PhantasyStarOnline2-IF-「A.B.T」   作:あるふぃ@ship10

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第1話「A.B.T開催」

―新光歴242年3月31日

 

アークス総動員による決死の戦いによって、終の女神シバもとい【深遠なる闇】は消滅した。

【深遠なる闇】の消滅によって、これ以上ダーカーが増えることは無くなったが、既に産み落とされたダーカーは未だに各惑星に身を潜めている。

残存するダーカーの殲滅、そしていつしか訪れるかもしれない危機に対し、万全な状態を維持するため、10番艦"ナウシズ"の守護輝士、あるふぃは一つの提案をした。

それが、アークス同士による戦技大会、「ARKS Battle Tournament(アークスバトルトーナメント)」通称「A.B.T」である。

強大な敵がいない現状、日に日に衰えていく戦闘能力を維持するため、アークス同士による模擬戦を行い、選手同士で研鑚しあうことが目的だ。

優勝者には、多額のメセタと合わせて、"最強"の称号が与えられる。

賞金を求めて戦うもの、その名を求めて戦うもの、ただひたすらに己の実力を試すもの。

思惑は様々だが、急遽開催されたにも関わらず、参加するアークスの数は7月に開かれた第1回の時点で当初の予想を遥かに上回った。

これを見てA.B.T運営は、1年に1度の予定であった大会の開催期間を、半年に1度で行う方針とした。

 

 

 

そして今日、243年1月17日―

 

 

『アークス達による技と技のぶつかり合い。己の力を示し、頂点へと昇り詰めるのは誰か!第2回アークスバトルトーナメント、ナウシズブロックの開幕だぁぁぁぁ!!!!!』

 

司会の言葉に呼応、観客の大歓声が響き渡る。

ショップエリアの隅から巨大モニター越しに、大盛り上がりの会場の様子を見る女性が1人。

 

「ここにいたのねあるふぃ。」

 

あるふぃと呼ばれた女性は、声のした方を振り向かずに話す。

 

「まリスか。随分と早い帰還だな。帰るのは開会式後だと思っていたが。」

 

まリスと呼ばれた少女は、あるふぃの横へと並ぶと、口を開く。

 

「ダーカーの数が想定よりも少なかったから、早めに帰ってこれたのよ。」

 

「なるほど、なら丁度いい。今から各ブロックの出場者と組み分けの発表だ。今回のトーナメントは盛り上がるぞ。」

 

「と言っても目立つのって、あたしとあるふぃにクオン、リランぐらいじゃないの?」

 

「まぁ見れば分かる。」

 

他にもいると言わんばかりに、あるふぃは顔をニヤつかせる。

なんのことやら分からないまリスは、あるふぃのニヤついた顔を見て薄気味悪さを感じながらも、再び巨大モニターの方を見る。

 

『―さぁそれでは気になるトーナメント表の発表だ!今回は第1回に比べて強力なアークスが盛りだくさん!今回の組み分けは...これだぁ!!!』

 

「......うっそぉ....」

 

モニターに映るトーナメント表を見て、まリスは唖然とする。

 

―シップ代表を決めるトーナメントは2日間行われる。

1日目の予選はAブロックからHブロックの計8ブロックに分かれており、それぞれのブロックで勝ち抜いた8名が、2日目の最終ブロックへと上がる。

最終ブロックでは、勝ち残った8名で再びトーナメント方式で試合を行う。

そして決勝で勝利した者がそのシップの代表となり、後日、各シップの代表が集まり、その回の最強のアークスが決まるのだ。

 

「ナウシズの主力勢揃いじゃない。それに...」

 

「今回は前回と違って皆の都合を合わせたからな。更には豪華なゲスト付きだ。まぁ、8割方姉の要望だがな。」

 

あるふぃの言葉通り、今回のトーナメント表には、ナウシズでも名だたるアークスが多く参戦していた。

 

第1回ナウシズ代表のあるふぃ。

前回に続き今回も参戦となるクオン、リラン。

前回は長期の任務と被ってしまい、不参加となっていたまリス、蝉時雨。

ハルコタンの巫女、アリスとアリシア。

そして...元守護輝士であり、第1回A.B.Tでウル代表となったユウ。

 

観客は彼らの名前を見た瞬間、一瞬ざわつきがあったが、すぐに大歓声へと変わった。

名だたるアークス達の対決をこの目で見ることができる。

観客の全員が、これから始まるであろう激戦に心を躍らせていた。

 

「順当に行けば、全員最終ブロックでぶつかりそうね。」

 

まリスの言う通り、有力なアークス達はそれぞれが各ブロックにばらけていた。

 

「そうだな。今回も最後まで、良い戦いができそうだ。」

 

2人が話していると、トーナメント表の発表が終わり、次のプログラムへと移行していた。

 

「さてと、対戦相手が分かったことだし、私は部屋に戻るぞ。」

 

あるふぃはサッとモニターから目を離し、部屋へ戻ろうと振り返る。

 

「あぁそうだ...」

 

思い出したかのように口を開くと、あるふぃはそのままの状態で話を続ける。

 

「油断して途中で敗退、なんて興の冷めるようなことはしないでくれよ?」

 

あるふぃの挑発的な言葉に、まリスは笑みを見せながら言葉を返す。

 

「あたしを誰だと思ってるの?あるふぃこそ、いつもみたいに慢心して隙を突かれないことね。」

 

その返事を聞き、あるふぃは楽しそうに一笑いし、再び自室へと歩みを進めた。

 

「「それじゃあ、決勝で」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――惑星ハルコタン・灰の領域

 

 

 

 

「どこまでいけるかなぁ...」

 

端末モニターに映るトーナメント表を見ながら、アリシアが呟く。

 

「お互い最終ブロックまでいければ十分じゃない?」

 

アリシアの呟きに対し、アリスが冷静に答える。

 

「そうだよね...きっと最終ブロックの相手はまリスさんになるだろうし...」

 

「こっちもこっちで相手はあるちゃんだろうから...特殊なルールとはいえ、勝てるビジョンが思い浮かばないや。」

 

アリスはお手上げといったように両手を上げる。

すると、2人の背後に小さな灰のつむじ風が巻き起こり、その中心から1人の女性が姿を見せる。

 

「かかっ。なんじゃなんじゃ、アリスもアリシアも、戦う前から空気が重いのう。」

 

「「ヒメ様!!」」

 

ヒメ様と呼ばれたその女性は、灰の神子スクナヒメその人であった。

スクナヒメはそこに漂う重い空気を壊すかのように、大層に笑う。

 

「まだ戦ってもおらぬのにそんな弱気では、勝てるやもしれぬ戦いも勝てなくなるぞ、2人とも。」

 

「そうは言われても...これまでの実力を見てると勝てる見込みが全く無くて...何か弱点があればいいんですけどね...」

 

アリシアの言葉に同調し、アリスもうんうんと頷く。

その言葉を聞いたスクナヒメは、少し悩むと、開いていた扇をパンっと畳み、笑みを見せる。

 

「ふむ...弱点を突くのは難しいが......あの2人と渡り合えるだけの力は、おぬしらの身にしかと宿っておるぞ?」

 

「「え...」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――フランカ'sカフェ

 

 

 

 

カフェの入口近くの広いテーブルで、セラフィム、蝉時雨、クオン、リランは集まって食事をしていた。

 

「今回の出場者は豪華ですね...」

 

セラフィムは端末のモニターに映る選手表を見ながら唖然とする。

自身が知る強力なアークス達が揃いも揃ってずらりと並んでいるのだから無理もない。

その様子を見て、蝉時雨が声をかける。

 

「あなたは出場しないのですか?前回最終ブロックまで勝ち残ってましたよね。」

 

「あれはあるふぃさんからお試しでと言われたので参加しただけで...そもそもボクはサポートとしての立ち回りがメインなので、1対1の勝負は苦手なんですよね。チーム戦とかあれば参加したいですけど...」

 

「チーム戦ですか...面白そうですね。今度あるふぃに提案してみますか。」

 

セラフィムと蝉時雨がそんな話をしていると、一通り食事を終えたのか、クオンが勢いよく席から立ち上がる。

 

「どうしたんですかクオン。急に立ち上がって。」

 

「特訓!!!」

 

蝉時雨の問いに対しクオンは元気に答えると、勢い良くゲートエリアへと駆けていった。

 

「いったいどこに...」

 

「おおかた、VR空間でしょうね。あそこには特訓に最適なトレーニングダミーがいますから。」

 

フォトナーとの終戦後、各艦にはそれぞれの艦に所属する守護輝士の戦闘データを元にしたトレーニングダミーが登録されている。

腕試しと称して守護輝士のトレーニングダミーに挑むアークスは多く、打ち倒した者には報酬も用意されているため、中々の盛り上がりを見せている。

 

少し遅れて、同じく食事を済ませたリランは静かに立ち上がった。

 

「私も行ってくる。」

 

そう言うとリランも、足早にゲートエリアへと向かっていった。

 

「2人とも行っちゃいましたね...」

 

「トーナメントに向けてやる気があるのは非常にいい事ですが...そのままにした食器を片付ける人の事も考えて欲しいものですね。どうやらあとで、お説教が必要なようです。」

 

「あ、いやいいですよ。ボクが片付けておくので、お気になさらず。」

 

蝉時雨の"お説教"という言葉にヒヤッとしたのか、セラフィムは慌ててその場をなんとかしようとする。

 

「あら、いいのですか?では、よろしくお願いしますね。」

 

声のトーンが優しくなったのを感じ、セラフィムはホッと心を落ち着かせた。

 

「蝉さんは特訓とかしないんですか?」

 

クオンとリランが頼んだ食器をまとめながら、セラフィムは蝉時雨に問いかける。

 

「あるふぃ達の戦いは日々この目で見て大体理解しているので、そこまで問題はありません。ただ一つ懸念があるとすれば―」

 

蝉時雨は残った少量の紅茶を飲み干してから言葉を続ける。

 

「ナウシズにはユウのトレーニングダミーはありません。」

 

「じゃあユウさんが対戦相手になったら...」

 

「あるふぃやまリス風に言うなら、"ぶっつけ本番"ということですね。私に出来ることは、当日いつでも全力を出せるよう、しっかりとコンディションを整えておくことぐらいです。」

 

"ぶっつけ本番"

何事も用意周到に事に取り掛かる普段の蝉時雨からは、聞くことの無い言葉だった。

 

「では、すみませんが、2人の分の食器はよろしくお願いしますね。」

 

「任せてください。トーナメント、頑張ってくださいね。」

 

蝉時雨は優しい笑みを見せ、"ありがとう"と一言礼を言うと、自分の分の食器をキッチンに返し、その場をあとにした。

 

(皆すごいなぁ...ボクなんか予選ブロックを勝ち抜くので必死だったのに、皆は既に最終ブロックの対戦相手のことを考えてる。)

 

セラフィムは空の食器をまとめながら、一緒に食事をしていた3人を思い返す。

 

(もしかしたら本当にチーム戦もあるかもしれないし、それ以外でもサポート役としてしっかり立ち回れるよう、ボクも特訓しておかないと...!)

 

 

 

 

近づく闘争に静かに心を躍らせる者。

来る試合に向けて英気を養う者。

目標を見据え対策を練る者。

ぶつかるであろう強敵に向け、己の力を高める者。

周りに感化され、より強くなろうと決意する者。

様々な熱意が飛び交う中、最強を決める戦いは、まもなく始まろうとしていた。

 

 




【あるふぃ】
ナウシズの守護輝士であり、A.B.Tの提案者。
ラスタークラス提唱者ではあるが、A.B.Tにおける規則に伴い、ファントムクラスでの出場となる。

【まリス】
ナウシズの守護輝士。
ヒーロークラスの使い手。
一般のアークスからは"黒き死神"と呼ばれるあるふぃとは対照的に、"白き戦姫"と呼ばれている。

【アリシア】
ハルコタンの白の巫女でエトワールクラスの使い手。
アリスと共にハルコタンとその神子、スクナヒメを守護する。
その身に宿すは【氷桜の魔眼】と呼ばれる護りの力。

【アリス】
ハルコタンの黒の巫女でブレイバークラスの使い手。
アリシアと共にハルコタンとその神子、スクナヒメを守護する。
その身に宿すは【薪炎の魔眼】と呼ばれる攻めの力。

【セラフィム】
テクタークラスの免許皆伝者。
複合テクニックを熟知し、支援のみならず火力に置いても並のアークスを越える実力を持つ。

【蝉時雨】
まリスの近縁であり、彼女をアークスとして育て上げた第一人者。
まリスと同じくヒーロークラスの使い手。
自身にかけているリミッターを解除した彼女の力は計り知れない。

【クオン】
リランと共に"ナウシズの双星"と呼ばれるエトワールクラスの使い手。
普段は見た目に等しく元気な子どものような振る舞いを見せるが、戦闘の際は普段の振る舞いに反し、凄まじい冷静さと圧倒的な威圧感を発する。

【リラン】
クオンと共に"ナウシズの双星"と呼ばれるエトワールクラスの使い手。
まリスに憧れヒーロークラスの習得を目指すが、適性が足りず断念。
だが憧れは捨てきれず、ヒーロークラス特訓時に扱っていたソードをエトワールのダブルセイバーとして機能するようジグに調整してもらった。

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