魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第三十話『一高地獄楽・弐』

 

 

 

なんたる男だ。食らった瞬間には屈辱でハラワタが煮え返るような思いであり、事実、食らった一撃は千種の鍛え上げた筋肉を素通りして内腑にまで浸透する攻撃だった。

 

つまり、お腹がスゴく痛いのだ。

 

たった一撃。またもや一撃で勝負を着けられたくない。そもそも、あれが『技』なのか『術』なのかすら理解できていない。

 

だが食らった衝撃は重く深いものだ。

 

胃酸が逆流するような口中の酸いのを無理やり飲み下してから起き上がって一年2人を圧倒しようとする衛宮士郎に接近する。

 

遠吠えは要らない。静かに『背後』に近づき、筋肉の限りで締め上げる。

 

(こんなの卑劣の極みだ)

 

そう言えば彼と戦った最初は、自分が後ろから殴りかかったことが発端だった。

 

苦いモノを思い出しつつも、衛宮士郎を筋肉の鎧でロックせんとしたのだが……。

 

(鉄山靠!!)

 

八極拳の達人にとっては、半歩ほどの隙間さえあれば震脚と身体の捻りを持って相手を打ちのめせる。

 

迂闊。火狩との戦いを見ていたはずなのに、それを忘れていた千種の失態だ。

 

接近しようとする千種に対してカウンターでのそれが当たろうとしていた……瞬間。

 

「―――!!!」

 

その鉄山靠の被害者たる火狩が衛宮士郎の足元に移動魔法を掛けた。

 

彼に対して現代魔法を仕掛けることがカウンターになるのならば、相手の身体を崩すことを意図すればいいだけだった。

 

敷き詰められた耐衝撃のマットがゴワつくように動いた瞬間、士郎の套路に少しの淀みが発生。

 

そして鉄山靠のクンフーは崩れた。

 

その一瞬を狙ってシロウを羽交い締めにせんとする。しかし、その瞬間の判断で千種の巻き込む腕の間に己の両腕を挟み込むシロウ。

 

空手で言うところの三戦(サンチン)のような防御態勢を取ったシロウ。引き寄せた圧で拘束した風に見えて……。

 

その手がちょうど千種の腕を掴む位置にある。抜け出すか、攻撃してくるか。瞬間の判断が分かれる。

 

(―――ならば!!)

 

不味いと感じた後には千種は跳躍の魔法を使用。

 

天井高く衛宮士郎ごと跳ぶ。そしてパイルドライバーの要領で衛宮士郎を叩きつけることを意図する。

その急激な上下運動の影響なのか、千種に先程の張り手の痛みがぶり返して痛苦が襲いかかる。

 

それでも物理法則と運動技術の全てを尽くしたプロレスアーツが決まった。

 

もうもうと立ち込める煙。

 

「い、いくらなんでもやりすぎなんじゃないかな?」

 

衝撃の程は、離れた場にいた自分たちにも分かり、当たりどころ次第では絶命するのではないかというものであった。

 

その仙石日和の疑問に誰もが何も言えない。

 

しかし、そのマットに倒れ込む衛宮士郎を見た瞬間、裏部アキが声を上げようとした瞬間、その造形が崩れさった。まるで蟠る泥のように不定形のヒトガタから変化してサイオンよりも濃いエネルギーに変わる。

 

『『『影人形!?』』』

 

彼が自己申告していた通りならば、そういう名称の『ダミー』であり、攻撃回避の術。

 

「いつの間にあんなものを展開していたっての!?」

 

「千種先輩が痛みで顔を顰めた時。パイルドライバーの落下軌道の際にそれを以てすり抜けたんだと思う……」

 

どういう術理なのかはまだ分からないが、それでもアリサが『眼』で見た限りでは、そこから『本物』の衛宮士郎は千種の拘束からすり抜けていたのだ。

 

「―――必ず殺す技と書いて『必殺技』。しかし、それを返す術はいくらでもある」

 

声は千種の後ろから響いていた。そこには五体満足で特に何事も無い様子で佇んでいるは衛宮士郎。

 

「まぁその死力に免じてお見せしましょう。俺の―――」

 

言葉と同時に黒い布きれのようなものが揺蕩うように、されどある程度の張力を以てシロウの背後に幾つも数え切れないぐらいに現れる。

 

それらはまるで彼を守護するように桜色の色彩と紫紺色の色彩を添えて現れる。

 

「―――『1つ』の上限を」

 

宣言と同時に布は、意思でもあるかのように三人に襲いかかる。不可解すぎる事態だが、とりあえず防御・迎撃・回避……

 

あらゆる種類の魔法を以て抵抗を試みるも、それは不可能になる。

 

(魔法式だけじゃない! 起動式まで砕かれていく!!)

(おまけに布が空間を圧していくごとに術が使えなくなる!!)

(なんなんだ……この『魔法』は!?)

 

三人の優秀な魔法師のタマゴが何の抵抗もできずに巨大な力に流されていく。それを発生させているのは、衛宮士郎という魔法科高校の劣等生!

 

「カケラのイチの秘奥開帳 神技再現神格装填(イグニッション) 其は サンサーラ・ナーガ(輪廻をめぐる永遠者)!!」

 

言葉を受けて布が『蛇』……それも巨大な大蛇になっていき、強力な魔法式に3人を囚えていく。

 

魔法式の展開と術の全てに抗うことが出来ず、巨大な球体が生まれ、それが割れる。

 

幻想的な琥珀色の球体から何かが生まれいづるかのように……

 

そして全てが終わった後には……『五体満足』でマットに倒れて気絶している1年2人と3年1人が存在している。

 

何が起こったかは詳細にはわからない。だが、それでもシロウは……『勝利』を果たしたのだった。

 

それは『何もかも』を『無かったこと』にしてしまう勝利であった。

 

 

「外傷の類は殆ど無かったわ。というかキッチリ全てを治したとでも言えばいいのかしら……養護教諭の話によればそういうことらしいけど」

 

裏部風紀委員長の戸惑い気味の言葉に答えるものはいない。答えられるものはいるのだが、沈黙をしている。薄い笑みを浮かべながら椅子に座っているだけだ。

 

「今回、お前は三人と順番に戦うのではなく、三人を同時に相手取ることを了承していた。それはこの展開を企図していたからか?」

 

「面倒だからですよ。いちいち一人ひとりと仲良く仲悪く戦ってられっか」

 

碓氷の言葉に悪態を突くような言い方。だが、その言葉だけでこの男が彼らを歯牙にかけないことは理解できた。

 

「んで、もう昼食行っていいですか?」

 

『『『―――』』』

 

その言葉に部活連の執行部室に集まった面子は戦慄する。

 

「……衛宮君、正直に言おう……僕たちは君が怖い……アレだけの超抜能力を持ちながら目立たない、目立とうとしない君がなにかの知能犯ではないかと思うほどだ……」

 

「そうですか。では怖がっていてください」

 

あらゆるこちらからの理解や納得を拒む態度に副会長はキレた。

 

「だから何でそこで自分の能力を曝け出して! 誤解を解こうと思わないんだ!?」

 

「恐れてくれるならば、俺は平穏な生活ができる! 煩わしい思いをしない!! 受け継いできたチカラが他の理解の及ばないものならば、俺は―――――」

 

誰にも関わらず生きていける。

 

演劇役者のように感極まったように言う。

 

副会長の激昂の言葉など何の意味もない。

 

「それでは」

「本気で何の説明もしないで昼食に行くつもりか!?」

「引き止める理由も根拠もないでしょ?」

 

その通りであった。勝利の笑みを浮かべて部屋から出ていこうとする衛宮士郎を止めることなど出来なかったのだ。

 

―――そして食堂にてオムハヤシライス特盛を食うことにした。

 

おなかがぺこちゃんだったんだ。なら昼食を食わなくてはならない。

 

ウォぉおん。お腹にエネルギーが溜まっていく。

 

(後でモルガンにも作ってあげよう)

 

これ以上に美味しいものを構築できる。自分が作ったものには妥協しないが、他人か機械が作ったものは特に文句を言わずに食う。

 

そういうクセがシロウにはあったのだ。

 

そんなわけで……。

 

オムハヤシライスを掻き込むようにしながらも米粒一つに至るまで己の血肉に変えて、皿をカラにしたシロウは同じく昼食を注文している金髪の後ろ姿と、いつもの一団を一度だけ見ながらもトレー返却口に赴き、おさらばするのだった。

 

(副会長の言が正しければ怖がられているのだろうさ……)

 

怖い人間はあまり人が多い所にいないほうがいいのだ。

そのぐらいは弁えているシロウは、食堂からいなくなったのだが……。

 

「つかまえた」

「――――――」

 

食堂から出た瞬間に、金髪の少女がシロウの腕を捕らえて絡めてくるのだった。

 

なんでっ!?

 

と言う疑問に答えを出すべく締め切りではない食堂側の様子を見ると、食堂側にいた金髪はその髪に手を掛けて―――金髪のウィッグを取るのだった。

 

上背と体型が似ている五十里にそれを被せて変装していたらしい。

 

ふざけんなという意味で親指を下にしてバッドサインを出すと、あちらも笑顔で同じようにしてきやがった。別に鋼のメンタルには傷一つないわけだが……それはともかくとして。

 

「あのさ十文字……君は火狩と唐橘の看病してるべきだと思うよ。一年のマドンナ、クイーンビーがやるべきことはそれだよ」

 

特に唐橘の決意の九割は十文字で占められてるのだから。ここで彼を慰めないと彼はとんでもないピエロにしかならない。

 

「何もないじゃない! あの二人ならば養護教諭のメディカルチェックを受けたあとには普通に男二人で反省会とかしてるわよ!!」

 

千種先輩はどうやらハブられたようだ。

 

「というかそんな尻軽女(ビッチ)なこと私したくない! 松崎先輩にも火狩くんには興味ないって言ったのに変節と思われる!」

 

唐橘のついでと見られればいいんじゃないかなと思いつつも、メデューサ・バインドを教えた影響なのか腕にしがみつかれると、完全に離せない。

 

「分かった。分かったからまず離れてくれ。目立ちたくない……聞きたいことがあるんだろ?」

 

ゆえに十文字とは言葉で説得しなければいけないのだ。説得という呪文が通じる確率は約四割。

 

「うん。それもあるけど体は大丈夫かな?って」

 

「クリーンヒットを食らっていないぞ」

 

「けど……あの術って色々とあるんじゃないかな? それと跳躍した千種先輩の羽交い締めから逃れた時も」

 

君みたいな失態は冒していないという意味で足のかかととつま先で床を何度か叩く。

 

「話したいならば人目につかないところがいい。まぁ副会長なり強面の当主どのに言って(告げ口)もいいが」

 

「言わないわよ。アナタにとって最大級の秘密だと私にも理解できている……」

 

それでも聞こうとする君はなんなのさ、と言いたいが……とりあえずなんやかんやと、この学校で一番関わりを持ってきた十文字にだけは少しばかりスジを通すべきかと思って―――。

 

腕に絡まれながら、校舎外へと赴くのだった。

 

 

「蛇、布、鳥らしき生物、カウンター、影人形、八極拳、布、蛇、琥珀色の球体……」

 

天国へ行く方法の鍵となるグリーンベイビーに興味を惹かせる単語の羅列のように、五十里 明はそれを繰り返して、最後には……。

 

「なんもかんもわからんわー!!!」

 

理知的な彼女にしてはあり得ざる絶叫を以て衛宮士郎への感想を述べる。

解析不能(カテゴリーエラー)

 

そう呼べるものであったのだから……。

 

「前から理解していましたけど衛宮君が戦う際にはアシスタンツの類を使わないですよね」

 

「あの頃はレトロな男とかそう思っていたけど、本質を見誤っているのかな……」

 

小陽の言葉に、男子とはいえ同部の部長がやられた事実から慎重に情報を探る茉莉花。

 

古式魔法の全容を、実は現代魔法師は掴みきれていない。というより現在の百家などの中には古式魔法師から転向したものが多いが、それでもその深淵の中の深淵、奥義中の奥義を教えられる・伝えられる前に、現代魔法に擦り寄った家なのだ。

 

「なんにせよ『蛇』というのが、シロウ君の魔法の……シンボルと言えるんじゃないかしら?」

 

シンボル……日和のなんとも現代魔法師の具体的とは真逆の象徴的な言葉に何となく考えるに、それは的を射ていた。

 

茉莉花が戦った時にも『蛇咬拳』とでもいうべき拳の奥義を見せつけ、アリサに教えた鎖の魔法にも『メドゥーサ』という蛇の魔獣が記されているのだから……今更ながら符丁は示されていた。

 

「じゃああの『鳥っぽい生き物』は何ですかね?」

 

「そこも謎よね。今頃アリサは衛宮士郎からあれこれ聞いているんでしょうね。あいつ、アリサには妙に甘いから」

 

ジュースを吸いながら五十里が考えるに、アリサのシロウに対する執着が彼を根負けさせているのは事実だった。

 

そこから自分たちに伝えられるかと言えば、そうではないことも理解しているのだが…。

 

「そんなことありますかね?」

「小陽、嫉妬?」

「そんなところです」

 

嫌な人間関係が出来ているのを自覚しつつも、あの男子の最大級に問題な点は……。

 

(何一つ手札の『詳細』を晒すことなく、圧倒的なチカラを示す点にある)

 

あの伝説の司波達也とは真逆すぎる。

兄から聞いた司波達也の人物像や伝説とは似て非なるもの―――。

 

唯一の共通点は、他を寄せ付けぬ強烈な『地力』を持っているという点だ。

 

「で、ボンクラボーイズを足して少しばかり推察をしたいんだけどいいかな?」

 

いつの間にか自分たちのそばにやってきた男子二人。二〇分前には、劣等生にやられた彼らを加えて衛宮士郎評をするのだった

 

「それはいいんだけど……十文字さんは?」

 

「私達を策略として使って、愛しのヤンキーマギクスと二人っきりになってるわよ」

 

五十里の放った言葉に殊更落ち込むのは唐橘役である。それだけで彼が今回の戦いで、何を意図していたのかが分かってしまう。

 

やれやれと思いつつも……案外、ああいう抑圧的で禁欲的に生きている女子は行儀や礼儀を重んじる『正しい人間』よりも色んな意味でスレスレだが強く引っ張ってくれる男子に何かを感じるのかもしれない。

 

案外、伝え聞くところの彼女の腹違いの弟がそういうタイプだったらば『コロッ』と振れていたのではないかと……他人の家の事情ながら少しばかり危機感を持つ五十里 明なのであった。

 

 

 

 

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