「なんでこんな私闘じみた行為を了承するんですか!?」
「色々と事情はあります」
三矢会長のにべもない発言に、アリサはとことんまで噛み付くのだった。
「その事情は話してくれないんですか?」
「……期末テスト前にあの4人は何かと諍いがあったそうだね。副会長が延期していたことを今、解消してあげたいんだ」
矢車会計の説明に、そんな理由で!? と言いそうになったが、この学校にはそういう『通したい意地は魔法で通せ』というルールがあったことを思い出して、それでシロウの魔法の一つであるメデューサの鎖を知ったのだ。
だからそれを口にすることは出来なかった。
「それと確認だ」
「確認?」
神妙な面持ちである矢車会計は何かこの戦いに期するところがあるようだ。
それに関しては説明してくれるらしく、口を開く。
「野蛮な私闘であれば彼は全力で戦う。今回の期末テストで彼が上位の成績を取っていれば、何も問題はなかったんだがな……よって『本当の実力』を見たくなったんだ」
「衛宮君には九校戦の競技種目で戦ってほしいんですよ」
「―――」
天佑というほどではないが、それは素晴らしい考えだと思えたアリサは諸手をあげて歓迎するということを抑えつつ、詳しい事情を聞くことに。
「冷たい裏側の計算を申せば、君の弟 十文字竜樹くん相手に一年の俊英たる火狩では少々相性が悪いのではないかということもある」
「予定通り当たるかどうか、そもそも対決することがあるかはわかりませんが、仮に敵対した場合、火狩君ではどうしても不安が残るんです」
恐らく十文字竜樹 は『モノリス・コード新人戦』に出てくる。その場合、一高と三高という有力校どうしが予選で当たるか、その後の決勝リーグでの戦いで当たった場合……。
勝利を考えた時に、そういった計算が働いたのだ。
「けれど試験を頑張って上位の成績を修めてきた人間を置いて、そういう風な人事ってどうなんですか?」
「まぁそれは分かるがね。実技試験の向き不向きで選ばれないこともあるからね」
結局の所、競技適正と魔法適正とがマッチングしてなければ、上位成績者であっても選ばれることは無いのだ。
遠上茉莉花の言葉にそう返しつつも、この戦いで何かが見えるのではないかという期待がある。
ただ……その一方で……。
「正直な所を申せば、そんな勝利至上主義な考えじゃなくてもいいと思うんだよな。そりゃ試合で大会なんだから勝てば気持ちいいんだろうけど」
お祭りでしかないならば、別に一芸特化の選手が心のままに戦うのもいいと思うのだ。
この競技ならば、こんなユニークな戦いが出来る。俺は、私は、こんなことが出来る。ということを披露する場であってもいいはず。
しかし、現実には学校の威信という何とも『ふわっと』したものを胸に戦うのだ。
そんな風に所感を会計と会長は幼なじみどうしで共有しながらも、戦いは階下の闘技場で始まろうとしていた。
Interlude……。
「よし、細かな作戦は特に無いな。俄仕込みの拙い連携なんて意味がない。だから、これでいいんだ」
「は、はい! よろしくお願いします! 千種先輩!!」
「唐橘くん……魔法医を目指していると聞いたが、そのような体つきで大丈夫なのかね?」
「え、ダメなんですか?」
「野獣の肉体に天才の頭脳、神業のメスを持ってこそスーパードクターKを名乗れると思うのでね」
戯言だと言う千種先輩に『何なんだこのヒトは?』と思いつつも緊張が少しだけ解れたのを感じる。
しかし、その後には千種先輩は衛宮士郎だけを見ている。衛宮士郎だけを見据えている。
「俺たちの役目は千種先輩をサポートすることだ。あの人が
「うん。こういう荒事も魔法師の役目だと理解はしていたから、大丈夫」
大丈夫でないことは千種も、肩を叩いて気をつけしている火狩も分かっている。だが、1対1で相対しあっていたらばこの少年がどうなっていたか分かったものではない。
よって―――。
こういう形式の戦いになったのだ。離れたところにいる衛宮士郎はいつもどおりだった。
自分たちのように厚いアーマーを着込むこともなく、制服姿のままでこちらに勝つつもりでいる。
そのことに唐橘は『いいの?』と聞くも『ヒトによりけり』とだけ答えてから衛宮士郎を見る。
準備運動をするように身体を解しているシロウは普通どおりだ。3人もの『優秀な魔法師』を相手にしようというのに何一つ意に介さない態度である。
(本当、俺たちを有象無象と思っているんだろうな。けどな俺にだって誇りがあるんだよ)
(あの日……君の『絶招』を食らってから技を練ってきたんだ。今回は君の意のままにはさせない)
(十文字さん、いやアリサさん見ていて! 僕とジョーイで君の目を覚まさせるよ!!)
そんな男三人の決意とは裏腹にシロウの方は―――。
(腹減った。今日はオムハヤシライス特盛を食おう)
などと気の抜けることを考えるのだった。
「ルールの再確認よ。今回の試合は完全フルコンタクト。ただし! 危険性ある魔法を使ったらば、その時点「いいや、裏部さん。意見させてもらう」―――千種君?」
「今回に限り、ある程度、魔法の制限は無いようにしよう。もちろんその線引きは君に任せるけど」
その言葉にざわつきが起こる。当然だ。
無制限デスマッチにも発展しかねない言葉に誰もが驚く。
「僕は魔法マニアでね。君がどんな魔法で戦うのかは確かに見てきたが、体験はしていない。ズルいじゃないか。僕との試合では身体強化だけで他の人間にはいろいろな魔法を見せて圧倒して……」
「あんたドMか」
悪態を突くように言いながらも、そもそも秘奥を見せるかどうかはシロウ次第なのだ。
しかし、この戦いにおける意味を考えた時に少しだけ考える。
(だが、この戦いで俺が目に見えて『おぞましい戦い』を演じ、『陰気な術式』を披露すれば、十文字は火狩か唐橘に靡く! このKKコンビのどっちがあのハーフイワンのハートを射抜くかは知らんが)
あとは野となれ山となれである。その生贄としてイケてるお前らは選ばれたのだ!!
神々に捧げられし供物。
三人をミノタウロスの皿のごとく感じながら、浦部アキの開始の合図が魔法戦闘の演習場に響く。
・
・
・
「―――
魔法を起動させながら向かってくる千種を見ながらもシロウの唱えた呪文。
まただ。彼はこの現代魔法全盛の時代にあって『呪文詠唱』というものをしている。
詩奈とアリサがそれを耳にした時には、千種の拳を掌でいなす。入学初期のマジックアーツ部の再演―――とはさせまいと千種はその大柄な体躯を活かして体ごと当たろうとする。
シロウも一年生としては大きい方だが、それでも千種はそれよりも大きく『分厚い』。接近してくる壁を前にシロウが選んだのは、前進であった。開いた五指で相手を掴み取ろうとしている。
その上で相手の持ち込もうとしている意図を崩す。
千種は関節技の抑え込みをしようとしたのだが、
千種が抑え込もうとするのを見てそれを抑えようと分厚いアーマーの
そして数秒後にはその体躯がプレスを掛ける前に千種は―――再び10mはボールでも投げられたかのように勢いよくふっ飛ばされるのだった。
『―――なにィいい!!!!????』
誰もが驚愕するような結果。そしてそれを行った人間は何かを押し留めたような姿勢のままに立っていたが―――。
(……何かを『回転』させた?)
一見すれば平手をまっすぐ見せているように見えて、少しだけ移動している。高低差がある手の位置に気付いたアリサだったが、その態勢を崩して火狩に突っかかる。
「来るなっ! 来るなっ!! 来るなぁっ!!」
正直、情けない声を上げながら魔法の連射。
火狩浄偉の得意魔法であるヒートフラッシュ。熱を伴う閃光は本来ならば暴徒鎮圧用の威力で制限されているはずだが、その威力はそれを越えた電磁波の熱を持っており―――皮膚に当たれば膨張破裂をさせることも可能となるはずだ。
そう……当たりさえすればだったのだが。
近づいてくる衛宮。遠ざかる火狩。
しかしその間にも、「なにか」が衛宮の周囲に発生する。
「蝶!? いや―――鳥か?」
黒色の塊が徐々に輪郭を成していくにつれてそれがどんな類型であるかが理解できる。
蒼黒の小鳥が何羽も出てくる。その小鳥には嘴もなく目も顔もない。ただ3つの丸い円が虚のごとく腹にまで等間隔に並んでいた。
「くすくすごーごーくうくうおなかをならせならせ」
それが呪文なのか何なのか……だがどことなく悲しい文句のようなそれを聞いた虚ろの鳥は火狩に殺到する。
「知ってっかー火狩?」
戦闘の最中にあまりにナメた問いかけ。それに応えることもせずに、出来ずに、防御術式を展開する火狩だったが。
「鳥ってのは恐竜の『進化した姿』であってな。その大半が肉食の類なんだよ」
正確には雑食ではあるが、草だけを食む鳥というのが珍しいのだから……つまり。
火狩 浄偉に殺到する鳥、鳥、鳥鶏酉鳥酉鶏トリトリトリトリトリトリ―――。
レトロ映画であり同じ題の小説を原作としたものを思い浮かべた火狩だったが啄むべき嘴も無いというのにその体当たりはとんでもない威力だった。
それよりも、その鳥と呼んでいいかどうか分からぬ不気味なフォルムにびびったのもあるが、防御術式を砕きながら殺到した鳥を前に火狩もoverダメージとなるのだった。
悲鳴を上げる間もなく鳥の群れが巨大な鳥を構築するようなイメージを見ながら鳥葬されるように突撃を食らいまくって昏倒するしかなかった。
「ジョ、ジョーイ……」
ここまで圧倒的なのか。
ここまで不可思議なのか。
ここまでヒトに恐怖を与えるものなのか。
魔法戦闘が、こんなものだとは思っていなかった唐橘役は衛宮士郎に怯える。
一高に入学して以来、魔法というものを知ってきたつもりだった。
十文字に色んな魔法を教えてもらってきたつもりだった。
魔法戦闘に関しては、九校戦の映像―――特にモノリス・コードも見てきた。魔法剣術部、マーシャル・マジックアーツ部のものも見てきた。
だというのに……。
「なんなんだ君は……!?」
それとは違う、異質すぎる戦いと術を前にしたときに、全ては崩れ去る。
唐橘の怯えを含んだ言葉を前にしても、笑みを浮かべながらシロウは答える。
「―――世界のはぐれものである
そのあまりにあまりなヤンキーな言動にキレた唐橘がCADを操ることで魔法を通じさせようとする。
その速度、組み立て、投射する位置。
正しく一級である。
第一世代である唐橘役が、こんにちに至るまでどれだけ努力して練磨してきたかが分かるものだった。
だが、惜しいかな。
確かに彼はそれらの精緻な組み立てでは正しく優秀生であったが……。
事象干渉力……単純なチカラとウェイトの差が如実に出るのだった。そして、こと此処に至るまでにシロウの『中身』は完全に展開していたのであった。
そして、唐橘が攻撃している間、不動であったが―――カウンターは食らわせていた。
「がっああああ!! っっううう!!!」
「ヤ、ヤク……」
何とか立ち上がった火狩とは反対に次に崩れ落ちるのは唐橘であった。
腕をダランと落として、膝立ちになる唐橘……何が起こったかはわからない。だが、崩れ去るアーマーの腕部分。腐り落ちたかのように崩れたそれで知れる。
そこには……焼け爛れたかのように真っ赤になって腫れ上がっている唐橘の腕があったのだ。
痛みを堪えきれないのか、涙をマットに流しているのが、
「な、なんだっていうのよ!? 衛宮士郎は何をやったのよ!?」
五十里の混乱は当然だ。シロウは何もしていない。しかし、シロウに干渉をしようとした瞬間、何かのカウンターが決まっていたのだ。
そして『異能の眼』を持っている連中などある種のハイセンスフィーリングを感じ取れる連中は、それを見た。
(ヘビ! 白蛇に紫蛇とか……多くの色彩の鱗を持ったものが見えた!!)
何なんだろう? 彼のチカラは―――。
結構な大怪我を負った火狩や唐橘への心配や痛ましさよりも、シロウへと関心が向いてしまう自分が変だと思う一方で、シロウが気付いていないことが起ころうとしていた。
それはシロウの背後に迫ろうとしている巨人の姿だ。
怒りなのか復讐心なのかは分からないが、遂に立ち上がった千種の反撃が始まろうとしていた―――。