魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第三九話『諦悪困惑』

 

 

二〇九九年も七月半ばになった。国立魔法大学付属高校はもうすぐ夏休みを迎える。第一から第九まで、北も南も年間スケジュールは同じだ。

 

それゆえ始まろうとしているのだ。

魔法科高校の生徒たちにとってのインターハイともいうべきものが。

 

国立魔法大学付属高校全九校が参加する夏の一大行事。

 

『全国魔法科高校親善魔法競技大会』──通称『九校戦』の開幕まで、残すところ半月となっていた。

 

半月となったとしても……関係ない人間はいるわけで、その一人である男は、いつもどおりに土曜のカリキュラムを終えて、いつもどおりにバイトに行こうと歩を進めていた。

 

名は衛宮シロウ。

 

一高におけるイレギュラーは何だかあちこちでアレコレと動く連中とは無関係に校舎外へと向かう。

 

季節は既に夏になり、汗ばむ時を告げていた。

 

 

―――九校戦で待つ―――

―――俺に君との再戦の機会をくれ―――

 

少し前の金沢の第三高校でのことで勝手な宣言。

選ばれるわけがない人間であるとは教えておいた。

 

それでもと言い募る十文字竜樹に対して。

 

 

―――出たいからと言って出れるようなものじゃない―――

 

そういう『当たり前』の事を言って彼の前から去ったのだ。

 

そんなこんなで学校全体が九校戦ムードになり、色々と忙しくなる中、それとは無関係の男子生徒は校舎からいなくなるのだった……。

 

いなくなるのだった……。

 

「―――」

 

いなくなるのだった……。

 

「いや、過去形にしたところでムリでしょ! 事実は変えられないわ!!!」

 

いなくなりたいのだった……。

 

「願望型にしたところで! とにかくシロウ君もアルバイトの時間までは何かやってよ!!」

 

「やだよ。っていうか俺みたいな劣等生に何が出来るってんだよ。クラウドの球拾いか? そういうのはオートロボに任せりゃいいだろ」

 

「そんな前時代的なことをやらせないわよ。とにかく一度は三矢会長と話してよ〜〜〜!!」

 

「いやだ〜〜〜」

 

帰ろうとしたシロウの前に通せんぼしたそんな十文字アリサとの言い争いとも言い切れぬやり取りのあとに、結局の所、会長のもとにしょっ引かれるのはシロウであった。

 

7月も半ばのこの時期、高校球児ならば甲子園。他の競技……サッカー以外であればインターハイ目指して予選を終えるか、まだやっている最中のこの頃に―――。

 

「何度か言いましたが、俺は出場しませんよ」

「考えは変わらないんですね……」

 

―――未だに選手選考で難を得ているのだった。

 

なんで変わると思えるのか……三矢会長の交渉の下手さに対して呆れを覚えつつ答える。

 

「本来ならば選ばれるのは光栄なことなのでしょうが、生憎おれにはそれは出来ません。生活が架かっているので」

 

「それだ。以前から疑問に思っていたんだが、日本の学校教育制度からしても学費の免除は当然のごとく、ある程度の生活費の援助もあるはず。如何に君がご両親や親族が居ないとはいえ……そこまで心血注がなければならないのか?」

 

人差し指をこちらに向けて、疑問を呈する矢車会計に対してシロウは自分の『裏側』を話すことにする。

 

「そうですよ。俺は天涯孤独は当然として『元々』は英国に住まいを殆ど移していた……ある種の異邦人だからこそそうなっているのです」

 

シロウが『偽造した経歴』でも通せた『公的』なものとして、日本の魔法協会では学費の免除や公的な資金援助は許さなかったし、許されなかったのだ。

 

「魔法協会としては、英国からの『出戻り魔法師』に対して『全面支援』を許すわけにはいかなかったのでしょう。まぁ流石に満額はムリだとしても幾らかはいただけましたが、全然足りませんので俺はアルバイトをしなければいけないんですよ」

 

さらっと流すかのように、シロウの生活実態が明るみになって、そして全員が悲痛な沈黙をしてしまうのであった。

 

「同情するなら金をくれ! などとは言わんが……分かったならば放っておいてくれませんか? 俺は魔法師としての栄達を望んで、ここ(一高)に通っているわけじゃない。魔法協会の出した条件の一つに一高に通っておけというのがあっただけなんですよ」

 

更に沈黙。

だが、それでも言わなければならないことがあるとして……一人の男子が立ち上がる。

 

「けれども、君は優勝候補の三高の1年エースを倒したんだ!! 何か協力してくれてもいいじゃないか!?」

 

憤るように言う火狩に煩わしい想いを抱きながらもシロウは確認を取る。

 

「協力しただろうが、五十里。データは?」

「ちゃんと渡したわ……実際に再生もしたし」

「じゃあ問題ないじゃないか」

 

何のために十文字の弟を倒すという無駄ごとをあの三高でシロウはやったのか。それは、結局の所……十文字竜樹がどういう使い手であるのかを、九校戦メンバーに教えるためだったのだ。

 

「けれどね。あなたの戦いとの比較をした時に……何というか『常識の向こう側』での戦いを見せられているとでも言えばいいのか―――相手の能力はそれとなく分かったけど何の参考にもならないのよ」

 

しかし、五十里及び九校戦のメンバーたちには不満なモノだったようだ。

だが、それは無い物ねだりでしか無い。

 

「そりゃ当然だろ。データはあれども攻略方法はそれぞれだ」

 

どういう相手であるかは分かっていたとしても、相対する相手の手札がどんなものかによって攻略法は変わる。

 

相手バッターを打ち取るための投球内容は、直球得意なピッチャー。変化球得意なピッチャーとでは違うのだ。

 

「こんな劣等生に頼ることを情けないとは思わんのか火狩? 腹を割きたいほどに恥を覚えんのか?」

 

「俺はファイター(戦士)じゃない。クライマー(登山者)だ。山を攻略するのに先人たちの教えは当たり前のごとく取り入れて挑むし、必要ならば人数をそろえなければならないんだ」

 

「ならば俺とて戦士じゃない。労働者(ワークマン)だ。俺には俺の道があるんだよ。邪魔すんな」

 

―――折り合いがつかないのは当然であった。

 

 

そうしてそれ以上の引き止めは流石に色々とマズイということで、アルバイトに向かったシロウとは別に九校戦に向けて校舎内外で練習に励む人間たちは色々な想いを抱く。

 

「まさかここまで強硬な態度を取るとはね……正直、油断していたわ。せめて応援員としていてくれるだけでも、かなり嬉しいんだけど。実際あのヒーリングかリカバリィな術はいざという時には」

 

「そういう気持ちは伝わらないわけではないけど、シロウ君にも事情はありますから」

 

本当ならば『いざという時』なんてのは来ない方がいいのだが、という想いで小陽は計算高いことをいうメイに言う。

 

「――――――私もそうだったかもしれないんだよね……」

 

「アーシャと衛宮はぜんぜん違う!! だってアイツは―――ううん……! とにかく!! 違うからそういう共感はしないでよ!!」

 

アリサの少しだけ共感したような言葉に茉莉花は苦しくとも反論する。衛宮シロウの境遇を考えた時に、どうしても厳しい言葉が出てこないのだ。

 

「けども、衛宮君の語ったことって事実なの?」

「大変不本意ながら事実なのよ日和。深いところを調べるとそういう法律があるのよ」

 

クラウドのアリサのパートナーたる仙石日和の言葉に、メイも苦しくなりながらもそれを肯定せざるを得ないのだ。

 

事は魔法という軍事にも直結する技術を持った存在が他国に出ていたという事実に対するある種の懲罰的な面もあった。

 

メイの詳らかな説明に対してちょっと前に父親の武勇伝(海外渡航)を聞かされていた茉莉花とアリサは少しだけ身を硬くするのだが、それらを全て聞いたあとに思うことは……。

 

「そういう話の場合って昔懐かしの『奨学金制度』みたいにある程度の優秀生な証明も必要になるんじゃないかしら? 例えば研究成果を公表しろとか、何か秘儀を提出しろとかさ」

 

「そう言えばそうですよね……まぁ古式魔法師ってことで、魔法協会もそういう態度なのかもしれませんけど、無情なのか無関心なのか……どっちもなのかもしれませんけど、中途半端なことをしますね」

 

日和と小陽のサンシャインコンビの疑問。実を言えば、その答えをメイは分かって、アリサは察していた。

 

それは権力というものの生臭さを友人一同に知られたくないがゆえの恥というものであった。

 

 

「それじゃ、シロウ君は九校戦に出場しないんだ」

「そういうことだ」

「けれど金銭の支援を受けているならば、普通はそれなりの成果を求めるはずだけどね」

「それが普通だよな。けれど、現在の魔法協会は色々と閉鎖的で『現代魔法師』が主に役職を独占している。市井の人が想像するファンタジーな古式魔法師の就ける椅子など無いんだよ」

 

転じて古式魔法師が現在の魔法協会では軽んじられており、海外に行った凡百の魔法師が出戻ってきたとしても特別冷遇もしないが厚遇もしない。

 

彼らにとって重要なのは数字持ちの人間が出戻ってきた場合のみだ。

 

ゆえに……ある意味、ゆるくシロウは魔法科高校にいられる。

 

結局の所、出自も定かではない野良犬など放っておかれている……どれだけ異能を持っていたとしても―――。

 

「まぁそういうわけだ。あんまりいい話出来なくて申し訳ないな」

「ううん。私が演じるのはどちらかと言えばそういう雑草根性な存在。セレブなお坊ちゃんに対して立ち向かうことをやめない不屈な女だからさ」

 

バーチャルアイドル『ショウセツ・ユイ』ならぬアイドル声優『由比雪子』が今度、仕事としてもらったのは、とある漫画のボイスコミック。

 

大まかなストーリーは、セレブリティな『魔法使い』の名門学校に入学した『庶民な魔女』―――そこでお坊ちゃん魔法使いと敵対したり理解したりしながら……恋愛劇を繰り広げるそうだ。

 

題名は『ハナヨリダンゴ〜Magic Hour〜』とかいう色々とギリギリなタイトルの漫画であったりする。

 

そんな訳で、参考になったようでならなかったりする話をしながら歩いているといつもどおりに分かれることになったのだが……。

 

「我が夫」

「モルガン、どうしてここに?」

「きちゃった♪ というのをやってみたかったのです」

 

このツーマ()。可愛すぎやせんかと思いながら腕に腕を絡めてきた夏用の装いを具に観察する。

 

コンセプトとしては仕事帰りのOLのような衣装……薄手のブラウス―――腕を少しだけまくったものとスリットが入っているタイトミニスカート。しかし夏場でもストッキングを履いた美女。

 

そんなわけで高校生の弟とOLの姉―――とでも誤解されていればいいなーと思いながら、帰路へと着くことにした。

 

「『明日』は色々とですからね。用心ですよ」

「尾けられていたからな。モルガンも?」

「ええ、トトロットドレス社に侵入者がいましたから」

 

成程、車中でも密着状態を変えないモルガンに納得しながら、遮音をした車中でその会話。

 

明日の『ご招待』に関して話すのだった。

 

(十文字がいなきゃいいな。それとなく明日の予定を聞いとけば良かった)

 

7月18日の土曜日を超えた日曜日でも恐らく九校戦とやらに向けて準備を進めているだろうと考えて―――。

 

「ノッブが義父に会った時のように向かいますか?」

「別にマムシと会うわけじゃないし、いいさ」

 

身なりで油断してくれるというのならばそうするが、特にドレスコードが指定されているわけでないならば畏まった服装で行く必要もない。

 

ようやくのこと(相手側からの視点)で、十文字克人という十師族の当主との話し合いが持たれようとしていた……。

 

 

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