廃工場の中は忙しなく動いていた。その中で泰然と動いていた少年は、速いなと感じていた。
「司さん。とっとと逃げた方がいいな―――。どうやら連中、大挙してカチコミに来ているぞ」
「―――重要物だけを持ち出して、あとは各自のルートで移動しろ!……キミは残るのか?」
「連中を釘付けにしなければ、皆さんが犠牲になりましょう」
一度でも依頼を受けた以上、それぐらいはしなければなるまい。依頼料も貰ったことだしアフターフォローは当然だ。
司一の人格がどうあれ、『子供』をこの場に置いておくことは、少しばかり心苦しかっただろうが、最後にはプロフェッショナルとしての手練を信じたようだ。
「分かった。ならば頼む―――」
その言葉のあとには逃げ支度に加わる司一の姿を見てから……。
「というわけで、やって来ようとする鼠賊を打ち払っていただく」
『容易い―――』
白銀の大鎧を纏った機甲武者を『呼び出す』のであった。
『それで、マスターよ。例の『ブツ』は『研ぎ終わって』いるのだろうか?』
言い方としてはどちらかと言えば、何かの得物を求めるような言い方だが、声の調子は……何かのオモチャをねだる子供かのようであり、少し苦笑した■■は―――。
「ええ、存分に使ってくださいなアーチャー」
『穢土にありし妖術師―――狩りの得物としては不足の限りだが、我、何一つ慢心せず』
その返答をした15分後―――■■が残しておいたアサシンから念話が入り、進発したことが伝えられた。
同時に、ブランシュ日本支部の拠点から全ての構成員たちはいなくなり―――からの反魔法師団体にやってくるマヌケどもを相手することになる。
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会頭の集合の声に集められた魔法師達は多かったが、それでも一高を守護する面子も必要ということで選抜されたメンバーは、無事な車両―――教官の先生方のも借りて車両五台分で赴くことになった。
順調なドライビング―――でブランシュの拠点にというわけにはいかなかった。
「お兄様!!!」
そんな中、家からオートマで呼び寄せたオートバイにタンデムで乗っていた司波兄妹は、車両組よりも早くこちらを狙う脅威に気付いた。
外気に溜まる濃密な魔力。何かが来ると分かった瞬間には、こちらに並走するように―――白銀の鎧武者が現れた。
(こいつらもノーブルファンタズムの一員なのか?)
黒霧の騎士の次には白銀の鎧武者。
バリエーション豊富な面子だと想いつつも、その白銀の鎧武者は何かの『反重力機構』でも備えているのか、浮かびながらもこちらの走行に追いついているのだ。
(マズイな)
あちらが日本の交通法規を守るとは思えない。そもそも、対向車線を並走している時点でアウトだ。
つまり―――。
『
無機質な言葉と同時に車間距離をギリギリにしていた五台の車両に『弓』とでも言うべき得物で、攻撃してきた。
光弾の矢はしっかりとしたものであり、濃密なサイオンではないチカラで構成されており、先導していた達也がいち早く『術式解体』で『吹っ飛ばす』も3回引き金を絞らなければ、その
『司波!!』
「速度上げてください!! 俺と深雪でも壁を張ります!!」
『気をつけろ―――ッ!!!』
自分の後ろにいた車両のドライバーたる十文字会頭の言葉が途中で途切れる。
白銀の鎧武者―――2mは優に超えた体躯の―――何だかメカニカルな印象を与えるそれが……。
『
申告通り十三機が距離を取りながらも―――車両の左右、上方、後方―――前方……包囲陣を敷いて囲んでいたのだった。
『かかれぇ!!!!』
法螺貝と太鼓の音が、どこからともなく鳴り響くと同時に弓矢が飛んでくる。
カラクリ武者が持つ弓は剣としての扱いも出来るらしく、それを車体に叩きつけようとしてくる。
当然、それを防ごうと車中から魔法を放って近づけなかったり障壁や車体自体を硬化させようとするも―――。
最後尾の沢木や服部が乗っていた車両が、まず最初に走行不能になった。
タイヤを潰されて、車体側面を叩き潰された結果だ。
制動が効かなくなり、スピンして、ガードレールに盛大なクラッシュを果たした結果。
『沢木、服部―――』
意識がないのか、それとももはや…死んでしまっているのか、どちらとも取れる動きのない乗用車の様子。
走行しながらも後方に置き去りにされる車の乗員を心配する十文字会頭だが―――。
遠方より―――強烈な『殺意』と『チカラ』の塊を感じた。周囲にいる全ての魔法師―――それどころか、八王子にいる超常能力者が『圧』を感じてしまうほどに、強大すぎるプレッシャー。
それが功を奏したのか、車内で意識不明になっていた上級生たちが、意識を取り戻して。次の瞬間には達也は、その車両を『分解』。頭や腕を抑えながらも、動けない車両から全員が『放り出された』。
『逃げろ! 兎に角そこから離れろ!!』
「りょ、了解です!」
誰がやったとか、何をしたとか。そういう疑問は二の次で指示を出してくれた会頭に感謝。全員が自己加速魔法などで四散するように移動した瞬間―――。
数秒前まで一高の1科生がいた場所に光が奔る。
光は物理的な圧を携えながら、天空より着弾。
十分に離れていた車両移動組ですらその光圧にやられて、制動を効かなくさせてしまう。
そして―――移動魔法で散った人間たちは、その光圧の範囲外にいたとはいえ、吹き付ける熱風、次に振動、最後に轟音―――全てが魔法師という超常能力者の五体を撹拌して不満足にさせるにいたるものであった。
爆心地には半径十mはあるだろうすり鉢状のクレーターが形成されており、その深度と共にとんでもない。
……遠方より突如走った閃光が、こちらの大半の戦力を無力化していた。そして何故か分からないが達也には、この魔法(?)が『全力』でないような気がしていた。
(仮にこれが全力の射撃でないならば―――)
理由は分からないが、そんな気がしながらも震える深雪を安堵させる材料を探そうとするも、何もなく―――。
『狩猟再開―――』
白銀の鎧武者は弓を発射しながら、こちらを見ていた。そして、白銀の鎧武者の言葉で、ようやっと分かったことがある。
(俺たちは狩りの
狩りを楽しむ『武者』―――本命は――――。
ブランシュアジトの屋上にいるのであった。
一瞬だが、その姿を確認したあとには……
「会頭、狙撃手はブランシュアジトにいます!! っ!! どうやらノーブルファンタズムの狙撃手のようです!!」
言いながらも攻撃はやまず、オートマ運転に切り替えて相手の光矢を分解する作業を続行していく。
『七草!』
『確認したけど、なんなのよあれは……!!!』
何かしらの『遠見』のスキルで見た同乗している七草会長の声。あんまり見ないほうがいいだろうと声を掛ける前に―――。
『我の姿を見るものアリ、排除行動に移れGビット』
聞かれていたことで、最後まで走行しきった会頭の車と達也たちが、囲まれようとしていた。
包囲殲滅陣―――絶対死のそれが、刻まれるだろうことは容易な陣形。穴だらけに見えて、その陣には一切の隙は無いのだ。
―――終わらせるか!!!―――
もはや何の天秤の傾きも関係なく、達也の最大級魔法で、ブランシュアジトを吹っ飛ばす、消滅させることで痛痒を―――。
と思った時には、白銀の鎧武者たちは雲霞のごとく消え去った。
いきなりな攻撃の消失。そして、ブランシュアジトに達也も再び眼を向けると……。
『いなくなった……?』
「―――」
真由美も自分と同じものを見たらしく、随分と驚愕した様子でいたのだが……それでも一連の攻撃で、アジト突入組は僅かな人数―――4台分の車両がオシャカになってしまったのだ。
そして、その中にいた人間たちは全て、密かに進発していた独立魔装の軍医たちによって、緊急治療が必要なほどになっていたのだった。
(これだけ無茶苦茶やって―――雲隠れとは……)
ブランシュアジトを「覗き見」することは出来ないが、待ち構えていることは分かる。
あるいは逃げているかもしれないが、ともあれ達也はあの少年の風貌をした人間に一発くれてやらなければ気がすまない気分なのだった。
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「矢車君が言い出したこととはいえ、本気なの?」
「ええ、そもそも……本当に裏部委員長は、私に風紀委員としての『資質』があると思っているんですか?」
その言葉に少しだけ裏部も考える。結局、自分は『十文字』のネームバリューと、その成績の優秀性だけで彼女を風紀委員にしたいと思った。
最終的には、アレコレと理由を付けて、茉莉花とのコンビでの風紀委員登用となったのだが……。
当初の動機はそれでも、いまの一高には、そこまで殺伐とした空気は薄くても……。
何かしらの『不平不満』は溜まっているのだ。それがある意味、爆発したのがブランシュ事件なのだが……。
「―――確かに私の最初の動機は、アナタの魔法能力の優秀性だったわ。そこは言っておく。けれど……アナタ自身、最終的には、そんな自分を変えたくて、風紀委員になったのでしょう? ならば、そこは……やる動機としては正しいわよ」
「……分かりました」
裏部の言葉は全てに納得が行くものではないが。
(結局、私は変われていなかった……)
人間、そんなすぐさま変われるものではないが……それでも―――。
(衛宮君……アナタと戦うことで、私は変われることを知りたい。そして―――)
頑ななアナタの心に寄り添いたい。
そして―――。
(私を見てほしい。その為にも……)
この戦いで、絶対に
面倒なことではあるが、これが最後だと想えば、自然と気合いが入る。要は心を手折るための戦いだ。
俺のような異端の劣等生に関わるべからずと、十文字に分からせればいいのだ。
強すぎず弱すぎず。俺ならば出来るだろう。
自分を隠して生きていた。生きるためならば、何でもやってきた。
だが、決して体制に取り込まれずに己の意思を貫いてきたのだ。
―――孤児のはぐれものに、お前のようなヌクヌクと生きてきたようなお嬢が優れるものかよ―――
例え……遠上が主な相手と言えども、負けない。そして勝たない。
などと後ろ向きな決意を固めていた時に考えとか色んなモノが生臭い先輩がやってきた。
「……なんすか? イザヨイ先輩。綺麗どころが集まっているあっちにGOしてくださいよ。ぶっちゃけ視界から消えてください。マジで」
「倒置法でとんでもないことを言うねキミ……」
言われた誘酔早馬は、もはや諦観したのか、それ以上は何も言わなかったが。
「スーツも着なくていいのかい? 何ていうか―――」
今度は三年の千種先輩が言ってきて嘆息してからシロウは動き出す。
「アンタをこの姿でもぶっ飛ばしたのが俺ですが? まぁ遠上は防具をつけさせたほうが良いでしょ?」
むさ苦しいの2人からあれこれ言われたシロウはいい加減、準備運動をしておくことにした。
「大丈夫なんですか?」
「何がさ? っていうか永臣は、どこから来たのさ」
最後には、この場には一番似つかわしくない相手が、いつの間にかやってきていたのだ。
「あら、私だけ仲間はずれですか? まぁジョーイと戦い、今度は茉莉花さんとアリサさんからも戦いを挑まれる―――そんなトラブル巻き込まれすぎなシロウ君を少しは応援したいと想って♪」
要するに面白そうな戦いがあったから野次馬根性で来たということか。苦笑しながら―――。
「見てもつまんないと思うけど」
どうせシロウの術など現代魔法の範疇のそれではない。彼が持つ『原理』は、もはや『特異点』クラスだ。
■徒どものもつ■■ほどではないが、CADなどいらないのだ。だから―――。
(低位の魔法師ランクを取れるだけでいいんだよ)
その為の職業訓練校扱。だが、それを妨げるように……十文字アリサを一瞬だけ睨みつける。
(どいつもこいつも……!)
そんなにまでも『特別』であることの優越感に浸りたいのか? 人知を超えた魔人になってまで、倒すべき『敵』などいないくせに、チカラを求める浅ましさ。
ヒトを知るのではなく、チカラを識ろうとする傲慢。
すべてを引っ包めて、シロウにとっては癪に障る。
だったらば……。
(めんどくさっ!!)
最後には、そういう考えを放棄して適当にやることにするのだった。
指定されたフィールドに進み出て、お互いに向き合う。
シロウの相手である少女2人は、魔法戦闘用の演習着。アーツ部の衣装にも似たものを着用していた。
ジロジロ見ることはしないが、今さらながら扇情的なものだ。
無論、食指は動かないわけだが、ルール説明は事前に受けていた通り。
しかし、前回の火狩との戦いを反省したのか……。
「殺傷性・及び致死性の高い術を使った時点で失格負け―――当然、そういうものをワザと使って負けるのも禁止。異論はないな?」
メンドクサイ制約が着いたものだ。だが、前回は見せすぎたのは理解している。
遠上が前衛。そして十文字が後衛。オーソドックスな陣形だが……。
(前衛が役目を果たせるのならばいいけどな)
そう想いながら特に構えを取ることもなく、待ち構えることもなく自然体でいる。
矢車先輩の合図を待っている。
読み込まれる起動式。激発の瞬間までもはや数秒。
そんな中、シロウの『回路』も開き、物質界との接続も完了していく。
そして―――戦いは始まるのであった……。