魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第十二話『両面事情』

 

 

 涙がちょちょぎれるほどに苦労をしている勤労学生を庶務雑務という窓際の役職に就かせて、自分を縛り付けようとする『悪の手先』たる第一高校生徒会の陰謀を阻止すべく行動を開始したシロウは、今度の試験内容を確認して、仕方なく動き出す。

 

(そもそも今の位置からA組になるには、最大難度のSを連続20回やらなければならないとのことだ)

 

 移動系魔法で課題が『静止』ならば一分以内での実技ならば、指定された物体をコンマ0,05秒でのキャッチを20回こなす。

 

 そういった風な難度である。

 

 まぁ三分、五分、十分、二十分とランダムに出題されるわけだから、それ以内での予定時間をこなさなければならない。

 

「やっておけば良かろう」

 

 結果としてまずまずの事が為せたのだった。

 

 要は『ハンプティ・ダンプティ』であるだけだ。

 

(加点を狙う際には一抱えもある自然石でのテストか)

 

 今、シロウがやっているのは、難易度でいえば中程度の硬式野球での硬球を模した『白球』である。

 縫い目が無いのは魔法使用において、それらによる変化を考慮させないためなのだろう。

 

 野球で2シーム、4シームというボールの縫い目を利用した球の伸びの変化があるのだから、よって自然石での訓練というか『確認』をやっておく。

 

 そうして全ての所定項目を終えて帰ろうとする前に、履歴(ログ)を消しておく。その辺りは抜かり無くやっておき、次の人の為に演習場所を片付けていたらば――――――。

 

「衛宮君っ!! それ!! どうやって―――」

 

「次の人、どうぞー」

 

「次使うのは私だー!!!」

 

 一高が誇るも、シロウは関わりたくないアリ・マリコンビがやって来ていたのだ。

 

 関わりたくないのに、何故かバッティングすることが多いわけで、面倒くさい想いを覚えながらも実習室をあとにしようとするのだが。

 

「おい十文字、通せんぼすんなや」

「だって! 衛宮君かなりスゴイことやっていたから、教えてくれたっていいじゃない!!」

「俺はG組、最優秀のA組にいる十文字やそっちにいる遠上に教示出来ることなんてないんだけど」

「アンタじゃなくて私はアーシャにコーチしてもらいたい!!」

 

 やらねぇよ。と無言で言ってから出ようとするも再びの通せんぼに、仕方ないとして『魔眼』を発動させて一瞬のマインドジャック。

 

 桜■の魔眼が少しの抵抗を受けるも彼女の精神防壁を突破してから、とっとと帰ろうとした瞬間に……。

 

「おいおい、それは無情なんじゃないかい? 衛宮クン」

「じゃあ、アンタが教えればいいんじゃないですか? 下級生女子を口説くいいチャンスじゃないですか? つーかさっきから俺を監視していたのはとっくにご存知だ」

 

 怒涛の勢いで言葉を放ったことで、いきなりやってきたように見える2年の誘酔早馬を戦かせた。

 

 こちらが十文字に『術』を放とうとすれば、何かアクションをするとは理解していたから、この出現は特に驚きに値するものではない。

 

 釣られた形であるとは理解していないだろうが、それだけだ。

 

「―――確かに僕は風紀委員として少々、君の動きを注視している」

「「キモっ!」」

 

 遠上と言葉が重なってしまった。どうやら十文字関連以外での感性はわりとまともなようだ。

 

 頬をピクピクさせて目を閉じてから怒りを押し殺す動作をしてから浅く息を吐きながら言葉が紡がれる。

 

「キモかろうとなんだろうと構わないさ。そもそも君があれだけの高い能力を誇りながら、それを隠して挙げ句。下位クラスにいるから色々と注目されているんだよ」

 

「無視しとけばいいじゃないですか。碓氷会頭には『テストが苦手』だと伝えておいたし、そもそも俺の術は系統分類不可能なBS魔法みたいなもんですけど」

 

「……そりゃ理屈だけを述べればそうだけどさ」

 

「だから今はこうしてテスト勉強に励んでいるんでしょうが」

 

「―――現在、『入院中で意識不明』の我が校のOBにも似た所が君にあれば良かったんだがな」

 

 意味不明なとは言わないが、どうやら放たれた『銃弾』はあのデストラクトをそういう状態に置けたようだ。

 

「誰のことですか?」

 

 その質問はシロウではなく、遠上がしたことでその『伝説のOB』関連での会話の間にシロウは演習室からの脱出が可能となった。

 

「ま、また誘酔先輩のせいでシロウくんが帰っちゃった!!」

「先輩のせいで私の練習時間が少なくなっちゃったじゃないですか!!」

 

 それは自分のせいなのだろうか? 誘酔早馬 17才。

 ちょっとだけおセンチな気分になってしまう年頃なのであった……。

 

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後日の自主訓練は、どういうワケか五十里家で行うことになった。

アリサとしてはシロウと会いたいし、何よりあの凄すぎる変数設定と終了のタイミング―――ようは己の中での時間の測り方の上手さは茉莉花―――ミーナの参考になるはずだと思ったのだが……。

 

「確率は低くても衛宮と会ったりしたくない!!」

 

 ガラスジョー(脆い顎)を撃ち抜かれたことが傷になっているのか何なのか知らないが、ミーナはこんな対応なのだ。

 

 そして十文字のコネ……といえば人聞きが悪かろうが、それでもアリサの家のツテで十研関連施設でというのも、まぁミーナの心情的に受け入れづらい。

 

 生徒会役員である五十里に『こそっ』と衛宮シロウと鉢合わせせず、されど衛宮シロウが予約している日はいつなのかを訪ねた所。

 

「そんなこと教えられるわけがないでしょ。生徒のプライバシーを簡単に教えられると思わないで!」

 

 ちょっとばかり強めに言われてションボリする1年2人なのだった。

 少しキツかったかと自重してからメイは、咳払いしてから情報をくれる。

 

「月の前半はそんなに混まないみたいよ」

 

 演習室の利用状況……過去のデータも含めてメイはそう答えた。

 

「ただ後半になると空いている部屋を見付けるのが難しくなるわね。当日に利用申請を出してもまず無理だし、予約は抽選になるわ」

 

「そうなんだ……」

 

「じゃあ……私や三矢会長みたいなのは……」

 

「恵まれている方なんですよ。魔法訓練施設というのは限られた場所にしかありません。まさか河原で魔球を開発する。河原の土手に丸太を打ち込んでパンチ力のアップ。河原で因縁のライバルからボールを奪えない。それと同じく河原で魔法なんて練習で使えば、後日色々ありますからね」

 

 何故に河原にこだわる……? 1年三人が会長の言葉に疑問を覚えつつも、それは何となく分かる。

 現在の社会ではソーシャルカメラの万遍ない設置と同じようにあちこちにサイオンセンサーがあり、街中での魔法使用は厳しく制限をされている。

 

 緊急・生命の危機とでもいうべき事態に際してはある程度は認められていても基本的には事後承諾が認められることはほぼ皆無だ。

 

 魔法師の側からすれば、非常に窮屈な話なのだが、一般的な人々からすれば、火種も無いところから発火を起こせたりする存在は放火魔の予備軍と言ってもいい。

 

 しかも、それは家から十分に離れたところからでも発動は可能となれば犯罪の立証は不可能に近い。

 一般的な人間の感覚からすれば、それを恐怖と言わざるをえないだろう。

 

(社会を便利にする技術がそりゃ一握りの人間にしか使えないならば、おっかないよね)

 

 日本の法律でプロボクサーの拳が凶器と同列に扱われるのと同じことだ。

 

「じゃあ三矢会長は、ご自宅の方で?」

「なるべくですけどね」

 

 そんな苦笑しての言葉を受けて、アリサとしてはここは苦渋の決断をミーナにしてほしかったのだが……。

 

「じゃあ家に来る?」

 

 メイのその言葉にどういう意味かを斟酌するまでもないが、それでも少しばかり考えてしまう。

 

 魔法家が他の魔法家の『領域』に入ることはいろんな意味で疑惑を持たせる如何に同級生とは言え……。そんな事はとりあえず許可を貰えばいいだけだとして、予定を詰めることにするのだった。

 

「そう言えばなんでアイツ―――衛宮シロウはいきなりやる気を出していたんですかね?」

 

 茉莉花の何気ない質問。それは生徒会で言うべきことではなかったかもしれないが、それでも訳知りが多い人間たちならば知っているのではないかという程度であったのだが―――それは悪手すぎた。

 

「あっ、それは―――」

 

 そして三矢会長によって衝撃の事実が明かされ、いっそう遠上茉莉花は魔法実技練習に邁進することになるのだった。

 何かにとりつかれたかのように必死になる姿に『やれやれ』と思うのだった。

 

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 白い病室、それは静けさを齎してくれるはずのものだ。

 個室であり金銭に余裕がありすぎる人間にしか使われないはずの室内は静けさをもたらしていなかった。

 最新の寝台のぐるりを取り囲み、消えゆく命を冷然と見守る生命維持装置。冷却ファンの抑えた唸りも、静謐を搔き乱すには充分だ。

 ありったけの医療装置は、その存在感と重量感だけでこの室内から白色の印象を消していた。

 

 その室内に一人の少女が入る。少女はこの部屋に入ることが顔パスで許されていた少女であった。

 

 もはや少女という年齢ではなく、そろそろ女性という言える年齢に差し掛かっていそうだが、彼女の時間(とき)は、室内にいる人間と同じく停止している印象だった。

 

 室内にいる人間は―――少女の兄だった。

 

 兄の顔に少しだけ青褪めた血色の顔に少しだけ胸を撫で下ろす。最悪の状態の時はこんなものではなかった。そこからここまで持ち直しただけでも奇跡だったのだ。

 

 一向に兄を回復させてくれない医者を前に何度も殺してやりたくなった妹だったが、それでもここまでなった。

 

 しかし、そこから先の回復が見込めなかったこと。そして、ここから先はどうなるか分からない。

 

 魔法に詳しい医者に見せたとしても同じことだろう。

 

 だが、妹にとってはまだ生きてくれているという事実こそが何よりの救いなのだった。

 

「お兄様、お兄様―――深雪は、此処におります……目覚めるまでお待ちしています」

 

 反応を望む。兄は自分の危難……悲しみの感情に反応して動き出す。ほんとうの意味でのスーパーマンだったのだ。

 

 たとえ多くの人間から恨みを買おうとも、不動明(デビルマン)宇津木涼(魔王ダンテ)かのように思われていても……それでも……。

 

 泣き腫らす女にとってはただ一人の兄でただ一人想いを寄せる男なのだから……。

 

 室内の冷却ファンの音に……悲しき乙女の旋律が紛れ込む……その演奏を全て止めるべき男は眠ったように動かないでいる……。

 

 

 

 

 

 

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