悪魔とモルモットの等価性について   作:ウィルデンシュタイン

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7.acknowledgments:My Demon

光と闇がある。

人工の光源だけが照らす部屋。

 

本来なら、有マ記念の勝者を祝うための空間。

そこにはたしかに勝者が居た。

そこにはたしかに無数の人間と、ウマ娘とが集っていた。

 

ただし、彼らの瞳は、

一種の狂気に、侵されていた。

 

◆

 

彼らの視線は、ひとつの虚に集中していた。

車椅子に座す、栗毛のウマ娘、その瞳だ。

 

輝きもしない男に把持された車椅子を玉座として、彼女は語り始める。

 

プレゼンテーション、その終わりだ。

 

ひとりの勇気ある記者が問う。

 

「アグネスタキオンさん。

あなたの……走りに対する姿勢は、確かにウマ娘の限界を超えるものでした」

 

しかし、

 

「その結果、あなたは半身不随となりました。

……すべてのウマ娘が、あなたに注目しています。

“自分になら、出来るのではないか”、と」

 

問う。

ただ問う。ウマ娘の戦場を、世界を壊した女へ向けて。

 

「どうお考えですか?

あなたの姿勢により、失われるかもしれないウマ娘の可能性について」

 

「お言葉を、頂けませんか」

 

だから返した。

 

◆

 

「すべてのウマ娘と、トレーナーと、そのどちらでもない者に告ぐ」

 

「ざまあみろ」

 

「この様を見ろ」

 

「私は誰より走ったが、私はもはや走れない」

 

「私より遅いウマ娘はおらず、

私より速いウマ娘もまたいない」

 

「この様を見ろ」

 

「これがウマ娘の可能性だ」

 

「ウマ娘は自らの全力に耐えられない。それが結論だ」

 

「今の、そして私の。

──だから聞いてくれ」

 

「いずれウマ娘の“全力”に耐えるウマ娘が生まれるだろう。

いずれ私より“速い”ウマ娘が生まれるだろう」

 

「すべての夢折れたトレーナーとウマ娘よ、私を視ろ

私がまた立ち上がったなら、そこに夢を視るがいい」

 

「そして、ウマ娘に焦がれる者たちよ。──ありがとう。

私が、私の脳が最先端だ。君たちを礎に私はここに居て、いずれ君たちに追い抜かれていく」

 

「だから、だから競争だ。“今のウマ娘の限界”として」

 

「“人類とウマ娘の可能性”に、果てはないのだから!!」

 

◆

 

誰もが押し黙っていた。

 

ただひとり、声をあげる者のほかには。

 

最後の問い、彼女の宣誓を引き出した記者だ。

 

「ありがとうございます。アグネスタキオンさん。

……最後に、個人的興味から質問をさせてください。

有マ記念。限界を超えた景色は、何でしたか?」

 

そうだねぇ、と車椅子の白衣は頭上の男に眼をやって。

 

「赤い泥色。砂糖の入りすぎた紅茶の色。ターフに播かれた血の色」

 

そして、

 

「モルモットと、“タキオンの悪魔”の眼の色さ」

 

そっと、自分の悪魔に微笑んだ。

 


 

My Demons

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