魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第十四話『慚愧悔恨』

 

 

 

「不正も何も無い。CADから投射される術に歪みもない。正しく一級の術行使だな」

 

 いきなり現れた教師であろう男の言葉に特に想うこともなく構わずに術を行使する。結局の所、こんなものは優れた『回路』を持っている自分からすれば朝飯前なのだ。

 

 今日のところは、振動魔法に関してのもの。まずまずだとして、切り上げようとしたのだが。

 

「衛宮、私が話を振ったというのに何か言うことはないのか?」

 

 あれを会話の端緒だと思える人間がどこにいると思うんだ。そう声高に言いたい気分をもたげたので。

 

「すみません、まさか話しかけられているとは思えなかった。なんせ主語もなく、ただ単に誰かの練習を評している風だったもので」

 

 訳するに

 

『誰に対して放った言葉だかわかんねーよ』

 

 と、口汚く解釈できる言葉を前にして何故か考え込む様子の……教師だろう相手。名前はまだ知らない。

 ワケワカメな気分でいながらも、自主練習を終えて帰宅する準備をしていたのだが。

 

「衛宮、少し私の準備室に来てくれないか?」

「今日は、この後アルバイトなんでご勘弁を」

「君、私の名前も知らないだろ?」

 

 講師としての姓名を口にしていないことから、それを察したらしき男に皮肉げに口を開く。

 

「そりゃ見たことがない。授業を受けたことがない。俺からすればそんな講師(センコー)ですからね」

 

 別に驚くべきことでもない。普通学校でもそういうことはあるはずだから。

 押し黙る講師にいい気味と思いつつ、演習室を去ることにした。

 

 のちにその講師の名前が、魔法幾何学を主として教えている紀藤友彦なる男だと分かるのだが、シロウにとっては、どうでもいいことであった。

 

 ・

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「いやー、今日は助かっちゃったよ。ユイちゃんとシロウ君がいてくれて大助かりだった〜〜」

「ネコさんにはいつもお世話になってますから」

「これぐらいは」

 

 自分のことを『エミやん2世(ツー)』とは呼ばない猫目の蛍塚 音子店長に苦笑しながら、別に構わないとしておく。そうして、夜のシフトを終えた2人の学生バイトは帰宅の途へと着く。

 

 止めどない話をするような関係と言えるほど親しい仲ではないが、まぁ会話をしないほど無情ではないシロウは、ユイと会話をしておく。

 

 ラ・フォンティーヌ・ド・ムーサ女学院という長ったらしい名前の学校の生徒。どうやら芸能関係者御用達の学校らしく、それに違わず彼女の容姿は優れている。人間離れしているとでもいうべきものを見せているのだが、まぁともあれ──―。

 

「それじゃまたのシフトでね」

「ああ、気をつけて帰れよ」

 

 キャビネットの類がやってきたユイちゃんを快く送り出してから次のキャビネットが来るのを待っていた。

 

 そんな停留所にて──―。

 

 殺気というほど明朗ではないが何かの気配が生まれた。無視しておくのも1つだろうが、どうやらシロウに向かってくるようだが……。

 

(適当に相手してやれ)

 

 下知を飛ばすは自分の使い魔。影から影へと移動するそれが、物陰からこちらを伺っていた相手を襲うと同時に、シロウは個別電車に乗り込むのだった。

 

 後日、B組の担任にして講師である紀藤友彦から個人指導を受けていた遠上茉莉花が、その腕に包帯が巻かれているのを見て──―。

 

「ああ、ちょっと家でコーヒーメーカーから熱いのをこぼしてしまってな。私の失敗など気にせず、先程言ったことを念頭に成功させるべくやりたまえ」

 

 と言われて、独身男性のドジを追求する気にもならない茉莉花は、そうして『静止』の課題をA組に上がれる成績にするべく、邁進するのであった……。

 

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 ・

 

「…………」

 

 多くのデータベースにアクセス出来る図書館にて、シロウは座学を詰めるべくペーパーテスト対策をしていた。

 

 A組になって生徒会への着任などというクソ詰まらないイベントを回避するべく、いつも以上に現代魔法への理解を深めていく。普通に記憶の埋め込みでその辺りを回避することも出来るが、まぁ一応はやっていく。

 

 生来、真面目な性質なのだシロウは──。

 

 そんなわけで……まるで何かのあてつけのように机の対面に座った十文字アリサを一瞥してから、手元の端末に眼を落とすのだった。

 

「ちょっと、シロウくん──」

『Be QUIET in Library』

 

 図書館ではお静かに。という昔ながらの標語を文字で写す。ある種のホログラフなわけで、それを見読んだ十文字が押し黙る。

 

『だ、だとしても、何か言ってくれても良くない!』

『あいも変わらずウザい顔だ』

『言ってくれるわね! いや言ってないけど!!』

 

 現代のデジタル筆談でものすごい勢いで手を動かす(タイピング)2人。さながら、とあるラノベアニメのタイアップラジオに呼ばれた原作者よろしく、その手は絶え間なく動いてタイピングの音が逆に煩いぐらいだ。いや、ここではそれとてあるのだが……どう考えても熟考しての解答をしているというものではないのだ。

 

『何を勉強しているの?』

『言いたくない。そして、君みたいな優秀生にマウント取られるのもイヤだから更に言いたくない』

『別にそんなつもりはないわよ。ただ……さっきD組で魔法学に明るくない人に教えたから……』

『俺とソイツを同列に扱うな。同情も施しもいらん。襤褸を着てても心は錦、その気持ちで生きていくと決めているんだ』

『──────―』

 

 別に沈黙を文字で表現せんでもよかろうに。

 

 そう思ってから、勉強に集中する。座学に関してはまずまず。

 

『A組に上がるの?』

『そうしなければ、生徒会役員なんてやりたくもない仕事をさせられてしまう』

『魔法科高校で生徒会やるだなんて、結構な箔がつくと思うよ?』

『生憎ながら、俺は魔法師としては低ランク資格でいいのさ。無理して高いものや高い地位にいたると面倒なことになる』

 

 この国は、絶対の強者がいなくなり、ある意味では自立していかなければならなくなった。

 

(誰もが同じ『重さ』でいるわけじゃない)

 

 特別な”重き者”は、その強さ(おもさ)ゆえに、自らの『世界』に向かって帰結する。

 

 その力を持ったまま、『(おも)いまま』外に広がってはいかない。沈んでいく、(はて)に向かう。

 

原理血戒(イデアブラッド)と同じ理屈だ。そして、あの男は(つよ)すぎた)

 

 あれをそのまま放置していれば、地球(ほし)は歪むだけだ。

 そしてあの宣言である。

 

(よほど、自分たちは可哀想な存在ですアピールがしたかったんだな)

 

 結果として、放たれた『■■弾』がヤツから『(つよ)さ』を取り除いた。その後のことはどうでもいいのだが……。

 

(もう一度接触する必要はあるんだよな)

 

 それゆえの魔法科高校への入学なのだ。

 そして、こちらの反応の薄さからか、はたまた思索に耽っていたからか諦めて読書をする十文字の姿があったのだ。

 

(なんでこの子は俺に構うんだろう)

 

 シロウにとって現代魔法の理論・理屈よりも難解な問題なのであった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「結論から言わせてもらいますが、この『銃弾』には『人間の骨』が使われております」

 

 この場にいるのが自分一人で良かったと思う真夜は、対面にいる女性からの報告を促す。

 

 この二年間、沈んでしまった巳焼島の海中遺構からただ一発の銃弾を探そうと必死になっていた。

 

 四葉の待ち望んだ絶対者である達也を叩き潰した原因、復讐しようにも相手は巧妙に現れ、夢幻のごとく消えていく……まさしくファンタズム(幻想怪奇)

 ゆえに四葉家は全力を上げて巳焼島の海中探査を行っていた。それはトレジャークルーズのような夢あふれるものではない。どちらかと言えば、大規模な災害での犠牲者捜索のごとき気の遠くなるような作業……。

 

 海流の関係で証拠や遺留品が流される事も多い。

 

 だがありったけの資産・時間・人員にいたるまでを投入して、ようやく生き残りたちの証言や何とか無事だった記録映像から割り出せた殺害原因たるこの一発の『銃弾』を見つけ出せたのだ。

 

 ノーブル・ファンタズムも、証拠品をまさか見つけ出されるとは思っていなかったのか、あるいはそれすら織り込み済みかもしれないが……。

 

 そして素顔を仮面で隠した東雲 吉見という四葉連理の女性魔法師は、紙資料と口頭説明を用いて真夜に伝えてくる。

 

「使われている人間が誰なのか、生者であるか死人であるかは追加調査中ですが、分かったことを述べますが、この銃弾に『魔法』で直接干渉した場合その影響は甚大であるということです」

 

「具体的には?」

 

「まずは魔法の逆流・暴走とでもいうべきものが術者を襲います。『受刑者』たちを利用して、この魔弾に強弱つけて干渉してもらいました。発砲は弾丸の劣化から出来ませんでしたが、『受刑者』は例外なく魔法能力に問題をきたすほどのダメージを負いました。死んだものすら出ています」

 

 それに対して特に哀悼の意を表すことはない。

 他者に対する人権意識が希薄で、身内だけが『人間』だと思っている四葉なのだ。

 

 もっとも吉見の方は、その魔法の適性上……どうしても他者の心情(こころ)というものを詳細に見てしまうので、どうしても酷薄なままに生きられない。

 ちなみに彼女の表向きの職業は『精神科医』であったりする。

 

「当時、巳焼島にて達也殿の近傍で戦っていた人間たちからヒアリングしたこと、また同じく達也殿を支援する形で魔法を放っていた深雪様の症状から察するに、この銃弾は『使う魔法』が強大で巨大であればあるほどに重篤なダメージを負うということです」

 

 なんということだ。絶望と絶句する真夜もその辺りは知っていた。

 

 達也がノーブル・ファンタズムのファンタズム01こと恐るべき少年魔法師と相対した時に使った魔法はマテリアルバースト……。

 

 戦略級魔法だったのだ。達也としては、その魔法師との戦いにおいて、対人殺傷の分解術が利かず、されど有効打として有用なものが、それしかなかったのだ。

 

 魔導の暗殺者。黒羽よりも徹底して磨き上げられた手管に対して達也が選んだものは、最遠距離から最大威力で吹き飛ばすことであった。

 絶対の暗殺者たるメイガスアサシンに対抗する唯一の方法。暗殺を無効にする、大規模破壊。

 

 だが、これが実行に移されることはなかった。そもそも精霊の眼でもかの組織ないし主導者は見つけられず、そして何よりその計画を実行するにはタイミングが悪すぎた。

 

 シバ・ショックでの宣言をした手前。ここで例え、アナーキストを倒すためとはいえ1つの街が消失するほどのエネルギーを向ければ忽ち対立は激化する。

 何が何でも司波達也を抹殺すべしと大軍が押し寄せて、そこにノーブル・ファンタズムの手練れがいれば、大対戦(おおいくさ)の混乱の中で放たれた毒手が達也を殺しに掛かるかもしれない。

 

 それ故の巳焼島にての大決戦だった……。

 

 暗殺者を迎撃するために待ち構える要塞、真夜はいざとなれば島を半分消失させても構わないとしていた。元老院(スポンサー)にも了承をさせていた。

 だが、目論見は外れた。大きく外れて、そして最悪の結果が四葉だけでなく日本の魔法師全体に伸し掛かった。

 

「どうして……そのようなことに、吉見さんは、この銃弾でサイコメトリーをしたんですか?」

 

「いえ……それはまだです。私もこれに対して、下手に読み取りをすればどうなるか分かりません。いざとなれば……ですが」

 

「保証はいくらでも着けましょう。いい婿との縁談も設けましょう」

 

「で、できれば年下のかわいい男の子で!」

 

 このアマ! などと口汚く罵りたくなるのを抑えながら、真夜は続きを促す。

 

「失礼しました……この魔弾は、その性質上、サイオンの逆流・暴走という現象もありますが、軽症のものを調べた所、少しだけ違うものも見受けられました」

 

「というと?」

 

「逆流・暴走したあと……それらは相手の魔法能力を損するものとなり、仮に回復し五体満足であってもその後に、昔のような魔法能力の行使は望めないでしょう。具体的な表現ではないかもしれませんが……本来の回復を阻害する。機能を足の機能を治すべき回復作用が、手を治し、足は心臓をという塩梅に……こんな症状は初めてですよ」

 

「…………」

 

 二重・三重……四重の意味で悪辣な弾丸である。恐らく達也が戦略級魔法を弾丸に掛けざるを得ない状況を作るところまで織り込み済みだったのだろう。

 

 ノーブル・ファンタズムを捕らえる檻を作ったつもりだった自分たちだったが、逆である。

 

 檻に入れられていたのは自分たちだったのだ。

 テーブルの上に置いてある銃弾が、凶悪な獣牙にすら見えてきた真夜であった……。

 

 汗をかいている吉見を下がらせつつ『引き続き、調査をお願いします』と筋ならば黒羽に言うべきものを、外戚である彼女に言うしかない状況を少し憂える。

 黒羽 貢もまたあの戦いで双子を失ったわけではないが、かなり酷い怪我を負い、彼自身もかなり窶れてしまったのだ。

 

 一人になってしまった部屋の中で、何度目になるか分からぬため息を突く。

 

 それが部屋を狭くしているかのような錯覚に陥りながらも、達也を、自分の息子を何とか目覚めさせることこそが重要だと自分に言い聞かせるのであった。

 

 

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