縁がもたらす壱の結末   作:ベーシックハッピー

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一応現状までのサブタイトルには二つの意味を込めてます。
今後もそう出来るか不安ですが、可能な限り頑張りたいと思います。

それとアンケートを行いますのでもし良ければ回答してくださると助かります。


死神

「思ったよりもできるようだ。これが今の柱か。面白い」

 

 押し寄せる殺意に満ちた攻撃を相手に孤軍奮闘する義勇を眺め、無惨はどこか意外そうに呟く。さすがに無傷ではないものの、それでも深手を負う事無く剣を振り続ける義勇の姿は無惨からすれば十分関心を惹くに足りていたのだ。

 

 元々守勢に強い水の呼吸。それを修め、新たな型まで編み出した義勇は無惨の想定を大きく上回る実力を持っていた。これに無惨は気を良くした。そもそも彼が鬼を生み出す理由は太陽を克服するためである。それ故に、彼にとっては有象無象である市井の人々を鬼にするよりも鬼殺隊の柱などの強者を鬼にする方がその目的を達成し易いのではと考えた。

 

 だからだろうか。義勇を攻め立てる攻勢が若干ではあるが勢いを弱めた。それまでが必殺の攻勢だとすれば、嬲り殺しの攻勢へ変化した程度の些細な変化ではあるが。

 

「……どうした? 疲れたとでも言うのか?」

 

 その変化を感じ取って義勇は無惨の動向を訝しんだ。とはいえ表情や声にそれが乗る事はない。

 その身を守る隊服は所々破れているものの、その振るう剣閃は鋭く、まだ自分は疲れていないし戦えると示すかのように今も無惨からの攻撃を無慈悲に薙ぎ払っている。

 

 それさえも無惨にとっては児戯に等しい反撃ではある。けれど無惨にも分かっているのだ。義勇がその気になれば自分の頸へと迫る事が出来るのだろうと。だがそれは義勇の死を意味する。だからこそ無惨は義勇へある誘いを持ちかける事に決めた。

 

「正直予想以上だ。故にただ殺すのは些か惜しいと思ってな。どうだ、鬼になる気はないか?」

 

 断ると、そう普段の義勇ならば返していただろう。それも間を置く事もせず即答でだ。けれど今の彼は時間を稼げるのならば稼いでおきたいと考えている。だからこの申し出もそれの一助になればと聞く耳を持った。

 

「柱である俺を……鬼に?」

「そうだ」

 

 義勇が話に興味を示したと見た無惨がその攻撃を停止する。それに応じるように義勇もまたその手を止める。ただし警戒するように日輪刀は鞘へ納めずに。

 

「俺はそちらの頸を狙っている存在だ」

「だがお前は私には勝てぬと己が力量を正しく分かっている。実際今も私へ殺気を見せる事もなく、ただ生き残ろうと必死だった。その柱らしからぬ振る舞いは光るものを感じる」

 

 時間稼ぎのために義勇が無惨と会話した事や生存優先の行動がここにきて思わぬ効果を見せていた。

 今まで無惨が知る鬼狩りの者達はほとんど例外なく己や上弦の鬼へ挑み、その無謀の結果死ぬという結末を繰り返す者達ばかりだった。

 

 そんな中で義勇は己が無惨には勝てないと判断した上、せめて死ぬ前に色々と知りたいという欲を見せた。更には日輪刀を抜いた後も殺気を見せず生き残ろうと足掻いた。それらが何よりも生き延びる事を目指す無惨には好印象だったのだ。

 

 さてこれに戸惑ったのが義勇である。何故自分がここまで無惨に気に入られたのか分からないためだ。

 

(妙に評価されているな。だが好都合だ。剣だけで日の出まで時間を稼ぐのは厳しいと先程の事で分かった。ここは鬼になるのを検討する振りをして再び情報と時間を得るべきか……)

 

 危機的状況は時に人の成長を促す。今まさに義勇はそれを迎えていた。背に守りたい者達を置き、正面にどうやっても勝てない相手を置く事で。

 

 水柱、冨岡義勇。その思考の変化と成長が始まっていた。

 

「……ならば尋ねたい事が出来た」

「質問など必要なかろう。鬼は人よりも強い。ならば何を迷う事がある」

 

 微かに無惨の声へ不満の色が滲む。並の者ならそれだけで萎縮してしまうだろう雰囲気が流れるも義勇は動ずる事なく無表情のまま口を開いた。

 

「普通ならそうだろうが俺は柱となった。それも人の身で下弦の鬼を倒してその地位を与えられた」

「……続けろ」

「そんな俺が鬼になったとしても、その下弦の鬼よりも下に扱われるのだろうか?」

「ふむ、成程な」

 

 もっともだと、そう無惨は思った。柱就任への道は、ある前提条件を満たした上で二つある条件のどちらかを満たせば達成となる。その内の一つが十二鬼月を一人で倒すというものだ。義勇はそれを満たして柱となっている。ちなみに残りが鬼を五十体討伐する事であるが、もし義勇の満たしたのがこちらであればこの仮定は成り立たなかった。

 

 それに下弦の鬼は無惨から見てもあまり成果を出していない者が多い。それに対して、柱であり無惨の予想以上にその攻撃を凌いでみせた義勇。どちらが期待できるかは言うまでもない。

 

「……ならば貴様には鬼となってすぐ入れ替わりの血戦をさせてやろう」

「入れ替わりの決戦?」

「そうだ。下弦の誰でもいい。好きな相手を指名し貴様が勝てば相手の位を奪える」

「つまり、仮に俺が下弦の壱へ挑んだとして、それに見事勝てば俺が下弦の壱になるのか」

「そういう事だな。本来なら有り得んが、貴様の言うように既に下弦を倒した以上その権利を認めてやろう」

 

 義勇が鬼になると思ったのか無惨の機嫌は良好の一途を辿っていた。呼び方がお前から貴様に変わったのもそれである。貴い、という文字を使う呼び方を平安時代生まれの無惨がするというのはそういう事だ。

 そう、今の無惨にとって義勇の鬼化は上弦の壱以来の有能な剣士鬼の誕生となるため喜んでいたのだ。

 

 例え義勇が鬼になると明言していないとしても……。

 

(入れ替わりの決戦。これは十二鬼月に関する情報だ。ならばもう少し話を伸ばせるかもしれない)

 

 だがここで終わらないのが今の義勇である。自分の返答を待っている無惨を見て、義勇はよしとばかりに小さく頷く。まだ時間を稼げるかもしれないと思ったのだ。

 

「それは下弦にしか申し込めないのだろうか?」

「何?」

「いや、どうせ簡単には死なぬ鬼になるなら上弦へ挑んでみるのもいいかと思った」

「よくもまぁ抜け抜けと……だがその貪欲さは嫌いではない。貴様は猗窩座と似ているかもしれん」

「あかざ?」

「上弦の参だ。奴も貴様と同じく強さを求める性格でな」

 

 思わぬ情報に義勇は軽い驚きを浮かべた。無惨の口が軽くなっていると気付いたのである。これならばもっと情報を得られるか。そう思った義勇だったがそこまで無惨は愚かではなかった。

 

「それでどうするのだ。下弦へ挑むか上弦へ挑むか決まったか?」

 

 それはこれ以上の問答はしないという宣言に等しいと義勇は感じ取った。実際間違ってはいない。無惨からすればこれ以上ない程の譲歩をしたのだ。後は義勇の選択を聞くだけと、そう考えていたのである。

 

 それが、自分の求めるものとは違うと知らずに。

 

「そうだな。決まった」

「そうか」

「ああ、俺はやはり欲張る事にする」

「ほう……」

 

 義勇が構えを解いたのを見た無惨は、戦意を無くしたと言うようなそれに笑みを浮かべる。だがそれは決して無惨の思っているような意図ではない。

 

 その証拠に義勇の表情はそれまでにない程に凛々しさを増していたのだから。

 

「俺は……っ!」

 

 一瞬。一瞬にして義勇の手にしていた日輪刀が無惨の頸へと迫る。それまでと違い完全な殺意を込めた一撃。それはそのまま無惨の頸を斬り落とすかに思えた。

 

「……これが答えか?」

 

 しかしそれは首筋へ届く寸前で肉の壁が現れて動きを止められていた。それでも義勇は凛々しさをそのままに無惨へ告げる。

 

「そうだっ! 俺は、人の身のままで全ての鬼を滅ぼすっ!」

「この私を愚弄するとは……所詮は虫けらかぁっ!」

 

 死ねと言い放つような表情で義勇へと再び必殺の攻勢をかける無惨。義勇へ迫る殺意に満ちた攻撃。それらを斬り払いながら無惨から義勇は距離を取る。だがそれさえも読んでいたとばかりに無惨の攻勢が押し寄せる。怒りを込めたそれは最初のものよりも数段圧力が増しているように義勇は感じた。

 

 柱と呼ばれるだけの実力を持つ義勇でさえ死を覚悟するしかない圧迫感。並の隊士であれば瞬きさえ出来ぬ間に押し潰されるだろうそれに義勇は懸命に抗う。

 幾多もの技を駆使して迫りくる死を払い続ける義勇だったが、その抵抗を嘲笑うように無惨の攻勢は弱まる事なく続く。

 

「ぐっ!」

 

 掠る程度でさえ強い脱力感を受ける攻撃。致命傷を避ける事は出来ているものの、それも永遠ではないと義勇は悟っていた。どれだけ鍛えて、どれだけ呼吸法を極めたとしても、時間経過による疲弊や疲労とは無縁になれないのが生物である。

 

 鬼も疲れを完全になくせないのは同じだが、人に比べればその感じ方や疲弊速度などは遅い。そうなれば持久戦に不利なのはどちらかは火を見るより明らかだ。

 

(このままでは……っ)

 

 義勇は柱として屈指の実力者だ。けれど持久戦の相手が鬼の始祖たる鬼舞辻無惨ではその敗北は約束されている。しかも怒りに身を委ねている今の無惨が繰り出す攻撃は最初のものより圧迫感や殺気が段違いだった。当然疲弊速度も加速する事になり、いかな義勇と言えど時間稼ぎさえ不可能と思わざるを得ない状態になりつつあったのだ。

 

「私を愚弄した事を存分に悔やみながら惨たらしく死ぬがいいっ! 決して楽には殺さんっ!」

「っ?!」

 

 義勇の動きが鈍くなってきたのを見逃さず、それまで包囲攻撃をしかけていた無惨は一気呵成に集中攻撃へと変えた。それに対応し切れず、義勇は遂にその手から日輪刀を弾き飛ばされてしまう。

 もう自らを守る道具を失った義勇へ勢いを失う事なく迫る無慈悲な死。それを前にしても義勇は目を逸らす事さえしなかった。

 

(例え僅かでも時間を稼ぐっ!)

 

 悪足掻きと、そう言われても構わぬとばかりに義勇がその場から大きく後方へと跳んだ。そんな懸命な行動を見て無惨は鼻で笑うように呟く。

 

「愚かな……」

 

 身動きの出来ない空中へ全ての触手が殺到する。もう逃げ場を失った義勇へ過剰とも言える程の攻撃だった。何故ならそれを目の当たりにして義勇は遂に観念するように俯いたのだ。

 

(ここまでか……)

 

 死を受け入れようとした義勇の頸へ死神の鎌が迫ったその瞬間だった。

 

ヒノカミ神楽 円舞

 

 刹那の、出来事だった。その僅かな間に義勇へ迫っていた触手が全て断ち切られたのである。そう、義勇も無惨さえも何が起きたのか理解出来ぬ間に状況が一変した。

 

 そしてそれは一撃では終わらない。

 

ヒノカミ神楽 火車

「っ?!」

 

 まるで紅焔を纏ったように見えた一撃が無惨の頸を薙ぐ。咄嗟に無惨がその両腕で頸を支えたために斬り落とす事は出来なかったものの、その斬撃が与えた負傷はその意識を乱す事に成功する。

 それらをやってのけた存在を見て義勇は目を疑った。何故ならそれは何の変哲もない手斧を持つ炭十郎だったのだから。

 

「……やはりこれでは死なない、か」

「炭、十郎殿……」

「まさかまだ鬼狩りがいるとは思わなかった。だが所詮……」

 

 呆然としている義勇とは違い無惨は既に意識を切り換え炭十郎へと向けていた。だがしかし、その口が突然止まる。頸を胴体と繋ぎ、背後の炭十郎へと振り向いた途端にだ。

 

「似ている……? いやそんなはずはない」

(似ている、だと? 誰かと炭十郎殿を重ねているのか……?)

 

 悠然とその場に立つ炭十郎を見て無惨が無意識にそう呟くのを義勇は聞き逃さなかった。それが炭十郎の格好が鬼殺隊らしくない事から来るものではないとも理解し彼を困惑させる。

 義勇と無惨がそれぞれに何か引っかかるものを炭十郎へ覚えている中、その当の本人は手斧を持ったままゆらりと動き出した。

 

 それは、まるで幽鬼が音もなく迫りくるかのような動き。気配というものを感じさせないような、無駄のない移動だ。

 

「無駄だ! 先程と同じようにいくと思うなっ!」

 

 義勇さえも疲弊させた包囲攻撃が炭十郎へと迫る。頸を斬られた事による怒りが無惨に最初から全力を出させたのだ。そのあまりの事に義勇が叫ぶ間も無く炭十郎の姿が見えなくなる。

 

(駄目だっ! もう助からないっ!)

 

 助けに行きたくとも既にその手に日輪刀がない上傷まで負った義勇では出来る事はない。己の無力さと炭十郎を見殺しにしてしまったという悔しさが義勇にこみ上がり、無惨は自身を傷付けた存在を抹殺出来たと笑みを浮かべた。

 

ヒノカミ神楽 烈日紅鏡

 

 けれど、炭十郎はその両者の思惑を易々と切り裂く。押し寄せたはずの触手を薙ぎ払うように現れたかと思うと、再び無惨の頸と同時に両手までも斬ってみせたのだ。

 

「ばっ、馬鹿なっ!?」

 

 炭十郎の攻勢は終わらない。頸を斬られた事で瞬時に両手を再生出来ないため、頸を支えられない無惨の攻勢が一気に勢いを無くしたのを察知した炭十郎はその手斧を動かした。

 

ヒノカミ神楽 炎舞

「がはっ!」

 

 それは無惨の体を上下に斬り裂くような攻撃。一撃目で袈裟切り気味に、二撃目で逆袈裟気味に無惨の体を切断してみせたのだ。これに驚いたのは無惨である。

 

(ど、どういう事だっ!? この男っ、確実に私の心臓を狙っているだとっ!?)

(また無惨の頸を落とした……。それに先程から炭十郎殿が使っているのは呼吸法だ。信じられないが俺よりも炭十郎殿の方が強いと、そういう事のようだな)

 

 そして対照的に落ち着きを見せたのが義勇である。彼はあまりの事に取り乱すのではなく冷静になろうとした。故に決断出来たのだ。ある意味で柱らしからぬ事を。

 

「……まだ無理か」

「炭十郎殿っ! 俺の剣をっ! 日輪刀をっ! それなら鬼を、無惨を倒せるっ!」

 

 ただの手斧では鬼である無惨へ痛手を負わす事は出来ない。それにも関わらず炭十郎は無惨を恐怖させつつあった。この機を逃してはならない。そう判断した義勇による叫びの助言は、この場においては無惨への地獄の招待状となる。

 

 炭十郎の動きを阻止したくても心臓を二つ潰された事による疲弊と体の再生に力を使っているため、その攻撃は当初の鋭さを失っていた。そうなれば炭十郎に当たるはずもなく、雪の大地に突き刺さっていた日輪刀が彼の手に渡る事を防げるはずもない。

 

「これが、日輪刀……」

「っ?!」

 

 手斧をその場に置き、日輪刀を手にして振り返る炭十郎を見た瞬間、無惨は反射的に息を呑んだ。

 

(不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味いっ! 何か分からないがとにかく不味いっ!!)

 

 どこまでも感情を見せず、悠然と振る舞い、一度動けば確実に自身の頸や心臓を狙う剣士。それが無惨の記憶の奥底に封じた光景を否応なく引き上げようとしていた。

 明らかに動揺を見せる無惨へ、炭十郎はまるで自分が元々使っていたかのように自然と日輪刀を構える。

 

「これなら……っ」

「「なっ?!」」

 

 炭十郎が日輪刀を構えた次の瞬間、その刀身が真っ赤に変化したのだ。それを初めて見る義勇は当然驚愕し、それを見た事のある無惨は別の意味で驚愕した。

 

(どういう事だっ!? 何故日輪刀の色が変わるっ!? 既に色変わりした物の色が変わるなど聞いた事がないっ!)

(馬鹿なっ! 有り得んっ! 鬼狩りでもない者があれを使えるなどっ!)

「そうか……この時のために私は……」

 

 言葉を失う二人を余所に、炭十郎は一人日輪刀を構えたままぽつりと呟く。

 

 ──今日まで生き長らえたんだ、と……。




うん、やっぱりこうなると主人公が炭十郎になっちゃいますね。
大団円大好きな自分としては(あっさりそう出来るよう)短く終わりにしたいところですが、一応長編にする場合の簡単な流れも考えています。

まぁ皆様のご意見を参考にしたいのでお気軽にアンケートへお答えください。

今作は次回か次々回で終わった方がいいか

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