魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第三話『疾風波濤』

 

 

その戦いは、とてつもないものであった。

 

武術に関しては素人であるアリサの目でも理解できる……。

 

戦いの中で優勢を獲っているのは、衛宮士郎の方なのだと。

 

アーツ部のスーツはおろか、運動着もプロテクターも着けない。一高の制服姿の男が、男子マジックアーツ部の部長である男を翻弄しているのだ。

 

 

「ど、どうなっているんだ!? 彼―――本当にG組なのか?」

 

こうなる前、不意打ちで仕掛けた千種部長の攻撃を起動式や魔法式の類を『見せず』に何かの『術』で躱した時点で、衛宮士郎の能力値はそういうラベルには捉われるものでないと察する。

 

野次馬の言葉に、そういう風に断じながらアリサはその戦いを見る。

 

幼なじみの殴ったり、蹴ったりという戦いとは違い、士郎の戦いは―――繚乱な舞踏を刻むように『攻撃』はしていないのだ。

 

「お前はどう見る?」

 

「……千種先輩の攻撃を衛宮士郎は受け流している。ただ、それは躱すというよりも相手の勢いをむしろ『増させている』というものでしょう」

 

「だな。千種も色々と使える魔法はあるんだが……」

 

茉莉花と北畑との会話がアリサの耳に入る。

 

相手が最低限の『身体強化』だけを施して向かいあっている以上、そういった風な上位の攻撃をすれば―――負けを認めたともいえる。

 

そもそも何かの『心得』はあると理解していた千種ではあったが、それでもマジックアーツでは初心者。そして何より、相手が現在のクラス制度の序列において『低位クラス』であることもあり、攻撃は必然的にあまり強すぎるものを使うことは出来ない。

 

(そういう心理状態に置かれている。まいったな。挑んだ時点で戦場の有利不利は決まっていたんだ)

 

兵法の一つを教えられた気分だ。

 

それにしても、衛宮士郎の(たい)の技は、自分たちの術理とは違う。

 

手や腕、はたまた肘など接触を果たす千種の攻撃を絡めるようにして引き寄せて、その拍子に攻撃はあらぬ方向に逸らされる。

 

一見、無駄なようでいて―――これが凄まじく消耗を強いるのだ。

 

本来ならば、『魔法』を主体にした上で体術を用いて勢いを『殺す』『防御』するというのが一般的だというのに……。

 

だが、ここに至るまで衛宮士郎は『攻撃』と言えるものを放っていない。

 

構えとて、どちらかといえば受け流すようなものが大半だ。

 

このままいけば、先にギブアップするのは千種の方だろう。体力が保たないのだ。鍛えているとはいえ、相手によって振り回されれば、それは通常以上の消費だ。

 

勢いを増した攻撃が、透かされる現実に千種は、驚きと同時に喜悦を出していた。

 

 

「躱す。避けるのが得意なようだね!!」

 

「得意というよりも拳を傷つけたくないだけですよ。あんたらと違って俺の手は稼ぐ手なんだからさ」

 

「どこまでも自分本位か! この魔法科高校でそんな態度でいていいのかい!?」

 

「あいにく―――俺は俺の道を進むだけだ。だが、あんたとの踊りもここまでだな。仕上げといかせてもらおうか」

 

武場をフルに動き回りながら千種を翻弄していた衛宮シロウは、どういう術理なのか、千種に触れると同時に、ボールでも投げ飛ばすように明後日の方向に飛ばした。

 

よろけるように千鳥足を演じる千種。そこに追撃でも掛ければ終わりだろうが、その前になんとか千種は向き直れたが、相手の様子が異となっていた。

 

(……構えを取った)

 

シロウが取ったその構えは茉莉花などマジックアーツやテレビ視聴の格闘番組でよく見るファイティングポーズのようなものではない。

構えと言うには拳を前に出していないし、かといってカウンターを狙うようにノーガードでいるわけではない。

 

片方の拳を腕ごと後ろに引いた上で、もう片方の拳もまた胸中に収めるかのようだ。その上で前傾しているといえるほどではないが、少しだけ体を前に出したその構えは武術に素人のアリサでも異質で奇態だと気付く。

 

 

だが、一瞬の動作の間に高まる『オーラ』としか言えないサイオンとは別種の『気』。

 

これこそが必殺だと気づいた時には、既に衛宮シロウは、オーラを纏いながら、千種の前に移動していた。

 

(疾い!!!)

 

自己加速魔法を使ったとしても出来ぬほどに鮮やかかつ素早い動作。

 

千種もなにか行動を起こそうとした時、思考操作型のデバイスで魔法を使おうとするよりも先に、体が動かなくなる。

 

千種の眼前で上げられた脚。それが落ちてきた時に、膂力の限りで大きな槌を振り下ろしたかのように武場の床を撓ませるほどの振動が発生。

 

「震脚!?」

 

誰かがその術理を理解して、それでも身動き取れなくなるほどにとてつもない技。至近距離にいた千種は当然動けず、大地にしかと身体を固定したシロウは前に出した拳で狙いを付け―――。

 

反対に引いていた拳を開き一歩を踏み出すと同時に千種に―――掌底をぶつけた。

 

 

「絶招八極! 宝珠烈震破!!!」

 

 

その力は凄まじく、大柄な千種の体躯を10mは吹き飛ばして、武場の床に何度かバウンドしてから起き上がろうとするも―――結局ダメで、武場に寝込むことを余儀なくされる。

 

最短距離から最大攻撃を食らったダメージは中々に重い。おまけに人体が水切りの石のようになっていたのだ。

 

その威力は自ずと知れる。

 

(軽い動作から重々しい動作―――緩急の付け方が上手い……何よりあの震脚とかいう振り脚が、千種先輩の行動を縫い付けていた!!)

 

『オーガンクェイク』の亜種なんだろうか? と少しだけアリサは考えて、それでも怪我人の救護の為に向かった北畑先輩を見つつ、打ち終わりから姿勢を戻して息を吐いていたシロウの元に向かうのだった。

 

タオルを手にして向かったわけで―――。

 

「お疲れ様」

 

「君のせいで余計なことに巻き込まれた」

 

「ひどいなー。まぁ主原因と言えるのは確かに私なんだけど……」

 

女にしては背丈(タッパ)を持つアリサだが、それでもシロウの背丈は高くて少しつま先立ちをしなければならなくなる。

 

少しだけ膨れるようにしてから、なにかしてあげなきゃ『気がすまない』気分でいたのだ。

 

「衛宮君、ちょっと屈んでくれない」

 

「いいよ。タオルありがとう」

 

アリサの行動を理解したのか、掲げようとしていたタオルを取ろうとする寸前で、さっとタオルを遠ざけてから行動を説明。

 

「拭いてあげるから!」

 

「その場合、俯くとキミのご立派な胸と接近することになるけど?」

 

「ミーナの方が大きいわよ!!」

 

あからさまなセクハラではあるが、どちらかと言えば『離れろ』という突き放しの言葉に聞こえて意地になるアリサ。

 

痴話喧嘩なのか、それとも何なのか、汗を掻いているようには見えない衛宮シロウの汗を拭くと言って強行する十文字アリサの姿。

 

そして何とか起き上がった千種正茂は―――北畑に肩を貸されながらも、こちらにやってきた。

 

「やれやれ……生意気な後輩をシメてやろうとして逆撃を食らうとはカッコ悪い話だ」

 

「そりゃ申し訳なかったですね。あんたの沽券を守るためならば、適当に一発食らってダウンしときゃ良かった」

 

「そんな器用な真似をしてまで……何故、君は実力を―――」

 

苦しげにしながらも、何かをシロウに語ろうとしている千種だが、その言葉を遮るように―――。駆け足で、この場に誰かがやってきた。

 

その様子というか気配を感じて、ビクリとしたアリサはよろけてしまい、シロウにより掛かる形になる。

 

そしてそんな所に―――。

 

 

「風紀委員です! 乱闘が発生していると聞いて駆けつけ――――――――ど、どういう状況なのかしら……?」

 

風紀委員を名乗る女。シロウは知らぬが、他の面子は知っている裏部という女子の3年生は、駆けつけた状況から『意味がわからない』と断じるにふさわしかった。

 

2組の男女が接近しあって、なんか色々と状況が読めなかったのだが……。

 

「アリサ! い、い、いったい! どうして衛宮君と抱きあっているんだ!?」

 

今日の実習授業で、シロウに絡んできた男の困惑しきった発言。彼氏だったのか?

 

「うーん。なんというか衝撃的な場面だね……果たして、どういうことなのか……察するに赤毛の君が、千種先輩を倒して、そして十文字さんが、その戦いを慰労する形でタオルをやっていて、僕たちの登場で驚いてよろけた。そんなところか」

 

「名推理ありがとう誘酔(いざよい)くん……。何はともあれ、ちょっとばかり、この場にいる『関係者』に『話』を聞かせてもらえないかしら?」

 

やなこった。としてシロウだけはこの場を脱したかったのだが、先程から十文字アリサがシロウの制服を掴んで離そうとしていない。

 

「十文字、離せ」

 

「や、やだよ! なんかシロウくん、普通に逃げようとしているし! バックレると分かっていて、どうして離さなきゃならないの!?」

 

「俺は『被害者』だぞ。そっちの目つき鋭い上級生が言う『関係者』じゃないはずだ」

 

「―――アナタもよ! 一年の衛宮士郎君!! 確かに『正当防衛』というか、最初に喧嘩吹っかけたのは、千種君だと分かっていても……アナタにも来てもらうわ!!」

 

目つき鋭い。などと評されたことが気に食わなかったのか、風紀委員長『裏部アキ』は、にらみつけるようにして、そう言い放ち――関係者と認定された人間は全員がしょっ引かれることになったのだった。

 

 

 

「遠上さんと北畑さんの一件は理解出来ました……次は衛宮君と千種君とのことですが―――千種君……いきなり見学者に殴りかかるのは、どうなんでしょうか?」

 

「全く以てその通りです………」

 

武侠小説、剣客小説を読んでいない三矢会長は、そういう判断であった。まぁ先の遠上と北畑のいきなりの喧嘩はお互いに、『望んでいた』ことであったという判断で、北畑がある程度のペナルティで済んだ以上、こちらが辛くなるのは当然だ。

 

「……衛宮くんはどうしたいんですか?」

 

「拳の極意を見せただけです。ご満足いただけたようなので、特別処分は求めませんよ。ただ、此処に来るまでにアーツ部への『勧誘』の文句を言われていたので、そういう『しつこい』部活勧誘を自分にしないならば、それでいいです」

 

 

処罰感情の有無で言えばシロウにそれは薄かった。まぁいきなり殴りかかられたことはムカつくので、その辺りで納めとこうとした。そもそも、部活見学で無駄話をしていたのも事実だったのだから。

 

ペナルティジャッジを、会長がこちらに求めてきたのは……あまり強硬なことをしたくないという表れであったのだろう。

 

「……有望な新入生が千種のせいで失われた」

 

それに嘆くは女子部の部長であったりする。まぁ、所詮は外様でしかないのだから。しょうがない。

 

そんなシロウは知らないのだが、現在―――生徒会・部活連・風紀委員会の主だったメンバーが、この部活連の執行室に集められていたのだった。

 

錚々たる面子として緊張している十文字や遠上と違って衛宮士郎は、平然としている。

 

「……一つ教えてもらっていいか?」

 

「あれは八極拳と太極拳をベースにした『魔導拳法』。俺の伯母より教えられた拳の奥義です」

 

「見聞色の覇気でも使ったかのように僕の質問を遮らないでくれよ……その通りだけどさ……」

 

千種の疑問を解決させてやることでお開きにしようとするのだった。

 

「で、もういいですか?」

 

先ほどから帰りたいオーラを出していた衛宮士郎が、言うと……。

 

「もうちょっと聞きたいことがあったんですけどね……」

 

「生憎、無駄なお喋りしたい年頃じゃないんで」

 

結局の所、何かの疑念を持って『探り』に来ていることは理解していたので、苦笑する三矢会長に断りつつ、シロウとしてもさっさと切り上げたかったのだが……。

 

「一つだけ―――俺の方からいいかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

三白眼というほどではないが、どことなく気鬱を宿した眼をした上級生―――歯車みたいな紋様の校章の制服を着ていた。

 

「君の使っている(・・・・・)CADを見せてくれるかな?」

 

「こちらです」

 

特別隠すことでもないのでシロウとしては、それを見せることで、この場をお開きにしたかった。

 

「――――――――――成程、ありがとう。し―――三矢会長、もういいんじゃないですかね衛宮君も色々と疲れているようですし」

 

長めの驚愕と沈黙をしてから顔を改め、生徒会長に言った男……矢車侍郎の言葉を受けて生徒会長は、シロウにようやく退室を命じてくれた。

 

 

「あの会長、私と み―――遠上さんは、まだダメなんでしょうか?」

 

「お、お二人も帰りたいんですか?」

 

「……なんやかんや言っても、私が衛宮君に頼み事をしたことで、こんなことになってしまいましたから、せめて何か「施しはいらん。お前は、そっちの上役と話しておけよ。それが優等生の勤めだろう」………もうううううう!!!! 帰らせていただきます!!!」

 

シロウの気遣いが、とことん意地悪に聞こえたアリサの心が暴発をして、結局のところ立ち上がってシロウと共に出ていくようだ。

 

「あ、アーシャ!?」

 

「アリサ! 待ちなさい!! せめて、彼の秘技を教えて―――」

 

 

そんな言葉を置き去りにして2人は去っていくのだった。

 

 

 

 

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