スタンドがざわめいている・・・実際にはそれほどうるさいわけでもないが、種族柄無駄に優れた聴力はトレーナーたちの小声の会話を聞き逃してはくれなかった。中央のトレーナーだ。噂のウマ娘に聞こえてしまうことはわかっているのだろうが、それを忘れるくらいには衝撃だったのだろう。だがそれも仕方ない。
私はめちゃめちゃ目立っていた。何なら1着の子より目立っていた。遅すぎて。
トレセン学園というのは中学受験でも高等部からの編入でも、もちろんスカウトでも高いレースの実力が必要不可欠である。だというのに遅い。このレースに出ていた娘のレベルが高かっただとか、そんなことは決してない。せいぜい地元で負け知らずだったとか、神童だともてはやされたとか、その程度の、中央ではよくいる普通のウマ娘たち。
私のことも、そんな天才で凡人なウマ娘たちの一人であるとトレーナーたちは考えていたわけで・・・
「裏口か?」
「あの理事長が?」
「考えづらいが・・・」 「馬鹿な親がやったんだろ」
「かわいそうに」
疑惑、哀憫、怒り、嘲笑・・・・・負の感情に押し流されるように、足早に、その場から逃げた。
*****
教室に入ると、一瞬会話が止まり視線が集まった。
(あ~あ・・・やっぱ注目されてるよね。悪い方に)
あからあまにひそひそ話をするような娘はいなかったが、それでも目や耳がこっちを向いて注目されていると簡単にわかる程度には態度に出ていた。登校している途中でもこんな感じだったのだから覚悟はしていたが・・・
そんな空気をぶち壊して話しかけてくる芦毛が一人。
「おはようダイ」
「おはようオグリ・・・よく気にせず話しかけられるね?」
「ああ、笠松では私も目立っていたからな。見られるのは慣れている」
なるほど。オグリほど圧倒的な成績を残していれば、そりゃあ注目される事に慣れるほど注目を集めることもあるだろう。だがそっちじゃない。
「う~んそっちもだけどさ・・・噂とか聞いてないの?」
「ああ、あれは嘘だろう?あの理事長がいるし、ルドルフもいる。裏口なんてできやしないさ」
「ル、ルドルフって、ホントに仲いいんだね生徒会長と。まあ、理由は何でも信じてくれるならうれしいよ。正直今後の学園生活を思うと気が重くてね・・・」
廊下を歩いても、図書室でも、食堂でも・・・学園のどこにいても見られて聞かれて気が緩まる時がない。
正直、中身が俺でなくて普通の女の子だったなら、不登校になったりしてもおかしくないと思うほどだ。性格やメンタルの強さにもよるだろうが、「高いレベルの人が集まるところ」に「明らかにそのレベルに足りていない」自分がぽつんと一人、悪い方の注目を集めるというのは中身が成人男性の俺でも少々肩身が狭いのだから、敏感な年ごろの女の子ともなれば、周囲の人の言動がどうあれ全く何も感じないとはならないだろう。
「ふむ。大丈夫か?何かされたりはしてないか?」
「ああ、そういうのはないんだけど・・・」
そう。視線は嫌というほど浴びるが逆を言えばそれ以外には何もない。実力主義であるトレセン学園に実力以外で入ったとなれば、ちゃんと試験を通過してきた学園のウマ娘にとってはその努力をけなされたような気分だろう。だから俺は多少実害が出るかもしれないとも考えていたのだが、そんなことはなかった。
視線は不快だし、以前に比べて明らかに俺への対応が変わったように見える彼女たちだが、それは接し方に戸惑っているだけで、別に敵意や悪意をもっているわけではなさそうだと、数日間周囲の様子をうかがっていたところ気づいた。
適当なところで会話を切り上げ、自分の席に座り整理する。
現状、どうやら俺は被害者であると思われているらしい。娘の実力を過剰に高く見積もっている・・・「勘違い」した馬鹿な親が、無理にねじ込んだのだろうと。周囲の人から神童だなんだともてはやされていると、もてはやされたウマ娘はもちろん、その家族なんかも過剰に娘に期待をかけてしまったりすることはないことではないらしい。特に私のように、普通の人間の親は中央トレセンのレベルの高さを知識として知ってはいても、感覚では理解できていないことも多い。
それなら俺が俺の実力を理解せずに、わがままを言ってトレセンに入れてもらった。などのような噂もあってもおかしくないはずだが、そこについては「ウマ娘=いい子」という常識の元、原因としては考えられていなさそうである。
(私にヘイトが向かないのはよかったといえばよかった。けど・・・)
しかし、現実はどちらかといえば「俺がわがままを言った」なのだ。
自分の実力不足で、両親に対する悪評が立つのは嫌だ。
ただでさえ育児というものは大変なものであるのに、両親はそれまであまりウマ娘にかかわったことが無い人たちだった。
普通のウマ娘相手でも大変だったろうに、ウマ娘にしてはとんでもなく遅い6月生まれで、しかも体が弱く、中身は人間の男とかいうイレギュラーを何重にも重ねたような子供だった。
しょっちゅう物を壊し、体を壊し、ヒトの理性とウマ娘の本能にゆすぶられ意味もなく泣いて暴れてみたりして、転生なんて異常事態をまともに受け入れるなんて到底できず、心まで壊れてしまいかねなかった。普通の子供の何倍も手間がかかったし、控えめに言っても異常な子供だっただろう。それでも自分を愛して、育ててくれた大切な家族がそんな風に思われているのはたとえ本人たちに伝わらないにしても嫌だ。
その両親に、恩を仇で返すのか?
トレセン学園にも、普通の学校のように親が学校に訪れるイベントというのは存在する。両親が学園に来た時、謂れのない罪で肩身が狭い思いをさせるのか?
そうでなくても、このままでは退学になってしまう。学費だって目が飛び出るほど高いのだ。うちは決して貧困にあえいでいるわけではないが、それでも余裕があるかと言われればそんなことはないだろう。
これまで山ほど迷惑をかけてきて、ここでもまた親に甘えて・・・それでいいのか?
そんなわけがない。なら、やるべきことは・・・目指すべきものは決まっている。
覚悟が決まった。目標も定まった。
競走馬「ダイユウサク」には申し訳ないが、私のような凡人は、自分のためじゃないと全力で立ち向かえないようだ。
君にもらったこの体で、魂で・・・家族のために、自分のために・・・
大変お待たせいたしました。やっぱ定期的に投稿をし続けるというのは大変ですね・・・今後も期間が空いたりするかもしれませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。
感想、評価などいただけると嬉しいです。
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