魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第二五話『故人廻想』

「今回の一件ではキミ、大丈夫なのか?」

「問題ない。アンタこそいいのかよ? 俺みたいなろくでもないのを日本にまで送り届けて」

 

その言葉に便宜上ロシア人であるユーリィ・ガマルエフは少しだけ笑う。

 

「最初、キミにあった時には死にそうな姿だったが、その後に目覚ましい回復をした時にはゾンビかヴァンパイアかと思ったほどだ……そして『その後のこと』は良く聞いている」

 

「苦々しく思わなかったのか?」

 

「ないな。俺はスラブ系の名前を持っているが祖先は殆ど君たちと変わらない。モンゴロイドというだけでなくね」

 

その言葉で多くを察することが出来た。彼にはあのWW2での悪名高き協定破りの満州侵攻で在留日本人に対する悪行の末の祖先(ひがいしゃ)がいるということだ。

 

ロシア人でありながらロシア人の礼儀と行儀の無さと低劣・下劣な民族性を心底嫌っている。

そういう人物のようだ。ユーリィ・ガマルエフという男は……。

 

だからこそ軽部裕理という名前で日本に帰化出来た時は嬉しかったとも聞く。

 

「君が欧州で多くの『混乱』を起こしたことで新ソ連から逃げ出したいという人々が『解放』された……ありがとう『デミヤ』」

 

「……日本でも同じようなことを俺はやったがな」

 

「まぁ魔法師になれなかった友人にとっては痛快だったかもしれない。だから関知しないさ」

 

なんて無情なと思いながらも、揺られ続けた車が停車をする。

 

終着点だ。

 

「それじゃ、もう会うこともないだろう―――ただ、『頼み事』は早めに言っておけよ。別に延命の術はいくらでもあるんだ」

 

車から出た少年は、そう言ってどう考えても窶れているユーリィを心配するのであった。

 

だが、彼は『どうしようもないのさ』とちょっとした諦めの顔を浮かべてから、言葉を掛けられる。

 

「それじゃ、その時が来ないことを願っているよ。ウチの娘とも会わせたいしね」

「俺のような野良犬が会うべき人間ではないよ」

 

幸せな家庭に俺はどうしようもなく異物だ。それを理解しているから……ユーリィからさっさと離れることにした。

 

その気持ちは嬉しいが、どうしようもなく少年はこの世界で孤独なストレンジャーだったからだ。

 

 

それは土曜日に不意に連絡を受けたことから始まったことだ。

 

茉莉花にとっての両親、遠上良太郎と遠上芹花がこちら……北海道から本州の関東にまでやってくるという連絡を受けたことから始まる。

 

理由は良太郎にとっての友人である、軽部裕理という男性が亡くなられたから。つまり葬儀ということである。

 

茉莉花は参列しなくてもいいとは言われたが、アリサは出るように言われた。

 

「アーシャのお母さんの亡命を助けてくれたヒトかぁ。出なきゃ不味いよね」

「そうね。それに桐生市は……朧気ながら私にとっての最初の故郷だから」

 

殆ど覚えていないが、ただ北海道とは違って山が殆どない。だだっ広い平地が広がっていたという違いは今でも感じている。

まぁちょっと行った伊勢崎市は更に平地だらけの土地ではあるのだが……北海道のように山を切り崩して開拓した土地とも違う。

 

そういう風な差異は感じていたのだ。

 

ともあれ、芹花に言われたとおりに日曜日の『見送り』に備えて準備をすることになった。

 

そして日曜日の9時に羽田空港で北海道からやってきた2人を出迎えた娘2人は、そこから葬儀場所に向かうまでに軽い説明を受けるのであった。

 

軽部裕理……日本に帰化したロシア人であり、その際の名前は 『ユーリィ・ガマルエフ』という人物であった。

 

「彼とは色々と付き合いがあってね……まぁ、それはともかく葬儀の後に、少々ユーリィのご家族が話したいことがあるそうだ」

 

「私も行くようかな?」

 

「最初は茉莉花には留守番してもらおうかとは思っていたが、長い話になる可能性もあるからな。アリサの話し相手が必要だし、喪服で参列してもらおう」

 

それは、どうやら浅草のホテルで着替える余裕も無いということだ。

まぁ遠上家は獣医である。如何に人間を診断するわけではないといえ、結局の所―――患畜が出る可能性があるから、そんなに長居も出来ないというところだろう。

 

そんな訳で、軽部家のご葬儀に遠上家全員で参加することになったのだ。

 

都会の葬儀。田舎である茉莉花・アリサの家の辺りとは違って、省力化されてこじんまりとしたものだと考えていたのだが、その認識は甘かった。

 

葬儀会社がデカイ祭壇を設置する自宅葬ではなく会館葬とはいえ、故人が結婚をした相手の『軽部家』が問題であった。

いや、問題というわけではないのだが……群馬県にある中小企業。それなりの規模の会社は『北関東』では『歴史』あるものであったのだ。

 

一説によれば、北関東の巨大ホームセンターが首都圏に進出する際の『HANDS』の買収劇にも一枚噛んでいたとかなんとか……。

 

そんな会社の娘婿の訃報はどこからともなく聞きつけた人々によって、葬儀用の茶壺・花輪・花束などなどの葬儀飾りの注文があれこれ舞い込む形になっていたのだ。

 

同時に葬儀にこそ参列しないが香典だけ置いていく弔問客の記帳と『お返し』の品を手渡す係が忙しくなったのである。

 

「ごめんなさいね。茉莉花さん、アリサさん。親戚でもないあなた達に手伝わせちゃって」

 

「「いえいえ、お構いなく」」

 

軽部絢奈。

故人 軽部裕理の娘であり茉莉花とアリサよりも4つ上の女子大生であった。

 

本来的には、こういう場所では彼女の言う通り故人の娘や甥姪などがやるのが、まぁ普通ではある。

 

とはいえ、忙しそうにしていた絢奈を見過ごせるほど人情がない2人ではなかったのだ。

 

なにより―――。

 

「絢奈さん。こちら葬儀会社さんの方から来たものです」

 

「ありがとう士郎くん。本当、お祖父ちゃんの言う通りお返しは『お茶』にしといて正解だったわ」

 

「海苔でも別にいいと思いますけどね」

 

と言いながら、持ってきたダンボールに入っているお茶セットを予め用意されていた紙袋に入れていく士郎。

 

(なんでここにいるんだ)

(絢奈さん曰く元・バイト先の後輩かぁ)

 

とりあえずしめやかな『お見送り』をするために、そういった風な『疑問』を口にすることはしない2人の大人な対応だったわけだが……ともあれ経を読まれる和尚さんがやってきたことで、絢奈は会場に入らざるを得ない。

 

「十文字も行ってこい。ここは俺と遠上で留守番してるから。葬儀会社のヒトも来ているしな」

 

「うん。分かった」

 

「アーシャ、粗相の無いようにね」

 

ミーナに言われるとは思わなかったとは口に出さずに、アリサは士郎と同様に言われながら故人のお見送りのために葬儀会場に入るのであった。

 

 

その後は、流れるようにして全ては終わっていった。親類一同が、軽部家の本家というか実家の方に移動していく中、故人の直接のご家族……娘と妻との対話になるのであった。

裕理にとっての義理の父。絢奈の祖父も話したがっていたが、それでもまだ現役の家長として息子たちに連れられていったのだ。

 

「それで絢香さん。お話したいことというのは」

 

「まず初めに、遠上さん―――良太郎さんは夫と友人なのですよね?」

 

「ええ、彼とは色々と世話になったり世話したりした間柄です。本当ならば彼の方こそドクター・ドリトルになれたかもしれないほどです」

 

「でしたら……ユーリィは何か危ないことに関わっていたのでしょうか? 突拍子もないことだとは分かるのですが……その社会の裏側に関わるような」

 

「まぁユーリィがやってきた亡命者の手引きは、確かに私と一緒にやってきた頃はグレーなものでしたが……それでも決して裏社会の人間との繋がりなどはありませんよ」

 

軽部家というよりユーリィが過ごしてきた家に案内された遠上家は、少々面食らう事態になった。

 

アリサの母親であるダリヤの亡命にも関わる良太郎のヤングメン(爆)な頃の武勇伝ではないが、羽田から浅草のホテルに着くまでに、その辺りの話は聞かされていた。

 

「ですが……その少々、気味の悪いことになっていまして―――こちらを御覧ください」

 

そうして絢香が見せてきたものは、端末に表示された銀行の取引記録であった。

 

名前からして本人のもののようだが……それでもその額は驚異の桁を誇っていた。

 

「―――ユーリィが自身にかけていた生命保険という線は?」

 

「だとしてもこんな金額ありえませんよ。しかも、これと同じ額が絢奈と実父の会社の口座にも振り込まれているんですから」

 

「ええっ! 絢奈さん一気に億万長者のJDなの!?」

「ミーナ!」

「茉莉花!」

 

あまりにも下世話な言い方をする妹分・娘に対して叱責するような声が飛ばざるを得なかった。

 

「私としては刹那的な使い方じゃなくて、ちゃんと自分の為に使いたいよ。出来ることならばお祖父ちゃんの事業もちゃんと続けたいし」

 

一応は誤解を生まないように、絢奈も苦笑しながらその辺りの説明はしておく。

 

絢奈曰く祖父の会社は確かに歴史的には長いが、昨今の経済事情から少々苦しくもあったのだ。

 

もちろん『5年〜8年』程度で潰れることはないぐらいには内部留保もあったのだが、状況はいつ変わるともしれない。そもそも祖父とていつお迎えが来るか分からないのだ。

 

「ユーリィは自分が長くないことを知っていたからなのか、会社業務には携わっていたが、経営にはノータッチだったからね」

 

後継者になるには自分の出自もあって遠慮していたのかもしれない。そう言った良太郎だが、それは少々踏み込みすぎていた。

 

「伯父さんたちも『出来ることならば』継いでほしかったとは言っていました……けれど、こんなに早く―――」

「絢奈……」

 

不意に涙を溢れさせた絢奈の肩を抱いて慰める母。

 

忙しさで忘れさせられていただけで、喪失したものを思い出して悲しみが溢れたのだろう。申し訳ない想いを抱いた良太郎にかわってアリサは端末を精査する。

 

(送金者はW・Wと表示されている……正式名称は『ウェイバー・ウェインズ』)

 

スイス銀行のセキュリティとプライバシーに対する遵守の高さは19世紀から折り紙付きである。ならば、この人物が男か女かすら定かではない。

 

「やはり、このような名前の人物には心当たりはありませんね。無論、私もユーリィの友人の1人でしかありませんので、彼に、この名前の知人・友人がいた可能性は捨てきれませんが」

 

「そうですか……」

 

だとすれば、どうしてそんな送金がこのタイミングで行われたのかが謎だ。ユーリィが何か頼み事をしたという可能性が一番高いが。

 

「話は変わりますけど、シロウ君がどうして今回の葬儀に?」

 

「元・バイト先の後輩だっていうのは聞いてましたけど」

 

「うん。確かにその通り。私がコペンハーゲンを辞めたのは、お父さんが体を悪くして入院する羽目になったから。その看病とか何かあった時のために、アルバイトは辞めておいた方がいいと思って辞めたんだけど」

 

時期としては遅いのだが、その元・バイト先であるコペンハーゲンから退職に係るアレコレの重要書類が『何故か』シロウから葬儀準備で忙しい中、渡されて……。

 

「その後、色々と葬儀手伝いをしてもらっていたんだ……。まぁ悪いとは思ったんだけど、彼もこんな状況下で何もしないでおけないって思ったんだろうね」

 

男子高校生の善意に甘えてしまったと赤くなりながら述懐する絢奈に何も言えない。

先月の話だがアリサもシロウの責任感に甘えてしまった1人なのだ。

 

「あっ、シロウ君とは関係ないけど……病室にいたお父さんにお祖父ちゃんの会社を継ぎたいって言ったときに」

 

 

―――きっと『奇跡』は生まれる―――

 

―――アヤナ、確かに自分の生活は大切だ―――

 

―――けれど、法を冒す手段でお金を手にしちゃダメだよ―――

 

「……って言っていたかな」

 

「絢奈さんがPAPA活とかでお金を手に入れようと、あいてててて!!!」

 

「申し訳ありません。娘がとんでもない発言を」

 

芹花が娘・茉莉花のあんまりな発言に対して耳をつねりながら頭を下げるのだったが、絢奈は首を振ってそれも考えの一つでしたと白状する。

 

「いえいえ。ただ……ちょっと考えていたのも事実ですから。今後の生活を考えた時に、私も母に怒られました」

 

そこまで情けない母親ではないとする絢香に叩かれたことを思い出したのか、頬を撫でる絢奈。

 

それを見ながらも最終的な結論としては―――。

 

「やはり私には皆目見当がつきませんね。どうしても気になるならば、やはり銀行の方に問い合わせるべきですよ。そうしてからこのお金の扱いを決めるべきですね」

 

「そうですか……わざわざこのようなことに時間を取っていただき、ありがとうございました」

 

そうしてお互いに落胆を覚えつつも軽部家との会談というものは終わり、遠上家は浅草の方に帰ることになった。

 

何とも狐につままれたような話であったが、それでも絢奈と茉莉花・アリサがちょっとした友誼を築いている辺り、もう少しユーリィと会う機会を増やすべきだったかと後悔する遠上良太郎……。

 

そして浅草での夕食にて良太郎と芹花は、件の少年……衛宮士郎に関して、もうひとりの娘であるアリサに切り出すのであった。

 

 

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