悪魔とモルモットの等価性について   作:ウィルデンシュタイン

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7.acknowledgments:My Demon

光と闇がある。

人工の光源だけが照らす部屋。

 

本来なら、有マ記念の勝者を祝うための空間。

そこにはたしかに勝者が居た。

そこにはたしかに無数の人間と、ウマ娘とが集っていた。

 

ただし、彼らの瞳は、

一種の狂気に、侵されていた。

 

 

彼らの視線は、ひとつの虚に集中していた。

車椅子に座す、栗毛のウマ娘、その瞳だ。

 

輝きもしない男に把持された車椅子を玉座として、彼女は語り始める。

 

プレゼンテーション、その終わりだ。

 

ひとりの勇気ある記者が問う。

 

「アグネスタキオンさん。

あなたの……走りに対する姿勢は、確かにウマ娘の限界を超えるものでした」

 

しかし、

 

「その結果、あなたは半身不随となりました。

……すべてのウマ娘が、あなたに注目しています。

“自分になら、出来るのではないか”、と」

 

問う。

ただ問う。ウマ娘の戦場を、世界を壊した女へ向けて。

 

「どうお考えですか?

あなたの姿勢により、失われるかもしれないウマ娘の可能性について」

 

「お言葉を、頂けませんか」

 

だから返した。

 

 

「すべてのウマ娘と、トレーナーと、そのどちらでもない者に告ぐ」

 

「ざまあみろ」

 

「この様を見ろ」

 

「私は誰より走ったが、私はもはや走れない」

 

「私より遅いウマ娘はおらず、

私より速いウマ娘もまたいない」

 

「この様を見ろ」

 

「これがウマ娘の可能性だ」

 

「ウマ娘は自らの全力に耐えられない。それが結論だ」

 

「今の、そして私の。

──だから聞いてくれ」

 

「いずれウマ娘の“全力”に耐えるウマ娘が生まれるだろう。

いずれ私より“速い”ウマ娘が生まれるだろう」

 

「すべての夢折れたトレーナーとウマ娘よ、私を視ろ

私がまた立ち上がったなら、そこに夢を視るがいい」

 

「そして、ウマ娘に焦がれる者たちよ。──ありがとう。

私が、私の脳が最先端だ。君たちを礎に私はここに居て、いずれ君たちに追い抜かれていく」

 

「だから、だから競争だ。“今のウマ娘の限界”として」

 

「“人類とウマ娘の可能性”に、果てはないのだから!!」

 

 

誰もが押し黙っていた。

 

ただひとり、声をあげる者のほかには。

 

最後の問い、彼女の宣誓を引き出した記者だ。

 

「ありがとうございます。アグネスタキオンさん。

……最後に、個人的興味から質問をさせてください。

有マ記念。限界を超えた景色は、何でしたか?」

 

そうだねぇ、と車椅子の白衣は頭上の男に眼をやって。

 

「赤い泥色。砂糖の入りすぎた紅茶の色。ターフに播かれた血の色」

 

そして、

 

「モルモットと、“タキオンの悪魔”の眼の色さ」

 

そっと、自分の悪魔に微笑んだ。

 


 

My Demons

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