「茉莉花は副将……」
「四試合目か」
今回は五対五のチーム戦。勝ち抜き戦と違って、副将は必ず四試合目に登場する。
マーシャル・マジック・アーツの平均的な試合時間は四分前後。だが長ければ十分近くに及ぶと、バス車内で色んなメンツから聞いている。
茉莉花の試合まで、場合によっては三十分近い時間があるということになる。
それよりも気がかりなのは……。
「十文字、大丈夫なのか?」
殊更心配するわけではないが、そもそも彼女と知り合った最初のことを思い出すに、
「あっ、それならば大丈夫よ。この間のキミと三匹が斬る!のボンクラボーイズの戦いも最初から最後まで見ていたから」
五十里の言葉で、それならばと思うも……
「それでも怖いことは怖いから側にいて」
「一応、けが人が出た場合に備えて俺は女子試合だけでなく色々と見なければ―――分かった。分かったから」
十文字が腕にしがみついて移動が不可能となる。男子試合を見に行った応援生徒のカップル二人みたいなことは勘弁してもらいたい。
身体を預けにきている美少女。しかも金髪の白人系の少女はどうしても基本的にモンゴロイドばかりの周囲の注目を集めて、その横にいるのが凡庸な男ならば、格差ありすぎる男女でしかないはずだ。
(此処に来た目的の中には十文字に悪い虫が着かないようにするのも一つだった。断腸の思いで生徒会の仕事のために応援に来れなかった副会長もそんなことを言っていたのだし)
そう自分を納得させながらもその体の柔らかさは、報酬として受け取っておくぐらいにはシロウも男子であったのだ。
その様子に案内役の伊倉がにやついて。緋色が頬を膨らませて不機嫌を示しつつも―――、階下の戦いは始まる。
結果的に、第4戦目まではかなりスムーズな試合進行であり、一高と三高のルーキーガールのオーダーはあっちゅう間に入ったのである。
「ミーナが勝てばチーム戦は一高の勝ち……」
「まぁそれでも消化試合はするはずだな。一条茜か……」
遠上が勝負を望んであちらも、それを願ってのオーダーチェンジは叶ったわけで……。
(つまんない試合にはするなよ)
何となく観戦客の気分でそんなことを思いつつ、アーツ部のスーツに身を包んだ少女二人に思う。
「ちなみにどんな展開になると思う?」
「劣等生の俺に何が分かるってんだよ」
「けど、この中で茉莉花と魔法戦をやったのはアナタだけじゃない」
「そうは言うが、マーシャル・マジック・アーツの形式じゃなかったからな……まぁ猪武者のように我武者羅に前に突っ込めるかどうかだろ」
五十里との会話で頭を少しかきつつ所感をまとめる。
大したことを知っているわけじゃないが、それでもここまでの三試合と事前情報で遠距離魔法の使用がダメならば、どれだけ相手に肉薄して打撃を与えられるかどうかだ。
「俺が宮田一郎よろしく指摘した『弱点』を克服できるかどうかかな?」
そんなところだった。まぁ三高生がいる前で、詳らかにすべきところではないが、この中では自分と同じ男子が食いついてきた。
「さっきから横で聞いていたが、なんか随分とシビれることばっかりやってるんだな一高では」
「主に十文字アリサという少女を巡って俺を目の敵にしている面子が多いんだ」
流石に尚武の三高でも、そんな私戦ばかりやっていることは耳目を惹く事実なのだろう。
伊倉クンの言葉にそう言いつつ、三高ではそういうことは無いのかと思う。
「まぁ、
「あそこ、下の方の三高女子ベンチにいる男子か?」
「―――よく気付いたな……」
「さっきから十文字を下の階からでも熱い目で見ているからな」
どちらかといえば、敵意というか迷惑がっている目である。ああいう顔を俺も向けているのかもしれない。
改めるつもりはないが……察するに。
「十文字の元カレか?」
シロウの言葉に周囲の面子全員がズッコケそうになるのだった。
「ち、違うよ! あの男子のことはともかく!! ほらミーナの試合が始まるから!!! 解説
十文字の焦った声とレトロなセリフを聞きながらも戦いは始まりを告げる。
・
・
・
戦いは思っていたのとは別に静かな立ち上がりであった。
遠上とシロウが戦った時はイノシシのように向かってくるだけだった遠上は間合いを図りつつマットをサークリング。
同じく対戦相手の一条茜もまた相手を有利なところに置くわけにはいかないと足捌きをしっかりしながら相手をしかと正面に見据える形。
(遠上が
上半身だけで全てが決まるわけではない。つまり―――。
「思い込みは危険だな。一条の足技が来るぞ」
「え?」
足捌きで前進と後退を交互にしていた一条を相手に遂にお見合いを嫌った茉莉花の突進に対して合わせるように、一条茜は動いた。
沈み込むように下方へと身体を移動。マットすれすれに身を屈めながらの旋風脚。
茉莉花の膝に襲いかかる蹴り足の勢いは速い。 慌てて飛び退くも、そのまま独楽のように回りながら襲いかかる蹴り足を前に大幅にバックステップ。
猛禽の爪を思わせる襲撃は、遠上を退かせることに成功した。
その功夫を前に感嘆の声があちこちで上がる。固唾を呑んでいた連中がそれを上げるのは当然だ。
「あのまま蹴りとか踏みつけを入れることは出来なかったのかしら?」
「上半身に力みがあったからな。いきなり下段を狙われたことで切り替えが出来なかったんだろ」
「もしかしてシロウ君、ミーナの攻撃モーションから何が来るか理解していたの?」
「何となく程度だけどな」
遠上と魔法戦をやった際のことを思い出したのか、十文字の質問に答える。
考えるに、一条茜も自分と同じく分かっているのかもしれない。
素早く立ち上がった一条は腰を落として、それが攻撃動作であると理解できた。
(バカッ! ガード固めろ!!)
内心でのみ悪態を突きながらも、一条の攻撃は速い。箭疾歩に似た歩法で一気に接近。
そして、放たれるは中華拳の極意の一つ。
「「鉄山靠!?」」
体ごとあたる攻撃が決まって―――。しかし、そこで遠上は吹っ飛ばされずその場に立っていた。
驚いた一条が離れようとした時に。
―――ようやく捕まえた―――
とでも言っているかもしれない遠上の笑み。そして、少しだけ位置を変えて放つ至近距離から肝臓に突き刺さる
脇腹に対して放たれた一撃。一条茜も防御したようだが損害はあったようだ。苦悶の表情がそれを物語るも、遠上は逃がさないとばかりに、そこから至近距離での打ち合いを演じる。
「遠上はアーマーの展開をタイミング良くやったんだな」
「うん。一条さんが体ごと当たると理解したからこそ、
親友が一本取ったことに、嬉しくなる様子のアリサだが疑問は残る。
「けど、一条茜さん……多分だけど当たる瞬間に硬化魔法とかでなくて『神経攪乱』を使っていたのに、あっさり茉莉花の方も動いているわね」
それぐらいアーマーが強かったということだろう。
同時にシロウの鉄山靠を見ていただけに、対応が早かった……ということで納得しておけばいいのだが。妙な事実にシロウは気付いてしまった。
(遠上の『胸部装甲』は豊かだからな……)
例え神経攪乱の影響を鎧で防がれたとしても衝撃系統の技を与えるには一条茜は、小柄というか細かった。
突破すべき壁が厚すぎて起伏に富んでいたのだ。
女子陣がそれで納得しているならば、それでいいだろう。
伊倉くんが同じく『性差』『体格差』という観点から気づいたようで、どこぞの巨人に立ち向かう連中のように心臓を捧げるポーズをお互いに取ったことで男子2人は、その事実をそっと『胸』に秘めておくのだった。
戦いの局面が乱打戦に持ち込まれたのだが……。徐々に回復してきたのか一条は遠上とのインファイトからミドルレンジでの戦いへと場所を移した。
「一条さんは遠上の打撃に対して受けを狙うか」
どちらも拳で応戦しているように見えて、一条茜は掌で拳を受け流している。内家拳の極意である。それこそが状況の仕切り直しをさせたコツ。同時に、防御に徹しつつも攻撃は放たれていた。
「神経攪乱は、その性質上、電流を流すという観点から『掌』から出した方が当然いいですからね。遠上さんの何処に触れたとしても茜はダメージを与えています」
「けどアーマーならば、それは防げる!」
「そうですね。けど全てを防ぎきれるわけではありませんよ。掌の打と共に放たれる電流……蓄積するダメージは大きい」
その言い争いは何故かシロウを境にして行われる。
ちなみに立ち位置的には
五十里 十文字 衛宮 緋色 伊倉
という横並びであったりするのでこういう時に、どうしようもなくなる。
「じゃあシロウくんにジャッジを仰ぎましょう!」
「望む所です!!」
俺を巻き込むな! と言いたいのだが、この2人は何か解説が無いと落ち着かないだろう。
「どっちが有利なんてのは分からん。勝負は下駄を履くまでわからないからな―――ただ互いに有利な点はある。遠上はアーマーによる防御を頼みに全ての攻撃に全力だ。ある意味フルパワーのフルスイングで攻撃を放っている以上、一条さんも受けているだけでも緊張を強いられるだろ」
タッパでは5cmの差。それ以上に遠上の体躯は分厚い。筋肉デブというほどではないが、一条茜に比べれば体格がある。
何より器用貧乏というか一つの魔法に全力である以上、攻撃方法は基本的に猪突猛進なのだ。選択肢が少ないからこその突進が相手にプレッシャーを与えているかどうか。
「逆に一条さんは、どうやら組み立てが上手く、そして相手の『引き出し』を削っている。確かに遠上は純粋な殴り合いでは上かもしれないが……戦略が立っている」
「つまり?」
「相手が予期していない強烈な反撃が来る」
猪のように猛進していた遠上だが……その猛進を空かすように、一条はバックステップで躱していく。
とはいえ、パンチなどを放り込める時には放り込む。手打ちではあるが、一条の速度は尋常ではない。被弾をせずに完全なアウトファイト。
速度に関しては、恐らく緋色浩美と同じようなトリックだろう。
「ミーナ……」
そして、大ぶりの攻撃。練り上げた拳が一条茜を襲おうとした一瞬。
一条は瞬間移動かと見まごうサイドステップで遠上の真横に移動。そして狙いすました攻撃が脳髄を揺らす位置を叩こうとした。
持ち上げた反対の腕で防御された。その攻防を前にして周囲から感嘆の声が響く。
乾いた音を立てながら一条のカウンターは不発に終わったのだ。
「流石に二度も同じ轍を踏まないか」
「いや、アンタの時は茉莉花の攻撃側。右側からクロスする形で拳を放り込んだじゃない。一条さんの場合は左側からよ」
五十里の鋭い言葉を聞きながらも一条が攻撃とは反対側に移動したのはタッパの問題もあったのだろう。
繰り出される拳の真横からカウンターを放り込むには彼女では少々位置が悪かった。
戦いは仕切り直し―――というには互いにここまでの攻防でダメージは大きい。
だが戦意は衰えていない。
「しかし神経攪乱だけであそこまでダメージを与えるものかしら?」
確かに人間というのは須らく脳からの『電気信号』で動く生物である。それを乱す魔法は確かに脅威だが……。
五十里の見解に疑問を持って言う。
「何か他の雷撃系統の術を手に付与しているのか?
「へぇ。眼いいんだな」
「似たような術を俺も使っているからな」
伊倉とのやり取りをするシロウに、そう言えばそうだったとアリサは思い出す。
「まぁネタバレしてしまいますが、茜はそういう術を使っていますよ」
「一条レイラと共に開発したそれゆえに一条茜を三高生たちは、こう称している―――」
伊倉と緋色が口を揃えて言ってくる。その号とは―――――
「「―――人呼んで紫電掌」」
……上海でサイボーグマフィアでも何人もぶっ倒してそうな名前が発表されたが、がくりと肩を落とした一高生三人と同じく、二重の呪法による痛苦を相手に徐々に遠上茉莉花は追い詰められていくのであった。