魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第三四話『闘劇決着』

 

戦いの趨勢は、なかなか茉莉花にリードを与えてくれない。魔法そのものは、防御しようと思えば出来ないわけではない。

 

各種の防御魔法でそれらをシャットアウトすることは可能である。術の性質・相性を覆すほどに二人の間には『干渉力』の差は無いようだ。

 

驚くべきことに茉莉花の術の深度ならばとりあえず『いまの一条の干渉力』に抗することが出来るという事実。

だが、それが現在進行系でなにかの優位を与えてくれているかといえば大間違いだ。

 

(掌によるいなし、拳を突き立てようとしても中々に出来ない)

 

だが、それでもこの拳を頼りにここまでやってきたのだ。

何より『打ち合う』と部長に啖呵を切った以上、安易に組み技、関節技を決めようとすれば確実に自分の戦いの瑕疵となる。

 

だからこそ、茉莉花はサブミッションに入ろうとは思わなかったのだ。対する一条茜は、少々面食らう。

 

(アナタの戦い方は私も見ていた。だからこそ弱点を突いてくると思ったんですけどね)

 

これまでの相手は茜の体格から組み技に持ち込もうとする人間が大半であった。だからこそ、その弱点を克服するために、内家拳の術理をレイラこと麗蕾から習っていたのだ。

 

体格で劣るものがプロレスラー並みの巨漢を倒せる術理……古臭い言い方ならば『気功』とでもいうべきものだが、何かの手品でもなく格闘の術理として存在している事実を茜は習ったのだ。

 

その相手として遠上茉莉花が、その体格を利用してやってくるものだと思っていたのに、ここまで正統派なストライカーファイトをされると実験しようがない。

 

(相手が立っている限り『何か』は起きる。決してフルスイングのパンチに恐怖を覚えていないわけじゃあない)

 

対抗試合だし、九校戦も近いし、という意味であまり派手にやりたくなかったのだが……。

 

それでも―――。

 

(悪いけど勝負を決めさせてもらうよ遠上さん)

 

くっつこうとする茉莉花から距離を離して構えを取る一条茜。

 

追いすがろうとしたこちらを断ち切るような視線。

 

それだけで感じる―――必殺の予感。

 

そう感じた瞬間に止まってしまった。本格的な防御態勢を取ったことが仇となる。

 

高まるエネルギー、溜め込まれるチカラ―――瞬発。

電光石火の速度、電光石火と呼ばれる魔法で急速接近。同時に動き出す体。体の伸長と同時に突きこまれる拳は直線的に茉莉花を襲う。

 

絶招八極・通天炮が決まる―――。

 

(鉄山靠はその無駄な脂肪で通じなかったわけだけど! これならば効くわよ!!)

 

豊満なバストの『下部』……鳩尾を狙った攻撃。

呼吸がままならない一撃を前に遠上が崩れ落ちるように膝を落としていく。

 

そして―――そこからどういう筋力をしているのか遠上はアッパーというより斜め上に入り込むタイプのスマッシュを食らわせるのだった。

 

起死回生のカウンター。顎を直撃したはずの一撃だったが。

 

「寸前で片手を入れていたか」

 

ボクシングにおけるグローブのような緩衝材としての機能が十分でないとはいえ、威力は減じた。

とはいえダメージは入った。直撃ではないとはいえ……一条がぐらつく。ぐらつきながらもステップで距離を離した。

 

ここで追撃を掛けるべきなのは遠上なのだが。

 

「チアノーゼだ。鳩尾を打たれたことで酸素が体に行き渡っていない」

 

両者被害は甚大。

目に見えてふらふらなのに、足が前に出ない遠上の焦燥が―――。

 

ダッシュを掛けたことで、意外と思うも……。

 

「いやいや明らかに唇が紫色だから! どういうことなの……?」

「多分だけど空気甲冑みたいな『気流』の鎧を纏うことで漏れ出る酸素を自らの肺に入れたんだと思う」

 

十文字の言葉に合点は行く。

 

だが、本来ならば『収束』させるはずの気体を不完全に取り込むということは酸素だけでなく二酸化炭素、窒素も割合としては多かったかもしれない。

 

まぁつまり………。

 

(無茶をする)

 

遠上が接近。懐に入ってのボディブローを決める。

 

クリーンヒットではないが再びリバーに刺さるパンチ。

接近戦は不味いが、かといって防御に難はある現在の茜。

スマッシュを受け止めて痺れた……あるいは折れているかもしれない右手では、防御はおぼつかない。

 

よって―――分析の結果……茜は宙を舞うことにした。

 

別に飛行魔法を使うわけではない。しかし地上戦を望む茉莉花に対して躱しの一手であることは変わらない。

 

「―――鷹爪功(ようそうこう)

 

大空を飛び回る猛禽のような滑空が『空中』で刻まれる。しかも人間の体でだ。

 

「疾ッッッ!!!」

 

当然、魔法を使っているのだろうが、遠上の頭上に跳躍しての鴛鴦脚。

左右両脚を交互にスタンプするように使っての攻撃。

 

たまらず身を低くしてからの後転退却。

 

かっこ悪いと笑うなかれ。一条茜の空中戦からの襲撃は恐ろしい攻撃なのだ。頭に喰らえばどうなるか分からないのだから。

 

その様子を見ていた―――シロウたちのように上席ではなくベンチから見ていた『男子』はこの戦いを千日手も同然だと思っていた。

 

(どちらも決め手に欠ける……)

 

防御に長けた遠上茉莉花

手数に優れている一条茜

 

それが、この戦いを長引かせていた。

とはいえ、遠上とは違って一条には実はいくらでも『強い攻撃手段』があった。そして、それはマジックアーツという競技で使っても反則は取られないはずだ。

 

正当なコンタクトだと取ってくれる。だが、彼女は試合前にそれを否としていた。

自分(・・)がベンチコーチとして入っているのは、そういうことなのだが……。

 

(これ以上、長引かせればどうなるか分からない……第一、九校戦において一条は女子のエースなんだ……下手に大怪我をする前に―――)

 

決着を着けてしまえ。

 

という意味で一条が、三高側ベンチを見れる位置に移動した時、少年……『十文字 竜樹』はサインを出すのであった。

それを見た一条茜は自分の見間違いなのではないかと思ったが、何度も出してくるそれを前に―――覚悟を決める。

 

出力を絞り、その上で相手に後遺症を残さぬ範囲での―――。

 

(レイちゃんの『通背拳』さえ会得できていれば、こんなことにはならなかったのに……)

 

まだまだクンフーが足りていない事実に歯噛みしながらも、向かってくる遠上茉莉花に対して―――最後のコンタクト。

 

遂に矜持を曲げたのか組技、関節技に持ち込もうとする遠上茉莉花に対して一条はがっぷり四つで組み合うようにする。

アマレスのような様相を見せる2人。当然、遠上は相手を(マット)に組み敷こうと覆いかぶさるようにする。

 

対する一条もそうはさせまいと顔を持ち上げて身体を入れ替えようとする。

遠上が既に魔法を展開しているリアクティブ・アーマーによる防御を頼みに茜の紫電掌に耐えようとしている。それでも長続きはしないことを理解していて、雑になっている。

 

だからこそ―――。

 

その『波』が直接作り出されて茉莉花の全てが落ちそうになる。大量の水が頭上に落ちてくるような、暗く、重く、呼吸を妨げる何かが五感を覆い尽くしていく。

 

「がはっ!!!」

 

マットに前のめりに落ちた茉莉花を前にダウンのカウントが入る。

 

荒い呼吸を吐いて、立ち上がろうとしても立ち上がれない自分に嘆いている様子。

倒れ伏した遠上から離れたところで呼吸を落ち着けている一条……しかし、暗い表情だ。

 

何とか立ち上がろうとしている遠上を見ながらも、そこに勝利を願うものはなく、どこか『懇願』するようなものがあった。

もう立たないでくれ。と言わんばかりの目線が……。

 

結果として立ち上がれないまま、10カウントが刻まれて勝敗は決するのであった。

 

それを見た十文字がシロウごと手すりに手を掛けたことを認識した。どうやら自分も連れていくつもりではあるようだが……。

特に抗することもなく、シロウも手すりから飛び出して階下に赴くことにするのだった。

 

「衛宮君!?」「アリサ!?」

 

驚きの声を上げる緋色と五十里を後ろに―――。

 

「シロウ君! 着地任せた!!」

「お前無茶言うない!」

 

言いながらも、二度も足にトラブルを抱えさせるのも悪いので、まぁとりあえず落下軌道に転じて着地させる前に十文字の身体を抱えるようにして軽やかに人間2人が落ちたとは思えない音で闘場に来たのだった。

 

既にドクターがやってきているのだが、それよりも先に行くように促す十文字の先導に従い、うつ伏せから変わり、仰向けに倒れている遠上の様子を見る。

重篤ではないが、親友の荒い呼吸を前に不安な顔が広がる―――。

 

医神再現(トレース・オン)全回復治癒(アスクレカバリー)

 

十文字を下ろしてから術式に没頭したシロウは、即座に遠上に回復をする。

遠上茉莉花という患者を中心に菱形の蛇鱗のようなものがいくつも明滅して回転をしていく。

 

その色は安らぎを与える緑色をしており、中心にいる遠上茉莉花も緑色の光をベッドにして―――。

幻想的な光景が5秒程度もすると、がばっ!と 起き上がる遠上茉莉花。

 

「アンタが癒やしたのか……?」

「そうだ。一応言っておくが礼はいらんからな。やるべきことをやっただけだ」

 

ビックリすぎる事態。自分が完全に回復していることに驚き、問いかけてから何度か拳を開いては握ってを繰り返す様子。

呼吸も先程までは辛いぐらいだったのに自発呼吸するのが、全く苦ではない。疲労まで無くなっている。

 

続いてドクターが確認をする様子。

 

「―――信じられない魔法だな。全てのバイタルが正常に戻っている……それどころか……もしかしたらば、君が一番いい状態(最高調)になっているんじゃないか?」

 

三高のドクターもそれなりに魔法関連の医療にこれまで携わってきた人間である。多くの患者を見てきた。

 

元気いっぱいなのに怪我をしたという生徒も、明らかに重症だった生徒も、そして魔法の影響で人体によくないものを抱えたものも……

一高の生徒であっても見立ては間違えていないはず。

ゆえに気付く。一高の男子生徒が施した回復術は、既存の魔法の類ではないのだと。

 

「ミーナ!!」

「アーシャ……」

 

チェックを終えて三高のドクターが茉莉花から離れた瞬間に、十文字アリサは茉莉花に抱きつくのであった。

 

そんなレズレズ一直線な場面から眼を反らしつつ、他の怪我人を見ることにしたシロウ。

 

「君もだ。その腕と脇腹……放っておいていいもんじゃないぞ」

「……治してくれるの?」

「別に三高生の治癒をするなとは言われていないからな」

 

実際、そういう言いようではなかったことを認識したのは、駆けつけてきた北畑千佳である。

 

(まぁ私の目にも遠上のアッパーを受け止めた一条の不調は分かったしな)

 

問題は……戸惑い気味ながらもシロウに回復させられている一条を睨み続けている十文字アリサだ。

まだ対抗戦は継続中だが、明らかにヤバい倒れ方をした遠上を前にして一時中断ではある。

 

(さて、どんなことになるのやら……)

 

正直、当事者意識よりも野次馬根性が勝ってしまう北畑だったが、それは既に終わった男子の方の部長である千種も同じようだった。

 

そして……切り出したのは十文字アリサからだった。大人しい印象を持っている彼女にしては、随分と激しい口調で一条にかかる様子。

 

糾弾する声。フィニッシュブローならぬフィニッシュマジックに使われた魔法の名前と詳細が明かされたことでざわめきが広がる。

 

千佳としては、『まぁそんなところ(十師族固有の術)だろう』とは思っていた。だから驚きは周囲よりは薄かった。

 

しかし数多くの色んな目で責められた立場に置かれた一条茜に同情するも、彼女を救ったのは―――同じ『十文字』だった。

 

彼が一条茜にセコンドトレーナーよろしく指示をしていたと千佳は推理しつつ、彼の言動は……まぁそれなりに納得するものだった。

 

公式戦のごとくCADの検査がかかっていれば……とも思うが。

 

マスファイト(寸止め)じゃなかったんだ。こっちの三高男子の言う通り正式なコンタクトであったんだろうさ。そこは呑み込んでおけよ」

 

そんな少しだけ責められつつあった十文字に対して救いの手は無く、何とも無情なことがシロウから放たれるのだった。

 

「け、けれども!」

 

「あのキモイザ先輩ならばここに来て、如何にもお前に寄り添ったような薄っぺらな『人情論』を出してくるだろうが、お前の言動こそどうなんだよ?

仮に魔法の危険性云々で言うならば……今後、こういうマジックファイトではある種の『階級制』が用いられることになるぞ―――『魔法力の差』という意味でな」

 

それは痛烈すぎて鋭すぎる言いようではあった。

 

確かに十文字の言動を丸呑みすれば、そういうことが適用されなければならない。

 

まぁ当然、Aランク級の殺傷性魔法ならばアウトだが……使う人によって威力や危険性が変わる『魔法』というのならば、確かに階級制が適用されなければならない。

 

それは……ある意味では正しいのかもしれないが、格上との戦いを望む『一勝千金』な人間にとっては、無情なものだ。

 

「一条さんを責めるならば……君がちょいと前に戦った緋色さんとの試合も虚ろなものになるぞ。その結果すらもな。それでもいいのか?」

 

「ううっ……それは―――」

 

何とも無情なやり取りではある。彼が言うようにここで『キモイザ』のようにカッコつけて泣きそうなアリサの立場に立つ男ならば、モテモテになっているのだが……。

 

「君が良くわからないな……一高の生徒ならば、そっちを擁護していても良さそうなのに」

 

その疑問は一条側に立った男子も同様だったので、そんなことを言ってくる。

 

「あいにく、愛校精神なんて無い人間なんでね。おまけにこちらの女子の兄貴からは目の敵にされているんだ」

「知っているよ」

 

そのやり取り。途中で嘆息するもう一方の十文字。

話し合いは終わりそうかと思うも、事態は少しばかり妙な方向に向かう。

 

「だから、まぁあんまり今の恋人にカッコつけるために、そこまで『元カノ』を悪し様に言うなよ。傍から見ているとカッコ悪くないか?」

 

(ん?)

 

シロウの言動になんか妙なことになっているのを感じて、この会館にいる全員が怪訝な顔をする。

 

遅れて階段を降りてきたのか五十里と三高生2人がやってきたりしたのだが……。

 

「ま、待ってシロウ君。目の前の三高男子…竜樹さんが―――」

 

「ああ、さっきも下から睨まれていたからな。本当に参るよ。別に俺はお前に気があるわけじゃないのに……こっちの三高男子……タツキ君は、十文字アリサ(キミ)の―――」

 

元カレなんだろう?

 

 

その衝撃的な言葉に会館にいるほぼ全員が昔懐かしのコメディコント番組(8時だョ!全員集合)のようにズッコケるのであった。金だらいが落ちた音すら響いているような気がする。

 

更に言えば言われた当人、シロウのシャツを掴んでいた十文字アリサの肩も、コケていたりする。

 

「アンタはまだその勘違いをしているのか―――!!!」

 

いち早く復活をした五十里 明(眼鏡はずれ落ちている)のツッコミの叫びを聞きながら事態は妙な方向に向かうのであった……。

 

 

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