魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第四話『疑惑動揺』

 

 

 

衛宮シロウが去った役員室にて、いろんな意味での沈黙が立ち込める。

 

「彼は何者なんでしょうか……?」

 

「十文字さんがなんか気になっている男子」

 

「そ、その表現はやめていただきたい…」

 

三矢会長の言葉を受けた風紀委員長 裏部アキの言葉に学内にいるもう一人の十文字が呻くように言う。

 

副会長の嘆きをさらっ、と無視しつつ話は進む。

 

「にしても矢車君、なんでCADを見たの? それだけで分かることって何かあった?」

 

「あったね……。というか皆は気付かなかったのか?」

 

浦部アキの言葉に返す矢車は、魔工科の一員として誰もが気付いていないことに少しだけ落胆しつつも説明をする。

 

「……彼は恐らくCADを『常用』していない。思考操作型のペアリング機能すら使っていない。身一つで、全ての術を構築している……そうとしか言えないものだ」

 

「どういうこと?」

 

「彼の持っていた汎用型はいわゆる10年以上前に出た本当に『初期型』のもので、ペアリングすることすら不可能な型落ちものだ……そのことから推測するに、彼はCADを必要としていない「魔法師」―――という括りであるかすら分からない存在だ」

 

「確かにあの一年が千種の殴りかかりを躱した際の『影人形』は、術式構築の初期動作すら見えなかった……起動式も展開された魔法式もなかったな………」

 

北畑の証言で、その事実に今さらながら『ぞっ』とする話である。

現代魔法師が金科玉条の如く使ってきたものを使わずに、そのようなことをするなんて……異端の使い手という表現であり、サイキッカーとも違うんだろうかと推理を進める。

 

「OBである古式魔法師の吉田先輩とて自身に適したCADを司波―――いや、四葉達也先輩に用立ててもらったことで、そのポテンシャルを発揮出来たことを考えると、そちらとも違うんだろうな」

 

矢車侍郎の言葉の中に出てきた人物名に今年度の主席総代の眼が見開くも、構わずに話は続く。

 

「……ふむ。なんとも―――だが、『どうする』?」

 

「どうする……と言われても―――別に問題行動は起こしていませんから、そもそもアーツ部に行ったのだって、殆ど『自主的』じゃありませんし、衛宮君は本当に被害者ですよ」

 

「そうだな……部活連の立場としては、そのような特異なスキルを持った人間ならば、何かの部活に入ってもらいたいが、学校側に『アルバイト許可』を合格直後に出すぐらいだから、苦学生であるんだろう」

 

碓氷の問いかけに返した三矢会長の言葉に、更に重々しく言葉を吐く碓氷。

 

部活連会頭としてのジャッジというよりも、一人の生徒として、事情を鑑みたということだろう。

 

「ですが、下位クラスにいながら三年アーツ部の部長を吹っ飛ばすことが出来るとは……まるで司波達也の再来ですね」

 

「………」

 

議論が沈静化しようとしていた所に放たれた推測。

二年の風紀委員である誘酔の言葉に確かにそう考えると何かの奇縁ともいえる。

 

だが、三年が知っている一年間だけの司波―――四葉達也とは、少々違う。

 

現・三年が一年の頃に知った限りでは、かの伝説のOBは、全く以て口先だけは『目立ちたくない』というだけで現実には『典型的な自慢屋』の『目立ちたがり屋』であった。

 

元々、兄妹であり現在は恋人で婚約者としてある妹が、あからさまに現代魔法師として優秀だっただけに、当時は劣等生であった兄貴の方にも注目は集まっていたのだが……それを踏まえなかったとしても、時間が過ぎるにつれて出てくる本性は、やはりあの『四葉』らしい魔法師であったということだ。

 

(だが、彼は……本当に隠れていた。実際の魔法能力を隠しているのか、それとも司波先輩のように異能を隠しているのか……)

 

「―――ただの怠け者なのか、それとも隠しているのか」

 

内心での考えが口を衝いて出たのを隣の三矢会長は耳ざとく聞いた。

 

「……けど侍郎君、そういうの下衆の勘繰りじゃないかな?」

 

「まぁ、それぞれで事情は違うからな。けれど、魔法能力という意味では測りきれていないから―――どうしても、ね……」

 

何とも不可思議な一年生だ。

 

そんな少しだけ『腫れ物に触るよう』な扱いとまではいかずとも、司波達也のような自慢屋ではない、目立ちたくないならば、無理に関わることも無いのではないかという、『臭いものに蓋をする』的なものを覚えた部活連の一年委員が、声をあげる。

 

「あの三矢会長、矢車先輩―――僕が、衛宮君と立ち会って実力の程を確かめたいと思います」

 

「火狩……だが、衛宮は勝負を受ける理由が無いと思うぞ。司波達也OBの行動原理に『恋人・司波深雪』がいたのとは違って、彼は立ち会うことすらしないだろう?」

 

あまりにも消極的な姿勢。部活連の会頭として、いつぞや語った演説とは真逆の人間がいたことで苦悩をする。

 

だが、好漢の面持ちを持つ男―――今期の次席生は、それでも……と思う。

 

 

「仮に、そうだとしても『それだけの能力』を持っている人間を無駄に放逐していれば、どんなことになるか分かりません―――第一、力あるものの責務を放棄するなんて、あまりにも軽薄すぎます」

 

その言葉に突かんでもいい藪を突くこともあるまいと想っていた面子は多い。だが―――。

 

「分かりました。勝負の形式が決まり次第、私の方に一報をお願いします。許可は碓氷くんではなく私が出しますので」

 

「ありがとうございます会長」

 

この学校において魔法戦というのは、ある意味では色んなものを解決する上で一番、後腐れない裁定方法なのだ。

 

荒事を好まぬ三矢詩奈ではあるが、それでも会長の責務としてエミヤシロウを知らなければならない以上、こうせざるを得なく責任も自分にあるのだから。

 

まるで乱世のような在り方だが、魔法科高校には、そういう面もあるのだから―――。

 

この展開に内心でのみ『計画通り』とニヤつく男がいた。

 

司波達也という爆弾を引き合いに出して全員に火点けをした甲斐はあったというものだ。

 

ただ十師族で、自分の友人である勇人が挑まなかったことは少しだけ残念だ。出来うることならば十師族のチカラで、どれだけ出来るかを測ってくれるか、少しはブチのめされることを願っていたのだが―――。

 

 

(まぁ何事も予定通りとはいかないか)

 

誘酔早馬の内心での嘆きは誰にも知られずに、溶けていき―――。

 

そして一年次席たる火狩 浄偉と衛宮 シロウとの何かを予期させる戦いは……3日が経っても、中々始まらないのであった。

 

 

 

「――――」

 

机に突っ伏す火狩の姿は、美男子としての姿を特に崩していた。

 

「大丈夫? 火狩君」

 

「だいじょばない……今日で4日目……全然、衛宮が捕まらない―――毎度、授業の合間にだって、G組の教室に向かっているってのに……あいつの姿を捉えられない」

 

A組の面子は、今日までの火狩の行動を分かっている。

 

何をしに下位クラスの教室まで赴いているのかも……だが、ここまで目的を達成できていないことに少しばかり不憫さを覚えるのだった。

 

「まるでアナタが来ることを分かっているかのようね。いっそのこと生徒会経由で呼び出したら?」

 

「そんなカッコ悪いこと出来るかよ……経緯はどうあれ私闘を挑むってのに、最高責任者を使って呼び出した理由が戦えだなんてさ」

 

(ツラ)だけを出して、不機嫌ですということを隠さない火狩に五十里 明は苦笑する。

 

にしても、このA組教室とG組教室との距離は確かに離れている。かつて行われていた1・2科制度の名残りで、現在でも所属教室次第では下駄箱すら別々のところにあるのだ。

 

その距離ゆえに、確かに火狩が向かう間に衛宮シロウが教室からいなくなることはあり得るのだが……。

 

毎度会えないことに、狐につままれた気分だ。

 

「あはは……」

 

だが、その事実に少しだけ思い当たる節があるアリサは少しだけ苦笑してしまう。

 

あの聴聞会(?)の後に火狩と五十里が残っていた室内で決められた私闘は、五十里の方から伝えられた時点で、まだアリサとシロウは一緒にいたのだ。

 

それを伝えた後には、特に火狩のことを聞かずに、『くだんね』―――くだらないとして、接触を避けることにしたのだろう。

 

「――――」

 

その辺りは五十里 (メイ)も理解していたが、まさか一年次席。自分と僅差の火狩をここまで翻弄するとは思っていなかった。

 

どういう術理であるかは、まだ分からない。ただ一向に捕まらない衛宮シロウの姿に痺れを切らしたのか……一年の指導役をまとめるT.Aたる十文字勇人が、交渉に乗り出したという話だ。

 

だが、そんな勇人も……。

 

―――ケンカを売るならば本人が話をつけに来いと言われてしまったよ。(ToT)―――

 

アリサの端末に入った勇人からの古典的表現な顔文字付きのメールを見せて、2人の優秀生がそれぞれの表情をする。

 

「今度は私達も着いて行こうよ。これ以上ケンカ犬で野良犬な火狩君は、見ていられないし女子からの人気も急降下だろうからね」

 

「メイ……分かったわ」

 

決戦は昼休み。長時間の捜索で彼の姿を捉える。

 

たとえ――――今、すごくゲンナリした顔をした火狩が嫌そうな顔をしていたとしても……。

 

第一、この三日間……アリサもシロウと話せていないのだ。

 

(何でだろう……すごく寂しいな)

 

今さらながら……あのアーツ部への見学の日。その放課後に至るまで隣に不機嫌な茉莉花(ミーナ)がいながらも、それでも少しだけ楽しかったのを思い出すのだった。

 

(もう一度……お話したい。少しだけ私を―――)

 

気にかけて欲しい。

 

そんな欲求が生まれるのだった。

 

 

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