「克人君や茉莉花からもそれなりに聞いているが、アリサは葬儀を手伝ってくれた衛宮君という男子が好きなのかい?」
絶対に聞かれるだろうと思っていたので、大して動揺はしなかった。しかしながら、どう言ったものかと思う。
「アーシャは、もう少し礼儀正しいというか大人しい男子が好きだと思ったんだけどなぁ。なんであんな不良なんかを……」
「あら? そんな風には見えなかったわ。礼儀正しくて随分といい青少年に見えたけど」
「けれどもアイツ!―――う、ううん! まぁ確かに外面はいいのかもしれないけど、とにかく!! 私はアイツはアーシャにはふさわしくないと思う!!」
芹花が行きたいと熱望した浅草の天ぷら屋。菜種油で「サクカラ」で見事に揚げられた鱧天を噛みながら茉莉花は勢いよく話す。
その言葉にふぅむと良太郎は思う。克人から聞いた話も総合するに、悪い男という訳ではないはずだが……まぁともあれ、もうひとりの娘の男が海の物とも山の物ともつかぬ馬の骨であれば、心配するのが親心というものか。
19世紀から続く天ぷら屋のワザマエに感心しつつ、衛宮君の話(アリサ、茉莉花)を続けて聞いていると……。
「―――彼、イギリスにいたのか?」
「そう聞いています。先程のおじさんの説明にあったようなことなんじゃないですかね?」
アリサの言う通り先程、ユーリィとの出会いとかで説明した
『
娘と妻に聞かせるには少々ダーティーで湿っぽい事情を説明したのだが、それは少しだけ耳目を引かせた。
アリサ曰く聞いた限りでは、彼は『古式魔法師』の家らしく、両親が死んだ後に『養母』……伯母と一緒に英国に移り住んでいたらしい。
「古式魔法師、か。だとすればかなり『モグリ』の存在なんだろう」
「そうなの?」
「現代魔法師と違って古式魔法師の魔法は独特なものが多い、秘伝の継承も特異なオカルトじみたものもあるらしいからね。あまり世間に公表したくなくて、魔法師協会に登録していなかったのかもしれない」
日本の魔法師協会は、一応は日本の魔法師を全てまとめている。魔法師は全員把握して登録している―――と豪語するも、当たり前だが現代魔法師という『遺伝子操作』されたデミヒューマンの下に就いて管理されるなど吐き気がする、同じ空気を吸っていたくない―――などと蛇蝎のごとく嫌うのもいる。
そういう意味では、魔法師のまとめ役としては十分に機能していないのだろう。
「アリサを嫌っているのもそれが原因なのかもしれない。実際の所、現代魔法研究の中でも九研の『古式の現代解釈』は、古式魔法師の反感を買ったからね」
『現代魔法師』が、古臭い口伝を守っている集団を『古式魔法師』と一括りにするのと同じく彼らからすれば、
「けれど、彼は私の姓 十文字には特に反応を示しませんでしたよ」
「本当に謎の魔法少年だな……」
聞けば聞くほどに何だか分からなくなるその人間性と能力。全てが謎のワンダーボーイだと思いつつも、芋天を口に入れた瞬間にひらめく。
19世紀から続いている店。
昔ながらの味を保っていると言われるこの天ぷら屋と同じく―――もしかしたらば、同じことなのかもしれない。
彼、衛宮士郎にとっての魔法はここの美味すぎる天ぷらと同じなのかも知れない。
(色褪せることのない魔法の輝き、か)
数字落ちでしかない良太郎としては海老天を肴に一杯飲みつつ、あの少年に羨望を向けるのであった。
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日曜日は色々あったものの、月曜日の登校。普通に登校したのだが……どうにも学校全体が色めき立つような空気をしていたのだ。
何かがあるということはクラスの会話の断片的なものから察したが、あいにく噂売り的な面が殆どないシロウでは何があるかを知り得ない。
同時に興味が無かったのだが―――。
(職員室の学年主任が俺を呼び出している?)
端末を通じて、その連絡を受けたシロウは面倒な想いを受けながらも職員室に向かうことにするのだった。
(そもそも学年主任が誰かなんて知らないし)
そう思いながらも、向かった先にいた近田藤乃という教師の先導によって案内された、席というよりも締め切りの場所で説明が為される。
曰く、
『四年前に卒業した一高のOGがやってくる』
『魔法大学の学生で今回のことは教育実習的なものであり、その上で彼女は一年の下位クラスで教導を行いたい』
『その希望を優先したいが、教師陣としてはあまり歓迎していない』
(要するに劣等生の指導なんて任せて有意義さを失わせたくないが、OGの希望を尊重したいということか)
藤乃と一年の学年主任の言葉を聞きながら、やって来るのがあの『ヤンキーボイン』だと理解した時には。
『探ってきやがった』
と悪態混じりに思いつつ、何故俺がその話を聞かされるのかが分からなかった。
曰く、
『F組の中でもとりあえずA組に『一応』は上がれた衛宮に任せたい』
『とりあえずお前ならばなにもないだろう』
という、教師にしてはフラットに言っているつもりでもかなりクズな発言を聞いたシロウは『お望み通り』にしてやろうと思えた。
久しぶりに『魔眼』を発動。そして―――『可能性は書き換わったのである』。
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「今日から5日間という短い期間ですが、『1年A組』の指導をチカタ先生と行うことになりました。東道理奈です。ニホンに帰化する前は違う名前でしたが、今はこの名前なのでヨロシクお願いします」
金髪の美人教師の登場。しかも「あの司波達也」と同世代の存在にA組のテンションは上がっていくが……そんな目の前の生徒であり後輩たちとは別に、USNAの軍人時代以来のスーツ姿で固めた東道理奈、またの名をアンジェリーナ・クドウ・シールズは動揺しっぱなしであった。
(ど、どうしてコウなったのよ―――!?)
ことの発端は、最終確認として職員室に向かった理奈に告げられたことであった。
―――東道先生には、A組の教導を行ってもらう。
曰く、
『主に下位クラスの教導でかつての『優等生』の指導を『無碍』にすることは心苦しい』
無碍になるかどうかなど分からない。
軍人時代に『船のパーツ』にされていた魔法師……一方的な裁定で劣等とされた存在を見たからこそその言葉が出たのだが。
『それでも、アナタとてかつては1年A組に所属して優等生と競い合ってきたならば、それがどれだけ無意味な話か分かりましょう?』
『東道君、申し訳ないが今回はそういうことで納得してくれ』
校長であり、理奈のグランパの友人が発した疲れ気味の言葉でそういうことになってしまった。
だが、これでは『本当の目的』を達することが出来ない。何とか『シロウ・エミヤ』なる魔法師と接触をする機会を設けなければならない。
そんな裏側の思惑を見透かしていたシロウは、それを崩していたのだ。
ましてや教職員側からそのように『気遣い』をされてはそれを受けざるを得まい。
教職員たちの
だが―――その事の『副作用』というか、ある種の反感……優等生たちへの『やっかみ』が生まれることまでは予想できなかった。
昼食時
いつもどおりぼっち飯を食べてから気配を隠すまでもなく、東道先生にきゃーきゃーわーわー言っているだろう食堂に行かないことにするのだった。
(あのアマに器用な腹芸が出来るわけがない。かといってA組には居ない俺のような劣等生の名前を出して周囲の反応を探ろうものならば、何かの嫌疑がかかる)
つまり……。
(俺はついに―――自由を手に入れたんだぁああ!!!)
シロウの中の全米が拍手喝采のスタンディングオベーション!!
煩わしい連中と関わらずに生きられるこの時間こそが至福……。
そうして一日、二日と終えていく内に……流石の東道理奈も怪しさを覚えるのだった。
それは三日目の放課後、生徒会にて旧知の後輩に相談したことから転換する。
「つまり急な予定変更は、何かの策略ではないか、と?」
「ソーヨ!! 大体、朝の直前までワタシはF組を教導するというスケジュールで進められていたハズなのヨ! それが20分ほど職員室から離れている内にあからさまな心変わりの変節!! どうなっているのよ……ワタシだけ
机に突っ伏しながら会長・会計に泣きわめき嘆くように言う先輩に、2人としてもどうしたものかと考えてとりあえず口を開く。
「まぁ我々もそういう風に聞いてはいました。クドウ先輩がF組などある種の下位クラスを教導するとは……」
「それが蓋を開けば、ああですからね」
20世紀も終盤の頃のプロ野球で起きた『空白の一日事件』『KKドラフト事件』のようなものだ。
「言っちゃなんですが、そういう横紙破りはこの学校しょっちゅうじゃないですか」
「リーナ先輩がアメリカから出戻ったのもそんな感じの受け止められ方でしたし、今更ですよ」
会計と会長。短い在学期間で前者はあまり関わりが無かったがかなり辛く、当時の自分はそう見られていたのかと『とてもつらい』と横になりたい気分だ。
「ヨコガミヤブリ……デモドリ……」
ずずーん! と沈み込んだOGだが、そもそも侍郎も詩奈も『なんでそんな早めの教育実習をやったのか?』それが聞きたいのだ。
そこを突っ込むと痛い所を突かれたようになるクドウOGに、よっぽど後ろ暗いことをやろうとしていたんだなと気付くのであった。
「まぁアナタにそういう『弱い群れならば自分で強くしてやろう』みたいな親分気質で骨のぶっとい所があるとは思えませんので、このままでいいんじゃないですか」
「そういう事情があったとしても、そういう『噂』を聞いて期待していた1年の下位クラスは凄く落胆しているんですから、今更何かの『目的』のために接触を図ったとしても、スゴく反感を買いますよ?」
再び容赦のない2人の後輩に言われてしまう。
だが、それでも『もしかしたら』という可能性を見出したいのだ。
そうして裏側の事情を話す……その言葉を聞いて、なおさら2人は『ノー』と言わざるを得なかった。
「ふ、二人はタツヤがあのままでもイイの? ミユキは今でも病室に足繁く行っているのに」
達也がいつか目覚める日の為に、目覚めた瞬間ーーーそこに自分がいられるようにと、彼女は魔法大学の単位ギリギリ、それどころか進級も危ぶまれるぐらいに自分の兄にして婚約者を見守っているのだ。
ある意味、病室と大学を行き来するだけが彼女の『あの日』以来のスケジュールになっているほどだ。
だというのにこの後輩(2人)は……。
「他人の魔法を探らない。そのマナーを忘れていませんか?」
「うぐっ!!」
「それに俺たちはもう一高の『役員』なんです……あの頃、色々と世話になったことは忘れていませんが、それでも今ーーー魔法大学の『学生』たとえOGであろうと」
「私達は衛宮士郎という生徒を守る『立場』にあるんです。これは本当にそういうことなんです。東道OG」
渡りセリフよろしく言われてしまった理奈ことアンジェリーナとしては、それ以上は何も言えなかった。
同時に、立場の違いというのを認識させられてしまった……。
「ただどうしても衛宮士郎に接触をしたいというのならば、衛宮士郎だけではなく、『他の下位クラス』全生徒の面倒を見るぐらいはしてください。特定の生徒への『えこひいき』にも見られかねませんから」
侍郎は2科生制度があった最後の年に入学した男子である。
当時は、その事を従容として受け入れていたが、今考えてみればあれほど酷い制度を何故普通に受け入れていたのか……。
ともあれ、あの『火狩種馬騒動』(命名 碓氷)のような事態は止めて欲しいのだから、後輩に言われ放題だった理奈は決意する。
ひとつの命を救うのは 無限の未来を救うこと
祖父が時折掛けていた『救急戦隊』のテーマソングの歌詞の一部を思い出す。
達也だけが『いのち』ではない。
そこに他の『いのち』を救うことをしなければ、何も変わりはしないのだ……。
―――後日、東道理奈教育実習生の実習期間は少しだけ伸びて。
「本日より1-FだけでなくEとGの魔法実技演習の教官になりました東道理奈です。ワタシの不手際で色々混乱を起こしてしまいましたが、どうかこれから一週間ヨロシクオネガイシマス」
なんでそうなるんだよっ! という悪態を突きたいが突けずに、やってきたヤンキーボインに心底イヤな気分になるのだった。
そうしてシロウの平穏なライフは