魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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ちょいと短いです。


第三七話『女神球戟』

 

 

「間違いない。あれこそが僕を倒した術理の魔法……」

 

十文字龍樹を障壁(かべ)ごと吹っ飛ばした衛宮士郎の術。その詳細は分からないが何かの回転の力を直接伝えることで相手を崩す術。

 

まさしく『崩しの拳』と呼べるものだ。

 

どれだけ鍛え上げた肉体であろうと、どれだけ硬い壁であろうと……素の内臓に浸透させる術の前では全てが意味をなさない。

 

「オーガンクエイクと同じか?」

「いや、多分アレは術理というよりも単純に『チカラ』を回転させることで物理的な圧を形成したんだ。体の回転、チカラの回転、四肢の回転……全てを廻すことで発生した回転力とでもいうべきものを十文字君にぶつけたんだ」

 

術式なんて高度なものではない。だがそれ以上に分からないのは―――。

 

(基本的にサイオンそのものが物理的な破壊力を持つことは無い。ならば、衛宮君の使ったチカラはサイオンではないものなのか……)

 

プシオンということも除外すべきではない。自分たちの常識が通じないことも選択肢に入れる。だが非常識すぎる術式の集約点も見える。

 

(アレは僕も同じだが回転を『解き放った』だけだ。もしもそれらの回転力を全てひとつに纏めて凝縮したそれをぶつけられた時……)

 

その威力は段階を上げるものとなるはずだ……!

 

「見てみたい。十文字家が持つ最強の盾を相手に彼がどんな矛を以て貫くのかを……!!」

 

興奮しきった千種の顔に、この魔法オタクめ。と少しだけ白けた顔で内心でのみ罵りながらも北畑千佳もそれを期待する……。

 

ふっ飛ばされた十文字竜樹は既に起き上がっている。審判が駆け寄ろうとするの手だけで制する。目をそちらに向けずに衛宮士郎を見ている。

 

(まさか、こんな奴がいるとはな……!!)

 

歯ぎしりするほどに強力な術者。数字持ちはおろか、どこぞの有名な古式でもない……こんな野良犬みたいな雑種に自分が一度は倒されるなど……。

 

(失態だ!! だが、ここから先は容赦せん!!)

 

1ラウンドは、こちらの負けだ。だが、ここから先は容赦しない。

 

その勢いで魔法は解き放たれる。

 

 

起き上がった十文字竜樹の戦闘スタイルは、先程とは違っていた。ファランクスではないが、程よい防御魔法を張りながら砲撃を食らわせていくスタイル。

 

それはかつて三高のOBが一学年時に九校戦のモノリスコードで披露した戦型である。

 

偏移開放という砲撃を食らわせつつ相手の攻撃を装甲魔法で防ぐスタイル。

 

だが……。

 

(なんだ。最初っからこっちでやっておけば良かったじゃないか)

 

思わず拍子抜けする結果を前に竜樹は安堵する。

 

放たれる巨大な空気圧の砲弾を前に衛宮士郎は前進を阻まれていた。特化型CADを思考操作のペアリングで放つそれは、絶え間なきものではある。

 

十文字の魔法師としては失格かもしれないが、竜樹は防御よりも攻撃のほうが好きな性格なのだ。

 

それは『竜』という文字を名前に持つからなどというオカルトな考えもあったが、その理由は分からないが……待ちに徹するということが、性分ではない人間だった。

 

ともあれ、勝ち筋が見えたことで防御2割の攻撃8割で対応する。

 

放たれる空気圧の勢いと砲撃の数を前に、もはや直撃を食らうことは既定路線。

 

ヒートアップする会場。防戦一方となる衛宮士郎の敗北は既定路線。

 

そして砲の直撃が衛宮士郎を貫いた瞬間。

 

「!!!!????」

 

その体が細切れになった。いや、正確な表現をすれば、衛宮士郎という存在は紙のようなものであったのだ。

 

有り体に言えば―――。

 

「分身の術!?」

 

おどろ木ももの木さんしょの木な状態の竜樹に対して、背後から影の鳥が殺到する。

 

間一髪、多層障壁で防げたが、しかし!!

 

「がぁっ!!!」

「竜樹!!!」

 

背後に集中したが故に横から入った衝撃が自分を痛めつける。

 

(―――こんなことがあり得るのか!?)

 

衛宮士郎は……竜樹の四方を取り囲むように存在していた。

頭が混乱する。混乱する頭でも術は完璧に発動させる。

 

 

――――――竜樹の四方の衛宮士郎は様々な攻撃を繰り出す。

 

蒼炎の波濤。影の鳥。蛇拳。魔獣召喚(?)などで竜樹を縫い付けている。

 

十文字家の魔法 多層多重障壁魔法たるファランクスは現代の最新鋭の重火器……とりあえず巡航ミサイルの直撃程度の物理的直撃には耐えられるだけのものがある。

 

更に言えばそれは魔法においても同じだ。それらの物理的な圧の大小とは別の理における圧を与える魔法攻撃においても、これらは有効なものだった。

 

故にどれだけの圧を、術理を受けたとしてもそれらを跳ね返すだけの(ことわり)を持つ盾であるはずのファランクスが衛宮士郎の攻撃を前にしてはそこまでのことが出来ない。

 

つまりは……十文字家の男子が、秘奥を継いだはずの魔法師が、必死の防御をせざるを得ないものが衛宮の術にはあったのだ。

 

持久戦に勝機はない。それを分かっていても『どれが本物』の衛宮士郎なのかを竜樹は分からない。

 

七草家の長女や昏睡状態の一高OBほど目利きではない。いや、そもそもそういうことが出来るスキルを持っていないのだ。動き回りながら四方八方から攻撃を放つ衛宮士郎を前に目が回りそうになりながらも防御の手は緩めない。

 

そんな様子を『上』から見ていたシロウは嘆息しながら、まぁ『手土産』はこんなところだろうと見ていた。

 

別に九校戦というものに興味があるわけではない。

 

しかし、とりあえず一高を仮宿としている1人としては、このぐらいは見せておけば良かろうと思えた。

 

(あとは選ばれる奴がどうするか、だ)

 

そこまでの関心はシロウには無かったわけで、勝負を決めることにするのだった。

虚空を足場にして竜樹の頭上4mほどに滞空している衛宮士郎が、突如出現したのだ。

 

そしてその手には真黒の渦を巻く『深蒼の球』が形成されていた。

バスケットボールほどのサイズのそれを手に急降下。

 

それに何とか気付けた竜樹だが、気付いたところで時既に遅し―――。

 

『『『『ヴォオオオオオ!!!』』』』

 

四体の衛宮士郎は『分身』であったらしく、影絵の魔物、影の巨人とでも言うべきものに変化して竜樹の意識を分散させていく。

 

天より舞い降りる戦士……その手にある光球を途中で放り投げる。

竜樹が形成したファランクスの天辺の壁と接触。

その後の変化は、あまりにも急激だった。

十文字家が誇る絶対の盾を砕きながら迫りくる球が素の状態の竜樹にまで迫る。

 

その威力はファランクスを壊したことから察してあまるものがあった。

そして……壁をぶち壊しながらやってきた球が内部で炸裂。珠に押し込められていたエネルギーが開放されて、膨大なまでの圧が竜樹の全身を痛めつける。

 

何もかもが予想外。

何もかもが予定外。

何もかもが想定外。

何もかもが想像外。

何もかもが意想外。

 

凡そこの結果を予想していなかった全員は、圧による周囲の変化から目を背けていた後に見えたマットに仰向けに倒れ込んだ十文字竜樹の姿に、色々と混乱をきたすのだった。

 

十師族の男子―――実戦ではないとはいえ三高の1年エースを倒したという事実が、多くの人間に伝わるまでは早かった……。

 

 

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