どう考えてもおかしい。
都合、約5日間の実技演習の手解きをしている中、東道理奈はあきらかに惑わされていることを自覚していた。
理奈ことアンジェリーナが一高にOGとしてある種の教育実習生としてやってきたのは確かに下心…思惑ありでのことだった。
そこから後輩に指摘されて一念発起。
まだ未開花でしかないはずの下位クラスの生徒達の教導を集中的に、精力的に行うことを職員室の教員たちに熱望した。あれほど弁を振るったのはいつ以来だろうか。
まぁそれはともかくとして、それが通じたのか何なのかようやく目的のクラス、目的の人物と同じところにいられるようになったのだが……。
(コチラから
実技の教導でそれを行おうとしていたアンジェリーナだが、彼女の人気は彼女が思っている以上に高くて、結局の所……実技実習の際に生徒がアドバイスを求めること多かったのだ。
その中に、エミヤシロウがいれば良かったのだが彼にその手のミーハーな趣味もアンジェリーナに対する興味もないようなので、あちらからの接触は無かった。
元来、アンジェリーナは能力の高さの割には『並列作業』……マルチタスクというのが不可能な人間である―――と今では完全に自覚していた。
自分の人生を一変させたあのパラサイト事件。
日本の戦略級魔法師を調べ、司波兄妹を探るために留学・来日したあれ以来、そうしてきたのだが……。
(今はソノ能力がワタシが切実に望むモノなのに!!)
そうして人知れず嘆きを溜め込むのであった。
当然、これらには『裏』があった。
東道理奈ことアンジェリーナ・クドウ・シールズが、自分を探りに来ていることは理解していたのでシロウは、クラス及びEFGの生徒を誘導することにしておいた。
約10日間しかいなかったA組ではあるが、一度は『最優秀』であるAに上がれたシロウに誰もが東道実習生に『聞いたらいいのか?』というかそんなに我々の煩わしさが分かるものなのか?
そんな風な『疑念』を抱いていたクラス連中の疑問質問がやってきたのだ。
それに対してシロウは、『魔眼』を弱で発動させつつこう言った。
―――聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥―――
―――東道先生がどういう人かは分からない―――
―――けれどTAよりは能力値が高いはずだ―――
―――だが教えることが達者かどうかは分からない―――
―――ゆえに積極的に問うて我々の熟達に協力してもらおう―――
―――あのヒトにとってもこれは学ぶ機会なのだから―――
そんな風なことをバリエーションを変えつつシロウに聞いてきた連中に宣ったのだ。
結果的に殺到するとまではいかないが、多くの人間をアンジェリーナ・クドウ・シールズに向かわせることで、シロウへの接触を絶っていた。
アンジェリーナこと東道理奈が、こちらに意識を向けた瞬間。シロウの誘導もあって他の面子が彼女に向かう。
そしてシロウは副会長やキモい風紀委員などから構われることで、合格点を出すことで東道をシャットアウトしていた。
合格点さえ出しておけば、実技で「まごつく」ことさえなければ『アレ』は口出ししない。出来ない。
完璧な計略のもと「E組担任」である東道理奈実習生を遠ざけることに成功していたのだ……。
しかしながら、そんな風な様子は少しばかり不審を覚えさせていた。一年ながらTAをやっていた少女。
一学年主席 五十里 明は不審感を白状することにした。
「つまり東道OGは……シロウ君の術を欲してハニートラップしようとこの一高にやってきたの!?」
「ハニートラップかどうかは知らないわよ。ただウチの兄貴曰く……」
例のクラウド・ボールの対抗戦。怒るアリサが怪我をおしてまでも戦ったあの試合が、契機となったのか十文字克人は間者として自分の後輩を送り込むことで、彼の術を探ろうとしたらしい。
「私、そんなこと聞いていない……」
「堂々と言えるものじゃないでしょ。直截に言えば『スパイ』を送り込んだってことだもの」
アリサに嫌われたくなかったという克人の心を何となく察しつつも、それでも暴露は時間の問題であった。
そういった裏側を言いつつも本題に入る。
そういう『事情』だったからこそ、当初はEFGなど俗に下位のクラス―――旧2科生のクラス担当になるはずで、その案内役というか補佐に『衛宮士郎』をという手はずになっていたはずなのだが。
「なにその空白の一日事件みたいなものは」
「もちろん先生方の心変わり、お節介であったという可能性はあるわよ。けど急激だもの、何か勘ぐるわ」
茉莉花のツッコミも当然ではある。
そちらに関しては特に進展はなかった。もしかしたらば誘導されたかもしれないが、そもそも職員室は、東道のような優秀な卒業生には上位クラスを指導するべきだとする意見が多かったのだから……。
誘導も何も『本心』であったのかもしれない。
「それはともかくとして、1−EFGの人たちに聞いたんだけど……」
明曰く、あそこまで積極的に教えを請うていた彼らは当初、そこまで乗り気ではなかった。
噂程度でしかなかったとはいえ自分たちのような下位の生徒の魔法能力を上げることに『本気』なのか?
それを見事にちゃぶ台返ししたのは東道が悪評を覆すべく来たのではないか? そういう疑念が彼らを消極的にさせていた―――のだが……。
「つまりシロウ君が、『思い切ってぶつかれや』と宣い……」
「それでダメならば黄金世代のOG、あのボインの教育実習生には、『指導能力がない』と見切りをつけろと言ったわけか」
小陽と日和の『サンシャインコンビ』の言葉に、五十里明は頷き、その上で誘導して接触を絶った。悪辣だ、としたのだが……。
「けどメイさん。それって……ダメなことですか?」
「え……」
「いや、確かに聞いているだけならばヨーゼフ・ゲッベルスみたいなやり方ですけど……」
「結果的に、EFGの同級生たちは東道OGの教導を受けること多かったんでしょ? じゃあいいじゃん」
そのサンシャインコンビの言葉に、あえて深く考えると……特に『悪いこと』はしていないような気がする。
自分の秘術を秘匿するのは確かに『魔法師』としては当然の話。
見破られたならば、まぁそれはそれではあるが……。
そして、東道OGへの態度を決めかねていたEFG生たちへの発破かけも……特に悪くはない。
改めて考えるに、確かに『悪いことはしてない』という結論に至ったことが、不思議に思える。
アイネブリーゼという喫茶店において、その考えに至った経緯を考えるに。
「問題点を整理するに、数字持ちの家ないし十文字家当主であるアリサさんのお兄さんはシロウくんの秘術を探ろうとした。その理由こそがメイさんをその思考に至らせていたことなのでは?」
小陽に言われて考えるに……そうだと思えた。
「司波達也様をあの昏睡状態から救うための方策の一助となると思って……動き出したのよ」
その言葉を出した時、店の唯一の店員とも言えるメイド型ガイノイドが反応したように思えた。それはともかくとして……。
「それならば、メイが衛宮にハニトラ仕掛ければいいじゃん。尊敬する魔法技工師のためなんでしょ?」
「なるほど完璧な作戦ねミーナ。不可能だという点に目をつぶればだけど」
どさん娘コンビから言われて五十里 明としては何とも言えない。
そして後半のアリサの言葉には物申したい。別に女として積極的に色気を振りまきたいわけではないが、決して明とて別に可愛くないわけではあるまい。少しばかり着飾って街を歩けば垢抜けているはずだ。
確かにどちらかといえば、この中では地味なJKかもしれないが……などと内心での葛藤をしつつも。
「やらないわよ。それに……それならば無理矢理にでも東道OG、いやアンジェリーナ・クドウ・シールズ先輩と対面するように仕向けてやるわ」
「やらなくていいと思うわ。そんなことをやってもシロウくんの秘密を探ろうというゲスな企みが
「アリサ……悪いけどこればかりは譲れない。私は司波達也様に回復してもらってこの世界を変革してほしいんだから」
「じゃあメイが色仕掛けすればいいじゃん」
「それは―――」
そんな三人の様子を見ていた小陽と日和は堂々巡りを見ている気分になりながらも、出されたホールケーキをぱくつく手はとめないことにするのだった。
……その日の夕食で十文字克人は妹が『裏』を知ったことで冷たくされたことを苦痛に感じるのだった。
夕食後、執務室であり自室に戻ってきた克人はため息を突きながら椅子に体重を預けて呟く。
「流石にあからさますぎたな……」
クドウにやり方を一任したのは、悪手であったかもしれないが……それでもその間に色々と調べることは出来た。
そして……。
「いざとなれば俺が膝を折ってでも懇願する必要がありそうだな」
克人にとって一番の不利益とは、司波達也を失うことだからだ。
あの日以来、何度も後悔することになる事柄。
後輩の決戦について行けなかった日のことを。
自分がいたからと何かが変えられたかと問われれば分からない。それでも、もう嫌なのだ。
「エミヤシロウ……君は俺たちの輝きを救ってくれるか?」
すがる思いを持たざるを得ないのは、仕方ないのだ。
あの日以来、無力な自分を自覚しているのだから……。
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「というわけで、衛宮君にはこんどの金沢での対抗戦……ウチの部のマネージャーとして帯同してほしいんだ」
「断固辞退します。それでは御機嫌よう。東京の厨房から応援しています」
冗談よしお君だぜという気分でスタコラサッサとアーツ部から出ていくことにしたシロウだが……。
「ちょっと待って衛宮君、たしかに不躾な要望ではあると分かっているけれど、それでも―――イエスかハイで答えやがれぇエエエ!!!」
目の前に立ちふさがったブラウンロングの女子がアーツ部女子部長の北畑千佳であると分かっていたのでその『カツラ』を取ることで人格の変遷をさせたのだが、あからさまな変化に本当に二重人格かと感心をする。
「多くを語らなくてもいいでしょうが、あえて1つずつ黒田官兵衛のように理由をいいましょうか?」
「そんなことはせんでもいい!!―――んだけど、どうせだから教えてくれないかしら? 納得するかどうかは別よ?」
物体の浮遊と落着をテンポ良くやることで北畑百面相ショーをやることにしながら説明をすることに。
「まず1つ。
「そりゃそうだが……」
引き合いに出した部の事情を忘れていた千種の失態である。
「第2にメディカルケアに関しては、別に俺じゃなくても今回はいいはず。なんせ行くのは第三高校。常駐している保険医ぐらいいるはずでしょ?」
実際、見せられた『対抗戦』の映像の中には、選手のメディカルチェックをしている白衣を着た医者らしき存在がいる。
「野獣の肉体に、天才の頭脳―――そして神業のメスを持つ男が必要な状況になることもそうそうないでしょ」
「そんな劇画調の医者がやって来ることも無いか……いや、それでも!」
「俺のは素人のテーピングです。専門に任せたほうがいい。部外者がやるよりいいでしょ」
「―――指を三本立てているわね。残りの1つは?」
2つの理由説明は終わった。最後の1つは……。
「遠上がさっきからにらみ続けている。エースのメンタル的によくないでしょ?」
結局の所、それが最後の決定打となるのだった―――が納得できていないものがいる。
男女の部長だ。
「肉体の怪我はどうにでも出来る。けれど魔法の演算領域をケアする術は僕らにはない……」
「その時、起きてほしくないことがあった時のためにもアナタに来てほしかった……打算だらけで、自分本位な考えであることは分かるけど、それでももう二度と……」
沈痛な表情をした千種部長とカツラを自分で剥いで語る北畑部長であるが……。
「オレには関係のない話です」
例え、どれだけおセンチな事情があろうと、シロウにとってはそれだけなのだった―――。