魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第十八話『試合開始』

 

 

お互いの選手のリストが端末から投影されたホログラフの電子ボードにアップロードされ、遮られていた壁の向こうにてお互いに考えていたオーダーで対戦相手が確定する。  

 

試合は シングルス1、 シングルス2、 ダブルス1、 ダブルス2、 シングルス3の 順に行わ れる。

 

アリサはシングルスの3戦目、日和の元々の予定は4戦目のダブルス2だったが、2戦目のシングルスに変更されている。

なお日和と交代した初音は当初、人数の関係で最初と最後のシングルス二試合に出る予定だった。  

 

そして話題になっていた三高の緋色浩美の出番は、3戦目(最後)のシングルスだった。

 

「…… これは予想外といっても過言ではないわね」

「まぁ定石ではないですね」

「そうなの?」

 

服部部長の言葉にシロウが同意するとそれが意外なのか、十文字は聞いてきた。

 

「単純な団体戦形式でのオーダーで考えれば3戦勝っちまえばそれで終わりだ。となればS1とS2に自チームのエース格を配して、次のダブルスではそのエースを組ませたものをと考えるのが普通だろ」

 

3本指を立てた状態から1本ずつ折ることで十文字に説明をするシロウ。

これこそが星取り戦形式の団体戦の定石である。

 

「うん。衛宮君の言う通り、クラウド・ボールはインターバルがあれどもかなりハードな競技。けれど、テニスや卓球と同じくゲームオーダー自体は、やっぱり『ソロでも強い人』を1,2のシングルスに置くよ。当然、ある種の捨て試合として勝てれば良しとして残り3戦でという考えもあるけど……」

 

服部部長は、そういう考えでのゲーム運びはあまり好かないようだ。

 

「となると、先2つのシングルスの選手は緋色さんとやらよりも強いんですかね?」

「分からないわね。ともあれ、こうなってしまったからには相手にも失礼のないようにベストを尽くしましょう!!」

 

服部部長の威勢のある声で試合順番を飲み下して最後には決したわけだが……。

 

「十文字、今更オーダーの変更なんて無理だからな。はるばる遠方からやってきた相手さんにすっごい失礼だからな。やるなよ」

「わ、分かってるわよ!!」

 

半分ぐらいはオーダーの変更を申し出ようと声を出そうとしていたアリサの心を読んだシロウに思わず大声が出てしまった。

 

それぐらいに自分は分かりやすいのだろうか? などと少しだけ落ち込みながらも、仙石が決意を以てアリサに口を開く。

 

「アリサ……実戦形式だから、絶対に勝つよ私は」

「―――うん。分かってる」

 

仙石としては悔しいだろうが、それでもS2というエースがある場所に配置された以上は、それを全うするのは忘れない。自分の気ままでこうなったとすれば、それ以上は言えないのだ。

 

「じゃあユニフォームに着替えてくるわ。女子のお色直しは覗いちゃダメだぞ〜」

「なんて古典的なこと言ってるんすか」

 

副部長的な役職である服部と同じ2年生である保田(ほった)のからかうような声に半眼で返してから、行ってらっしゃいと言う。

 

そうしてからマネージャーとして確認作業はしておく。備え付けのウォーターサーバーもちゃんと駆動するかどうかのチェック。

何か怪我などをしたとき用の氷嚢としての氷、及び服の上からでもアイシング出来る器具。

手当用のテーピングなどの道具……とりあえず必要なものは揃えてある。

 

あとは選手個人でのCADやラケットを忘れてはいないだろう。そこまでは面倒は見きれない。

 

「……随分と熱心にやってるじゃん」

「そりゃ五十里がチャリティマラソンで走っているってのに、俺が仕事さぼるわけにもいかんしな」

 

いじけるようにというか悪態をつくようなつっけんどんな言い方をするのは、本日の練習試合にきた私設一高応援団の遠上である。

 

シロウとしては、その程度だ。やる気はないが任された仕事は確実に行う。その程度の気構えなのだ。

 

「あっちにいる女の子と話してきたら、なんかお前に視線を向けているしな」

 

名前は知らないが、部員ではないのか、それともマネージャーなのか分からぬ三高の女子と見た少女が遠上に視線を向けていたことは理解したので指で指し示して、そちらに向かわせようとするも。

 

「アーシャや先輩方の私物を漁らないか監視しなければならない!!」

「あっそ、お好きに」

 

そうこうしていたらば、全ての準備を終えた両校の選手たちが、コートに現れる。

 

全選手がコートの中央、ネット前に集まり。

 

『『礼ッ!!』』

『『『『よろしくおねがいします!!』』』』

 

互いの部長の言葉の後に一礼と共に、対抗試合というか練習試合は始まる。

 

 

服部部長がシングルス1、そして仙石日和がシングルス2……あちらが出してきた選手は両名にとってどちらも先輩だった。

 

一高には3年の先輩がいないので服部など2年が最高学年。そしてシングルス1では三高3年生と戦い、仙石もまたシングルス2で出してきた唯一の二年と戦うこととなったわけでーーーキャリアという意味では、明らかに分が悪いのだったが。

 

「はいだらーーー!!!」

 

服部部長が3年生に勝ち、その勢いがあるわけではないが、仙石もセットでリードを奪っているのだったりする。

 

「これは意外ね」

「部長、今日それしか言っていないです」

「そ、そうかしら!? ……まぁ服部家はなんというか予想外の事態に弱いというか、想像力が希薄な家系なのよ!」

 

ここ(大学)に通う従兄の一高OBも、伝説のOBの予想外な一手にやられたとのこと。要は服部家は想定外に弱い。慌てた服部初音の『言い訳』を聞きつつも、分析したことをとりあえず話す。

 

「あちらの2年生は何かを試しているのかもしれません。仙石は勢いよく返球していますが、あちらはボールを散らすことに意識を持っていますから」

 

シロウの言葉にアリサも、そう思って見るとたしかに日和にポイントが入ったとしても、構わずコートの四方八方にボールを散らすことに腐心しているように見える。

 

「あるいは仙石のデータとか無いから色々と引き出そうとしているとも取れます」

「そう言えばあっちのマネージャーらしき子のデータ取りが忙しないように見える、か」

 

2セット目は押せ押せであったものの仙石が落とし、インターバルをはさみ第3セット。

 

そのゲームの様子は先の2セットまでとは少々違っていた。

 

「勝ちに来たか」

「2セット目の中盤までは日和を探っていたのね」

 

決して仙石も勢いを失ったわけではない。だが相手さんは、一年この競技をやってきたというキャリア。

 

何より遂に見せた本気のスタイル……異様な戦型に惑わされていく。

 

(古武術か)

 

今までは爪を隠してきたとおぼしき三高2年の怒涛の攻撃の前に仙石は負けてしまった。

 

「十文字、タオル」

「うん! お疲れさま日和……」

 

今にも泣きそうな仙石だが、これも勝負の世界の非情な現実だ。後の人間(ネクストプレイヤー)の為にも相手から様々なものを引き出す。

だが、その見ようによっては生殺しのようなゲームプランをあまり良く思わないものが一高側にいた。

 

「勝つよ」

 

保田の勢いある言葉に同じく2年の先輩が応えて、ダブルス1は白熱した戦いになる。

 

インターバルのたびにシロウに分析結果を聞きに来るのはいいが……。

 

「練習試合なんですよね?」

 

本チャンの公式戦で相手の弱所を突けなくていいのか? と言外に含めて言ったのだが……。

 

「相手のデータだけ取って爪を隠すのは確かに利口だけど、今は勝つ!!!」

 

氷ごとポ○リを飲み砕く保田の表情に何も言えないのでそのまま送り出すことに。

 

結果として、ダブルス1は一高の勝利であったが……ダブルス2は残念ながら取れず。

 

因果なことに、縺れた試合の行く末は、このコートの中で一番勝利に対する希求が希薄な女。

 

十文字アリサの双肩にかかることになるのだった……。

 

 

「こちらの狙いは、あちらに火を点けてしまいましたね」

 

「少々、やりすぎたかしらね」

 

日吉という先輩の少々嘆くような言葉にそんなことはないと思っておく。

浩美としてはありがたい限りだった。仮にここから上達したとしても彼女…仙石日和とやらは歯牙にもかけない相手であるとしれたのだから。

 

問題は、十文字アリサである。

 

十文字家の息女……同級生である茜の言葉から前当主の『庶子』を引き取ったことを察しつつも、その境遇に同情など無い。

 

彼女を倒すことで、自分は自分を証明する。

 

そうして何気なく、一高側のベンチを見るとあの男子マネージャー(臨時)が、半眼で呆れるような調子で十文字アリサに何かを言っている。

 

十文字は苦しい顔をしているが……。

 

―――がんばれ、とかファイトだとか言ってくれないの?――――

―――勝利への欲求が薄い君にそれ意味あるのか?――――

 

大体、聞こえたことはこんなこと。

 

どういう意味なのかははっきりとは見えてこない。だが、それでも……。

 

(勝負の場においていまさらすぎる低俗な会話だわ。あんなふざけた連中なんか一蹴してやる。そして三高に伝説を刻んであげましょう)

 

そんな内心と同時の視線の鋭さを察したのか、あちらにいる男子マネージャーが、『苦笑』しながら手を上げて『騒がせて申し訳ない』とでも言わんばかりであった。

 

その素朴な顔に少しだけ目を奪われてしまった。あんな顔も出来るんだなと少しだけ浩美の中でのイメージを変えられつつも、十文字アリサとの試合は始まる。

 

 

 

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