魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第十七話『運命定着』

 

 

5月24日 日曜日 今日の天気は曇り空が一切ない快晴(・・)であった。

 

日曜日……講義こそ無いが、大学に通う人間にとっては所属している部活やサークルの『部屋』に顔を出すこともあるし、研究のために図書室などを利用する人間もいる。

 

そんな中、一人の青年が資料を見ながら勉強に集中しているようで集中していなかった。

 

そんな様子は旧知の人間からすればわかりやすくて、そして構いたくなるほどには何か鬱な様子を感じさせていたのだ。

 

「おはよう服部君」

「中条、おはよう」

 

一高時代の同級生。自分の世代の時の一高会長を努めた女性だ。高校時代はトレードマークとも言えた『コロネヘア』を解いてロングにしている彼女だが、その短躯は未だに中学生にも間違われている。

 

「珍しいね。日曜日に来るだなんて」

「今日、妹がやって来るんだよ。三高との練習試合で大学のコートを使うそうでな」

 

対面の席に腰掛けた中条にそう言いつつ別に、自分が必要なことだろうかと考えても居て時間つぶしのために資料閲覧室(ここ)に来たのだ。

 

対する中条あずさは、服部に妹がいただろうかと少し疑問に思ったが、何となくそう言えば遠縁の親戚が叔父夫婦の養女になったと聞いたような気がする。

要は従妹―――そういう意味での妹なんだろうと思いあたった。

 

「高校ですか、懐かしいですね」

「そう言われればそうか……だが、戻りたいとは思えないな」

「色々と―――ありましたからね……」

 

平穏ではなかった高校時代、1人の新入生がやってきたことによって起こった動乱の全ての終結はあまりにも苦い結末だった。

 

「何が駄目だったんでしょうね」

「全てだな。結局の所、あいつ一人に罪をなすり付けるのもお門違いだが、同時にあいつと出会って、野心や希望を抱いた者は一人残らず有罪だ」

 

服部は司波達也とはそこまで親しくなく近しくはなかった。だから少しだけ引いた所から一連のことを見ることが出来た。

五十里や中条などの技術畑の人間は少し違う意見を持っていたのだろうが、全ては性急過ぎた。

 

別に新技術を公表するなというわけではない。だが、かつてのEV技術使用の電気自動車が、その不便さや生産の効率性から推進していた欧州ですら手に余るものになったのと同じだった。

 

「あいつの中に、妹愛以外の隣人愛があれば別だったんだがな」

「服部君は司波君の行おうとしていたことは間違いだったと思いますか?」

「分からないな。だが、あいつの宣言の前から低位の魔法技能者……一高の2科生に対する『何か』あるいは魔法科高校に入学できなかった人々に対して……慈悲深いものを見せていれば、賛意も増えていたんだろうが、司波にあったのは独善的な価値観だ」

 

それらは司波達也が昏睡状態になってから暴露されたことだ。かつて日本の首相がとある宗教団体との深い繋がりからその宗教団体によって人生を壊された青年に襲撃されたことで、それらが一気に暴露されたように……。

 

「じゃあ、司波くんがあんなことにならなかった場合の世界ってのはどうなっていたと思います?」

 

「想像の域を出ないが、どちらにせよ上手くいかなかったと思うな」

 

司波達也は『炉』のプロジェクトと並行して、先に述べた全世界の魔法技能能力者(能力の高低問わず)たちを助けるためにある種の『魔法師だけの共同体』……もっと言えば魔法師だけの『国家』を作ろうとしていた。

 

「それはそれでいいことだと思いますが……」

「確かに、だがそれは一面だけでしかないと思う」

 

この22世紀を迎えた世界でも、人間は魔法師であるなしに関わらず、肌の色の違い、人種の違い、その血の純度、生まれた土地の違い、そして宗教観の違いでも争い合っている。

表面上は落ち着いているように見えても、見えぬ所ではそういうものは続いているのだ。

 

「第一、魔法師であるという一点だけの価値観でなんのわだかまりもなくお互いを受け入れ、認められるならば、俺たちが在籍していた頃にそれが実現していてもおかしくないじゃないか」

 

1科2科という区別を当然として認めて、そして2科生をウィードと呼んでいた風潮を消せなかったのだ。

結局、人間が1つどころに集まったところで全てが上手く回るわけじゃない。

 

「あとは未来の話になるが、結局これを実現できるのは司波達也が圧倒的なまでの『チカラ』を持っている独裁者であるからだよ。そんなものが出来上がって、あいつの死後にそういう共同体がどうなるかなんて過去の歴史の事例からして分かっている」

 

「権力闘争、分裂戦争……共同体は瓦解はしますか」

 

「司波達也と司波深雪の間に子供がいて、そいつが同じようなチカラを発揮できれば世襲制の独裁国家になるかもしれないが」

 

もはや妄想の産物である。司波達也がここから奇跡的な回復を見せたところで、これらの懸念を払拭出来るわけがないだろう。

 

(そして、あの司波達也を倒したノーブルファンタズムのファンタズム01なる魔法師……)

 

別に仇討ちをしてやろうとは思わない。だが、あの最初のブランシュ事件の際に、服部が尊敬して愛する七草真由美の手首を斬り落とした際の恨みは絶対に晴らしたいと思うも……。

 

(司波が勝てなかった相手に俺が勝てるのか?)

 

そういう現実的な問いがぐるぐると回り続けていた。そして中条あずさは、服部の言う野心を持った人間の一人としてそれでも司波が回復することを願わざるを得ないのだ。

 

† † † †

 

受付業務を代行する形で終えたシロウは、大学の事務部で渡されたものをクラウド・ボール部部長に渡すのだった。

 

「ありがとう。本当に助かるわ」

「今回限りですよ」

 

嘆息しつつ、記録用端末(筆記式兼用)のそれを持ち服部部長が以前に説明してくれた場所へと赴こうとしたのだが。

 

「そんなものはないわよ」

 

その笑顔と同時の言葉に事務部に急遽確認。

 

「ふふふ、短いスカート姿の少女を見る幸福を味わいながら果たして記録を正常に取れるかしら?」

「それに関しちゃ心配ないですよ。ただ他の皆さんが俺に見られながら正常にプレイ出来るかどうかの方が心配ですね」

 

いじわるをしたつもりの服部部長には悪いが、シロウにその手のセクシャルなことは通用しないのだ。

 

そんなわけで―――キャンパス内部から出て向かったコートフィールドにおいて……。

 

「そんなヤツに女子の試合の記録員を任せるだなんて何を考えているんですか!?」

 

何故かこの対抗戦に着いてきた遠上が大声で抗議するのだった。別に任せてもいいというのならば、それでもいいが……。

 

「ミーナ、今から記録員としての記入の仕方なんて分からないし出来ないでしょ。シロウ君はどうやら部長にレクチャーを受けて完璧だったそうだし」

 

フォローではないフォローをしてくれた十文字。

言われたことは真っ当ではあったので……。

 

「そういうことだ。一応、これは俺が現在シティマラソンランナーとして都内で走っている五十里から任された仕事だ。簡単に譲るわけにはいかない」

 

「別にそこまでやる気があるわけでもないのに……」

 

「そうだな。やる気は無いが、だからといって任された仕事に手抜きだけはしない。アルバイト先でもそれだけは遵守しているんでな」

 

それが俺の生き様だ。

 

そう視線だけで告げたことで少しだけ呻く遠上。

 

それだけで決したわけだが……。

 

「シロウ君……ありがとう」

 

「礼などいらん。おれはおまえがきらいだってことは変わらんのだからな」

 

((((何故、帽子とグラサンとヒゲをつける……))))

 

Mと書かれた野球帽を被り、昔懐かしのチンピラ監督のごとくなったシロウに一同全員が心中でのみツッコミを入れるのだった。

 

―――そんな様子を先んじてコートにやってきた三高女子クラウド・ボール部の面子は見ていたりする。

 

「男子のマネージャーかぁ。結構いいツラしてるじゃん」

「こっちに聞こえてくる言葉からして臨時の人員らしいですけどね」

「……」

 

キャピキャピルンルンというほどではないが、少しだけ羨ましそうにする三高女子とは別にその男子をそういう目ではなく『じっ』と見るものが一人。

 

(赤毛……)

 

光の加減によってはオレンジ色にも見えるだろうが、その色に少しだけ羨望を覚える。

 

原色の赤に近いそれは『緋色』(スカーレット)である自分が求めてやまないものだからだ。

 

そんな緋色浩美の値踏みはともかくとして、指定されたベンチにて今日のオーダーを入力することになった。

 

「三高のお歴々、そちらのベンチで今日の試合順番を入力していただきたいんだが、よろしいか?」

 

「はーい♪ 一応、公式戦のつもりでオーダーを出させていただきますからねー」

 

シロウの出した声に対して、どことなく『しな』を作るかのような声で答える三高生。それを受けてから互いに遮音の防壁を張ることに。

 

お互いの作戦会議が聴こえない距離―――それどころか遮音・覗き見防止のフィールドを張ってのオーダーを決める作業に移行した。

 

三高側は分からないが、一高側は少しだけ紛糾するーーーとまでは言わんが、三高側に有名選手がいたことで仙石が『やりたい』と聞かないのだ。

 

(こうなるなら、公式戦形式じゃなくて自由戦形式の方が良かったんじゃないかと思う)

 

サッカーや野球などのようなチーム戦ではなく個人での勝敗を積み重ねていく競技ならば、それでも良かったのだが……一度はチームとしての勝敗を緊張感を持ってやるのが礼儀だろうか。

 

(あるいはハードなスポーツだからこそなのかもしれない)

 

そんなことを考えつつも、言われたとおりにオーダー順に全員の名前を入力していく。

 

「―――以上で大丈夫ですか?」

 

口頭と端末での再確認をしたことでOKをもらう。

 

「ちなみに衛宮君、今日の運勢は?」

「見ているサイト、番組で違うだろうけど俺がチェックしているのでは、3位で『新しい出会いがあるでしょう』だったよ。仙石は?」

「……9位で「すれ違いにくよくよしないで」だった……」

 

どうとでも取れる内容ではあるが、この場面ではどうしても想起せざるをえない内容である。

 

試合をする前から少しだけ落ち込む仙石にかける言葉など無いので、とりあえず自分の運気が仙石と緋色という三高女子の試合を実現できるように願をかけつつ最終のエンターキーを押す。

 

そして運命の女神のいたずらは、どうしてもあるのだろうと思える試合順番が組まれていた……。

 

 

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