光と闇がある。
人工の光源だけが照らす部屋。
本来なら、有マ記念の勝者を祝うための空間。
そこにはたしかに勝者が居た。
そこにはたしかに無数の人間と、ウマ娘とが集っていた。
ただし、彼らの瞳は、
一種の狂気に、侵されていた。
◆
彼らの視線は、ひとつの虚に集中していた。
車椅子に座す、栗毛のウマ娘、その瞳だ。
輝きもしない男に把持された車椅子を玉座として、彼女は語り始める。
プレゼンテーション、その終わりだ。
ひとりの勇気ある記者が問う。
「アグネスタキオンさん。
あなたの……走りに対する姿勢は、確かにウマ娘の限界を超えるものでした」
しかし、
「その結果、あなたは半身不随となりました。
……すべてのウマ娘が、あなたに注目しています。
“自分になら、出来るのではないか”、と」
問う。
ただ問う。ウマ娘の戦場を、世界を壊した女へ向けて。
「どうお考えですか?
あなたの姿勢により、失われるかもしれないウマ娘の可能性について」
「お言葉を、頂けませんか」
だから返した。
◆
「すべてのウマ娘と、トレーナーと、そのどちらでもない者に告ぐ」
「ざまあみろ」
「この様を見ろ」
「私は誰より走ったが、私はもはや走れない」
「私より遅いウマ娘はおらず、
私より速いウマ娘もまたいない」
「この様を見ろ」
「これがウマ娘の可能性だ」
「ウマ娘は自らの全力に耐えられない。それが結論だ」
「今の、そして私の。
──だから聞いてくれ」
「いずれウマ娘の“全力”に耐えるウマ娘が生まれるだろう。
いずれ私より“速い”ウマ娘が生まれるだろう」
「すべての夢折れたトレーナーとウマ娘よ、私を視ろ
私がまた立ち上がったなら、そこに夢を視るがいい」
「そして、ウマ娘に焦がれる者たちよ。──ありがとう。
私が、私の脳が最先端だ。君たちを礎に私はここに居て、いずれ君たちに追い抜かれていく」
「だから、だから競争だ。“今のウマ娘の限界”として」
「“人類とウマ娘の可能性”に、果てはないのだから!!」
◆
誰もが押し黙っていた。
ただひとり、声をあげる者のほかには。
最後の問い、彼女の宣誓を引き出した記者だ。
「ありがとうございます。アグネスタキオンさん。
……最後に、個人的興味から質問をさせてください。
有マ記念。限界を超えた景色は、何でしたか?」
そうだねぇ、と車椅子の白衣は頭上の男に眼をやって。
「赤い泥色。砂糖の入りすぎた紅茶の色。ターフに播かれた血の色」
そして、
「モルモットと、“タキオンの悪魔”の眼の色さ」
そっと、自分の悪魔に微笑んだ。
My Demons