魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第一話『邂逅』

 

 

衝撃的な光景であった。

 

どっちが勝つとか負けるとか。そういった風なことを論じたかったわけではない。

 

ただ、この光景を予想できていたかと言えば、はっきりと『無かった』と言えるのが、十文字アリサの本音であった。

 

だが、その一方で見せられたものに動悸が止まらないのも一つだった。

 

 

「ば、か……な……!!!」

 

「―――――――――――そんなに不可解ですか? 『俺』に負けたことが」

 

「……ぎっ―――お、お前は……なぜ、それだけ出来て!! がっ―――」

 

のたうち回ることを拒絶して全身を苛む痛みに耐えていた男だが、最後には苦悶を押さえるために膝を突くことしか出来なかった。

 

「動かないほうがいいですよ。十文字さんに撃った『呪詛』は、アナタの体内で『魔花』を育む。アナタのサイオンと演算領域を苗床にしてね……アナタを蝕むものが育つ―――さて、では回復したければ、二度とこんなことをしないようにしてくださいよ。妹御だか従妹だか知りませんけど、俺はそっちの『ハーフイワン』とは接触したくないんですから、トンチキな勝負挑まれた気分ですよ」

 

髪を掻きながら嘆息の言葉にアリサはぐさりと突き刺さるものがあった。隣りにいるミーナが食って掛からんとするのを抑えながら、悲しい想いを抱く。

 

倒れ伏した勇人(いとこ)が、そういった想いで■■君に挑んだのは理解していたが、その勝負の結果まで―――予想できていたわけではない。

 

 

「お前がいなければ……アリサは戦いに出ない!! 俺が患う惨めな想いを!! お前は………!!」

 

それこそが、この戦いの目的だった。九校戦に関して『出ない』と決めたアリサだったが、自分の欠場を良しとしない執行部員たちは、あの手この手、口八丁手八丁の交渉をしたのだが、暖簾に腕押しのアリサに対して最後の手段が取られた―――それこそが十文字勇人を倒した同級生からの『説得』だったのだが。

 

「九校戦に素直に出とけよ十文字――― 別に勝つも負けるも、時の運だろ。勝利に対する気概や執着心が無いのは服部さんも先刻承知済みなんだからさ。そこまで分かっていながら出した上役の責任でお前が何か『義務』『責任』を感じる必要ないだろ? ただし負けてきたならば、それ相応のバッシングは浴びる。出なかったとしたらば、お前には『後悔』が残る。今は実感できなくても、そうなる―――」

 

倒れ伏した勇人の心とかアリサを「いつもどおり」安堵させるようなセリフ、勝ち負けに拘らずともベストを求めるような言葉(じゅもん)を吐いた男だったが、それは今の十文字アリサにとって求めていた答えではない。

 

「■■君……私は、アナタがいてくれれば! きっと戦える!! 勝ちたいって思える気持ちをくれる―――それに……アナタだって、チカラがあるっていうのに!! それを使わないなんて!! そんなの卑怯よ!! 」

 

「オレが求められたのは、君に対する応援役だけだ。色子かお小姓みたいな真似をオレがしたがるもんかよ……そして何より肝要なのは―――オレが一年では『劣等生』であるということだよ。G組だぞ? 分かってるの?」

 

「そうね……定期テストの度に、E,F,G,Hの同級生たちに、個別の『LESSON』を開いて、上にいるクラス全てを総取っ替えする勢いでのテスト結果を出してきて―――、結果的に私はAクラスに残れたけど……!! 残れたことで色んな人と知り合えた!! 色んな人がいることにも気づけた。 こんなにまでも自分は『恵まれていた』ってことを理解できて、それで私は―――」

 

「だが2回目のテストは、半月もしない内に教員連中は次のテストを実施して俺たちは下に落とされたわけだが、もういいだろ。オレは―――身を斬られるような想いをしている人間たちを、才能が無いなどと蔑まれている連中を救いたいんだ。一緒に拳を突き上げて、怒りを共にして、そして―――戦いたいだけだ」

 

押し問答の末にようやく得られた答え。

それはつまり……優秀生、優等生の価値には迎合しない。

 

お前とオレは違うという突き放した言葉に聞こえて、アリサは涙を流してしまう。

 

「………私に魔法の優れた才能が無ければ、アナタは私を救っていたの? 私に構ってくれたの? アナタのそばにいることが許されたの!? 答えて!!!」

 

この一分以上もの言い合いの果てに、もはや倒れることを拒絶出来ないほどに痛められた勇人をさらっと無視して、まるで恋人どうしの愁嘆場のようなものを展開する2人。流石の茉莉花も、それに割って入れない。

 

そして倒れ伏した勇人は、違った意味で涙を流していた。凡そ3年以上もひとつ屋根の下で暮らしていたというのに、出会ってからまだ半年も経っていない若僧に全ては塗り替えられた。

 

だから――――。

 

「ありえない仮定なんて意味がないだろ。生まれながら全てを与えられていたズルい奴なんかに構っている暇なんてオレには無いんだよ」

 

そんな冷たい言葉で突き放すなよ。けれど、そうしていることに勇人はどうしようもない気持ちを抱く。

 

最終的には己の惨めさに繋がってしまうのだが……。

 

そうして勇人の中に一つの疑念が生まれる。

 

自分が入学した歳に卒業したという伝説の司波達也。またの名を四葉達也―――それと同じく、この下級生も何かを偽っているのではないかと。

 

出自・経歴・能力……全てにおいてイレギュラーだ。

 

だが、そんな見方をしたところで、この男が勇人にとって恋敵である事実は、変えられずに―――そして、全ては始まりを告げるのだった。

 

普段はパープルブルーの瞳を、今は赤く―――ワインレッドに輝かせる男とアリサとの接点を思い出すのだった。

 

 

一年A組ではないことを嘆く遠上茉莉花。大げさな様子。スポットライトを浴びながら演技する舞台役者の如きポーズを取る茉莉花に対して、親友であり姉妹も同然だったアリサが駆け寄ろうとする前に――――。

 

「邪魔なんだけど、受け取ったならば退いてくれ」

 

「えっ!? あ、ああ! ご、ごめん!!」

 

いきなり後ろから掛けられた言葉。不機嫌さを隠そうとしない。されど『腹から出ている声質』は、アリサの領域を微細に震わして、茉莉花……ミーナの後ろにいた少年―――赤毛の少年に目線を合わせざるを得なかった。

 

受け取ったIDは、当然個人情報だから、ミーナのように大げさに言うことも無ければ、わからない。淡々と受け取り作業だけを終えた少年の姿――――。

 

そして――――――。

 

「あの! アナタは何クラスなんですか!?」

 

ミーナに負けないぐらいの声を張ったアリサだが、赤毛の少年は既に列から離れて、アリサの声掛けが自分に向けられたものなどと分からない様子で、自分たちの前から去っていく。

形の上ではガン無視されたアリサという超絶美少女。それに対して無情なことをした赤毛の少年に悪感情を抱く周囲の有象無象。

 

一番にはミーナ(茉莉花)ではあるが、アリサにとっては慣れたものだった。

 

十文字の家にて、同年齢の弟から無視されていたアリサにとって同い年からこういう態度を取られるのは、慣れたものだった。

 

けれど――――。

 

(なんでだろう? すごく……胸が痛い……)

 

3年もの期間。こういったことに慣れたはずのアリサの胸が疼くほどの心の痛み。

 

だが、そうこうしている内に、茉莉花を慮った様々な面子が周囲に集まってくる。当然、その中にはアリサのご親族もいたわけで必然的に話はそちらにも伝わる。

 

「つまり遠上君の後ろでIDカードを受け取るのを待っていた少年から急かされた。と、明らかに君が悪いと思うが?」

 

「けどそのあと! アーシャが何クラスなのかを問いかけたのに、そいつガン無視して行っちゃったんですよ!!」

 

「ならばそいつが悪いな。極悪人だな。外道だ」

 

「勇人さん」

 

いきなりな身内贔屓な判決にアリサは嗜める―――というより怒るように言うのだった。あの場面で公平性を保ったジャッジをするならば、受け取った直後も列にいた茉莉花にこそ非があるのだから。

 

それにアリサの声掛けとて、もしかしたらば『不躾な女だ』などと思われていたのかも知れない……全てが不明ながらも、彼の名前ぐらいは知りたいということで、同級生が勇人やその友人に挨拶を一通り終えたところでアリサは、勇人よりは『物知り』だろうという期待を込めて―――。

 

「あの誘酔先輩、新入生で赤毛の男子―――勇人さんぐらいの身長の人って分かりませんか?」

 

何だか変な感じがする男子の先輩。勇人の悪友であると紹介された男に聞くのだった。

 

「アーシャ?」

 

いまだにあんな失礼な男にこだわることを茉莉花は怪訝に思ったのかもしれないが、それでも知りたいのだ。

 

「ふむ。赤毛で勇人ぐらいの背丈(タッパ)を持った新入生ね―――いや、申し訳ないけど分からないかな。あそこで三矢会長が勧誘かけている五十里さんと同じく、『ある程度』の上位の成績保持者ならば、僕らみたいな一高の役員はピックアップするんだけど――――察するに、その失礼な赤毛クンは、A,B,Cなどのクラスじゃないと思うよ」

 

「そう、なんですか」

 

どこか剽げて言う誘酔だが、アリサにとって残念なところは、如何に2科生制度が撤廃されたとはいえ、そういったチカラによる階級制度は残っているということだ。

 

もちろん、魔法科高校以外の専科高校ないし普通科高校でもこういったことはあるのかもしれないが。

 

それでも……。

 

「……そうなんですか……」

 

何となく程度ではあるが、アリサの中に失望めいたものが生まれるのは仕方なかった。

 

自分はいまでこそ十文字の姓を名乗り、3年前に魔法師としての人生をスタートさせた。

 

殆ど事情を知らない人間ならば、ある種の『シンデレラ・ストーリー』『貴種流離譚』の一つ程度に思うかもしれない。事情―――といってもアリサの心情程度だが、それでも……。

 

(分かってはいたつもりだけど、これが魔法師の世界なんだよね)

 

誰に何があるかは分からない。アリサは、今まで自分が何者であるかも不透明。けれど、懸命に北の大地で生きていく人々を見てきた。時には本州よりも過酷な環境で生きてきた人々を―――。

 

だからこそ、そんな風に簡単に人を割り切るやり方は好かなかった。まるでそれは―――……。

 

「アーシャ! そろそろ行こっ!!」

 

「う、うん……それじゃ失礼します」

 

「ああ、アイネブリーゼのマスターによろしく」

 

茉莉花からの気付けで思索から帰ってきたアリサは、その茉莉花の手押しと先輩2人から勧められた喫茶店へと向かうことにするのだった。

 

 

 

 

―――そんなかしましい一年女子を見送った後に、勇人は隣の悪友に問いただす。

 

「アリサが気にかけていた『男子』。お前は本当に知らないのか?」

 

「いや全く。そもそも五十里さんだけでなく風紀委員の選出の関係で目ぼしい人間は、すでに見ただろ?」

 

「そうなんだが、お前の場合、こそっ、と。しれっ、と何かのかくし芸よろしく真相を披露することもあるからな」

 

建前上の友人―――と思っている誘酔だが、若干見抜かれている想いに苦笑しながら白状をしておく。

 

「まぁ決して悪意があって隠していたわけではないんだけどね。誰であるかは実は知っていた」

 

「なに?」

 

眉を上げて少しだけ怒っている勇人に苦笑し『困った風』を演出しながらも、少しだけ神妙にして口を開く。

 

「この一高に関わらず、ある程度出自や所属しているところを隠して魔法科高校に入る面子はいる―――先程話していた『司波達也』『司波深雪』だって入学した時点で『四葉』だとも名乗らず、九校戦でのキミのお兄さんの追求にだってしれっ、と嘘ついていたそうじゃないか」

 

「……確かにそういう話は聞いている」

 

我が事を棚に上げて友人に話す誘酔早馬、そして少しだけ唸るように手組をしながら返す勇人に続けて話す。

 

「魔法師的な感覚で言えば名前に数字を持っていたり、僕の名字のように『当て字』であったりで、おおよその『力量』とか様々なものは理解できる―――まぁそれは『置いておく』として、何かを隠しているように感じる経歴―――司波兄妹系統の人間に思えたのさ」

 

「ワケワカメな系統分類をするな。司波先輩が聞けば、真っ赤になって怒るぞ」

 

だが言わんとすることは勇人にも理解できた。理解が及んだからと納得出来ることがあるとは限らないのだが……。

 

「それと、勇人の恋路を僕は応援したいのさ。赤毛クンに興味津々な十文字さんなんて見たくはなかっただろ?」

 

「お、おいソーマ!」

 

「すぐに感情が表情に出るのは、勇人の美点だよ」

 

「いまの時点では弱点にしか思えん……でそいつの名前はなんて言うんだ?」

 

話の転換を求めるように咳払いしてから答えを求めると――――。

 

 

「――――――『エミヤ シロウ』。護衛の『衛』に宮殿の『宮』―――士郎は、戦士の『士』に郎党の『郎』だ。下位クラスであるG組所属だよ」

 

「―――そうか、エミヤシロウ……克人さんの言葉によれば司波達也は、入学初期からアレコレと騒動に巻き込まれ、時に騒動そのものを起こす人間だったそうだが……果たしてどうなるやら―――」

 

どうもなければいいんだが、と誘酔早馬は思う。

 

特に自分が受けた『密命』からするに、彼女を手に入れる関係上、余計な茶々入れは好ましくないのだが……。

 

(排除出来るか? 如何にテスト成績が下の方とは言え、相手のチカラが未知数な以上、接触は余計な疑念を生む……こちらは何も知らないのだ)

 

それとない接触で何とか出来るだろうか……考えながらも――――今は何もしないほうがいいだろうと考えて十六夜早馬は、結論づけておくのだった。

 

 

「我が夫よ。どうなされました? そなたの負の感情の理由を、このモルガンの耳に届けたもう」

 

『家』に帰ってくると、そこには超絶美人(爆)くすんだ金髪を黒いリボンでまとめた女性がいた。

 

そんなヒトに実情を教えるのに拘るものは無かった。

 

「たいしたことじゃないさ。ただ単に……生臭い場所に入学したことを嘆いている」

 

「やはり異世界とはいえ、レベルの低いところでは腐りますよ」

 

「だが……おぜぜを得るためにもしばらくは、そうしておかないとな―――何より……」

 

標的(ターゲット)に近づくには、その方がいいのだから……デストラクトコード『タツヤ・シバ』を封印するためにも………。

 

今は雌伏の時なのだから……。

 

 

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