魔法科高校というものに入ったシロウではあったが、正直言えば何も期待していなかった。
約4.5年ほど前には実技指導を受けられる人間を限定して、1科2科体制というものを敷いていたという話だが―――いきなり体制が変わったからと言って教員不足が解消されるわけではない。
もっとも文部科学省に対するある種の『サボタージュ』とマスコミに書かれたこともあり、実技講師たちも『一応』は入学時点で『低位』と定めた生徒たちに指導を行っている。そういうポーズでしかないと認識出来た。
まるで『名前を書けばそれだけで合格できる学校』の授業のように、本当に低ランクの授業だった。
―――お前達程度には、このぐらいの授業で十分だろう?
そういう教師の嘲りの声が聞こえるかのようだ。もっとも、試験やカリキュラム自体は、1科2科共通らしいのだが……。
(そこから先は自分でなんとかしろ。ということか、腐ってやがる……)
などと想っていたらば、その教師の授業のあとの実技指導を引き継ぐように、E、F、Gとは違う生徒たちがやってきた。
何人かは見覚えがあるようで、ないようで……どうでもいいや。と想いながら、実技の合格ラインに至るべく『適当』に『無難』にこなしていくのだった。
違う生徒たちは、どうやら達者に出来ない連中を指導するための存在のようだ。
(上級生だったかな?)
何気なくちょっと前のオリエンテーリングを思い出して、そうしてから、テスト内容を『劣等生』らしく『ギリギリ合格』で、こなして、他の様子を何気なく見回してから、単位認定を所定の端末に入力して―――実技室を出ようとしたのだが……。
「ちょっといいかな?」
「―――」
こちらを引き止めるように、シロウと同じくらいの体格の生徒が出ようとした扉の横に歩いてきた。
自分のことなのか、どうなのか分からなかったので。
「俺ですか?」
「うん。キミだ。G組の衛宮士郎君でダイジョウブかな?」
「そうですが、何か御用でしょうか?」
「用事と言えば用事なんだが……何というか一先ずは、この間は悪かったな。知り合いの子が、いつまでもIDカード受け取りの列から出ないで騒いでいてさ」
「?? そんなことありましたっけ??」
本当にシロウとしては何一つ思い当たるフシがない―――と想ったが、そう言えば思い出すこともあった。
どうでもいいことなので。
「お構いなく。別に大して迷惑被ったわけでもないですし―――
その言葉に『痛いところ』を突かれたように、少しだけ呻く男。謝罪をするならば、シロウだけではなく、他の連中にも頭を下げろという痛烈な皮肉を見舞ったのだが……。
「ま、まぁキミが言ってくれたからこそ列進行も滞りなくなったわけだしね。生徒自治側として感謝するよ」
「そうですか。お気遣いありがとうございます。それでは―――」
どうでもいい話なので、面倒な想いを消すようにシロウはいなくなろうとしたのだが。
「ああっ! ちょっとまってくれ!! 衛宮君は……なにか部活をやろうとは思わないのかい? 話によれば、キミ―――どこの部活にも顔を出していないみたいだからさ」
なんでそんなことを知っているんだろうという疑問の念はあったが、その辺りをツッコむと面倒そうなので、スルーしながら話すことに。
「入部は強制じゃないでしょ。帰宅部でいいという人間だって俺以外にもいると想いますけど」
「そりゃそうだけどさ……」
「端的に言えば、アルバイトを入れているんで、部活には出れない。それだけですよ」
そう言われた巨漢。名前は知らない上級生は黙り、コレ以上の詮索は意味がないというよりも下世話な限りだと想ったのか、追求は止むことになる。
そうしてその上級生の前から去って実技指導室を出る。結局の所……ワケワカメな話であった。
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放課後、いつもどおりアルバイトのシフト通りに動き出そうとしていたシロウだったが……。
「休業ですか?」
『すまん。子供が熱出してしまってさ。連絡が遅くなって申し訳ないね』
気のいい店主の言葉に、それならば仕方ない。と想いつつ、『お子さんお大事に』と話して、アルバイト先のオーナーは、『ありがとう』と言ってから通話は途切れた。
突然の休日を貰ってしまったシロウとしては―――。
(適当に街をぶらつくか)
魔力の充足の為にも人々の活況の中にいることは、大切なのだった。
校門へと向かおうとしていたところに、うるさい声が響く。何となく聞き覚えがあるようで、ないようで。
とにかく五月蝿いのは間違いなかった。
よって、雑音の元から遠ざかる……遠ざかろうとしたのだが―――。
「ええい! 待たんかい!! そこの男!! のっぽの赤毛!!」
「ミーナ!失礼だよ! ご、ごめんなさい!! なんというか―――そもそも何でミーナは、因縁をつけようとしているの!?」
うぜぇ。誰だか知らないが、どうやら俺に対して声を掛けているようだ。
面倒だから無視して帰ろうかと想って振り向くと―――。
(ああ、あん時のうざい女か)
黒髪の方の女―――東京の女子高校生としては、ガキっぽすぎる髪型をした女と―――もう一方は知らない外人のハーフらしき女―――金髪の女子高校生とがいた。
当然、魔法科高校の学生であるのだが……。
「なんか用?」
「色々言いたいけど、アーシャを無視したことに謝れ!」
「アーシャ? そっちの金髪のことか?」
「ミーナ!!! ご、ごめんなさい! ええっと! あの時、アナタが何組なのか知りたくて私……声をあげたんだけど、聞こえてなかったんだよね?」
「ああ」
「そうなんだ……」
「どうでもいいことだが、そっちの黒髪がB組であることを嘆いていたってことは、お前ら上位クラスなんだろうな。んで、そのクラスにいないから下位クラスにいる俺に因縁をつけに来たってところか? ―――ちっちぇえな」
そんなつもりはなかったのに……などと嘆くように言う金髪だが、『G組だ』と教えてから踵を返して去ろうとしたのだが……。
「あ、あの! 私達……部活見学しようと想っているんです!! 一緒に見に行きませんか?」
「アーシャ!?」
「結構だ。興味ないしアルバイトもあるんでね。失礼」
どう考えても、片一方が、こちらに敵対的だというのに、同行することなど考えられないのだが。
「さっき、電話でアルバイト休みだとか言っていませんでした?」
「―――盗み聞きとは感心しないな」
何かの監視用の使い魔が放たれていたのか。それに気付かなかったのか。と己を責めていたのだが……。
金髪は頭をぶんぶん振ってそうではない。と言う。
当人曰く―――。
声が、『情報』として響いてきたとのこと。
「変な女」
そのことに『率直』な感想を述べると―――。
「……何かすごく意地悪すぎる……―――本当にダメ? 今から見に行くのってミーナ……こっちの娘が興味持っていて、私一人になったとき不安なの!!」
「想定されている状況とか俺には、よー分からんが……分かったよ。キミが何かされそうになったらば遠ざけりゃいいんだろ? はいはい了解だ」
その懇願するようなあり方に、結局『シロウ』としても折れざるを得なかった。そしてなんとなく……今日の実技演習で話しかけてきた上級生と―――似ているような気がして、コレ以上は面倒な気がして『しぶしぶ』了承するのだった。
「ありがとう!! さっ、ミーナ。これでマジックアーツの模擬戦を『安心して』行えるかもよ」
その満面の笑みを見たミーナと呼ばれる女子がすごい嫌そうな顔をしているのを見なければ何もなかったかも知れない。
そして、マジックアーツという格闘の部活に行くと、五組ほどの模範演武を終えた後に、演武を見て、興奮しきりだった黒髪が北海道のチャンピオンであるとボディスーツを着ていた連中が殺到しようとしていた。
どうやら黒髪の女は、かなりの成績優秀者でありツラと名前を一致させていたアーツ部の連中が群がる前に、金髪を『誘導』して壁際に退避させた。
「あ、ありがとう……衛宮君」
「いくら仲の良い友人だからと見たくもないものを眼を伏せたりしながら、最前列にいるってのはどうなんだ」
ホラー映画を見たくないと言ってる友人を家に招いて、強制的にホラー映画を見せるようなものであった。
もみくちゃにされる前に金髪を救出したわけではあるが、その前の対応からして悪手であったように思える。
とはいえ、そうした『気遣い』が気に食わなかったのか黒髪の敵意が、若干ながら自分に向けられていることを認識する。
ともあれ、北海道チャンピオンたる黒髪は、この部活の女子部長と戦うようだ。とんでもないウォーモンガーである。制服の下に体操着を着込んでいたという点からして、この展開は願ったり叶ったりであろう。
「つーか、なんで俺の名前知ってるの?」
今更ながら、名乗ったわけでもないのに名前を知られていることに、胡散臭さを覚える。
そうするとシロウが座っているのに対応して、隣に金髪も座ってきた。
「色々と―――兄に当たるヒトが生徒会の副会長で、それでアナタのことを調べてもらったんだ。不愉快?」
「良いか悪いかは知らないが、好き嫌いを述べれば、そういうのは好かん」
ロングスカートタイプでも下着を気にするのか裾を抑えながら座る金髪は、その言葉に呻くも、顔を正してから声をあげる。
「だよね……けれど、私だって無視されてイヤだったんだもの!」
「んで、その無視した相手が自分よりも下位のクラスだと知って因縁つけてきたのか。小物だな。金髪イワンめ」
「そんなんじゃないのに……って待って、金髪イワンって私のこと?」
「ああ、生憎、俺にはそういう生徒の個人情報を探れるようなコネはないからな。名前も知らないんじゃ、そう言うしかない」
その言葉に再度呻く金髪だが……。
「私には十文字アリサって名前があるのよ。覚えておいて」
「あっそ。んで十文字さん的には、このマジックアーツ部とやらに入りたいの?」
こちらの対応に少しだけ虚を突かれたような顔をする十文字に疑念を持ちながらも、彼女はこちらの質問に答えてくる。
「無理―――だよ……まぁ今日はミーナ……遠上茉莉花の付き添いだからね」
どうやら押しの強い友人とそれに引っ張られる女友達といった塩梅のようだ。とはいえ、シロウ的にはどうでもいい。
その有り様の中でも……自分を持つことが出来るかどうか。
(どうでもいいか)
誰かのイメージを勝手に押し付けて、そいつを評するなど、とんでもないことだ。
などと思っていると誰かがやってきた。
眼を閉じたようにしか見えない男子生徒―――ツラの良し悪しで言えば、まぁいいのだろう。前のほうでわちゃわちゃやっている連中と同じ格好をしている……。
「あまり感心しないなぁ。戦っている人間たちを無視して、そういうトークをするってのは」
「すみません」
「申し訳ないです」
上級生だろう相手。名前は知らない。面倒なので適当に、謝ってから―――その好漢らしきヒトから眼を離す。
「―――――」
離したのだが、何故かシロウを見ているのだが、最終的には諦めて、十文字に話しかけるようだ。
側聞するに、その眼を閉じた好漢らしき人物は男子マジックアーツ部の部長らしい。
どうやら遠上は有望な新人であると同時に、現在戦っている女子部の部長と似た風で『いやになる』とか漏らす始末。
とはいえ、そんなチャレンジングな戦いも、男子アーツ部の部長『千種氏』によってストップを掛けられた。
「盛り上がりに水を差すなよ。千種」
「そうしたいところだけどね。女子ばかりが盛り上がって男子の見せ場がないとか勘弁してほしい」
不満げな顔を見せる女子部長―――北畑を窘めつつ、男子もアピールタイムがほしいという千種の様子。
それを見てから―――。
「十文字、もう護衛役はいいだろう? 女子部の演武が終わったならば遠上がお前のガードに戻れるだろうし、俺はお役御免だ」
起こるかもしれない『面倒事』に巻き込まれる前に帰ることにするのだった。
「えっ? か、帰っちゃうの?」
「帰る予定だったのを、お前が無理やり引っ張ってきたんだろ……」
よっこいせ。と立ち上がってからシロウは今度こそ帰宅の準備に入ることにしたのだ。
その様子に十文字は、すごく不満げな顔を見せて、それでも……それは道理であることを認識していた。
そんなシロウの帰宅への意志を遠くから見た千種正茂は―――。
「次は男子の演武ですが―――体験組手の相手は僕が指名したいです。そこの赤毛―――エミヤくんだったか。僕と戦わないかい?」
そら来た。と内心でのみ悪態をつきつつ、やんわりと断る文章を組み立てる。
「自分では千種さんのお相手が務まるとは思えませんので、更にはあなたに無駄な時間を過ごさせるのも心苦しいので、女子と同じく経験者を募ってください」
恐らく十文字や遠上など上位クラスの女子と話していたことから勘違いさせたのだろう。生憎、自分は劣等生のG組だと……までは明かさずとも、波風を立たせない言いようで退場を試みようとしたのだが……。
「―――衛宮君、アナタお金がほしいんだよね?」
自分を余計なことに関わらせるトラブルメーカーが、意を決した顔で言ってきた。
「ああ、トラットリアで働いているから出来ることならば、手を怪我したくないんだよ」
金が欲しいから。必要だから、こんなことでケガはしたくないと言うも十文字アリサは譲らない。
「だったらば、私がお金あげるから、ちょっと千種部長と戦って」
お前は何様だ? という想いで半眼を作ったのだが……。通じず道徳的な説得の言葉を放つことにするのだった。
「お前の金じゃないだろ。もとを正せば親の金だ。そんな風に安くヒトに―――他人に、同年代の学生にあげるなよ」
「それでも! 私はアナタが―――どんな魔法を使うのかを知りたい!!」
「お前の金は、親の金だ。無闇矢鱈に使って挙げ句の果てに同級生の男子に使ったとか、それを『本当に意義あること』だとして、釈明出来るのかよ。ついでに言えば俺は、俺が汗水たらして稼いだお金でしか『ご飯』を食べたくないんだよ」
譲らない態度を見せられて苦しそうな顔をする十文字に、そういう説得の言葉を放つのだった。
「…………」
「じゃあな。二度と会うこともないだろ。俺はG組の劣等生だしな」
最後には、自虐の暴露をしてからクールに去るのだったが―――。
「逃げるのか?」
「勝手に指名したところで、それを受けるかどうかは挑戦者次第じゃないですかね」
「違いないな。だが―――――」
背中を見せて闘場を去ろうとした自分に声を掛ける女子部の部長が―――。
「お前は千種をなめ過ぎだ」
そんな言葉を投げかける。
「――――」
その言葉の前から『理解』はしていた。理解はしていたから、特に何の感慨も沸かずに。
何も思わずに『影』を囮に、そのあからさますぎる殴り掛かりを躱す。
透かされた千種の背後を取る。壁際に寄りかかっていたこともあり、位置的には追い詰めたわけだが。
こんな武侠ものみたいな『武芸問答』をする理由は、その鍛え上げた
「そんなにまでも『オレ』と闘いたいんですか? 言っときますが、ルールなんて知らないんですよ?」
「……だとしても僕は闘いたいんだよ。キミには『何か』を感じるんだ……その『直感』を『拳』で問いただすまでは、ここから帰すつもりはない―――」
粘着質な男。失礼ながらもそう思いつつも、意を吐くことにした。
「意外とそういうのって勘違いとか見込違いがあると想いますが……まぁ俺も『伯母』からそれなりに学んできましたからね……『拳』の真髄を問いただされては、応えるのが、『武林』にたつものの矜持ではあるか」
「―――かたじけない」
制服姿のシロウは、そのままに闘技場への中央に赴き、先程まで戦っていた女子たちの滴り落ちた汗を『消して』から、千種正茂という上級生との闘いへと移行するのだった。
(先程まで遠上と上級生が戦っていたが……)
小技ばっかり使って忙しない限りであったのを思い出して―――。
(百の奥義ではなく『一の術理』を以て敵を打ち倒す)
反対に『流派・■■不敗』の極意というものを『馳走』してやろうと想うのだった。