ようやくのことでたどり着いたブランシュアジト。
盛大な銃撃の歓迎も、ヒトの気配も、魔法的な妨害も、罠すらも―――
全てが皆無なままに、入り込めた一同。
正面から入ったことで拍子抜け。奥へと進む度に、自分たちの足音と呼吸音だけが響く。
嫌な緊張感を持ちながら……最奥へと辿り着くと、そこにはブランシュたちによって連れ去られた一高の生徒たち、主にエガリテメンバーたちがいた。
「壬生ッ―――つ!」
「待て桐原、罠の可能性もある―――義弟とは言え、甲まで置いて出ていったというのか?」
駆け出しそうになった桐原を抑えた十文字会頭が、推理するも何も分からない。ともあれ、このまま睨むように見ていたところでどうしようもない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず―――というからな」
結局、警戒しつつ奥のホールともいえる広い場所に入り込むのだった。
(扉を開けて見せつけていたのは、ここに誘い込むためだったのだろうが……)
何もないことに拍子抜けする。どういうことなのだろうかと思っていると―――。
「随分とヒマな連中だな。まさかここまでやって来るとは」
「―――」
声が響いた。どこからともなくという訳ではない。ホールの『奥』から突如現れた―――響子から教えられたファンタズム01とかいう少年が、本当に突如として現れた。
達也の眼を持ってしても何も見えなかった相手。ありえざるが疑似ではない空間転移とかを想像するも―――。
「少々前には、随分とやられたが―――君はこんなことをして恥ずかしいとは思わないのかね?」
「まぁお天道様に顔向け出来るような所業ではないでしょう。ただ、これでしか俺はご飯を食っていけないんだ。だったらば、これをするしかないんだ。重度の飢えを覚えたこともないお前らに、講釈されるものじゃないな」
その言葉、底冷えするような調子には、自分たちとは生きている世界が違うという所感を覚えた。
本物のチャイルドソルジャー。世界の闇を垣間見た。
だが……そいつが未熟であればいいのだが―――こいつは特級すぎるぐらいに危険だ。おそらくこの場にいる全員を殺すことは出来るだろう。
「第一、話によればそちらの方々は、あなた方の学校ではスペア以下の糞溜めに落とし込んでいたそうじゃないですか? 俺とある意味では同じだ。飢えを覚えたものたち――― だったらば、彼らの嘆きに答えてあげるのは、チカラあるものの義務って奴ですよ」
そんな達也の値踏みの最中にも状況は動き―――。
言葉の意味を問いただす前に、変化が訪れる。
立ち上がるエガリテメンバー達。
様子が変だ。壬生に特別な想いを抱いていた桐原が駆け寄った瞬間。
「超人としてのチカラの発露。チカラの付与―――すなわち『超人化』をしてお前たちを殺させる!!」
『ヴァジュラ・オン・アーク!!!』
瞬間、壬生を中心にとんでもない爆『雷』が爆ぜる。見たことはないが、似たような現象として現代魔法ムスペルヘイムよりも上位なのではないかというものが、発生した。
思わず全員が広いホールの四方八方に散らばるをえないほどの圧。
「何も教えないのに結果ばかりを求めてきた連中に見せてやりましょうよ……アナタがたにだけ許されたスキルをね!!!」
言葉に答えるように、壬生は咆哮と同時に、雷の剣とでもいうべきものを持って―――近くにいた桐原に斬りかかり、その腕を斬り飛ばした。
そしてその他のエガリテメンバーも雰囲気を異にして襲いかかってきた。
「楽しめ! 擬い物の魔術師!! さらばだ!!」
その言葉を最後に、ファンタズム01は、夕焼けの中に消え去っていく。
都合3時間―――警察と軍の合同部隊が到着するまで、一高愚連隊は、エガリテメンバーを無力化することも出来ず、それどころか応援を呼ばざるを得なくなったのであった……。
尻切れトンボな結末はプロローグにすぎず、この戦いの後にもノーブル・ファンタズムという組織との戦いは続くのであった。
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――月例テストを無難にこなして、G組のままでいることにした男は盛大な欠伸をした。
「衛宮君、大丈夫?」
「問題ないよ。ただ単に夜ふかししただけだから」
ただの寝不足であると隣の席の同級生の女子に言いながら、今日の予定を確認する。
このクラスから上の方の組へと上がった人間は5人程度、それもGからF、よくてEへと移った程度であり、いわゆる旧一科のラインたるD組にまで上がれた人間は皆無であった。
結局の所、才能の有無、適正の上下こそが絶対化されている社会なので、そこから先に行くには本当に裏技を使うしかない。
「あーあ、正直ここまで魔法が上達しないなんて……本当に潰しが利かない学校だわ」
「出来ることならば、2科制度を残しておいて合格通知で『あなたは2科』とか通知で出ていれば、入学辞退も出来たのにな」
「そうだね。けれど、魔法師になるってのはオイシイところもあるから、けどなぁ……」
戦時は徴兵されることもある国登録の魔法師だが、それでも平時に受ける恩恵は色々とオイシイといえばオイシイらしい。
「けれどなぁ、せっかくなんだから魔法が上手くなれればなぁとは思うんだけど」
上達したいのに中々に魔法を達者に使えない自分がもどかしいのだろう。その気持ちは何となく分かる。
「正直言えば、俺達みたいな劣等生にはさ、ある種の投薬治療や脳改造手術をすればいいと思うんだよね」
「そう思う?」
「少し前に死んだ九島家の長老も、そういった風な魔法能力向上の被験者だったそうだ。米国に追い出した実弟の方が、素の魔法能力では
ならば、十師族などナンバーズですらない凡百の魔法師は全てそういう実験に志願させればいい。自主的かどうかなどは関係ない。
「だが、妙なところで人権意識に拘って、ワケワカメで蝙蝠野郎な判断を是としちゃっているからな。ここに限らず魔法科高校というのは」
■■塔に比べれば生ぬるい限りである。そんな風に言いながらも―――。
「まぁ成功率が殆どなくて、悪ければ死亡だからな。割に合わないのかも」
だが、そんな常識的な言葉で収めておくのだった。
「十師族といえば、十文字さんって―――」
「あの女は俺をイジメたくてしょうがないクソ女だよ。 権力を笠に着て俺のような劣等生をどうにでもしたい昔懐かしの悪役令嬢(真正)というところだな」
「誰が悪役令嬢(真正)よ!? ヒドくない! 私は別に、あなたをイジメてなんか―――」
いつの間にか自分の隣にやってきた十文字。存在自体は認識していたがあえて無視していたのだ。よって今まで己がやってきたことを思い出させる。
「イジメてるじゃねえかよ。入学初期の諍いで気に食わなかったのか己の兄貴を使って他の生徒の個人情報を探って挙げ句、次席の男をけしかけてケンカを売らせたり、その後は珍しい術を持っているからと、生徒会や部活連の上級生を総動員してカツアゲしてきやがる―――これで、俺が好印象を持てると思ってるのかよ」
「――――――」
顔を青ざめて絶句する十文字。というかこいつはHR前だというのに、他の教室にやって来ていることに本当にお嬢なのだと気付く。
自分はどれだけ自儘なことをやっても許されるという上から目線での感覚……よって―――。
「目障りだ。失せろ」
そういう強い言葉で追っ払うことにするのだった。
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昼食時、入学して一ヶ月も経つと、行動パターンおよび一緒に行動するメンバーは大体決まってくる。例えば昼休み、茉莉花は昼食を学食でとる。
同じテーブルを囲むメンバーはアリサ以外に、アリサのクラスメートの五十里明、茉莉花と同じB組の永臣小陽、アリサと部活が一緒の仙石日和で固定されていた。
「茉莉花、何だか元気ないわね」
「アリサさんも何だか暗いですし……」
同時に茉莉花の親友であるアリサはただ暗いと言うより、明らかに落ち込んでいる。ただの落ち込みではなくブラックホールのような見るものを引きずり込みかねない絶望の表情を見せているのだ。
「A組で何かあったんですか?」
小陽から重ねられた問い掛けに、同じA組の五十里は首を横に振って分からないとする。
だが一つの情報を提示する。
「朝のHRに来るのが一番最後だったわね。荷物はあったから置いた後にどっかに行っていたんだろうけど」
生徒会役員である五十里は風紀委員、あるいは部活関連かと思ってそれとなく仙石にも話を振ったが違うとしてきた。
それだけで、小陽は閃くものがあった。
「ははぁ、分かりましたよ。きっとシロウ君が、月例テストでクラスが上がっていると思ってA組以外のクラスを
その言葉にアリサは……。
「そ、その通りよ……」
「よっぽどこっ酷く言われたんですね」
名探偵コハルの推理は当たっていると同時にアリサに朝の心の痛みを思い出させていた。
そんなアリサを見かねてメイは今まで考えていたことを言うことにした。
「アリサ、前から思っていたんだけど、あの男に関わるのはやめたら? 能力が高いんだか低いんだか分からないけど、G組なんて下位クラスで燻っている男に、A組という最優秀のクラス生が関わるのは意味ないと思うわ。第一、あっちだってアリサに今後は関わりたくないから、メデューサ・バインドを教えたのよ。これ以上、藪の中に手を突っ込まなければいいじゃない」
そんな風な最優秀生だからこそのある種の傲慢な考え、されど弁えた考えを言う五十里 明にアリサは少しの反発を覚える。
「なんかメイの考えってまだ2科生制度があった頃の傲慢な1科生みたい……」
そうイヤな風に言われて、少しだけ語気を荒げながら反論をする。
「私だって、アイツが火狩をぶっ倒すわ。アナタと茉莉花の風紀委員コンビを無力化してくるわ。おまけにアマガエルにトノサマガエルにウシガエルを空から落っことしといて、下位クラスにいる―――その理由・動機が分かればいいけども、全然分からないんだもの」
メイからすれば、衛宮シロウというのは不良の類だ。
昔懐かしの同じような不良と群れてケンカや公道の不正走行やご近所迷惑かけっぱなしのアナーキーなチンピラヤクザ一直線のステレオなタイプのヤンキーではないが……。
いわゆる『はぐれもの』の中の『はぐれもの』。
一般的な価値観に迎合しない、その姿勢は不良という名のアウトローではある。
だが、この件に関してはアリサも譲る気は無いようだ。何が彼女をここまで意固地にさせているのかは、メイにも分からない。
これだけ言っても十文字アリサは……衛宮シロウに関わることをやめないようだ。
「私のことを無視して話が続く……」
「茉莉花はA組に上がれなかったことを嘆いているんでしょ。次のテストで頑張ればいいじゃん。私の友達も頑張っているんだし」
仙石日和からの慰めを受けつつも、それ以上に―――。
(私がA組に上がっていればアーシャと衛宮の接触を防げた!! アーシャにこんな顔をさせずにいられたのに!!!)
そんな思考で、自分を責めてもいるのであった。
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「というわけで、ですね。衛宮クンが次の月例テストで今の成績よりも『上位』、いいえ『A組』にまで上がらなければ、生徒会庶務雑務として登録することになっちゃってるんですよ」
「何が『というわけ』なのか意味不明ですね会長」
「細かな話を除けば、君の成績が『偽装された』ものではないかと思って」
「別に落第点を取ってるわけじゃないのに、なんでこんな
呼び出された生徒会室で会長の言葉を継いだ副会長である勇人に対してもこの言いよう……。気圧されそうになるも言わなければならない。
「それでも、だ。ここは『優秀な魔法師』を育てるための学舎だ。君が低ランクの魔法師資格でもいいとする
「けれど……この学校を職業訓練校……確かに世間一般の区分では専科高校なんですけど、とにかく!アルバイトのついでに魔法教育を受けているなんて態度ではいてほしくないんです……そりゃ、ご両親居らず、生活費を稼がなければならない事情も分かりますけど」
恵まれた家の子供達が上から目線で物言いを着けているということは、シロウ以外の全員が認識はしているようだ。
認識をしているだけで、言動は全く一致していないのだが……。
(何の拘束力もない命令だ。正直言って職員室は『どうでもいい』という態度だったからな)
会計である矢車は、ここに至る前に幼なじみで会長の三矢 椎奈が校長先生を動かしてそういった命令の発布をさせたことは理解している。
だが、これを覆す手段はいくらでもある。というか衛宮が苦学生なのは間違いなく『奨学金』などを受け取っているわけではないのだが、それでも財務状況が芳しくないことは理解している。
こんにちの学生教育―――特に学習指導ではなく家庭の状況は、かなり詳らかに教員たちは理解している。昔に問題になったヤングケアラーなどで学習が遅れることは、転じて指導の妨げだけでなくある種の非行にも繋がりかねないとしていたのだ。
そんなわけで――――――生徒会側が有耶無耶にした諸々を理解しつつも……
アルバイトタイム確保のために、シロウは実技で優良な成績を取らなければならなくなったのだ。