魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第二十話『試合終幕』

 

 

再開された試合……。その戦いは、とんでもなく伯仲したものとなる。

 

「まさかテクニックを捨ててパワーで戦うだなんて……」

「緋色さんも、先程よりも動きがいいですね」

 

本来的なクラウド・ボールという競技はある種、『全てのボール』を返球するという『無駄事』を忌避している。

 

要は、『返せる球だけ返せ』という取捨選択が鍵となるものらしい。もっとも自コートに転がっていればその分、得点も開いていくのでコートから出すことも必要なのだが……。

 

十文字も緋色も力任せに全ての球を返すことに拘泥している。

 

(まぁ当たり前のごとく口火を切ったのがお互いだからしゃーないんだろうけど)

 

ペルタという並列する盾の魔法の他に十文字は『運動力を逆方向に飛ばす』という『盾』……リフレクトシールドといえるものも度々展開して緋色に自由な攻撃をさせないでいる。

 

必定、十文字が優勢を取っていく。

 

先程まではどちらかといえば緋色の方が打球処理という点で優位を取っていたが、ここに来て十文字のカウンターが決まっていく。

 

(卓球で言えばラバーがツブ高で、どんな打球でも変則的な回転で返球しているようなものだ)

 

もちろん、打球そのものに魔法の作用がかかっているわけではない。

 

要するに緋色は自分に返ってくる十文字の打球が『ペルタ』(素直な打球)なのか『リバース・アクセル』(意地悪な打球)なのかが読めないのだ。

 

(2つの魔法を並列使用しているわけじゃないから切り替えているんだろうが、頭は大丈夫なのかよ?)

 

シロウが心配する中、それでも必死になって戦うアリサ

 

対する緋色もまたいっぱいいっぱいになりながらも、この試合を落としたくないと思えていた。

 

十文字アリサを回復させたあの『笛の音色』。それはアリサの生体波動に合わせた調律だったものが、奇しくも緋色浩美の体をも復調させていたのだ。

 

(エミヤくん……まだ名前すら定かではないアナタは、私を癒やしてきた。その心に応えたい!)

 

嫌悪感はない。十文字だけを対象としたヒーリングだったとしてもそれを受けたならば勝ちたいと思う心があったのだ。

 

そしてお互いに打ち合い、返し合い、コートに飛び込ませてきた球の結果は―――。

 

コート全体が発光を示して試合終了を示す。

 

刻まれたスコアは。

 

78−85

 

第三セットを制した十文字アリサの勝利であった―――――――。

 

「アーシャァアアアアア!!!!」

 

感極まったのか叫びながらコートに駆け出す遠上。それを見ながらも入力を終えたシロウもまた足は大丈夫なんだろうか?と思い椅子から立ち上がりコート側に歩み寄る。

 

道産子レズレズな2人の抱擁が始まると思い、紳士は見ないでおくのがマナーだとわきまえて眼を下の方に反らしたシロウだったのだが……。

 

「シロウくぅううううううんんん!!!!」

 

「なんでさっぶっ!!! おい、十も…汗臭(あせくっさ)!!!」

 

日頃の鍛錬の賜物などとは言わんが、遠上を無視して自分に抱きついてきた十文字を抱きとめるのに急遽バランスを取った。

 

その際の動きに三高の生徒、遠上を見ていた女の子の目が少しだけ鋭くなったが、匂いがキツすぎる十文字アリサのことで手一杯になりそれどころではなかった。

 

「くぉおおおらああああ!! 衛宮シロウゥウウ!! いつまでもアーシャに抱きついてるんじゃない!!」

 

「抱きついているんじゃなくて俺は抱きつかれているんだ! つーか俺だって汗くさっ! クラリスを抱き寄せなかったルパン三世のように―――本当に、カンベン願うよ十文字……」

 

当たり前のごとく抗議してくる遠上に反論するも、その前に未だにシロウに密着してくる十文字を引き剥がそうとするも一向に離れてくれないのだから。

 

「や。アナタのおかげで私は―――だから、これはお礼なのよ……」

 

感極まっているのか、笑みを浮かべてからさらなる密着。その魅惑的な目を閉じて長いまつ毛を見せている十文字だが、こっちとて少々のっぴきならない状況なのだ。

 

「一高全男子が注目している君の汗臭さに俺は幻滅してくれやと言いたくなる……」

 

「意外と勇人君なんかはそれでもいいとか言いそうだけどね」

 

「副会長の恋路はともかくとして――――さっきから端末で撮影しないでもらえます?」

 

昔風に言えば『写メる』と言えることで衝撃的な場面を撮影している一高、少し遠くの三高女子の面々に辟易する。

 

一番辟易するのは抱きついてきた汗臭すぎる十文字なのだが。

 

「とりあえず最後の礼をして対抗試合を終了しましょう服部部長。集合・整列、そして遠上、十文字に肩を貸してやれ」

 

なんで部外者で臨時マネージャーである自分がこんな風に場を仕切らねばならないのか、意味不明さを覚えながらも試合終了へと持っていくことにするのだった。

 

『魔法大学附属第一高校 対 魔法大学附属第三高校の試合は、ゲームカウント 3−2 を持って魔法大学附属第一高校の勝利です』

 

少し遅れて電子音声によるアナウンスが聞こえてきた。どうやらそういう風になる仕掛けだったようだ。

 

『両チーム コートに整列してください』

 

遠上に肩を貸してもらった十文字が少しだけ遅れてコートに集合。

 

「「礼っ!!」」

『『『『ありがとうございました!!!』』』』

 

両部長の合図を以ての一礼で対抗試合は終わるのだった。両校の選手が握手をしたりするのを見ながらも……拍手しながらシロウは思う。

 

(少々、見せすぎて響かせすぎたな)

 

何となくコートの中央の乙女たちよりも、自分に注がれる視線を感じる。

 

それに気付いている風を見せずに気配を探っておくも意味はないことに気付いて、片付け作業をするのだった。

 

「歩行アシスト機器は持ってきた。ただ大学の備品だから戻ってきたらば―――遠上がテーピングしろ。お前、獣医の娘で生傷絶えないファイトクラブの部員なんだしやれるだろ?」

 

「出来らぁっ!!!」

 

整列から戻ってきた面々の中でも、けが人を気遣っていたシロウがやると言う前に遠上にスルーパスを出すのだった。

 

ビッグ錠先生よろしくな返事に満足しながら、遠上含めて全員をシャワーに向かわせるのだった。

 

「ちなみにシロウくんはシャワー浴びないの?」

「シャワー室の使用許可は女子にしか降りてません」

 

汗をどっぱどっぱ出した十文字に抱きつかれたことで、自分とてシャワーでも浴びてから着替えたいが、とりあえず今の優先は女子陣であった。

 

ともあれ試合開始前よろしく女子陣を着替えにやってからシロウは、後片付けに邁進するのだった。

 

「お互いにお疲れさまですね」

「―――ああ、お疲れ様」

 

三高側のマネージャーらしき人、遠上と熱い視線を交わしていた女の子がこちらのベンチにやってきて、そんなことを言ってきた。

 

「そっちの片付けはいいのかい?」

 

「君が十文字さんと抱き合っている衝撃的な場面の間に終わらせといたんだよ。浩美が君と話したいと思っていたのにね」

 

「なんていったらいいのか分かんない」

 

緋色浩美は、自分と十文字がイチャコラしているなどという誤解をしているのだろうが、それを殊更訂正しようとは思わない。

 

「まぁ緋色さんからすれば、何か真剣勝負の合間に男としゃべるふざけた輩に見えたんだろうな。生憎、俺は十文字に男として思うところはない」

 

「そうなの? 彼女、ずいぶん可愛いと思うけど?」

 

「見目の良さだけで全てが決まるわけじゃない。そういうものだけで相手を想うなんてのはドツボにはまる一歩だと思うけどな」

 

シロウの放った言葉に『何か』思い当たる節があるのか、話しかけてきた三高女子がすごく思い悩んだ顔をして、反論の言葉を出そうとして―――断念するのだった。

 

「今後もこんな風にマネージャーするの?」

「今回っきりだよ。俺は臨時の人員」

「私はどこかでまた会うと思うなー」

「カンベン願うよ。俺は魔法科高校の劣等生だからパシリに使われているんだよ」

 

お座なりな言葉で話を濁しつつ、そう言えば名前を聞いていないことを両者は思う。

 

「私は一条 茜。君はエミヤシロウくんでいいのかな?」

「姓は衛宮、名は士郎のしがない15の男子でござんす。忘れてくださって結構です」

 

旅がらす風の言い方で煙に巻きつつも、十師族と対面したことに少しは驚いたほうがいいかと思ったが……。

 

「イギリスにいた期間が長いんだ。だからこっちの数字持ちなんかの制度に、いまいちピンとこない」

「べ、別に何か驚かれたかったわけじゃないけど!」

 

やはり反応の薄さを怪訝に思っていたようだ。別にいいけど。そうしていると―――

 

「茜、浩美がコナかけたい男子にちょっかい出すのはどうかと思います。軽い逆NTRですよ」

「死語のオンパレード!! レイちゃん酷すぎるっ!」

 

やってきた少しだけ切れ長の目をしているツインテール女子に気付く。

 

―――劉道士の孫―――

 

一条茜よりもシロウとしては、こっちの方が目を惹いたが、それを気取られずに話す。

 

「一条レイラと言います」

「衛宮士郎です」

「な、なんかすごく事務的なやり取り!」

 

下心満載で接したほうがいいわけがないという当たり前は一条茜の中には無いようだ。

 

「知り合ったばかりだし」

「茜と違って男子との距離感をバグらせる女子にはなりたくないので。真紅郎さんが泣きますよ?」

 

そういう子か。と一条茜のパーソナリティに対する判断を下しつつ、作業は完了するのだった。

この後、シロウは面倒なことに一高に戻って生徒会や部下連に種々のものを提出しなければならない。

クラウド・ボール部は予定通り打ち上げにでも行けばいいだろう―――などと思っていた矢先……。

 

「―――やっと、やっとお話出来ると思っていたらば―――茜、レイラ!! 2人して……!!」

「どうも。今日は色々とお疲れ様」

 

随分とめかし込んだ衣装の緋色女子が、他の面子に先立ってやってきたのだった。適当に挨拶をしたのだが……。

 

「お、お疲れさまです。赤髪の貴公子―――」

「妙な名前を着けないでくれ。衛宮士郎です」

「緋色浩美です。今後ともよろしくお願いします」

 

その妙な名前で呼ばれるのはイヤで自己紹介をするのだった。

 

「今日の試合は何の参考にもならない。十文字は当たり前のごとく怪我をしていたし、演算領域は疲労していたからな」

「それを癒やして万全以上に送り出したんですね」

 

少し怒った口調の緋色さんに申し訳ない想いを覚える。

 

「そういうことだ。次に戦う時に俺はいないわけだから、それを念頭に入れてくれ」

「つまり?」

「フェアプレーから逸脱させて申し訳ない」

 

その言葉に少しだけ驚いたふうになったあとには緋色浩美は柔らかな笑みを浮かべる。

 

「そこまで気にしなくてもいいですわ。アナタの音色に私も癒やされたのですから」

 

やはり彼女にもシロウの音色は響いていたようだ。

 

「ですが次は勝たせてもらいます。十文字さんにも仙石さんにも」

「がんばってくれ」

 

どちらにも肩入れ出来ないのでそんなことしかシロウは言えない。今回は十文字に肩入れしすぎたのだから。

 

「ところでシロウ君は、この後どうするんですか?」

 

「とりあえず一高(ガッコー)に戻って資料の提出かな。どうやら九校戦関連で色々とデータが欲しいらしいし」

 

「クラウド・ボールは競技には選定されていないはずですが」

 

「らしいね。けども上役は色々と知りたいんでしょ? 類似の競技種目でも何か選考基準になるかもしれないし」

 

その辺りは部活連の領域なのかもしれないが、まぁとにかく五十里及び生徒会から言われた臨時のマネージャー業はそこで終了するのだ。

その後のことはシロウには関係ない。

 

「……東京を案内してほしかったんですけどね……」

「デートの誘いですよ衛宮君」

 

言われずとも分かる。一条レイラの耳元でささやく言葉に心中でのみ言っておく。

 

「東京観光は女同士で行ってきなよ。これだけの女子の中で男一人は肩身が狭すぎる」

「フラれたね浩美」

「そんなに下心があるわけではありませんよ」

 

それならば、いじけるような顔をしなくてもいいだろうに。

 

そんな風に雑談をしていると、一高、三高ともに戻ってきた。この後の予定としては、一高はどうやらこの辺(大学近く)のレストランで食事のようだ。

 

三高の方はどうやら大学に通っている三高のOB・OGたちから、ちょっとお高めの店でゴチになるようだ。その中には兄弟・姉妹・親族…色々と関係あるのだろう。と思いつつ服部部長に諸々話しておく。

 

「衛宮くんも来ていいんだよ」

「いや、別に俺は卒業生に誰か知っている人間がいるわけじゃないし、あくまで臨時なのでゴチになるのも汗臭い男がいて場が白けるのもマズイでしょ? それに碓氷会頭がデータは即日提出って言ってきて(メールして)ますし」

 

十文字に聞かれないように、もっともらしい言い訳(虚実混ぜつつ)を付けてこの場から離れようとするのであった。

 

件の十文字に関してだがテーピングは完璧。

歩行アシストの機器はどうやら大学通いの服部部長の兄貴(?)のロリな彼女(?)らしき人から借り受けているわけだから―――。

 

(何も問題はないな!)

 

そうして服部部長から許可を貰ったことで理由付けは出来た。

その際に、巨漢……スーツ姿の男―――何か見たことある人間が目ざとく見ているのを認識しつつも構わずに、お節介をあまり焼きたくないエミヤシロウは魔法大学からクールに去るのだった。

 

後日、本日のことが原因で色々と一高は混乱に陥るもこの時にそれを予想していろという方が無理筋である。

 

 

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