魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第三二話『三高魔闘』

 

オンラインでの遠方との会合。それは取りあえずつつがなく終わりそうであった。

一方の相手が、少々憔悴しきっているのも、その一因であったりするのだが…。

 

「……以上です。何か質問はありますか?」

 

『いえ、けれども協力してくれるでしょうか?』

 

「……それは私の方からも話を着けたいと思います。彼が関西古式連盟と関係があるかどうか分かりませんが……古式魔法師から現代魔法師への風当たりは強いですからね」

 

その言葉に対して、『情けない』とか『恨みがましい』という単語が出てこないのは、結局の所あのノーブル・ファンタズムの全てが現代魔法師を上回っていたからだ。

あの組織こそが古式魔法師が現代魔法師を殲滅するために作ったものではないかと思ったほどだ。

 

そして、最後の仕上げとして一番イキっていた司波達也という男を抹殺せしめようとした。

生きているわけでも死んでいるわけでもない。その状態を続けさせることこそが最大の復讐とも言える。

 

「一応、交渉は我々の方でやりますので四葉殿には手控えてもらいますよ」

 

東道理奈ことアンジェリーナ・クドウ・シールズからその手の情報が伝わっていると思っての釘刺しであったのだが目の前の女性は殊勝になりながら口を開く。

 

『ええ……お任せします。腹蔵無く言えば今の家にはそのようなことをするだけの余裕はありませんから』

 

落ち込みながら言うその言葉はウソではあるまい。

演技という可能性もあるのだが、それでも四葉の勢力が落ちているというのは事実だ。

 

(一条はここぞとばかりに司波深雪と息子との縁組を持ちかけているし、何より目の前の人も同じく七草家から……)

 

家の権勢が落ち込むのにかこつけた浅ましい行為とも取れるが、まぁどうなるかはまだ分からぬ。

そして、今は克人にとっての後輩を眠りから覚まさせることが重要なのだから……。

 

四葉真夜とのオンライン会議を終えてから明日は日曜日……衛宮士郎との会談をセッティング出来るだろうかと、彼のアルバイト先を再度確認すると―――。

 

「……隣のテナントでガス爆発?」

 

それがただの事故であれば何とも思わない。しかし、こういう謀略を進めた上でこんなことが起こっていると何かの裏を読んでしまう。

 

四葉だろうか? はたまたこちらの動きを察知したどこかの魔法家だろうか?

 

どうにも克人ではそういう風な事物(こと)の裏側を読むことが出来ない。要するに『お坊ちゃん』なのだ。

 

正道・王道を以て相対することしか出来ない。

 

(俺ももう当主なんだ。政治というものをちゃんと汚くやっていかなければな)

 

脇を固めていかなければならない。そう思いつつ、やむを得ず離れに居るアリサに明日、衛宮士郎くんと会えるようにセッティングしてくれないかと言ったのだが。

 

『明日、シロウくんはアーツ部の金沢対抗戦に同行―――応援として行きますから無理ですよ?』

 

どうにも彼とはすれ違うばかりであった。

そしてアリサ自身も遠上茉莉花の応援として金沢に向かうようだ。

 

気をつけて行ってらっしゃいと言いつつもあちらに竜樹がいることを失念しているのだろうかと思う。

司波達也ならば、自分の妹を守るために全力を尽くすだろうが、自分はあそこまでシスコンではない。

 

アリサに掛けているのは哀れみと同時に兄貴としての責任感である。そして、父親の失態を少しばかり和らげたいのだ。

そんな風に考えた時に前々からの疑問が頭をもたげた。

 

「しかし、竜樹の方が生まれ(生年月日)では遅いということは……親父が最初に付き合っていたのはアリサの母親なのではないだろうか?」

 

克人にとって祖父にあたる鎧が和樹(実父)に用意した慶子(継母)との縁談が、どの段階でのことだったのかということは分かりにくいし、そこまで込み入った話、和樹の恋愛模様などは流石に知ろうとするのは不躾であろう。

 

それを竜樹に突きつけるのは外部の人間がいいのかもしれない。

 

そんな予感を持ちながらも夜は明けていく―――。

 

 

八王子の「第一高校前」駅で個型電車に乗り、そのまま都市間長距離列車『トレーラー』に個型電車ごと乗り込む。

ちょっとした時間差でトレーラー二本に分乗することになったが、一高マーシャル・マジック・アーツ部のメンバーは七月五日正午前、金沢駅で再合流した。なおその中には応援の生徒()人が含まれていた。アリサはその内の一人である。

 

そしてシロウもまたその1人であったが……。

本来ならば『六人』の予定だったことを告げられるのだった。

 

「誘酔先輩がね。まぁ別にいいけど」

 

女子とのデートでも入れたんじゃね。と呟くと。

 

「そういうタイプに見える?」

「ありゃ仕事人間だ。あの胡散臭い笑顔とか副会長と如何にも友人面しているが、本質的には自分以外は信じていないし、周りは全て利用すべきものだとするタイプだよ」

 

企業なんかでよくいる『したり顔』で『ご意見番』を気取る『役員』とかがそういうタイプである。

遠上からカードを一枚取ってペアを中央の机に放る。

 

「誰もがプロジェクトに対して前向きである中、監督官庁の思惑や何か冷水浴びせるようなことを言ってベンチャーやチャレンジに対してストップを掛ける……他社のスパイなんかによくいるタイプだわな」

 

「はー、アンタの誘酔先輩に対する評価は随分と辛辣だなー」

 

「実際、五十里から聞いたが火狩と俺が魔法戦を演じる切っ掛けとなったのは、あのヒトの混ぜっ返すような一言が原因らしいからな」

 

焚き付けたという意味ではそうなのだ。実際、自分が退席した後の会議の論調は、『臭いものに蓋』で一致していたのだから。

 

「それじゃ君は誘酔先輩が何を狙っていると思っているの?」

 

遠上の手札から一枚を取った五十里が問いかける。

どうやらペアになるものはなかったようだ。

 

「単純に遠上と十文字の身柄だろ」

 

『『『『なにぃっ!!!!!????』』』』

 

シロウの言葉は同じ電車に乗っている男子アーツ部員の耳目を震わせたようだが、構わずに話す。

 

「そ、それってどういうこと!? まさかあのヒトは私とミーナを雌鶏にしようっていうの!?」

 

「無精卵だけだったら良かったんだが―――ってそうじゃないな。何となくの所感だが……お前たちを『何かの集団』に属させようとしている気がする」

 

驚いて五十里から取るべき手札の指がちょっと震えているようにも見える。だから少しだけまぁただの当て推量だと前置くことにする。

 

「そりゃまたふわっとした言いようね」

 

「杞憂と言うか俺の考えすぎだったらいいのさ。ただ、あのヒトの二人に対する色目は露骨すぎたからな」

 

それは『男性』としての異性に対する興味というよりも、特殊な技能(タレント)を持った人間に対するもの……リクルーター的な面をシロウは誘酔 早馬に見ていたのだ。

 

「けど、案外それは正しいかもね。『誘酔』―――『イザヨイ』なんて名字、本人がどれだけ数字持ちやそういうのと関係ないなんて言っても信じられないわよ」

 

「おや、五十里も疑ってんのか?」

 

「アンタのせいで若干、世の中を斜に見ちゃうようになったんだけどっ」

 

解せぬ。という思いでいながらも『ババ抜き』は……。

 

1位 十文字 アリサ

2位 衛宮 士郎

3位 五十里 明

4位 遠上 茉莉花

 

そんな順位になったのである。

 

「ぐぬぬっ!」

「こんなところで勝負運使うこともないだろ」

「むしろここで負けておけば勝利の運気がくるかもね」

 

ビリであることを悔しがる遠上に宥めるように言いつつ、バーチャルアイドル『ユイ・ショウセツ』の動画配信をチェックするのだった。

 

「まさかシロウくんがラ・フォンのヴァーチャルアイドルと知り合いだったとはね」

「バイト先のウェイトレス(同僚)が、そうだっただけだ」

 

まるで狙い通りナンパでもしたかのような言いようの五十里に鋭く訂正はしておくのだった。

 

「けどバーチャルアイドルの『素材』なんて、フツーは顔バレ厳禁だけど?」

「俺とユイの間にも色々あったんだよ。学外の生徒の交友関係まで生徒会は関与するのか?」

 

俺とユイの間だって―――!!! などとセンテンスの抜き出しが致命的な遠上が大声で囃し立ててきやがった。

 

バス内の部員全員に聞かせることを意図したそれは、どいつもこいつも『中学生か!?』と言わんばかりの囃し立ての声(ヒューヒューだよ)が上がるのであった。

 

そんなわけで正面の十文字の顔が凄いことになっているのだった。

 

別に殊更、誤解を解こうとは思わないが……。

 

「一応言っておくが由井雪子だから、別に名前呼びじゃないんだよ」

「そろそろ私のことはアリサとか呼んでくれてもいいんだけど?」

「そんな十師族のご令嬢に恐れ多くて馴れ馴れしいことは出来ません」

「十文字なんて厳つい呼ばれ方ばかりイヤなんだけど」

 

その言葉に全十文字家の人々は泣いてもいいと思う。

 

副会長は特に……。

 

『どけ!!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!』

 

などと意味不明なことを口走っちゃうかもしれない。いや、マジで。

 

そんなこんなありつつも、金沢駅に到着。

 

その後は予約しておいた貸し切りロボットバスで三高まで直で三高へ出発。

 

グラップリングによる嘔吐を防ぐために早めの昼食は既に穫っていたわけだが。

 

(車酔いは無くてよかったともいえる)

 

その辺りは流石に考えているようだが、それでも車中食における消化のアレな所とかはあるかもしれないので、その辺りは目敏くチェックはしている。

 

「あっ、そうだ。衛宮―――お前大宴会料理とか作れるか?」

 

「? いきなり何を言っているんですか北畑先輩」

 

「いや、何か場合によっては試合後に腹に入れたいからさ。機会があれば三高の設備を使って作ってほしくて」

 

照れ笑いしているが、これから内臓にまでダメージが入るかもしれない相手が、試合後に十分に飲食出来るかどうかすら不透明だろうに……。

 

まぁその食欲が試合のボルテージを上げるというのならば……答えるのはやぶさかではない。

 

「三高さんのことも考えれば大皿パスタとか、試合後のことを考えて消化が良いリゾットですかね」

 

こちらが持ってきた食材なんてないし、あちらが用意したり、あったとしてそんな勝手をしていいのか分からないと念押ししてから場合によりけりだとしておく。

 

そんなこんなありつつも貸切ロボットバスで三高に着いたのは午後零時半。

すぐに三高マジック・アーツ部の部長が顧問と共に出迎えに来た。

対抗戦開始の予定時刻は午後二時。

 

一高生は一休みするのではなくそのまま更衣室に案内してもらって、念入りなアップを始めた。

 

ピリピリとした空気。ツンと鼻を突くアドレナリンの匂いを敏感に感じながら早めに応援連中は武道場のギャラリーに移動した。

 

「噂には聞いていたけど、本当広いわねー」

 

感心とも呆れとも取れる五十里の言葉の通りであった。

三高の武道場は、一高の第二小体育館と構造はほとんど同じだがサイズが二倍前後ある。一高でいえば、講堂とほぼ同じ大きさだ。

 

お上りさんよろしく、一年三人は入った会館の大きさに圧倒されるのだった。

 

「第三高校のモットーは『尚武の三高』。戦闘用魔法と同じくらい武道教育に力を入れているんですよ」  

 

五十里の呟きに応えたのは、いつの間にか近くにやってきた緋色浩美であった。

 

「お久しぶりですね。十文字さん、士郎君(紅の貴公子)

 

妙な副音声が聞こえたが、とりあえず2人そろって『久しぶり(です)緋色さん』と答えておく。

 

「あなたが緋色浩美さんですか。はじめまして第一高校生徒会書記の五十里 明です」

「緋色浩美です―――両手に華ですか士郎君?」

「邪推の限りだよ。まぁ今日は本当に付き添いなんだ。その理由は……色々ありすぎて説明しきれない」

 

膨れた面をしてこちらを見る緋色さんには流石に弱い。とはいえ、こちらとしてもその辺りは本当に説明には窮するのだった。

そして、そんな緋色さんの後ろには少し体格の良い男子がいた。肥満ではないが大柄な分厚い男子。

多分、柔道、相撲、プロレスなどの『投げ』が主体の格闘技を嗜んでいるのがいた。三高の制服を着ているので当たり前のごとく三高生なのだが。

 

「で、後ろのヒトは?」

「ようやく自己紹介できそうだな。三高一年 伊倉 左門と言う。以後よろしく」

 

その名前に一高三人は……。

 

「イクラ、サーモン?」

「そりゃ美味そうな名前だな。変わり種親子丼か」

「チャーン! とかハーイ! とか言わないわよね?」

 

十文字、衛宮、五十里の順にその自己紹介に対して所感を述べるのだった。

 

「姓は波野じゃないですが! つーかこれで2度目だよこのネタ! しかも一度目よりも深く言われてるし!!」

 

どうやら彼はこの手の名前ネタでイジられているようだ。だとしたらば手控えなければいけない。そもそも、シロウとて人のことは言えないのだ。

 

衛宮士郎の息子が衛宮士郎ってどういうことだ? などと言われてきたのだから。

 

「もしかして案内役とかか?」

2人の一年がいる理由を何となく察してそう言うと

 

「そんな所です。―――個人的な案内は試合後に士郎くんから希望があればですけど」

「結構です!」

「なんで君が言うんだ……まぁ日帰りだしな。そんな余裕はないのは間違いないけど」

 

緋色の下心のあるお誘いを断る十文字。誘われたのは俺なのに解せぬ。

 

「ふむ。衛宮君は『そちらの方の十文字さん』とそういう関係なのか?」

 

微妙な言い回しをする伊倉に『何か』に気付いたのか少しだけビクつくように気付く十文字だったりする。

 

「いや、違うが。まぁ一高では同級生・上級生誰しもが狙っているスクールマドンナ、クイーンビーだよ」

「ちょっとー。私は違うってのかー?」

 

余計な事を付け加え、伊倉君を少し牽制したが、そのことが癪に障ったのか妙なカラミで下から睨めつけるように見てくる五十里であった。

 

「いや、悪い悪い。つーかお前が真っ先に十文字は人気者と証言したんじゃん」

「まぁそうだけど―――で、伊倉君、『そちらの十文字くん』は、どんな感じ―――」

「シロウくん! メイ! ほら試合そろそろ始まるよ!!」

 

五十里の言葉を半ばで遮りながら最前列の手すり前まで引っ張られる。

五十里が聞き出そうとしていたことは、十文字的には何か聞きたくない話題でもあったようだ。

 

三高の案内役2人が少しだけ呆然としつつも、その移動に従い、一年5人が最前列にてアーツ部の対抗試合を観戦することになる―――。

 

そして一つの運命も変わるのであった……。

 

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