魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

1 / 50
というわけで、初っぱなからスプラッター。


プレリュード『破界』

 

 

仕事の前に依頼主から連絡を受けるのはままあることだが、それでも少しばかりルーティーンを乱される行為だ。

 

 

―――ファンタズム01聞こえているか?

 

聞こえている。

 

既に用件は承っているはずなのに心配性な依頼主の部下に淡々と返す。

 

―――そうか。ならばいい。予定通り貴方たちのやり方で……。

 

 

第一高校を破滅させてくれ。

 

何度も繰り返されてきた言葉に、了解とだけ答えた少年……まだ12歳程度であろう相手は、殺意ではなく『作業』ということを念頭に置いて、目を凍らせていくのだった。

 

 

 

公開討論会が決着を迎えた時、その襲撃は始まりを告げた。

 

盛大な爆音。投げ込まれる催涙弾。拘束されるエガリテという団体のメンバー達。

 

本来ならば、そこで襲撃者たちの犯行は一度の小休止になるはずだった。

 

しかし、催涙弾と共に割れたガラス窓から何者かがやってきた。

 

その登場に催涙弾をどうにかしようとしていた服部副会長の動きが止まらざるを得ない侵入者。

 

黒ずくめの衣装。全身を締め付けるかのようなタクティカルスーツと同じように覆面をした姿に誰もが度肝を抜かれた。

 

二階部分から一階の壇上に見事な着地を見せたこともそうだが、先程聞こえた爆音からすれば侵入者=敵であることは間違いない。

 

エガリテのメンバー達を拘束していた風紀委員たちとて動きを止めてしまう。

 

どちらに対応すべきか、迷ったそのときには―――。

 

「やれ、『バーサーカー』」

 

淡々とした言葉で黒ずくめの背後、ちょうど生徒たちの多くが座っている場所の通り廊下に黒い魔力が蟠る。

 

魔力は人の形をなして顕現するも、その形貌(なりかたち)に関しては判然としたものはなく、誰もが対応に困っていたところ―――。

 

大講堂の扉が開け放たれて、何かが投げ込まれる。

 

それを受け取るは、黒い騎士……黒い魔力でようやく分かったのは、それが騎士鎧を纏った―――怪物であるという事実だった。

 

『AAA……Aarrrrrrr!!!!!!!』

 

 

咆哮。咆哮。咆哮。受け取ったものは―――。

 

大型機関銃(メガガトリング)!)

 

長銃身にして、毎秒1,000発もの弾丸を吐き出す―――およそ人の手では扱えない戦闘機用の得物が握られた。

 

それが二挺。もはやその呼び名は相応しくない二門もの大砲だ。

 

そう断じた達也は、深雪に横浜でのことと同じく銃砲火器の運動を止めてくれと願うが―――――――。

 

「ふはははへへへへ!! お前たちはもはや終わりだ!!! 破滅の使者がやってきたんだよぉおおおおおおお!!!!」

 

「なにを―――」

 

取り押さえていたエガリテメンバーが哄笑をする。その狂信者を思わせる。実際、その通りなんだろうが―――そして。

 

「FULL FIRE」

『❚❚❚❚■■■〓〓〓―――――――!』

 

咆哮に連動して盛大なまでの火器による発砲が続く。けたたましい音と共にあちこちに撒き散らされる戦闘機の装甲を打ち貫く威力の弾丸が四方八方に吐き出される。

 

「深雪!!!」

 

もはや拘束していたエガリテメンバーなどどうでもいい。深雪の危難に対応するべく動き出す。その動き出して移動する間にも誰かの手足が千切れ飛び、盛大なまでの流血がかかるも構わず怯えすくんでいる深雪の近くに寄る。

 

「お、おに、お兄様……!!」

 

もはや泣いている深雪を安堵させている余裕もなく、抱きしめて―――もはや一切の躊躇なく黒騎士に向けて怒りの限りの分解魔法を仕掛けた瞬間。

 

その仕掛けた分解魔法が弾かれた。いや、弾かれたという表現は正しくない―――まるで、そんなものは存在しないかのように霧散したのだ。

 

「き、効かないんです! あの黒騎士には魔法は通じないんです!! エイドスの密度とかそういう原理原則が一切―――私達とは違う存在なのです!!」

 

発砲音と悲鳴と怒号と咆哮の四重奏(カルテット)の中でもはっきりと聞こえた怯えている深雪の声に対して、達也も驚愕する。

 

達也も魔法を仕掛けた時点で分かっていたことだが、あの黒騎士は現代魔法が通じない怪物ということだ。

 

(そんな存在がいるっていうのか……?)

 

だが、現に他の連中も黒騎士を止めんと魔法を解き放つ。ガトリングガンを止めようと、黒騎士自体に掛けようと分けて解き放つ魔法が全て意味を成さない。

 

この中ではCAD持ちとして果敢にも挑んだ風紀委員たちだが―――。

 

『AAAARRRRRRTTTEEEEE!!!』

 

逆に真正面から敵意を向けられたことで反撃を食らう。

 

「ぶぐっ!!!」

 

障壁すら病葉か無いも同然に貫いた銃撃で風紀委員の一人が絶命する。全身を蜂の巣にされて最後には脳髄から血を盛大にぶち撒けたのだ。

 

「―――この化け物がぁ!!!」

 

先輩風紀委員の仇を取ろうと全身を血と煤に塗れさせた森崎が、至近距離から速射を見舞うも、そもそも干渉出来ないものを相手に魔法は具象化しないのだから距離の遠近など意味はない。

 

だが、それでも黒騎士の間隙を塗って接近を果たしたのは僥倖。一発撃つ間に一〇〇〇発打ち出す黒騎士がやったのは―――。

 

『―――――――――!!!』

 

声なき声で、言葉ではない言葉で―――。

 

その重量物を振り上げて、勢いよく振り下ろすことで森崎の頭を脳天から叩き潰すことであった。

 

柔らかい果実を無理矢理に潰した様子を思わせる惨劇を前にパニックは広がる。

銃声が一旦停止したのも一つだろうが、それ故に――――。

 

 

劈くような金切り声が聞こえた。ようやくのことで壇上に視線を向けるとそこには、手を斬り飛ばされて、恐慌する七草会長の姿が。

 

覆面の少年と思しき体躯の握る大型のナイフが腕輪型のCADが着けられた方を切り飛ばしていたのだ。

 

壇上の護衛役であった服部副会長は生きているのか、死んでいるのかうつ伏せで倒れ伏していた。

 

もはや惨劇。あちこちで悲劇が起きていた。

 

「―――――次は外だ」

 

声が聞こえた。その後には―――大講堂から黒騎士に連れられるように、宣言通りに外に出ていく。

 

速い。そして、それを追うことなど誰にも出来なかった。

 

「お兄様……お願いです。すべての失われた命を! 大きな傷を負ったものたちを!!」

 

「……分かった」

 

深雪が禁忌を破れと願って、そしてそれを行うと了承する達也だが、それでも―――もしかしたら「救えない」ものもあるかもしれないと、現状に対して考えておくのだった。

 

その数168名―――生命活動を停止したものだけで、これだけ、しかも非魔法師ではなく、尋常の理で括れない魔法師をここまで……。

 

 

(そして、これだけやりたい放題やって去っていったというのか……!)

 

もはや大講堂で壊れていないもの、怪我を負っていないものを探すほうが不可能に近い。

 

義憤とか義侠心とは無縁の達也とて、ここまで好き勝手されて苛立つ。さらに言えば深雪を恐怖させた存在に敵意を抱くのは当然だった。

 

流石の達也でも168名+大小の怪我をしたものたち……引っくるめて300名弱を完全回復させるまで、30分間が掛かった。

 

そして、その30分間の間にも惨劇は繰り広げられていた。

 

 

現れた存在は異様としか言えなかった。黒ずくめの少年……自分たちよりも小さい背丈から小中学生程度と推測するも、それが決して戦闘力に関して関係するものではないと認識せざるをえなかった。

 

「十文字会頭! 逃げて!!!」

 

「逃げるわけにいくかっ!!! 俺の後ろには!! 多くの生徒が!!!―――――」

 

その言葉を遮るようにして、克人が展開した障壁を破って赤槍が飛んでくる。その勢いは通常の投げ槍(ジャベリン)の威力ではなく、壁を破ったあとは勢いのままに克人の身体を穿つ。

 

「ぬううっ!!!」

 

当然、克人も棒立ちでいたわけではない。しかし、打ち込まれる赤槍を避ければ後方にいる人間たちが、悲惨な目に遭う。

 

幾度か移動魔法で干渉を試みたが、打ち込まれる原始的な武器の全てが、こちらの魔法を受け付けないのだ。となれば広い面で相手をするのが定石なのだが……。

 

(敵対勢力は俺たちを縫い付けている……!!)

 

克人の後方にも敵は現れている。既に四面楚歌だ。

 

現れている敵は……普通の戦闘兵士とかそういうものではない。

 

下半身が大蛇のそれで大地に佇立する存在、全長だけでいえば3mはあろうかというオトコとオンナ……有り体な表現で言えば『ラミア』と称されるべき魔物10体ほどがおぞましさを湛えながら、この一高の魔法師たちを追い詰めていく。

 

手から放たれる衝撃波とも魔弾とも言えるものをくらったものたちが、くの字で吹っ飛ぶたびに圧が強まる。

 

そんな考えに至っていたことを見抜かれたのか、黒ずくめの少年が迫る。

 

赤槍、黄槍を手にして克人に迫りくる速度は尋常のものではない。

 

「おおおおおおおおおおお!!!!!」

 

迫りくる恐怖を打ち払うように、十文字の魔法―――障壁の乱舞が四方八方から少年を狙うも、それを躱し、時には赤槍で砕き、黄槍で打ち払う。

 

どういう理屈なのか分からないが、少年が使う槍そのものか、槍に何かを付与しているのか何にせよ壁が障子紙かなにかのように簡単に崩れる状況に克人は、歯噛みする。

 

しかし―――。

 

 

(ここだ!!!!)

 

 

乾坤一擲といっても差し支えないタイミング。物理的圧で上方から相手を圧殺する壁を解き放つ。

 

今までは相手の短躯から推測される年齢で殺害することを躊躇っていた克人だが、ここまで来たらば、もはやチャイルドソルジャーであろうとやむを得ない。

 

直立戦車すらも『ペシャンコ』にする魔法が解き放たれた時に―――。

 

巨大な腕―――半透明の……女の手と腕を思わせる造形のものが、克人の放った魔法を砕いた。

 

その腕は少年の背中から出ていた。

 

腕は、そのまま―――克人の方へと伸びて、逆に克人をペシャンコにしようと上から押さえつけてきた。

 

当然、それに抗するべく克人は手を上に掲げてそれに抗する。

 

「ぬううう!!!!」

 

避ける・躱すことができないぐらいに呆然としていたわけだが、かかった圧に更に驚く。

 

もはや上を向くこともできない程にかかる圧が克人を俯かせる。

 

そこに―――既に踏みしめた石畳すらも亀裂が入る力が、かかるところに―――。

 

「ぐふっ!!!!!!」

 

双槍が身を貫いた。焼けた火箸を押し付けられるような痛みの奔流が、十文字家の魔法を解いていく。

 

 

そしてかかる圧で圧死するかと思われたところに―――。

 

「十文字会頭!!!」

 

「会頭を助けろ!!!!」

 

後ろの連中が、蛇人を退けたのだろうか? 薄れゆく意識を留める思考の中―――閃いたことは!!!

 

 

「く、来るな!!! オレをエサにして、こいつは―――」

 

「負傷者や人質が大物だと下っ端は救出に動かざるをえないな」

 

「貴様ッ!!」

 

双槍を突き刺したまま、口角に血の泡を作った克人を嘲るように言ったあとには、後ろから来る連中を相手にする。

 

克人を何かで拘束したあとには、飛ぶように向かうその少年兵士は―――。

 

「神別現体・渇愛巨桜!!」

 

何かを唱えて手に恐るべきポテンシャルのオーラを溜め込む。サイオンとは違うその力が解き放たれた時、克人を襲う手圧とは違うが、ソレ以上―――ソレ以下はありえない巨大手の圧が、救出しにきた生徒全員を叩きのめした。

 

ただ叩きのめしただけではない。生徒の足元……校内の舗装された道路が、砕けて切り分けられたケーキかステーキぐらいに細分されていた。

 

当然、救出しに来た連中は全て道路にへばり付いた蚯蚓のようなザマ(・・)

 

なんたる殺劇―――そこに―――。

 

 

「これ以上はやらせませんよ!!!」

 

「十文字会頭―――」

 

一年の有名な兄妹がやってきた。今期何かと話題を掻っ攫うその救援に対して。

 

「しばらく遊んでやれ『バーサーカー』。得物(オモチャ)はくれてやるから」

 

『AeeeRRRRRrrrrr!!!!!』

 

少年はわだかまる魔力から黒騎士を解き放つのだった。そして―――克人を苛んでいた双槍を掴み血が吹き出る。

 

それに何の斟酌もしていない黒騎士の様子は異様の限り―――そんなものを当然のごとく従えている少年も、異質の限り―――。

 

そうして―――その少年……裏の世界では『ファンタズム01』と呼称される存在との血で血を洗うような魔法師が体験したことが無い戦は、この時を以て始まりを告げるのであった……。

 

 

 

そして―――そんな人外魔境の戦いが終結を迎えて二年が過ぎた時……。

 

 

かつての悲劇の地にして始まりの地に―――1人の少年が入学するのだった……。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。