遅れること9日ほど経ってようやく九校戦の練習に合流したシロウは、この上なくスペシャルハードなトレーニングを課されていた。
……しかし、それはシロウ視点ではなく他の連中にとってであり、シロウからすれば別にさして労力を持つものではなかった。
アルバイトの時間と調整しなければならないが、それでも……結果は確実に出していた。
(ネコさんは笑って送り出したけど店に迷惑かかっているのは間違いないよな)
その辺りは協会がある程度の資金を融通して臨時のクォーコを雇うぐらいのことをしたらしいが、知らぬ料理人がいきなり
そこで蛍塚オーナーはイタリア帰りの元・コペンハーゲンのシェフたる人を呼んだりもするらしい。
(まぁ『バンさん』ならば問題ないだろう)
自分と同じく九州出身のシェフの腕前は存じていたのだから……。
(由比が観戦しに来るとか言っていたしな)
烈士系アイドルな看板娘がやってくるというのならば……気合いも入るというものだ。
「―――」
口舌を滑らかに動かしながら手の指を虚空で動かしながら戦いを有利に進める。
『Kyeeeee!!!!』
甲高い嘶きと共に相手側の氷柱を砕くは黄金の鳥。猛禽類が獲物を狩るときに使う
「くそっ!なんて攻撃だよ!!」
「勇人。防御に徹してくれ!僕がシロウ後輩の氷柱を砕く!!」
―――現在、2年男子2人との戦いが繰り広げられていた。
いささかチカラに差がありすぎる戦いであるのだが、その予想を浅薄なものだと言わんばかりにシロウの攻撃は十文字・誘酔コンビの氷柱を砕き。
「防御も完璧かっ!!」
相手の攻撃を防ぎきった。
「一条茜の爆裂とやらを想定するならば、硬度も速さも必要でしょうけどね」
どちらかと言えば必要なのは速さだろうが、その辺りは色々と改良していける。
ともあれ……黒色のキューブとでもいうべきものに包まれたシロウ側の氷柱に対して誘酔の攻撃は一切届かず……そして、勝敗の境界は刻まれるのだった。
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・
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「これで既に6組がお前の魔法の前に沈んだわけか」
「デモニッションが使えなかった場合のテストにしちゃ随分と多かったですね」
水筒を取りつつ『冷却」をしてからカップに液体を注ぐ。魔術刻印の副作用を抑えるための薬湯は、しみじみと身体に染み渡る。
「だが一条茜さんの使う爆裂は秒速で発動するわけですからね。スピードキューブで防御してから攻撃だな」
「そこまで一条さんの爆裂は使徒であるお兄さんほど達者でないと思いますけどね」
矢車会計と三矢会長の言葉に返しながら考えるに、想定を最高値にあげておくことは普通だ。
シロウの元々の世界では、合衆国軍はパキスタンに潜伏する911のテロの主犯・首謀者と言えるテロリストを
俗に
その要因は当時の天候とシミュレートしてきた環境には無かった屋敷構造から吹き抜ける揚力の変化からであったが、それすら『想定』―――墜落した場合に備えての訓練もこなしてきた特殊部隊の隊員たちは迅速に作戦を再開。
そして、911以来、合衆国民の恩讐極まる『ジェロニモ』を殺害して、遺体をアフガン基地に運び出したのだ。
(何事も最悪を、想定外を意識しておかなければならないのだ)
あちらも何かでこちらの手札を理解している可能性もある。
情報が副会長から伝わっている可能性もある。
色々、考えたが……とにかく。
「ハイ、
「
元・合衆国軍であるボインなJDの差し出してきた飲み物を拒否して薬湯を飲んで調子を取り戻しておくのだった。
「ナンデよ!?」
「生憎、俺はこっちでいいんですよ。そして施しはいらないです」
この元・シリウスが四葉の間者であることは理解しているので、こちらに接触を図ろうとする態度に裏を覚えているのだ。
「ソ、ソーナノ?」
「そうなんですよ。そしてアンタ、なんでも悪名高いヨツバの『囲われもの』らしいじゃないですか。言いたくないけど、俺みたいな『はぐれもの』に近づいていることに裏を感じる」
「うっ……ソ、ソレを言われると……」
やっぱり『企み』があったんじゃないかと思いつつ、薬湯を飲み干してから――――。
「で、テストはもういいんで?」
「「大変、結構なお点前でした」」
シロウと立ち会ったことで死屍累々としか言えない状態になった先輩連中を回復させておくことにした。それを東道に見られているのを感じつつも……。
「シロウくーーーん!! ヘルプ!!!」
更に厄介な金髪がやってきたことに頭を痛める。
「お前の兄貴を俺は癒やしている最中なんだけど」
「終わったでしょ!?」
終わってねーよなどと返せばアレコレ面倒くさい問答が繰り広げられるので……。
「副会長に膝枕でもしてあげろよ。俺と戦って、俺の呪力の限りを魔法で受け続けたんだから、勇戦した兄貴を労ってやれよ」
親兄弟の人情に訴えることにしたのだが……。
「勇人さん!服部部長が膝枕してくれますよ!!」
「は、初音!? いや、そういうのいいから!!」
「まぁまぁ遠慮しなーい。私も休憩中だからさ。じゃあ2人とも。いってらっしゃーい」
クラウドの部長にニヤニヤ笑われながら労られる副会長を見つつ、十文字アリサに何の用だと問うも。
「それは道すがら話すからとりあえず来てくれない?」
用件を話してからにしてほしいと切実に思いつつも、コイツには無理だと諦めているのでため息を吐きつつ十文字の先導に従い歩き出すことにした。
その背中に何故か東道もついていく。
辿り着いた場所は、スピード・シューティング競技の練習場だった。中々に、本格的な練習場であったのでよく覚えている。
「なんで俺が来ることになったのやら……けが人はいないし、腹減らしがいるわけでもない」
いるのは唐橘と……田原とかいう同級生であった。
「で、なんなのさ?」
「それはね……」
十文字アリサ曰く、この競技の『次元大介』と『ルパン三世』が決まっていないとのことだった。
要約すればそういうことだった。
その前にこのスピード・シューティング競技……ペア戦になった場合のことを主に語るべきだろう。
かつては魔法による弾丸ないし、魔法作用によるクレーの破壊ないし命中が義務付けられていたこの競技だが、今年度の復活からは実体弾使用が義務付けられた。
新ルールでは固体の弾を手で保持しているランチャーから飛ばさなければならない。弾は直径十二ミリ、重さ三グラムの球形弾。
また、一度に装塡できる弾数は五十発以下、一試合の弾数は百発に制限されている。
なお標的の総数は三百個だ。
この規定は操弾射撃の要素を取り入れたルールだ。必然的に各校は操弾射撃用のランチャーを元に、五十発入りのマガジンを使用できる競技銃の製作から始めなければならなかった。
ソロは一人ずつ競技して全体でスコアを競う形式だが、ペア競技は二チームが先攻後攻で攻守が交代して勝敗を決める形式だ。
ペアの競技は的を撃つ「シューター」と的を動かす「アレンジャー」、及び敵チームの「アレンジャー」の三人で行われる。
「アレンジャー」は「配置する者」の意味だ。
「かつては、司波達也様が考案した『範囲射撃』『範囲爆撃』で、多くのクレーが砕けたんだけどね」
それ、射撃競技としての意義をぶち壊していないか?などと五十里の嘆くような声に冷たく考えながら、
シューターは実体弾を魔法で撃ち出す。射出に使う魔法は加速魔法でも移動魔法でも良いがシューターが魔法を使えるのは弾を撃ち出す時だけで、飛んでいる弾にも標的にも干渉できない。
アレンジャーが魔法で干渉できるのは標的に対してのみ。
シューターと違って魔法を使える回数に制限は無いが、種類は加速系単一プロセスの魔法だけだ。 攻撃側アレンジャーはその魔法を使って弾が当たるよう標的を動かし、敵側のアレンジャーは弾が当たらないように標的に干渉する。
アレンジャー同士はお互いの魔法を打ち消す魔法も許されている。
それでお互いに百発を撃って、命中したターゲットの数で勝敗を決める。これがペアのルールだ。
「つまり弾数とターゲットの数は合わない。要するに弾丸一発で2枚抜き、3枚抜きないし欲を言えば5枚抜きぐらいはしてほしいということか」
「そういうことだね」
となると弾丸の軌道に沿って、皿を移動させることは重要だが……何というか、それ必要なのかと言いたくなるのだ。これまた射撃競技として意味あるのかと言いたくなる。
「それで、唐橘はアレンジャーで田原君はシューターと……別にいいんじゃね?やりたい方をやらせれば」
「けども私としては逆のほうがいいと思うよ。だって田原君の方が干渉力が強いから、標的の
十文字の言わんとするところを要約すれば、唐橘はまだまだ魔法師としては駆け出しの『モヤシ』なので、魔法師としての
「けれど、それじゃなんで選抜したんですか?」
「術式の構築の速さと発動速度は良かったから……まぁ、だからそれを活かして打ち出して欲しいんだけど」
今度は上役である裏部風紀委員長に尋ねると……完全にミステイクだと感じる。まぁ唐橘が努力家で成績も上位に位置しているだろうが……。
(俺にどうしろと言うんだ)
何が出来るというんだと嘆きたくなることを境に……。
「衛宮くん!俺と唐橘くん、どっちがシューターでアレンジャーがいいか、バシッ!と決めてくれ!!」
なんだって俺にゲタを預けるんだよ!?と言いたくなる田原秀気の言葉に頭を痛めつつ―――。
「俺は何も見ていない。よってもう一回、互いに手心など加えずにやってくれ」
「ちょっ、無茶させないで!さっきからかなりの頻度で2人は練習してい―――」
同じくシューティングにでる風紀委員長たる裏部の警告の言葉を途中まで聞きながら、構わずにシロウはフルートを取り出して『調律の音』を響かせる。
その演奏の見事さと身体を震わせてトリップするような感覚を覚えさせる。一高の範囲内にいる人間たちを『心象風景』に誘える……。
そういう術が発動する。
いつぞや十文字にやった時よりも広範囲に鳴り響くそれが2人に活力をもたらしサイオン効率も高まらせたのは事実であり……。
「ご静聴、ありがとうございました」
演奏家として一礼をしてから、2人に気付けのように口を開く。
「俺の言で納得するかどうかまでは知らないが、あんまり先輩方やこっちにいる十文字をやきもきさせるなよ。だからもう一セットやってくれや」
脅威の技法を発揮したシロウに呆然としながらも、それでも回復した2人はテストマッチへと挑むのであった。