魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第三六話『十闘獣濤』

 

 

 

「こちらの都合はお構いなしか、女性に嫌われるタイプだな。アンタら」

 

ぐさりっ! とすごいクリティカルヒットを齎すことを言われてしまった両校男子アーツ部の部長は辛くなりながらも、凄く険しい顔をしているシロウに口を開く。

 

「まっちゃんから聞いていたんだが、君の実力を見たいんだ……。ダメか?」

 

まっちゃんとか呼ばれてるのか、この人は。とシロウと同じ高校の先輩に感想を出してから口を開く。

 

「意味不明なんですよね。そもそも、あっちの『JYUUMONNJI』も九校戦の選手に選ばれているでしょうしね―――ああ、分かったぞ。俺みたいな劣等生をぶちのめして『一高恐れるに足らず』という箔を付けたいんですね」

 

「ちがわいっ!! それは露悪的すぎるだろ!!」

 

「だが、俺とて戦うとなればどんな事故を起こすか分からない。先程の一条と遠上の戦いのごとく。そもそも、九校戦が迫っているこの時期に大怪我を起こしかねないような対抗戦をしていることからイミフなんですよ」

 

実を言えば、この点に関しては両校どころか多くの学校から疑問符を持たれていた。

 

まぁ選出される選手層が厚い一高と三高だからこそ出来ることであって、他の魔法科高校では『冗談よしお君』状態なのだろう。

 

「つまり……ウチの一年エースたる『JYUUMONNJI』に九校戦に支障が出るダメージを与えるかもしれないということかね。劣等生のキミが?」

 

「戦うとなれば手加減は出来ない。同時に相応に俺とて秘術を開帳する。保証はできない」

 

嘲るような挑発で彼の本心を聞きたかったのだが、返されるその真剣な言葉に三高部長は少し考える。

 

実を言えば三高では、その実例を知っているのだ。

 

一条家の養女として三高でも知られている一条レイラ。彼女が成績上では普通の劣等生であっても、実戦レベルで強いことも存じ上げている。

実際、模擬戦で同じ一年の男子生徒を電撃魔法で4人抜きした時にその評価が覆ったのだ。

 

三高は尚武を掲げている校風なわけで、実技が優秀な生徒より実戦が強い生徒のほうが、尊ばれるのだ。

 

「……そもそも千種先輩は何がしたいんですか? 俺は平穏無事に日々を過ごしたいだけだ。激しい喜びもいらない。そのかわり深い絶望もない。植物の心のような人生を」

 

「どっかのシリアルキラーのようなライフスタイルはともかくとして……僕としては、あの時に感じた予感を現実にしてもらいたいんだ。身に纏った独特の空気―――、一年の時に遠目で見たあの司波達也先輩のようなものを発露してもらいたいんだよ」

 

「だとしたらばそれは大きな誤解だ。俺は四葉のような大層な家柄でもないし、育ったのだって英国住みだ。根無し草に大層なご評価ですが……俺はあんな非人間とは違う」

 

その言葉に、この少年は実は司波達也のことを知っているのではなかろうか? それも千種とは違って濃い付き合いのようなもので、その人と為りを知っているのではないか?

 

そんな疑念を持ちながらもリミットまで残り7分となったところで―――。

 

「十文字もそうだが、結局部外者の分際であんたらの対抗戦にいらない物言いをつけたのは事実だしな。これ以上、千種部長(あんた)の面子を潰すのも悪いか」

 

もはやダダは捏ねられない。結局の所、そういう大人の対応が求められたのだった。

 

(とはいえ、対応を誤れば本格的に十文字家は司波達也の復調どころか自分の排除を願うだろうな)

 

ホッとした様子でいる両部長には悪いが、そんな打算めいたものがシロウの中に渦巻いているのであった。

 

別に『異端の術者』として、現代魔法師とも相容れぬものとして見てくれているならば大いに結構なのだが……。

 

ここで発想の転換をシロウはすることにした。

 

(逆だ。今まで秘していたものだからこそ、それを暴こうと皆して躍起になる。すなわち……見せつければいいのだ)

 

魔術の原則とは少々違うが、それでもエルメロイ先生のごとく『術理』がバレさえしなければ視覚的な効果に訴えた魔法は自ずとただの派手なだけの術と認識されるはず。

 

(陰陽全てを含めた術式……『母』と『義姉』のミックスが可能なはずだ!!)

 

そんな決意をしつつ、礼装をバッグから取り出す。CADの類は要らない。一応、『偽装』するために装備はしているのだが。

 

「何の思惑があるのかは知りませんが、今後は俺を政治利用しないでくださいよ」

 

「僕はかなり悪意的な見方をされているんだな。まぁ出会いの初っぱなからアレで仕方ないけど」

 

そんなやり取りを終えて、一高の制服のままにフィールドへと赴くことにした。

 

先程までのマーシャルマジックアーツのフィールドとは違い、完全にあらゆる攻撃が許容された魔法戦の場だ。

 

そこには、大勢のギャラリーが集結していた。

ヒマなんだなーと感想を出しつつ、室内シューズがある場所へ赴くと。

 

「シロウ君……ごめんなさい。私がミーナの為に怒ったことで、こんなことに」

 

「お前がどうだろうが、この試合は仕組まれていたと思うがね」

 

やってきた十文字に言いながら、結局の所は……どうやっても自分は悪目立ちする。そして、そこで何も見せないから余計に耳目を引く。

 

(節操のない限りなんだよな)

 

この世界に来て関わってきた魔法師の全てが俗物であることは仕方ない。探求の徒である魔術師とは違うとはいえ……静かに暮らしたい人間をそっとしておくだけの分別とかはないのか? とがん詰めて問いただしたい限りだ。

 

「さっさと観客席に戻れ十文字。お前の弟が仏頂面で待ち構えているんだからよ」

 

開始時刻まで3分前―――。シューズの履き心地を確認したあとにはフィールドへと上がる。

 

別に十文字の家族関係とかはどうでもいい。

 

何かしら思う所があるんだろうが、しょせんは他人事だ。

 

しかし……。

 

(そんなにまでも姉ちゃんを嫌うか。そういう態度ってのはダサいんだよ)

 

その経緯は推測するしか出来ないのだが……。

 

(親に打たれもせずに一人前になれる息子なんているもんか)

 

いい年して男女の機微を推測できないならば、家でおとなしくおしゃぶりでもしゃぶっているのが相応だ。

 

別に十文字アリサの肩を持つわけではないが、父親(おとこ)のことを理解できないならば、母親(おんな)の心を察せれないならば―――。

 

(お前は漢じゃないんだよ。十文字竜樹)

 

 

目の前の男が、一高でどんな評価を受けているのかを竜樹はよく存じていた。

そしてその戦績の程も―――。

 

最初、この戦いを仕組まれた時から望んでいたのだ。彼をぶっ飛ばすことを。

 

異腹の姉のことは関係ない。だが、それでもこの男が義兄である勇人など自分が『本当』ならば入るはずだった学校の尊敬する者たちの心をざわつかせていることを竜樹は問題視していた。

 

能力があるくせに無能のフリをして、努力をすれば出来るくせにそれをしない―――こんなフザけた人間に……

 

(なんでアンタは惹かれているんだよ……!?)

 

勇人(義兄)がアレほどまでに心を割いていたというのに、その気持ちの一片も届いていないというのか!? 憤りが渦巻いてしまう。

 

やはり実兄である克人は間違えていたのだ。

 

庶子であるというのならば、今までとこれからの養育費と慰謝料などをくれてやって、発現するかもしれない魔法能力を封印するなどして関係を断っていればよかったのだ。

 

あの時点ならば、四葉の魔法師にして克人の気に入りの後輩である司波達也も元気に活動していた。いくらでも方法はあったはず。

 

先程の一条に対する物言いなど、下手をすれば一条と十文字の家同士の問題になりかねなかったのだ。

呑み込むべきことを飲み込まず、辺り構わず、己の思ったがままに噛み付く野良犬など十文字家に入れるべきでなかったのだ。

 

決意と共に十文字竜樹はスタートランプの点灯で魔法を放った。

 

放たれたのは攻撃型ファランクス。飛んでいく板状の障壁の数々。真正面から小手調べのように放つことで相手を図る。

 

避けるか、防御するか。

 

どちらか―――であるというそれを前に、不動のままにそれが衛宮シロウに届く前に砕けていくという現実が出来上がる。

 

破壊するという第三の選択肢が選ばれた。

 

驚くことはない。勇人から聞いていた通りだ。

 

ヤツには少なくとも十文字家の障壁を砕く術理か魔法力は存在している。

 

(ならば―――)

 

本家本元の防御型ファランクスを発動する。

 

 

多重障壁の魔法―――別段さしたる脅威ではないのだが。術式の『感触』からして彼は防御よりも攻撃の得意のようだ。

 

(火狩や千種先輩などは、とりあえず積極果敢に動くからこちらとしてもやりやすかったが)

 

待ち構えている様子ならば、こちらから動かざるを得ない。

 

「―――SHADOW A GO」

 

言葉と同時に多くの影の魔鳥を出すことにするのだった。

 

嘶きを上げる嘴もなく、ただ羽ばたきの音を以て殺到する魔鳥を前に壁はどこまで耐えられるか。

 

その数―――凡そ200羽。

 

(これも知っている! だが、こんな数―――ただの化成体じゃないのか!?)

 

一羽、一羽―――不気味なシルエットの鳥が啄む嘴もなく竜樹の壁を壊すために無謀な突撃を繰り返して―――壁を壊し果てていく。

 

如何に瞬時に新しい(シールド)を構築するとは言え間断無いバードストライクを前に竜樹も少しばかり怯える。

 

どうやら彼のように不動のままに攻撃に対処することは出来無さそうだ。

 

動くことにした。ファランクスを展開しながらの移動。移動魔法を選択。

 

加速を掛けた身体が衛宮シロウに跳んで行く。

 

その過程で―――。

 

進軍を阻むべく鳥以外の魔法が解き放たれる。

 

ナーガールジュナの字名を持つ少年を阻むのは、金色の―――魔獣である。

 

 

「ある意味、陰気な術式があいつの持ち味だと思っていたんだけど」

 

「金色の獣……」

 

未だに見えぬシロウの上限(リミット)を前にして誰もが呆然となる。ファランクスで押し潰そうとした竜樹の意図を崩すおもわぬサモンビーストとでも言うべきものを前に脚を止めて魔法を撃たざるを得なくなる竜樹。

 

「ただの化成体であるならば、十文字家の壁で押しつぶすことが出来る―――けれど……」

 

「それが容易く出来ないということは何か別の『術理』が働いているということでしょうね」

 

必死の防戦で黄金の巨大鳥…猛禽類と三つの頭を持つ猛犬を相手取る竜樹を前に、一条茜と一条レイラは分析をする。

 

(只者ではないとは分かっていたけど、こんなアグレッシブでファンタジーな術を持っているとは)

 

九校戦前に知れてよかったーーーなどと内心で思っている一条茜だが、シロウがレイラと同じく九校戦に選ばれることはない劣等生であることまでは知らなかった。

 

十文字家ほど一高の内情に詳しくない茜であったが―――苦慮しながら『なんとか』黄金の獣を始末して一息突いた竜樹の隙を見逃さずシロウは急速接近。

 

疾速(はや)い!!!!)

 

気付いた竜樹。横合いから迫ってきた奇襲ではあるが、それでも正面を向いてファランクスでの防御に専念する。

 

(拳など使わせるものか!!)

 

来るなら来いで―――竜樹は構えた。

 

その掌打のための掌が壁に触れた瞬間。全身の体を駆使。同時に『魔力の回転』が伝わり破壊力へと変換。

黒い渦巻きのようなものが竜樹のファランクス全体に伝播していく。

 

そして―――防御の膜ごと十文字竜樹は何メートルも吹き飛ばされる結果へとなる。

数秒前まで竜樹がいた場所。シロウが残心している場所に彩り鮮やかな『花吹雪』……多分、桜だろう花弁が舞い上がる。

 

季節外れの幻想的な光景を見ながらも、起こった現実の光景こそが衝撃的すぎて、何も飲み込めないままでも―――戦いは続く。

 

 

 

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