魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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大体この辺りまで書きたかったのだが長くなりそうなので、ちょっと区切りましたが、これで2巻分ぐらいの話は終わったことになります。




第二二話『廻天世界』

 

 

月末の日曜日。

 

一高の生徒と教師二人が、とある場所に呼び出された。どちらも男であり特殊な性的嗜好が無い限りは誤解なきものだが……ともあれ、呼び出された屋敷にて、自分たちの主とも言える相手に拝跪するように頭を下げた。

 

古式ゆかしい屋敷…その応接室にて1人の男……五〇代後半から六十代前半と思しき男に様々なことを説明する。

 

同時に、紀藤と誘酔どちらも『探れなかった人間』に対して話は移る。

 

どちらからも報告を受けた主……『安西勲夫』は。

 

「捨て置け。そのような野良犬など興味がない」

 

「「………」」

 

十文字アリサ、遠上茉莉花という安西たち権力者の『手駒』になりそうな魔法師に関しては身を乗り出さんばかり―――とは言いすぎだが、誘酔と紀藤の話を企業の上司のように『プロジェクトの進捗やリスク』を聞くかのような態度とは全く異なものであった。

 

まったくもって興味がないという態度に少々物申したくなった。

 

「ですが御前、衛宮士郎は明らかにこの二人にとって不確定要素です。排除するなり、遠ざけるなり何か対策を」

 

「早馬」

 

「―――申し訳ありません。口が過ぎました」

 

隣にいる紀藤から短く窘められて、気付いた早馬が椅子に座り直しながら頭を深く下げる。

 

「……ふむ。時には少々、全容を明かさなければ配下の勇み足で引っ込みがつかなくなりそうか」

 

「慧眼かと、特にまだ十代の少年ですからね」

 

「お前も私からすれば二〇代の若造なのだが」

 

「失礼いたしました」

 

そのやり取りの間に安西はハウスメイドを呼ぶように鈴を鳴らしていた。

予め取り決められていたことなのか、少ししてから応接室に入ってきたメイドは『洋菓子』と『茶』を乗せたトレイを持ち、音も立てずにそれらを自分たちの前にあった机に置く手際。

 

その後には『失礼します』とだけ言ってから部屋から去った。

 

「少々長い話になろう。茶請けを用意した。遠慮せず摘みながら話を聞いてもらおう」

 

安西はそう言うが、毒でも入っているのではないかと少々緊張する早馬。逆に慣れ知った調子でそれを飲み菓子を摘む紀藤だったりする―――。

 

そして安西は重々しく口を開いて裏側の事情を話す。

 

「簡単に言ってしまえば、今後の日本の国防には『異端』はいらんのだよ。その意味では数字持ちも例外ではない」

 

「つまり」

 

「他の『長老』ども……特に東道は下手を打ったものだ。だが、さもありなんだ。力だけを与えてあらゆる情動をただ一点に集約させた人間兵器なんてのは制御が利かないガラクタも同然」

 

その言葉で一高にいる2人は誰のことであるかは一瞬で理解できた。

 

「仮にヤツが昏睡状態に陥らなければ、何事もなく元気に動き回っていれば、東道でもいずれ御しきれなかったろうな。あるいは反旗を翻されていたか」

 

安西からすれば、人間らしい感情を持たない人間に運命を預ける気はない。それが例え、どれだけ強力な存在で、何かを変えられるだけの存在であっても。

 

郷土に、隣人に、他者に、一切の情けを掛けられない―――『愛』を持たない非人間が求めることなど最終的には恐るべきディストピアである。

 

「違う者を斬り捨て、異なる者を削ぎ落とし。自分に媚びへつらう人間だけが人権を得ている(生きられる)世界などいずれは崩れるだけだ」

 

一拍置いて、安西は続ける。

 

「あの小僧のご機嫌取りをしていなければ生きていけない世界など死んでいるのと同じだよ。そんなものに縋って生きるぐらいならば、潔く死ぬだろうな」

 

「御前……」

 

「だからこそ、『最強』でも『無敵』でもいいのだがな。ケンカをした後にケンカをした相手すら居なくなり互いを称えることも握手を交わすこともなく、相手を貶めるやり方はただ単に憎悪を積むだけだ」

 

それはあの男を全て否定する考えだ。

だが俯瞰して考えるに、あの男はやりすぎた。

 

やりすぎたからこそ、現在の混乱は起こっている。

殺しすぎたからこそ、現在の混沌は極まっている。

 

「私はこれから既存の数字持ち制度では拾い上げられていない魔法師、あるいは数字落ち、十師族の庶子たちなど不遇をかこつものたちを『一つ』にする制度が必要だと思っている。その為の施策もある―――。そのためのお前たちということだ」

 

そういうことかと思いながら、それならば余計に―――。

 

「仮に……この衛宮という少年こそが、十文字アリサを受動ではなく能動で積極的な態度にさせるというのならば、それはいいことではないか。お前が精神操作をするまでもないだろう」

 

「―――分かりました」

 

御前の考えがそうであるならば誘酔早馬としては是非もない。

 

別に自分もあえて女の子を意のままにする魔法を使いたいわけではない。自分の思うままに誘導したいわけではないが……それでも―――。

 

(あの後輩は何かが危険だ)

 

その直感だけは大事にしておこうと思うのであった。

 

菓子と茶が無くなると同時に2人は屋敷を辞するのだった。

 

 

「妹や義兄からも聞いている……が、俺としては姉が何処の誰といい感じになろうとあんまり興味がないんだよ」

 

「私は、あなたのお姉さんが恋敵になっちゃってるのに!」

 

「この……えいみ―――衛宮士郎と呼ぶのか。この人が、どうだろうとさ」

 

だが実際は兄であり十文字家当主である克人も、何故かこの少年に注目をしていることは遠く金沢にいる十文字龍樹にも伝わっている。

 

目の前で意気込む緋色浩美まで何か思う所はあるらしい。その事実に、この魔法師に何があるのか分からなくなる。

 

混乱しそうな頭は凡そ一ヶ月後に更に混乱して、そして最大の敵愾心を植え付ける。

 

十文字龍樹という魔法師の敗北とともに……。

 

 

「アリサ! ビッグニュースでグッドニュース!!」

「どうしたの明? そんな勢い込んで」

 

生徒会役員の五十里 明がこのような調子になるなどただ事ではない何かがあるのだろう。

 

だが、生徒会役員たる人間に『出たくない』と言っていただけに……もう何か予測が着いたのだ。

 

昼休みに生徒会に行っていた五十里がこれなのだから……。

 

「九校戦でクラウド・ボールの復活が決まったわ!! これで出たくないなんて言ってられないわよ!!」

 

(私にとってはバッドニュースすぎるわよ!!)

 

戸惑うどころか物凄くイヤな顔をすることで抗議しつつ……。

 

「別に私が選ばれるとは限らないでしょ? 知ってるわよ。かつて九校戦競技に確実に選ばれていた頃のクラウドには『部員』が選手として『絶対』に選ばれていたわけではないこと、そして優秀・優勝選手も殆ど『部員』じゃなかったことも」

 

論理立ててその誘いを断ろうとするのだった。

 

「そ、そうだけどさ! けど選考の最有力ではあるんだよ!? アナタは十師族でさらに言えば練習試合とはいえ三高の緋色浩美というクラウド・ボールの優秀新人を破ったんだから!!」

 

それもまた『事実』でしょ!? と念押しする明にどうしてもアリサは苦しくなる。

 

瞬間、アリサがうつむいた一瞬で明はA組全体に目配せをする。

 

ここで畳み掛けるべきだと!

 

「十文字さん、頑張ろう! 俺も内示を受けているから戦うつもりではあるんだよ!」

「アーシャ、頑張ろう! あたしは選ばれるか分からないけど練習相手でも必死になるから!!」

 

火狩と茉莉花の怒涛の口撃―――エールでしかないのだが、そういうふうにしか聞こえないアリサの耳。

 

A組生たち全員が、頑張ってだのFIGHT!だの言って最後には……。

 

「アリサ!」「アリサ!」「アリサ!」

 

だのとんでもねーコールを連続するのだった。

 

こういう悪ノリ―――ではないのかもしれないが、こういう人を持ち上げる行為に冷水を浴びせて。

 

――イジメかっ!!――だの言ってくれる赤毛の魔法使い……衛宮士郎の席には誰も居なかったのだ。

 

「そうだったわ……もうシロウくんはA組じゃないんだぁあああ!!!」

 

『『『『な、泣かせてしまったあああ!!』』』』

 

A組のクラスメイト達はそんなつもりは無かったのだが、不幸なことにアリサが縋ったのが、あの『バルバジュアン』ならぬ『ジャン・バルジャン』のような男であったのだ。

 

結局、次の時限の講師がやって来たことで騒ぎが収まり、それでも……十文字アリサを九校戦に参加させるのは至難の業だと誰もが思うのであった……。

 

 

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