魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

43 / 50

というわけで久々の更新……ひむてんの最後を見届けた。雑誌掲載版とはまた違う感じに加筆修正されている……後藤くんの変化が著しい。

などなど言いつつ新話お送りします。


第四一話『夏期礼賛』

十文字の厳つい兄貴との対談から数日後というか、休日明け……。

 

兎にも角にもようやく普通の日々が手に入った。

 

夏休みにはバイトを入れつつ、モルちゃんや雪子と海に行ったりコミケに行ったり―――。

 

(夏休みはやっぱり短い〜)

 

脳内で往年の夏の名曲をメドレーで掛けていく。

 

(アチッチッのチッ!あーつい砂浜踊っちゃう〜)

 

楽しい夏はいつも駆け足〜♪などと脳内楽曲がいいところに入ったところで……。

 

『1−E組の衛宮士郎君、至急職員室へとやってくるように』

 

何故か呼び出しを食らうのであった。もしかして念願の退学だろうか。

 

ここに入っていたのは魔法協会からの通達ありきであったので、そうであるならば本当に良かったのだが……事態は思いもよらぬものを齎すのであった。

 

 

「というわけで君には、九校戦に選手として出場してもらう。これを受けなければ君は退学ということだ」

 

「んじゃ退学でいいですよ。世話になったことはない教師の方々ではありますが、お世話になりました」

 

「なんでそうなるんだ……」

 

頭が痛くなる。と言わんばかりのキトウ教師(どういう字かは忘れた)が、ともあれ……特に成績不良というわけでもない生徒を退学に追い込んだことを協会側に対してどう申し開きをするのかは俺の管轄外だとして、退学届を校長先生に提出しようとした際に……。

 

「すみません。どうやら俺の計算違いでした」

「十文字殿……」

 

キトウ(おそらく亀頭)教師その他が慄くほどの巨漢が現れた。巨漢は聞くところによればこの学校のOBだが、なにはともあれ……。

 

「衛宮君、今回このようなことを仕向けたのは俺だ。どうやら君はこの国で魔法師として何かを成し遂げたいわけではないのだな」

 

「功名心なんてものを尊ぶような下劣な人間ではありませんし、そもそもそんな『何か』を成そうとするものを放逐したのはあなたがただ。今さらそんなものをやろうとしても数字持ちの家から横槍が入るだけですよ」

 

かつての就職氷河期世代を見捨てたツケを支払わされている企業経営者ないし、官公庁の職員というのはこういうものなのかもしれない。

 

そんなものを夢想できる苦虫を噛み潰すような顔をしている十文字当主に対して……何がしたいのかと聞く。

 

「先ほどあったように俺は、君に活躍してもらいたかった。その上で……」

「いい気分になってもらってアンタら数字持ちの魔法師たちに寄り添った上で、司波達也の意識回復に尽力してもらいたいとかクソ浅いことを考えていたんですね」

 

その言葉に苦しくなる十文字克人。来客用の椅子に座るシロウにため息を突く。

 

「そのとおりだ……」

「建設会社の取締役になるならば、色々と接待をする相手の求める所をリサーチしておくべきですね。人によっては、アンタの妹に接待してもらいたいとか考える下劣な人間も出るかもしれませんよ」

「むぅ……」

 

ラ・フォンの学生から聞いたことを含めての言葉……。いわゆる『枕』という事だ。

 

「それでは」

「退学届を出そうとするな。俺の妙な策略でしかなかったんだ……しばらくは、ここ(一高)にいてくれ」

 

そうして早いもので二度目の邂逅を果たしたわけだが、けんもほろろになる十文字当主にやれやれと思う。

 

やれやれと思うだけでソレ以上は無いのだが。

 

しかしながら、このことが引き起こす事態は重すぎた……その翌日。

 

恐るべきことが起きた。

その事で、何故に俺が呼び出されるのかは分からないのだが、それでも『彼女』が、そうした理由に俺が含まれていることが、全てを変えたのだった。

 

何度目になるかも気が遠くなる生徒会室への出頭。全てを三矢会長や矢車会計から聞いた後に頭を抑えながら、机に肘を突いていたのだが。ようやく落ち着いて聞くことに。

 

「十文字、なんでそうなるんだよ……意味わかんないよお前」

「言ったでしょ。私は『責任』を取る形でそうしたのよ」

「何の責任だよ…?」

「克人さんが、私の兄が……アナタを追い詰めたことによ」

「そんなもの無視しろよ。そもそも俺は追い詰められていない。ここを出ていけと言われればそうしてやるだけだ」

 

今回の一件でなぜ十文字が、ここまで強硬なのかが理解できない。

だが、彼女が……その責任を感じて、このようなことになったのだ。

 

「普通に九校戦に出ろよ。いまさら『出場辞退』なんてありえないだろ」

 

でないと、引っ込みがつかなくなっているのだから。

 

「けれど、こんな調子なんですよ……」

「そこを何とかするのが生徒会の役目でしょ三矢会長」

 

泣き言を漏らす生徒会長に頭を痛めつつ……。

 

「俺は実技が大の不得意な『魔法科高校の劣等生』ですよ?そんな俺が『優秀生たちだらけの競技大会』に出場して何ができると思っているんですか?」

 

なんて嘘くさい言葉なのだろう。集められた一同が微妙な表情をする。

 

「メジャーリーグに対するマイナーリーグ……俗にハンバーガーリーグみたいなのがあったとしても、俺はそこに所属することも出来ない。したくもないけど」

「……君は本当に……」

 

魔法に対して何の価値も抱いていないんだな―――

 

矢車の半分の言葉が、詰まりながら出ることはなかった。そのシロウのスキルこそ矢車にとっては喉から手が出るほどに求め欲しているモノなのに、現実は上手くいかない。

 

そんな矢車の嘆きを代弁したわけでは無いだろうが他の人間が怒り始める。

 

「けれど!!アンタはそれでも魔法科高校の生徒なのに!!なんでそんなに!!!!」

「やる気が無いのか?ってことならば答えは簡単だ。俺にとって魔導なんてものは捨てられるならば捨てたいものだからだ」

 

遠上の激昂するような言葉に返すように言いながら、時間を確認する。

 

「最近、なしくずし的にお前らと一緒にいることが多かったが、俺は別にお前らと一緒にいるような・いられるような人間じゃないんだ」

 

その突き放すような、実際に突き放している言葉は、更に多くの悲しみをこの場にいる人間に齎すのだった。

 

「じゃあな。そろそろアルバイトの時間だ」

「説得の材料が無い……」

 

会長の言葉にアホくさい限りであった。結局、その日は何事もなく帰れたのだが……後日――――――

 

「権力は生臭いな。足が早い―――腐り落ちる匂いがプンプンする」

 

――――――恐るべき通達が、シロウに届けられていた。

 

「すでに三矢君が、選定に入っている……確かに魔法協会に変節を促したのは、数字持ちの家なんだろう」

 

亀頭(・・)教師の嘆息混じりの言葉にシラケた顔をしながら見ていると咳払いされる。

 

「ともかく……生活の為にも、お前は九校戦に出なければならない。本気で一高を辞めたいのか?」

「出来ることならば」

「……教師としては悩ましい答えだ」

 

ここはシロウにとって一生馴染まない場所だ。いや、そもそもこの世界そのものが―――。

 

職員室から出てため息一つ突いてから渡された資料データを読み込む。

 

そこには……。

 

『これまでの奨学金実績の算定の為に九校戦において相応の成績を取ることが望ましい』

『これが成されなかった場合、即時の返金も視野に入れる検討をする』

 

(要するに『いくら古式の元・追放魔法師だとしても、何かしら成績を出しておかんかい』ということか。今までの協会の態度とは180度の転換すぎるだろ……)

 

どう考えても忖度があったと考えるのが当然で……。

 

(アルバイト先……コペンハーゲンにどう言おう……)

 

九校戦が一週間以上もの日程である以上、ご迷惑を掛けてしまう。

 

一番のかきいれ時にシェフが一人いなくなるなど最悪である。

 

九校戦の云々よりもそんなことの方がシロウにとっては重大ごとだった。

 

そんな訳で……。

 

「なんでそんなに意気消沈しているんですかね……?」

「白々しい。三矢会長や副会長の親御さんなどが働きかけたんでしょ」

 

その言葉にわざとらしい口笛(下手っぴ)を明後日の方向に吹く三矢会長だが、隣にいる

副会長は揺るがずに、口を開く。

 

「だとしても、決まった以上は出てもらうぞ。そして……キミが出場する種目は新人戦男女ペアピラーズだ」

 

九校戦の歴史はそれなりにはある。花形競技の氷柱倒しであるアイスピラーズ・ブレイクであるが……その競技に変化が出た。ペアピラーズというのは近年になって考案されたものである。

しかも同性のペアならばあったのだが、今回は異性でのペアである。

 

今回に限り同性のペアでのダブルスは無いわけで、そうなっているわけだが。

 

「ペアパートナーは指名出来るんですか?」

「ええ、自薦もありますが……とりあえず衛宮くんが気心が知れている相手をドラフト指名してください」

 

この部屋はドラフト会議室だったのかと思いつつ、プロ志望届を出した選手ならぬ九校戦選定生徒からドラフト1位を選ぶことにした―――。

 

「それじゃ永臣小陽さんでお願いしたいんですが」

「よろこんで受けます!!がんばりましょうシロウ君!!」

 

見ようによっては猫耳ヘアにも見えるヘアスタイルの女子。シロウにとって気心が知れた相手をペアパートナーに選んだのだが……。その笑顔を向けられことで安堵していたのだが……。

 

「では他に―――」

『『『『そのペア! 異議アリ!!!』』』』

「まだ何も言っていないのに!!!」

 

シロウにとっては予想通りではあったが、三矢会長が他の意見集約をする前に、挙手をして物申しをしてくる連中に涙目になる会長が気の毒になる。

 

「で、ではまずは……十文字さん。どういう意見がおありで?」

「単純に……永臣さんよりもシロウくんに相応しいペアは私です!!私ならば、最堅の盾でシロウくんを支えられます!!」

「だが、君はクラウド・ボールのペアにも出る。競技時間はバッティングしないが、それでもハードな競技に2つも出場はかなりキツイことだ」

 

矢車会計の鋭い一言だが……それでも十文字は退かない。

 

「矢車先輩及び執行部がなんでモノリスじゃなくて、ペアピラーズにシロウくんを出そうとしているのか……それは『ココ』の対策ですよね!!!」

 

十文字が示したのは―――既に九校戦で行われている策略戦の一つとも言える『予告先発』のごとき競技参加選手の『事前告知』(威嚇行動)であった。

 

新人戦ペアピラーズ―――各々の端末に表示されている最重要情報……北陸三高より示されたのは……。

 

一条茜・十文字竜樹のペアピラーズ参戦であり、同時に2人の個人種目も発表されている。

 

そう。

 

十師族のコンビ……。

 

『最強の矛』と『最強の盾』が。

 

確実に。

 

同時に。

 

間違いなく他校の勝利の前に立ち塞がると分かっている競技があるのだった……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。