ピッ
「おお、動いた。こいつは上が開くんだな」
最新の家電というものに詳しくは無いが、知ったような口調で独り言を放つ。
一人だけの空間であれば誰も攻めまい。
「えっと、あった。説明書」
付属していた説明書をパラパラと読む。
この空気清浄機は防臭機能も付いているようで、ただ空気を綺麗にするだけのものでは無いようだ。
最新の機会というものは中々に侮れない。
試しに起動してみて数時間経った今でもはっきりと効果が分からない。
耳を近づけると稼働している音は聞こえるため、動いていないということは無いようだ。
すぐに効果が見て取れるようなものではないだろう。
そう思い今日はそっとしておくことにした。
「おはようございます」
静かな事務所でタイムカードを切る。
「あれ、まだ誰もいない……」
この時間であれば社長やはづきさんは出社しているものだと思うが。
「予定を確認しよう」
「おはようございます。あれ……?プロデューサーさん、一人ですか?」
「おぉ、霧子か。おはよう。あれ、今日は学校じゃないのか?」
「……?」
「ん?――あっ、今日は祝日なのか!」
「ふふっ、はい。」
「えーと、アンティーカの予定は午後のレッスンだけだったと思うけど、どうしたんだ?」
「はい……。お水を……あげに来ました。サボテンさんも……おはようございます」
霧子の水やりが眺め、ひと通り水やりが終わったところで再び霧子から話しかけられた。
「えっと、プロデューサーさん……今日は……一人、ですか?」
「そうそう。そうだ。話を遮ってしまってすまない。
はづきさんが銀行と郵便局、午後から別の予定があるから今日は直帰だそうだ。
社長は……、特に何も書いてはいないが、おそらく外部との会議だったはずだ。」
「そうなんですね……。静か……です」
「いつもだったらこの時間はみんな来ているはずなんだがな。今日は霧子が一番乗りだ」
「ふふ……一番……♪」
カチカチと秒針の乾いた音が響く中、自分のキーボードを打つ音だけが聞こえる。
霧子は少しだけ病院の手伝いを任されていたようで、一度病院へ戻ってからレッスンへ向かうらしい。
作業を続けていると昼休憩のリマインダーが表示された。
あれからもうずいぶんと時間が経ってしまったらしい。
「……そろそろ休むか」
事務所の外に出るといつもよりも人が多い。
祝日というものはどうにもにぎやかで心が躍る。
嬉々とした喧騒の中、近くのコンビニへと足を運んだ。
やはり祝日ということもあってか、人の多さはコンビニも例外ではないようだ。
「うーん。売り切れてる……」
いつもよく買っているサンドウィッチが売り切れている。
早い時間に来ればだいたいほしい物が揃っているが、今日は一分の隙もなかったようだ。
幸いにもおにぎりはたくさんの種類が陳列されていたため、好きなものを買うことができた。
午後のレッスンも近づいてきたため事務所を空けるわけにはいかない。そう思い足早に事務所へと戻った。
アンティーカのレッスンが終わり、メンバーの皆が帰ったことにより、再び事務所へ静けさが訪れた。
落ち着きを取り戻したところで昨日の出来事を思い出す。
「そういえば甘奈がチェインで……おっ、これか」
甘奈が言うにはスマートフォンのアプリで室内の空気状況を把握することのできるものがあるらしい。
インストールしたアプリの画面を見てみると空気清浄機のイラストの周りにいくつかの数値が記述されてある。
どうやらこれが空気の状況を表す数値らしい。
アプリの設定がまだできていないため、数値の箇所には何も記載されていない。
「ん?あ~、違う違う」
どうやら違う部分をタップしてしまったようで、商品の電子説明書が開いてしまった。
「え~と、これがそうか?」
おそらく正しくできたのであろう、数値が表示された。
「409?良く分からないけど綺麗なのかな」
ぶつぶつとつぶやきながらも明日提出予定の資料がまだ手付かずだったことを思い出し、早急に取り掛かった。
資料がようやく完成したのは日も変わるような時間だった。
戸締りを急ぐため、ふらふらとした足取りながらも事務所内の戸をチェックして回った。
すべての確認が終わり、積み残しが無いことを確認したのち、帰路へついた。