、写真立てから写真を外した。写真立ての中には1枚のカードが残った。

 

「《悠久の愛情》…か」

 

 鈴の家族事情を聞いたことはない。この写真とこのカード、鈴の両親はもう、この世を去ったということだろうか。部屋を見回せば、鈴以外の誰かの物は見当たらない。俺は写真を戻して、テレビの前にあるソファに腰掛けた。テレビをつける気にはならなかった。

 

「お待たせ!…あれ、テレビつけてもよかったのに。ていうか、ちょっと元気ない?」

「俺にもいろいろあんだよ」

「ふーん…今から夕飯作るからもうちょっと待っててね。あ、媛っちが話したいって隣の部屋で待ってるよ?」

「お前な…もう1人招いてるんだったらちゃんと言って欲しかったぜ」

「この方が面白そうだったじゃん?」

「さいですか」

 

 返事すら適当にして、隣の部屋に行く。ノックして、中からどうぞ、と聞こえたのでドアを開ける。部屋は鈴の私室であるらしく、正面に窓、その右側にベッド、左側に勉強机、勉強机の上にはノートパソコンが置いてある。ベッドの横には箪笥があった。媛っちこと天鳳堂は勉強机とセットの椅子に座っていた。

 どう話を切り出していいかわからない。黙っていると、向こうから声をかけてくれた。

 

「あの、ライヴィスさん?」

「あ、ああ、なんだ?」

「不躾な質問ですが、鈴音とはどこで知り合ったのですか?私は高校入学の時に、同じクラスになって初めて知り合ったので…」

「3年前になるな。確か、いつも行ってる喫茶店だ。席が空いてなくて、相席をさせてもらったのが最初だったはずだ」

 

 その次の週も、同じ場所に鈴はいた。流石に席は他の場所が空いていたので、俺はそっちに行ったが、そうしたら鈴の方から話しかけてきたのを覚えている。ろくに話もしていないし、ほんの30分程度の相席だったのに、俺のことを覚えていたらしい。

 

「そうだったのですか…話は変わりますが、デュエル大会に一緒に出ていただけると伺っています。あの鈴音よりも強いというのは本当ですか?」

「あの鈴音…?」

「鈴音は学年ではトップクラスの強さで知られています」

「ほう、鈴がね…。あいつより強いも何も、あいつにデュエルを教えたのは俺なんだ」

 

 自信があるという言葉にはその実力も伴っていたわけだ。師としては喜ばしい限り。

 鈴音は、キッチンに立って料理の下ごしらえを始めた。途中まで終えて、テレビをつけるために、ソファの前のテーブルに近寄ったところで、写真立てがずれていることに気づいた。

 

「嘘…もしかして見られた…?」

 

 鈴音はこれを見られたらライヴィスに憐れに思われると思っていた。ライヴィスだけにはそう思われたくなかった。遠慮無く軽口を叩きあえる関係を続けていたかったのだ。

最初にライヴィスと出会って、他愛ない話をしていた時、どうして学校の時間なのに喫茶店にいるんだ、と問われて、両親と喧嘩した、と答えた。真っ赤な嘘だった。

今になって鈴音は、出かける前にこの写真を隠さなかったことを後悔し、自分のドジにうんざりした。5分くらい立ち尽くしていたが、ハッと我に返ると、急いで夕飯を作るのを再開した。テレビをつけるのを忘れていた。

 俺は天鳳堂と質問されては答えて質問を返すと言った会話を続けていた。なんともやりづらいが、沈黙して空気が重くなるよりいい。しかし、俺は自ら空気を重くするような質問をしていいのか迷っている。本人に聞くにはあまりにも酷だと思っているからだ。それをついさっき知り合ったばかりの天鳳堂に聞くのは尚更だろう。だが、それでも気になった。俺は踏み出してはいけない一歩を踏み出すことにした。

 

「…ところで天鳳堂。あまり、こういうことを本人以外の誰かに聞くのが良くないとわかっている上で聞く。鈴の両親のこと、何か知らないか?」

「それは私からはお答えできません。鈴音は私の大事な友達です。だからこそ、その鈴音が一番大事に思っているご友人であるライヴィスさんに、鈴音の心の奥底を私から話すことはできません」

 

 天鳳堂は、はっきりとそう答えた。正直言って、自分勝手だがありがたかった。同時に、天鳳堂と鈴の絆の強さを知った。

 

「そうか。鈴はいい友達を持ったな」

 

 俺にはこれほど友のことを考えられ、考えてもらえるだけの関係にある友人はいなかった。

 

「いつか、鈴音から話してくれると思います」

「…俺なんかより、天鳳堂のほうが余程いい友達だろう、あいつにとって」

「いいえ、鈴音の学校での話題は8割位ライヴィスさんのことですよ?」

「…は?」

「昨日はデパートで服を買ってもらったとか、久しぶりにデュエルしたとか、そんな惚気話としか思えないような話を夜中の3時まで聞かされました…」

「お、おう…天鳳堂も大変だな…」

 

 なんというか意外だ。というか、そんなに長く話すようなことは何もしていないと思うのだが。確かに天鳳堂はちょっと眠そうだ。

 

「鈴音とはお付き合いしていないのですか?」

 

 また、それはそれで意外な質問が飛んできた。嘘をついてもメリットが有るわけじゃないし、普通に答える。

 

「鈴と俺はそんな関係じゃねぇな」

「あら、そうでしたか。でも鈴音は…いえ、なんでもありません」

「鈴も時々何か言いかけてはなんでもないとぼかすが、天鳳堂もそうなのか」

「ええ。今時は流行っています」

 

 何か別のことを隠すための嘘だとしか思えなかった。そんなのが流行ってたまるか。しかし、それを強引に聞き出すのも良くないと思って、今はそれを信じることにした。

 かれこれ40分が経っただろう。リビングから、鈴が呼ぶ声が聞こえた。俺達がリビングへ向かうと、キッチンの前にある3人がけのテーブルに、3人分の料理が並んでいた。

 

「シーフードスパゲティとサラダ、スープか。洒落たもんが作れるんだな」

「ふふん、今日は気合入れてたからね!」

「よくできてますね、美味しそうですわ」

 

 3人揃って席についたところで、パスタが伸びないうちに食べ始める。店で出せば儲けられるんじゃないかと思うくらいの出来だ。

 

「そういえばライヴィスさ」

「なんだ?」

「どんな話してたの?媛っちと」

「どうでもいい話とそうでない話、半々くらいじゃね。デュエル大会がどうのとか、夜中の3時まで天鳳堂がお前の話を聞かされたとか」

「えっ!ちょっと媛っち、そんなこと話さないでよ!」

 

 鈴は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに叫んだ。天鳳堂はいたずらな笑みを浮かべていた。

 

「夜中で思い出したけどよ、天鳳堂は眠そうなのにお前は全く眠そうじゃねぇな?」

「あー、あたしは普段から夜遅くまで起きてるからねー」

「そんな時間まで何やってんだ…」

「パソコン」

 

 誰かこいつからパソコン取り上げたほうがいいんじゃないだろうか。と思ったが、もうここ50年1度も寝ていない俺が言うのはおこがましいか。

 2人よりも早く料理を平らげた俺は一足先に帰ろうと思った。女2人で話したいこともあるだろう、俺がいては邪魔になる。そう思ったからだ。

 

「ごちそうさん、俺は先に帰ることにするわ」

「え、もう帰んの?なんだったら部屋も空いてるし、泊まってってもいいのに」

「いや、それは色々とまずいだろ」

「ちぇ、つまんないの」

 

 実を言えば、後ろめたい気持ちがあった。人に知られたくないであろうことを本人のいないところで聞き出そうとしたという。その反省の意味も兼ねて、今は早く帰りたい。

 荷物は持ってきていなかったので、そのまま鈴のマンションを出た時だ。三度周囲の時が止まった。あの口笛が聞こえてくる。ナンバーズハンターが、正面の横断歩道の向こうに立っていた。

 

「…お前暇人か?」

「そんなわけがあるか、貴様と一緒にするな。今度は逃さない」

「今機嫌悪いからまた今度にしてくれねぇ?」

「貴様…ふざけるな!」

「…仕方ねぇな」

 

 機嫌が悪いのは俺の自業自得だけどな、と内心言いながら腕にデュエルディスクを創りだして装着する。1回叩き潰せば大人しくなるだろ。俺は、相手の声も聞かずに5枚のカードを引きぬいた。

 

「俺以外の誰かにしなかったこと、死ぬほど後悔するぞ」

「それは貴様の方だ」

 

『ARビジョンリンク完了』

 

「「デュエル!」」

 

時が止まった夜の町に、戦いの幕が上がった。

 

 

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