魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第十三話『破滅破潰』

 

 

 

 五月三日、日曜日。 クラウド・ボール部の部活を終えたアリサは学校に戻って、同じく部活を終えた茉莉花とカフェテラスで合流した。

 

 その間どこかに衛宮シロウの姿がないかと視線をあちこちにやっていたことは茉莉花に隠したが少々察していたかもしれない。ともあれアリサとのお出かけというのを前に茉莉花は、それ以上の追求は無かった。

 

 向かうは五十里家。少し前に生徒会で話していたお誘い。メイの実技施設ある家での訓練が遂に今日、実現しようとしていた。

 

「泊まりでもいいとか言われたけど……」

克人()が、あまりいい顔はしないからゴメンネ」

「いいよ。こっちの都合なんだもん自重しなきゃ、さぁ行こうアーシャ」

 

 東京の北西、旧埼玉県との境近くにある。第一高校からだと駅から駅で約三十分といったところだ。

 

 三十分間の止めどない話、色々と話す。

 

 お互いの部活。その先輩。そしてクラスの同級生たちのこと。その中で衛宮シロウの話題が出てこなかったことは、出さなかったのはお互いに気遣ったからだ。

 

(シロウ君は、クラスの人とこういう話をしているのかな?)

 

 茉莉花とキャビネットの中で話しながらも頭の中で考えることはそんなことだ。

 そうして五十里 明の家―――百家の一つたる五十里家に到着するのだった。

 

 何かの工場のような広い敷地を持つ邸宅だが、印象としては建物も住宅と言うより工場か研究所のようだった。

 

「数字持ちの家ってどこもお金持ちなのかな?」

「ピンキリじゃないかな……普通にサラリーマン(ホワイトカラー)やっている人もいれば、国防軍の軍人、警察官もいるわよ」

 

 茉莉花の羨ましそうな声に一応は建設会社の『令嬢』という立場にあるアリサとしては、我が事を棚に上げつつそう説明するのだった。

 

「ただメイの家は小陽の家と同じく工業製品―――魔法に関わり、魔法を産業として利用している家だからじゃないかしらね?」

「正しく魔法のブルジョワジーってことなんだね」

 

 とりあえずもはや門扉が見えつつある状況で、こういう下世話な話は止めておいた方がいいだろう。

 現代の『呼び鈴』『インターホン』とも言えるもので来客を告げると、メイが対応してくれた。

 

『明よ。今、開けるわ』

 

 その言葉に従い門扉は開けられて五十里家への来訪が出来るようになる。

 入った最初の印象としては、外観のとおりに工場的な面を感じる合理的なものなのだが……。

 

 五十里家の玄関はまるで高級旅館のような造りになっていた。

 良く見れば、倉庫の出入り口のようだった金属製のスライド扉は表面に目立たない色で幾何学模様が描き込まれている。

 アリサにはそれが魔法刻印だと分かった。残念ながら効果までは読み取れなかったが。

 

「断熱の刻印魔法陣よ」

 

 そこからは怒涛の説明好きなメイの講釈が続き、聞き役として適切な茉莉花が色々と疑問を呈して、ことが、刻印魔法陣の持続可能な『エネルギー』(動力源)に話が及んだ時に少しだけメイの顔に暗さが混じった。

 

 その理由は、数年間とはいえ魔法師の上位に位置する十文字家にいるアリサにも察しが付いた。この顔は、自分たちが初めて出会った際に行った喫茶店アイネブリーゼでも見せていた。

 

「そこに関しては恒星炉のノウハウで何とかしようと思っている。あれは大量の想子(サイオン)を生産もできる―――んだけど、一応は実験データは色々と残っているし理論は残っているんだけどね…………」

 

「歯切れが悪いね。メイの憧れのOBが主導した実験だったんでしょ?」

 

「五十里家の事業と絡むとチョットね……つまり、この理論を提唱して実験を成功させた。プロジェクトの主人物たる司波達也様……四葉達也さんは……」

 

 2年前から意識不明に陥り、現在もその状態のままに入院生活を送っている―――。

 

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 名称(ネーム)には2つの意味がある。

 

 同じ言葉でも、それの意味が立場で違うように……。

 

 伊庭アリサと十文字アリサ。

 2つは同じ人物を指し示す名称なのだが、それでも人によってその意味が違う。

 

 伊庭アリサは雪深い北海道にてスラブハーフの子として、将来は遠上家の美人の獣医だとも、イワンのスパイの子だとも、はたまた『普通学校の美少女』としての意味があった。

 

 十文字アリサは日本の魔法家の一つにして、十師族という魔法師の頂点の家の子としての名前だ。当然、こちらでも新ソ連の女スパイとの間の子供という眼はあったが……概ね彗星のごとく現れた『魔法師界のプリンセス』としての意味が出来てしまった。

 

 どちらもアリサがそうであろうとしていたわけではないのだが、他人の眼というのはそういうものを定義づける。

 

(そして……一人の男に関わる『衝撃』である『シバ・ショック』にも2つの意味がある)

 

 西暦二〇九七年八月四日、世界に衝撃が走った。

 その日、一人の魔法師が世界を震撼させたのだ。

 その魔法師は個人で大国の軍事力に対抗しうる実力を実際に示して見せた後、衛星インターネット回線を使って全世界にメッセージを送った。

 

『――ここに宣言する。私は魔法師とも、そうでない者とも平和的な共存を望んでいる。だが自衛の為に武力行使が必要な時は、決して躊躇わない』

 

 世界には、その言葉を荒唐無稽と笑い飛ばした者もいた。だが事実を知っている者は彼が実際に一人で国家と戦い、勝利できることを知っていた。

 

 あらゆる国で情報操作が行われた。徹底した隠蔽、戦果の矮小化。ただの小僧が粋がっている。

 かつて世界的な環境変化で声高に『各国は努力しろ!』と叫んだ少女のように、取るに足らない存在と印象づけることで、「彼」の力も大した脅威ではないと思わせようとした。

 しかし、情報を操作したその当人たちは。情報操作に関わった者とそれを命じた上層部は。国家の上層部にいた権力者たちは恐怖から逃れることが出来なかった。

 かつてWW2の後に起こった朝鮮戦争の際に北朝鮮を支援していたソビエトの独裁者スターリンが、ダグラス・マッカーサー(GHQ最高司令)を恐れて夜ごと寝所を変えたように……。

 

 ただ一人の魔法師に、国家を動かしている者たちが恐怖する空前絶後の事件。

 この事件は「彼」―――司波達也という日本人の名前から『シバ・ショック』と呼ばれていく……。

 これに関しては世界全体の認識としてのものであり、日本の魔法師にとっての『シバ・ショック』とは、もう一つの意味がある。

 

(それは彼の表舞台からの『退場』……つまりは『掃除屋』(スイーパー)による司波達也の『抹殺』が図られた……)

 

 その計画の成否。すなわち『どこまで』やることで成功としていたのかは、今となっては分からない。

 しかし、アンダーグラウンドな世界に繋がりを持った人間次第では抹殺・誅殺を依頼するのは間違いなかっただろう。

 

(克人兄さんは、こういう血腥いことを私に教えてこなかったけど、こういう世界にいれば、イヤでも色々と知ってしまうんだよね)

 

 それは魔法師の社会に入り込んだからか、はたまた自分の半身の血が関係しているのかは分からないが、アリサが知ったことは、卒業するまでにかなりの『流血沙汰』『刃傷沙汰』になったことである。

 

『事の当初から司波に何かしらの害が何処からか及ぶことは理解していた。実際、俺も遠山という女性士官に唆されてヤツと対決したからな。利用出来なければ、こちらに付かなければ、殺してしまえ―――というのは混乱している陣中では、左右どちらも考えることだ』

 

 苦笑する克人の言う通り、彼を政治的に、もしくは物理的に排除しようという動きは即座に出ていた。

 中でも東欧諸国、現在の新ソ連に所属している国々のマフィア達は彼を『暴力的』に排除すべく動き出したのだが……それが実行に移されることは無かった。

 

 司波達也による魔法師宣言が為されたあと即座に反応したのは、とあるアナーキストともいえるテロリストであった。

 

(ノーブル・ファンタズム……直訳すれば『高貴な幻想』ってところよね)

 

 この集団だか個人だか不明過ぎる影の始末屋―――魔法のゴルゴ13とでも言うべき存在は、俗に黄金世代にして『遺失世代』とも口さがない人間から言われる魔法科高校の生徒たちと幾度も刃と魔法を交えていた。

 

 協力関係であったことは皆無に等しい。せいぜい、お互いに同じ敵を打ち倒したぐらいである……とは克人の言葉である。

 

 そして、最後の戦い……九島の末子とその恋人が北米へと渡った後……四葉家所有の私島『巳焼島』にて決戦へと至った。

 

 そこに集った司波達也に縁ある魔法師、その他多くの人間がノーブル・ファンタズムと戦った―――が、この際に少しだけ司波達也側の戦力に不足も生じていた。

 

 まず第一に、先に述べた通り『九島光宣』『桜井水波』。この2人の強力な魔法師は司波達也へ友誼と親愛を持っていた人物だったが、お互いの見解の不一致から袂を分かつ形で日本から去ることを決意していたのだ。

 

 その愛の逃避行、ボニーとクライドのような2人を北米まで手助けした人間達の形跡は多く、その中にノーブル・ファンタズムのものもあったとか。

 

(更に言えば新ソ連の策動。2097年7月に、一度は一条家によって撃退したはずの艦隊規模の戦力が襲いかかってきた……)

 

 結果として当時は第三高校の生徒であり戦略級魔法師に認定されていた一条将輝は、北陸地方から動くことは出来ず、巳焼島での戦いに参加していない。

 彼は、そのことを今でも後悔しているらしい……。

 

 戦力の不足はあった。もちろん、数がいれば勝てるという相手でも無かったのだろうが、司波達也と列される2人の魔法師がいなかったことは痛手だった。

 ……それでも様々な有形無形の各方面からの支援を受けていた。

 巳焼島を徹底的に強化することで、敵を迎え撃つ。

 

 万事抜かり無い。

 

 などと豪語出来ないが、それでも鉄壁の要塞でノーブル・ファンタズムという宿敵を待ち構えていた司波達也とその仲間達は―――。

 

(完全敗北した……その戦いの詳細はまだ不明な所も多いけど、巳焼島は砕け散り『岩礁』となって海中に沈む)

 

 そして、その戦いで司波達也は一発の『凶弾』により完全に排除された……。

 

 これが、魔法師達にとっての『シバ・ショック』である。

 

(記録によれば確かに『拳銃』の一発で司波達也は意識不明の重体になり、現在も回復の兆候は見られず……)

 

 だが、その報告は魔法師ならば誰しもが首を傾げるものだ。拳銃の種類にもよるが、放たれた銃弾を防ぐ方法を魔法師ならば幾らでも持っている。

 

 十文字家は壁を作ることに長けていた。四葉の魔法師である司波達也は、その実技成績と実戦成績の乖離から器用貧乏ではあったのかもしれないが……。

 

 それでも克人は、その報告の不可解さに何度も追加調査を行ったほどだ。

 

 しかし、それでも―――結果は変わらず、今だに司波達也は眠りから覚めず、そして日本を取り巻く情勢は良くも悪くも『玉虫色』になってしまった。

 

(――――――)

 

 それに伴い、アリサもまた変わらざるを得なくなっている……十師族の魔法師として負うべき責任がイヤでも伸し掛かるのだ。

 

 誰かに支えてもらいたい。誰かにそばにいて欲しい。

 

 茉莉花の兄たる遼介が、その中にいて次に出てきたのは……。

 

「アーシャ! もう一回教えて!!!」

「ええ、分かったわ」

 

 止めどない思索を終えて、アリサは学校の授業で使うのと同じ据え置き型CADで苦手科目に四苦八苦する幼馴染の呼びかけに応じて向かう。

 

 変わりつつあるアリサの中で変わらないものの一つに笑みを浮かべながら、喜びの中に駆けだすのだった―――。

 

 

 

 

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