魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第二一話『相対立場』

 

「ほぅ。一条茜に会ったのか?」

「十師族というのは分かりますけど、何だか魔法力だけでないものを感じたというか」

 

感受性豊かな後輩だなと感心した北畑千佳であったが、それだけで分かるものなのか?

 

「武を極めた者はその身にオーラを纏うという」

 

そんな女子2人の会話を聞いていた千種正茂が自信満々にそんなことを断言するのを聞いて、茉莉花は小声で千佳に問いかけた。

 

「本当ですか?」

「いや聞いたことがない」

「良かった……」

先輩の断言になんとなく安堵しているうちにも千種はあとを続けてきた。

 

「強き者は強きオーラを発し、弱き者を寄せ付けない。強者に挑めるのは強者のみというわけだ。僕が衛宮君に勝負を挑んだのもそれを感じたからだ」

「そして、その直感は間違っていなかったがファーストコンタクトがワーストコンタクトすぎて、お前は嫌われたじゃないか」

 

両部長の言葉の応酬。茉莉花が嫌う相手のことをあまりにも親しい人間かのように話すのにむかつきを覚えるもそれを表に出さずに会話をする。

 

「あとで映像を見せよう。北陸地区でのトーナメントのものだ」

「ありがとうございます」

 

この競技を続けていればどこかでは戦う相手であるならば、その戦い方を見るのも一つだ。

 

あるいは先入観を持つことが不味いという理屈もある……どちらかと言えば茉莉花は対策を持ちたいので、資料があれば見たい人間。というよりも色んな戦闘者の動きは見たい人間なのだ。

 

「ところで……その一条を見た試合で、だな……十文字がかなりスゴイことをしたそうだな」

 

「思い出させないでください。本当だったらばアーシャとエンダーハグをするのは私だったのに、何でか知らないがあんなやつと……」

 

咳払いして当日のことを聞いてきた北畑に複雑な思いで語る茉莉花。あの後、夕食の為にアリサの邸宅を訪れた茉莉花が一緒の入浴で聞いたことも加味して色々と複雑なのだ。

 

「けど、彼女どうやら脚を怪我して普通ならば戦えなかったんだろう?」

 

「ああ、それならば―――」

 

茉莉花の繊細な心情を刺激しつつも、核心の部分を聞き出すことに成功したマジックアーツ部の男女部長は、内心でのみ悪い笑顔をするのだった。

 

 

「―――つまりだ。克人兄さんとしては、君と一度話したかったそうなんだよ。それなのに、君は早々と帰っちゃったし、少しショックだったってさ」

 

「そいつは失礼こきましたね。けれど、その十文字OBの実妹から汗臭さを移された上に、会頭という同じ役職だった後輩から即日提出と言われてましたのでね」

 

会食に来なかった理由をつらつらと語りながら思うに……。

 

「副会長、ヒマなんすか? 真面目に自主練に取り組んでいる一年生にうざ絡みして、ヒマなんですね」

 

「そんな訳あるか! ああ……いや、それにしても……」

 

「何度か言っていますが、俺は十文字アリサに興味ないんです。これが聞きたかったのでは?」

 

「そうか……」

 

そう安堵した後には―――。

 

「じゃあこれはなんなんだ―――!!!???」

「勝手に抱きついたことまで知るかぁあああ!!!!」

 

概ねの一高生が知ったり見たことがあるだろう画像なり映像……十文字アリサが衛宮シロウに抱きついてきたワンシーンを端末に写して迫りくる副会長に抗議しながらも自主練を切り上げることにした。

 

これ以上は他の練習面子の邪魔になると思ったからだ。

 

「そこまで想っているならば一度ぐらい告白したらどうなんですかね? 回りくどく妙な気遣いだけで女の心を射止められると思っているならば、そいつは認識があまい」

 

「……十文字家にも色々とあるんだ。君のような部外者に言われたくないな」

 

「だったら十文字アリサという『ご令嬢』に、海の物とも山の物ともつかぬ馬の骨と接触をさせないように言えばいい。アンタからこうしてうざ絡みされるのも、本当にうざいからな」

 

「……君は本当に口が悪いな」

 

「アンタの性根が腐っているからな」

 

舌戦では勝てないことを悟った十文字勇人……名前に沿わず色んな意味で勇気、あるいは侠気(ゆうき)が無い、足りない人間は当主であり義兄でもあ

る克人に言おうと思うのだった……自分から言わないところが実に名前負けしているのだが。

 

そんなことは知らないシロウはとっとと演習室を出るのだった。

 

演習室を出て今日はバイトの日であることを理解していたシロウは、とっとと校内から去ることにする。

 

『我が夫よ。侵入者が出たが『適当』に追い返した。異論はないな』

 

―――ないよ。ありがとうモルガン―――

自分のサーヴァントを信用しているシロウは、その想いを込めて女王陛下に念話で言っておいた。

 

『今日は久しぶりにバルバジュアンを食べたい気分です。私は所望しますよ。バルバジュアンを』

 

その言葉に苦笑しつつ、『畏まりました女王様』と戯けて言っておくのであった。

 

 

そんなシロウとは対照的(?)になのか図書室で念話ではなく男女の直接対話をしていた方は少々、空気が重くなりつつあった。

 

 

「じゃあ……衛宮君が好きなの?」

 

対面に座る少年の言葉にドキリとする。茉莉花……ミーナにも言ったことだが、同年代の男子に語るとなると少々考えてしまう。

 

「多分……最初は、私の弟……詳しく言えば面倒だけど、今は三高に通っている人と同じく私に少々辛いから何となく気になる程度だと思っていたの」

 

一拍置く。特に促すこともなく対面の少年……唐橘 (まもる)は聞き役に徹する。

 

「だから入学式の時に無視されたことが、少しだけ傷になってそれでも弟の時みたいな関係悪化だけはイヤで部活見学の時に話をして、そしてそこでシロウ君の戦いを見て少しだけドキドキした」

 

「………」

 

「その後も接触を図ろうとするたびにウザがられても、何故か気になってしまってどうしても―――そして私の内面を評されても……そうして彼の魔法を教えてもらった際に彼の内面を少しだけ見て……そして、何ていうかシロウ君が私を見てくれていることが凄く嬉しかったんだ」

 

「だから対抗試合で強敵にも勝てたんだ」

 

「うん」

 

役も休日の対抗試合での相手が強いかどうかはクラスメイトである仙石ぐらいから聞いていないが、かなりの大金星であったことは間違いないらしい。

 

その立役者の一人として衛宮士郎という同級生がいる……それを聞きたかったのだが。

 

(のろけ話をここまで聞かされるとは思わなかった……!)

 

顔には出さなかったが役としてはかなり辟易するものもあった。

別に十文字に明確な恋愛感情があるとまでは言わないが、今まで勉強を通じてそれなりに親しくなったと思われる少女から他の男のことを語られることがここまで苦痛だとは思わなかったのだ。

 

少しだけ話しを転換するために、自分のことと照らし合わせて衛宮士郎という男の内面を探ることにした。

 

「僕も魔法師としての修練や理論を学び始めたのはつい最近……殆ど素人同然だけど……そんな僕よりも衛宮君が下のクラスってのはちょっと道理が合わないような気がするんだけど」

 

これ(魔法)ばかりは勉強みたいに努力だけで到達出来る範囲が違うから。最後にはセンスが必要とされる分野なの」

 

「そうなんだ……」

 

アリサの言葉に改めて自分が入り込んだ世界の無情さを再認識してしまう。

もちろん勉強だって暗記ではなく理論記述や数学的な『ひらめき』が大事な分野もある。

 

だが、基本的に勉強において暗記というのは大きなファクターなのだ。

 

「けどシロウ君はあえて下のクラスにいるような気がするな。本人も『取れるなら下位の魔法師資格でいい』とか言っていたし」

 

「……随分と違うんだね」

 

今まで魔法に関わらない生活をしてきた唐橘役という人間からすれば、魔法師というのは随分と特権的な人間に見えていた。

本人たち(魔法師たち)は『そんなことはない』と言うかもしれないが、それでも何というか『貴族ぶっている』とでも言えるし見えるかも知れない。

 

無論、役も医者を目指すくらいには家は裕福な方だったが、それでも周囲からはそう見られていたのかもしれない。

 

「じゃあ彼の魔法は―――」

 

「あっ、ストップ。例え第三者の口からとはいえ、必要以上に『他者の魔法を探らない』というのは魔法師が身につける必須のマナーだから」

 

本人がひけらかすというか教えるならばともかく、そういうことは一種の恥知らずの行いではあるのだ。

手のひらを立てて役の言葉を遮るようにする十文字アリサ。

 

だが一つの事実を役も知っているのだ。

 

「うん、肝に銘じておく……けど仙石さんから十文字さんが衛宮君の『魔法』を知るべく結構粘着していたとか聞いたけど」

 

ちょっとだけ痛い所を突かれるも、あれも本当は……シロウにかまって欲しいからこそごちゃごちゃ理由を付けていたのかもしれない。

 

矢車先輩の一喝でその辺りは何とかなったのだが。

 

「あの時は必死だったから―――」

 

結論、恋(?)する乙女は色々と複雑なのだ。

 

明後日の方向を向きながらバツが悪そうに言う十文字アリサに何とも言えぬ複雑な想いを抱くのであった。

 

そして月日はそれぞれで等しく流れていき月例試験の日になった―――。

 

―――月例試験が終わり、結果として……。

 

「ぐぬぬぐぬぬぐぬぬぬぬ!!!!」

「ミーナ、お目出度う。来月から同じクラスだね」

 

出た結果に対しては嬉しい。来月から姉ともいえる相手と同じクラスで勉強できるのだから。

 

しかし―――先ほどから唸ってばかりの茉莉花にとって恐るべき、忌むべきこととも言える結果まで出ていたのだった。

 

一年月例試験 

学籍番号XXX  衛宮士郎 G→A

 

張り出された試験結果ともいえる学内ネットの中に、注目すべき……いや見たくはなかったものが出ていたのだった。

 

「まさか本当にA組になるだなんて……」

 

驚いている五十里 明の言葉。彼女もこの結果だけは予想外であったのだろう。

 

「カンニングしたに決まって―――確証のないことは言わない方がいいよ、ね……?」

 

勢い込んで下衆の勘繰りという卑しすぎる言動をしようとした茉莉花を睨むはアリサ。

 

食堂にて大声を出そうとした茉莉花だが、それを抑え込むだけの『威』が、最近のアリサからは感じ取れるのだ。

 

「ところでシロウくんはまだ来ないんですかね?」

 

今日の女子たちの昼食に誘った男子がやってこないことに疑問を覚えた小陽の言葉には、誰もが疑問を覚えていた。

 

 

 

「紀藤先生の理屈で言えば、俺は『数』に対する認識が違うんですよ。『キャトル・ヴァン』って知っています?」

 

「いや知らないな……」

 

「フランスにおける数字のカウント(数え方)でして、『80』という数字はイギリスはたまた日本では概ね二十の塊が四つという概念が一般的でイギリスではFour-scoreともいわれています」

 

「フランスでは違うの?」

 

「違います。二十をひとつの単位にするのは、イギリスを含むヨーロッパではよくある数え方で、フランス語も同様です」

 

名前が分からない女教師の質問に少しだけ応えてから詳しい説明をする。

 

「ですが、八十だけは特殊。キャトル・ヴァン(quatre-vingts)といいます。英語と同じような数え方なのに、わざわざ複数形の「s」が二十(vingt)の方につく。つまり、フランス語の八十だけは、二十が四つなのではなく、四が二十個あるという考え方が一般的なんです」

 

怒涛の説明。まさか外国……しかも魔法後進圏における数字の概念で日本の魔法課題を処理するとは。

 

「ゆえに―――例えどのような課題であろうとストップカウント(時間指定)式のテストならば一六〇秒間であろうと、二五〇秒間、はたまた最難度の鉄鉱石で二〇〇〇秒間のカウントであろうと、俺にとっては何の苦でもないというわけですよ」

 

時の支配者(アイオーン・クロック)という単語が似合うぐらいに、『over count』をしない男に教師陣一同は複雑な顔をする。

 

「……教師としては生徒が独自の手法で工夫してやった結果であると好ましいことなのだろうが、研究者としては少々複雑だよ」

 

「そうですか」

 

「……何とも平淡な答えだな」

 

「中年男性教師のおセンチな心なんて聞かされてもな。そういうのは隙を見せたい女性の前でやってください」

 

中々にクリティカルな一言を放たれて少々どころかすごく苦い顔をする紀藤だったが、生徒にあしらわれたことで、それ以上は恥の上塗りとなるのだった。

 

(すぐさま次のテストでも用意して上のクラスに上がった下位連中を叩き落とす算段でもつけているだろう。それまでは辛抱だ)

 

早くて一週間後、遅くても二週間後にはそういうテストが出されるだろう。

 

教師連中から開放されながら考えることはそんなところだ。

彼らは『優秀な魔法師を鍛えたい』のであって。

 

『不出来な魔法技能者を魔法師にしたいたわけではない』のだ。

 

つまり『石ころ』を磨いて輝かせたいのではなく、『原石』をカッティングして『宝石』にしたいのだ。

 

かつていた『塔』のロードなど権力者たちに見られた幼稚で低劣な選民思想を肌で感じながらも……。

 

(最低でも一週間はケンカ犬な遠上とクラスが一緒だとか最悪だ)

 

気鬱を溜め込みながら廊下を歩くのだった。

 

 

 

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