魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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久々の投稿。



第四七話『過日戦炎』

食堂内に音が響く。それは麺を啜る音である。

 

誰もが沈黙しながら、その味に酔いしれている。それぐらい衝撃的なメニューであった。

 

作った当人は、もう少し具に改良をするべきだったと嘆いておくのであった。

 

しかし、冷やしとろろと同じく地鶏のムースというとんでもを作ったシロウの蕎麦は、大変に好評であった。

 

みんなしてカスタムした蕎麦を食べている辺り、そういうことだ。

 

「シロウ君は日本食も得意なの?」

「オヤジが、日本食が得意だった―――もっとも、蕎麦本体に関しては製麺機(パスタマシン)を使ったぞ」

 

十文字の質問に対して言わないが、流石に伝統の職人芸を行うのは無理である。もっとも麺生地を作ることさえ出来れば、あとは製麺機にお任せということだ。

 

文明の利器バンザイ!などとシロウの中のALL JAPANが拍手大喝采のスタンディングオベーション!!などと思いつつ……。

 

「なんで唐橘はむつかしい顔して食っているの?そりゃお前が普段から食べているだろう。江戸前の蕎麦に比べりゃ格式は低すぎるだろうけどさ」

「違うよ……なんていうか確かに僕がシューターになったのは、全体にとっては僥倖だろうけどさ……なんであんな説得するかな……」

 

結局の所、田原の説得をするために唐橘が十文字アリサという惚れた女のためにカッコつけたいという心を懇々と説いたのだ。孫呉を曹魏にぶつけるためにやってきた孔明のような説得を。

 

「お前に男を上げさせたいという俺と田原君との心が一致した結果だ。甘んじて受け入れろ―――それに、だ。俺程度の干渉力で簡単にクレーを奪い取られるならば、他校の連中とやっても同じ結果だ」

「――――」

 

押し黙る唐橘であるが、正直言えばシロウの干渉力はもしかしたらばこの中でも、いや一高の中でも一番なのではと思いつつも、その道理を知らぬ理解できぬ唐橘役では反論の言葉は出ない。

 

「それに、だ。五十里から聞かされたが、どうやら多くの魔法師の家に、よく分からんが戦功からの家格上げの機会が寄越されているそうじゃないか」

 

「それなのよねー。まぁ家の事情はそれぞれだからアレコレ言いたくないんだけどね」

 

結局のところ、今の魔法師の業界で色々なところに幅を利かせられる家……十師族や師補なんたらという家の人間が言えることではない。

 

それ以外の冷や飯を食わせられているというほどではないが、一線に立つ機会を与えられていない魔法の家にとっては、絶好の機会ということだ。

 

「シロウ君のところに、そういう話は?」

「無い」

「興味は?」

「さらに無いな」

 

そば湯を飲みながら、十文字の質問に答える。その態度に五十里が少しだけ物申したい様子だ。

 

「あんたって本当にそうよね……」

「全てに冷めているというのならば、そうだと言っておくよ五十里。大体にして、この話の終点ってのは結局の所、国防有事の際に戦力として動員出来る魔法師を確保しておきたいってことだろ?」

 

物事の核心を突くことで場を停滞させる。

 

「そのことの善悪の区別を問える立場に俺はないから、そこは問わないでおく。問題は、果たしてそれが本当に有効なのかどうかということだな」

「……どういうこと?」

「魔法師は人間なんだろう。遺伝子いじくった現代魔法師でもそうだと言ってのけている。ということは……人間としての弱点。心の問題がある」

 

如何に魔法師が常識外のチカラを得ていようとも、それが即座に兵隊として発揮出来るかと言えばそれは疑問である。

 

事実、有史以来……圧倒的に簡易な殺傷兵器である鉄砲を持たされた明治時代の兵隊でも……十人のうち七人は相手に発砲することは出来なかった。

 

「日本の魔法師のトップメンバーであるも、こっちの十文字みたいに格闘技を直視することも出来んヤツがいるんだ。実際の現場でそうなったとしてもおかしくないね」

「それは惰弱だと思う……?」

「群れについていけない白鳥がいたとしても、白鳥であることには違いないだろ。それだけだ」

 

講評を避けつつも、そんな風に言っておく。しかし、照れることはないだろうと思う。

 

「けどさ、副会長は横浜での戦いにも従軍していたそうだぞ」

 

火狩の反論だが、浅いことだ。

 

「そうらしいな。けどもそれは上陸した人民軍が魔法師ではない兵隊が主だったからだろ。つまり魔法師にとって『対称戦争』といえるものは、やっぱり同じ魔法師相手だよ」

 

ハイパワーライフルがまともに当たれば確かに魔法師にとっても致命傷だ。障壁を砕くために用意されたそれだが……。要は当たらないような速度で移動されれば意味はない。

 

相手にもこちらを殺すことが出来る能力を有している戦争とは魔法師は無縁。

相手とのまともなケンカが成立しない戦争など戦争ではないだろう。

 

「一対一で魔法師を相手取れるような非魔法師なんていないしな。そして、仮に同じ魔法師部隊がぶつかれば、何人が生き残れるかなんて分かりゃしない」

「成程……」

「噂の国防予備隊の創設者だか計画者が、どこまでの軍事任務を若年魔法師に要求するつもりなのかは分からんが、『白虎隊』と同じ運命にならんことを祈るばかりだ」

 

城が燃え落ちたとしても自決はせんだろうと思いつつ、語りすぎたなと自戒する。なんせ食堂中の耳目(学年問わず)を集めすぎていたのだから。

 

「シロウ君は……そういう現場を見てきたの?」

「―――ここまで言っといてノーコメントは無理だろうから言っておく……国を出た魔法師が他国で市民権を得るためには鉄血を消費する必要はあるんだよ」

 

明言は避けつつも、十文字の言葉に明後日の方向を向きながらそう言ったわけだが、周囲の人間で、ことさら反応しているように見えたのは、なぜかいまだにいる東道OGだったりするのだった。

 

 

「夏場に担々麺は汗ばかり掻くもんだと思っていたけど……」

「これはいいな……なんというかチカラが湧くよ」

 

同じく三高においても、ランチタイムに至っており一人の中華料理人が一高と同じく『麺』を振る舞っていたのだ。

 

「それは当然です。担々麺……ダヌダヌミェンとは労働者のためのファストフードと言ってもいいものです。疲れた身体を癒やし、回復させ午後からの労働にもがんばれるように作られたもので、ゴマもラー油も酢も何より挽き肉とアーモンドもまたそれに一役買っているのです」

 

解説してきた一条レイラの言葉通り、肉味噌を絡めた麺。そして使われている花椒

などもまた最高に心身に染み渡る一品である。

 

午前の練習でモノリス・コードという競技を実践形式でやってきた一年モノリス組の三人にとっては正しく回復するものだ―――もちろん食べているのは自分たちだけではないのだが。

 

「ラーメンを頼まなくて良かったよ……」

 

伊倉左門という男は、この夏場でもラーメンを食そうと食堂での事前予約を考えていたようだが、演習相手であった先輩との反省会の時間を考えるにレイラの提案がなければ伸び切って『だまっだま』の麺を食すことになっていただろう。

 

などと竜樹は考えつつ、もうひとりのチームメイトである『義雄』に対しては……。

 

「お前はたらふく食え。なんか知らんが無茶し過ぎだったからな」

「だからと二杯の皿を差し出すなよタツキ。食うけど」

 

レイラの言う通りファストフードなだけに、一杯の量…というか器のサイズは大きくない。

 

まぁ午後練習を考えれば、食い過ぎも良くないのだが。義雄が無茶しすぎた理由を察しておく。

 

「国防予備隊に入らせるためにお前の親御さんも、キツイな」

「とはいえ……養われている身としては、反抗することも出来ないのが、子供の辛い所だよ」

 

咳き込むことはないほどに辛い(からい)麻辣のスープごと食べきる義雄の表情はちょっとだけ辛い(つらい)

 

「もちろん俺だって魔法師だからそういう責任というかある種の有事における自分たちの役目は分かっているさ……けども、だからといって―――どれだけの任務を課されるか分からない所に……両親は俺を入れたいのかなってのは感じる」

 

「そうか。この事に関しては俺はコレ以上は言えんな。すまない」

 

魔法師としてトップメンバーの地位にある十文字家は、そこを講評することは出来ない。家格を上げんとして息子をそういう所に入れんとする行為を咎め立てることは出来ないのだ。

 

「いいよ。ただ……タツキの親父さんだって建築建設の会社社長をやっている。それと完全に比べられないけど普通にちゃんとした職業に就いていて、お給料を貰っていることじゃ満足出来ないのかなとは思うよ」

 

(世代の問題ではあるんだろうな)

 

義雄の苦笑気味の言葉に対して声に出さずに考えるに、結局の所……自分などを筆頭に、今の魔法科高校の生徒たちの親世代の多く……特に十師族を筆頭にした数字持ちが、何かしらの高給取りな人間や企業・会社の経営者が多いからこそ、そこに入れていない親達はちょっとばかりコンプレックスを患っている。

 

昔の感覚で言えば同じ高級なタワーマンションに住んでいても、住んでいる階層と、そして住人の勤めている会社ないし起業したり、官公庁勤め(国家公務員)でもどういう役職とかで住人の間にマウンティングが発生しているようなものだ。

 

特に魔法能力が決して低くないのに、それに準じた何かしらの社会的な地位を得られていなければ……親世代の心はささくれ立つ。

 

(彼はどうなんだろうな……?)

 

そういうのとは無縁を気取るも、多くの人間が知りたがるタツキと同年の男。

 

彼とモノリスで戦うことはなくとも再戦の機会を得られたことは風聞で伝わっている―――そして……。

 

(俺は勝つ、勝ちたい!!)

 

そして午後のタツキの練習はアイスピラーズに移る……多くの思惑が渦巻きながらも、魔法師たちの熱は変わらず渦巻いていくのだった。

 

 

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