魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第二八話『異位立場』

 

 

 

『『『『東道先生、ありがとうございました』』』』

 

教育実習生の見送りとしては簡素なものだ。まぁ今回のプレ演習みたいなものであり、その裏側には生臭いものが多かったから仕方ないが、学内各所への挨拶もそこそこに帰り支度をしていた理奈であったが、結局……十文字克人の依頼はこなせなかった。

 

それが当て推量でしかない幽き希望でしかない可能性もあるのだが、ともあれそれ以上に―――あからさまにこちらを避けている様子に、少しだけ失望を覚えるのであった。

 

「別にコーハイの1人から邪険にされたからと、別にそんなに落ち込むこともないのだケド」

 

そうは言うが、依頼を完遂出来なかったことは少しだけ彼女の傷となった。

 

あの日から失敗の連続であった。その失敗には彼女のムダなまでのプライドも多分にあったのだが、ともあれ……スーツ姿のアンジェリーナは、校舎の廊下を歩き出した。

 

そしてその道中で、男子生徒の後ろ姿を見た。

廊下を歩く1人の男子。

それは―――。

 

(タツヤ……いやいや違うワ……)

 

だが、長身という共通点だけで、その髪は赤毛。間違いなく……。

 

衛宮士郎―――その背後を見つけた。見つけたのだ。

見つけたのだが………見つけた―――。

 

(は、話しかける話題がないワ)

 

今日までの教育実習期間の間に、衛宮士郎と関わりを持ってこなかった理奈がいかにもな体で話しかけるのも間尺が悪い。

 

その背中が物語る……。

 

俺を探るな。

俺に関わるな。

俺は全てを拒む。

しかし、俺は何も奪わない。

だから俺から何も奪おうと思うな。

 

無言であっても廊下を震わす靴の音がそれを示しているように見えた理奈……アンジェリーナ・クドウ・シールズの完敗であった。

 

そしてその姿に、何故か……ノーブル・ファンタズムのファンタズム01……あの特級のメイガスアサシンを思い起こす。

 

しかし、背丈は全然違いすぎて、勘違いだろうと思いなおそうとしても……どうしても、そのイメージは消えないのだった……夕焼けの中に消えていく衛宮士郎を見送る……。

 

それが血染めの丘に向かう殉教者のように見えたのは間違いではあるまい。

 

 

 

「さて、あんたはまともに口を聞ける類か? このおつむの足りない木端共と違って」

 

「お、お前は、な、なんだ!?」

 

「アンタが想像している通りだよ。マー・トンツー」

 

久々のお仕事として請け負ったのは、金沢市内に潜伏しているとかいう大亜の工作員の始末であった。

 

依頼者であり接近したのは外務省のアメリカンスクールといういわゆる親米的な外交姿勢で『旨み』を吸っていたりした連中だが。

 

彼ら曰く

北陸地方で『一』の魔法家が『保護』している十三使徒の1人である劉 麗蕾に対して大亜の工作員が動いているというものであった。

 

その連中がどういう『工作』をやったのかは、フー・マンチューというフザけた名前を名乗るBARのバーテンダーであり大亜の工作員から既に『魔眼』で聞き出したのだが……。

 

「さて―――どんな『接触』を果たしたのか教えてもらおうか?」

 

日本に潜伏して北陸にいる工作員全員が、種々様々な刃物で殺されている様子から、『門馬俊一』はもはや自分の運命を悟る。

 

だが……。

 

(ただで殺されてなるものか!!!)

 

親父……先代マー・トンツーからの任務をこのように受け継いだ時から、こんな日が来ることは覚悟していた。

 

いずれ誰かの牙が自分を殺すのだと、だから怯えを押し殺して構える。北陸潜伏の工作員たちは終わりだろう。

 

だからこそ、そばにあった芸術品として登録されている槍を手にとった俊一は一気呵成に攻める。

 

少林槍術の極みを前にしてファンタズム01と呼ばれるメイガスアサシンの剣は、全てを打ち砕く流水のごとき斬撃で終わらせるのだった。

 

「ムラマサを抜かせるとは見事、しかし足りなかった」

 

クンフーがあまりにも足りなかった。そして拳の勝負を挑んでいれば違ったが……そんな考えを打ち消しながら青い粉やビーカーに入っている薬剤を『死体』『証拠』あらゆるものに掛けていき……全ては無かったことになったのだ。

 

 

 

かなり時間は飛んで期末試験を翌週月曜日に控えた6月27日。

 

あれこれあったそうだが、殆どにおいて関わらなかった十文字たち1年の優秀組連中に捕まりそうになるも捕まらずにやり過ごしていきたかったのに……。

 

「俺はここに昼飯を食いに来たんだ。お前達みたいに勉強するために来たんじゃない」

「カツカレー大盛り……」

 

遅めの昼食を取らざるをえなかったのは、遂に対抗戦の期日が迫ってきたのか形振り構わぬ勧誘をしてきた千種・北畑の『センキタカップル』を躱すに躱せなかったからだ。

 

勧誘そのものは断ってきたのだが、自主勉強の場にカレーのスパイシーな匂いなど似合わなすぎる。

 

「そんなこと言わずに、僕たちの勉強で何か気になったことがあれば言ってくれると嬉しいんだけど」

「優秀生たちに俺みたいな劣等生が言えることなどない」

 

唐橘は自分ひとりだけが女子集団に居ることを危惧しているのかも知れないがーーー。

 

「あそこに火狩がいる。自己採点をしている様子だから加えてやれよ」

 

そうして、こんどこそオサラバであるとして端っこの方でカツカレー大盛りを食うことにするのだった。

 

「そうは問屋がおろさないんだよ」

「種馬」

「違う! 火狩だ!! わざと間違えんなよ!!」

「わざとじゃないんだな。これが」

 

カツカレー大盛りを食いながら開いたニュースサイトでは北陸の方の大学生などの集団失踪が報じられていて、さらに言えばその中でも加賀大学の『門馬』とかいう大学生が中心に語られていた。

 

門馬(かどば)火狩(かがり)が重なってついうっかり」

「あーそうか―――って納得出来るかっ! そこに種馬の要素がどこにあるんだっ!?」

「どうでもいいが、ここは俺のようなぼっちの劣等生が気兼ねなく食事を楽しめるベストプレイスなんだ。お前にそこを脅かす権利なんてあるのかよ? ハーレム自慢だったらもっと目立つところでやれよ」

 

わざわざうざ絡みしてくる火狩及びその後ろにいる連中に言い含めながら、去れと言う。

 

結局の所、1人を除いて目立つ所に行ったのだ。

 

「お前もいけよ。勉強会なんだろ。勉強していろ」

「少し話したいと思って、ダメ?」

「ダメだ。俺が提供できる話なんてない」

 

話し屋でもなければ噂売りでもない士郎に何を求めているんだろう。この女子は……。

 

「なぁ十文字、頼むから俺のことは放っておいてくれ。俺はキミらみたいに魔法師として高いランクに行けないし、そうしたいとも思っていない。ついでに言えば部活も入っていないし、明日の銭を求めて最低限の勉強しつつ、アルバイトしかしていないんだ。俺とお前は違うんだよ」

 

真摯な口ぶりで、そう言って十文字を説得する。

 

「……なんでそんなに私だけでなく皆のことを突き放すの?」

 

しかし、説得の効果はそこまで無かったようだ。それでも言葉を重ねる。

 

「ひとりで生きていかなきゃならないからだ。何かを犠牲にしなければ生きていけない人間こそが俺だからだよ」

 

住む世界が違う。生きてきた環境が違う。

そして、シロウはそんな自分のことを理解している。

 

「お前たちの中にいると、自分がどれだけ惨めなのかを嫌でも認識させられる。だからお前たちを遠ざけたいんだよ」

 

「……私は―――」

 

「ごちそうさまでした。はやく行けよ。貴重な勉強時間をムダにするなよ。優等生には優等生の、劣等生には劣等生の世界があるんだからさ」

 

落ち込む十文字を慰める言葉など無い。

カツカレーの大盛りを食べたあとには、食堂に用事など無いのだから……。

 

だというのに。そこに優等生集団から抜けてきた人間が突っかかる。

 

「ちょっと待ってくれ衛宮君……。少し聞いていたけど、随分と突き放した言い方をするね」

 

「お前が突っかかるようなことか唐橘?」

 

まぁ女子にカッコいいところを見せるチャンスではあったろう。

 

「ああ、僕はこれでも十文字さんに色々と魔法を教えられたり普通教科を教えたりしている。それぐらい恩義を感じている―――だから、キミの露悪的な言いようには少しばかり思うところはある」

 

「お前が十文字と男女付き合いしていれば別に問題ないと思う。慰めるチャンスだな」

 

「そうだね。だから―――衛宮士郎!! 君に魔法戦勝負を挑ませてもらう!!!」

 

「唐橘くん!?」「ヤク!?」

 

優等生集団の中から、唐橘役を心配するような声が飛んでくる。トレーを一度だけ机に置きながら唐橘に言っておく。

 

「火狩とキモい呼び合いしているお前だ。入学してから俺が火狩や十文字、遠上とどんな戦いをしてきたかぐらいは知っているはずだな?

断言しておくぞ。どんな勝負形式であれど、完膚なきまでに俺が勝つ」

 

「―――」

 

その勢いある言葉と少し前に聞いた『事実』(戦績)に少しだけ呑まれたのか一歩退く唐橘だが、それでも一歩を踏み出して言う。

 

「それでも! 君にどんな形であれ勝負することで、僕は十文字さんと心を通じ合わせる機会を得られる!! 君に挑まなければ僕は―――」

 

「別に強い弱いで、好意の有無が決まるわけじゃないだろ。だが……別にいいぞ。勝負してやるよ」

 

「なんで……?」

 

「一度でも鼻っ柱を叩き折られなきゃ分からんというのならば、そうするだけだ」

 

牙を剥くという表現が似合うもので言ってのけるシロウにちょっとばかり『後悔』の念が湧き上がりつつある唐橘役であった。

 

「なんたる喧嘩屋な理屈……」

 

「そしてこれは再度到来した十文字との決別のチャンスでもある」

 

「なんたる別れさせ屋の理屈……」

 

小陽と十文字から何か言われているが、構わずにとりあえず―――。

 

「というわけで副会長。デュエルスタンバイをオナシャス!」

 

ここまでのやり取りを周囲で伺っていた十文字副会長に丸投げすることでバトルの準備とするのだった。

 

「完全に巻き込まれた!! ええと、唐橘君―――俺もはっきり言うぞ。どんなルールであっても、君では衛宮士郎には勝てない。期末試験が近いというのに、下手をすれば魔法能力に支障が出る」

 

大会が近いというのに体力テストを強行されて疲労困憊で向かうようなものだ。

 

「けれど、僕は―――」

 

「少々、傍から見ていたがアリサ。君は勉強をしにここ(食堂)に来たのならば勉強するのが普通だ。そして衛宮君はカツカレー大盛りを食べに来たのだからそれの邪魔をしないように」

 

発端をよく見てらっしゃると思いつつ、こりゃ喧嘩は無理だなと結論づけた。

 

結局の所、その日に関しては、十文字副会長の沙汰もあり尻切れトンボな結末となったのだが―――。

 

7月4日 土曜日……。

 

6月29日に始まった学期末試験を終えて一日明け。本当であれば試験休みであった日に……。

 

強烈なイベントが告知される。

 

唐橘役・火狩浄鋳・千種正茂

VS

衛宮士郎

 

という明らかに『チカラの差』がありすぎる魔法模擬戦が土曜の昼に始まろうとしていた。

 

 

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