悪魔とモルモットの等価性について   作:ウィルデンシュタイン

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4.result:My theorem

「2時間後、トレーナー室で」

それ以上、モルモットは何も語らなかった。

ひどい顔色だと見えたのだろう。お互い様だ。

 

ともあれ脚も痛めば眼も霞む。

……一度寮に帰り、仮眠をとろう。

やっとそう結論した矢先だった。

 

「よう。付き合えよ」

三女神像の広場。

エアシャカール。月の見えない曇天の下、数字の狂信者がそこにいた。

 

 

「やれやれ、何に付き合えというんだいシャカールくん。

まさか私の今回の走りから有意なデータでも取れたのかい?」

「わかってンなら事実だけ話すぞ」

 

ピアスの彼女は続ける。

「最初はスカーレットだ。“なにか……いやな予感がするんです”ッてな」

「ありがたいことだねぇ。心配されるというのは」

 

「次にデジタル。黙って体調を崩した」

「ふむ、ウマ娘の観察が上手くいかなかったのかな?

いい薬を処方してあげようじゃないか」

 

「最後にマンハッタンカフェ。

──“タキオンさん、最近こっちを見ないんです”だとよ」

「忙しかったからねぇ」

 

わかンねぇかな、と溜息。

「ここまで異常視されてンのに、気付きもしねぇヤツだったか、オマエは」

「シャカール君も同じ結論に至ったと?」

 

そこまで逸りゃしねぇがよ、と前置いて。

 

「ソレ聞いてデータを引っ搔き集めた。

トレーニング、レース、手前の食事と寝起きのタイミングまで。

──何と一致したと思う?」

「明日を生きる賢明なウマ娘?」

 

即座に距離が詰まり肩がホールドされる。

「引退直前のロートルだ馬鹿野郎!!

いいか!?

手前が身体になンかしら問題抱えてるッて事実、気付く奴は気付きはじめてんだよ!!」

 

 

ふぅン。

「だから?」

「だからここ数戦、オマエのレースを分析した。問題はなかッたよ。

──今回の菊花賞、“あきらかにペース配分が違う”レース以外はな」

 

なんだそんなことか、と溜息。

彼女の頬に手をやる。

「君は優しいねぇ。

勝つ気で条件を整え、ただ負けた私に“みんな心配しているよ”とは」

言うと、距離を戻された。

 

「浅くなったな」

「……自分が深みに居るような物言いだねぇ?」

ちげェよ、と頭を掻いて吐き捨てられる。

「菊花賞は“最も強いウマ娘”が勝つってのが定説だが──糞喰らえだ

勝者に強者ってラベルが着くだけだ。あらゆる状況、全ウマ娘と環境の相互作用で勝敗が決まる」

 

「当然だろう」

「メンタルだのスピリットだのを突っ込んだ、カオス系の理論はオマエの専売じゃなかったか?

それともアレか。脚折れてもいいって気概で行けば、確実に勝てるとでも思ってたか?」

そンなら、と一息。

「欠けのない“努力する天才”や……故障からも這い上がる“本物”には勝てねェぞ」

 

「……何が言いたい?」

数値を、現実を識る者はこちらを睨んだ。

 

「ありふれてんだよ。

脚に爆弾を抱えた天才。だからこそ、少々違う手段に手を伸ばした」

一息、

「“それだけ”ならな。

オマエが違ェのは……その目標値が“ウマ娘の範疇”からすら出てること

つまり──とんでもねぇバカだってことじゃなかったのか?」

 

「しかし今回は違った。だから勝てなかったと?」

「あくまでレースを“実験として”勝負を無視すンなら、

オマエの“実験結果”の下に並ぶ最低フタケタのウマ娘とそのトレーナー。

オマエが抜き捨てていく“ウマ娘”って概念を無視すンなってことだよ」

 

その眼は、らしくなく伏せられていた。

「その中には、キミたちも居るのかい、エアシャカール君」

 

「昨日の話し合いの結果が“マンハッタンカフェなら今のオマエに普通に勝てる。止められる”だ。

……高々10年のウマ娘のキャリア、棒に振るつもりならエビデンス揃えて来い」

「死ぬでもあるまいに。研究は脚がなくとも続くよ?」

 

聞いて、ぎゅるりと彼女の瞳孔が縮まる。

「ウマ娘の現状限界速度、70km/h。

限界を超えた景色は白でも黒でもねェ……きっと、真っ赤だぞ」

「それを望んでる」

 

そうかい、と一枚のコピー紙を押しつけ、彼女は背を向けた。

「マジでそれが望まれてンのか、読んで考えろ」

 

内容は、

「発光物質によるタンパク質の標識。3年前の日付、名義は……モルモット君」

しかし、

「4年前に、私はこの理論を学会に投稿しているぞ……?」

 


 

The Dirty Jobs

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