魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第五話『櫻花迷宮』

 

 

いつまでも始まらない火狩とエミヤシロウの戦いを始めるべく昼休み。いつもならば食堂で女子集団で昼食を取っているはずの面子はそろって、G組の同級生たちの証言から、食堂以外にアタリをつけて捜索に出るのだった。

 

第一の有力な場所は、まだまだ桜が咲き誇って、見るモノ全てが鮮やかに映る中庭からである。

 

……のだが……。あちこち方々に散らばった面子は全員、エミヤシロウの姿を見つけられないことを報告し合う。

 

 

「み、見つからない……! どうなっているのか分からないけれど!! アイツ、本当に登校しているの!?」

 

「記録上は―――そのハズなんだけどね」

 

「G組の人たちはちゃんと授業を受けているところを見たと言って十文字副会長も、ティーチングしていた時点で、見ていたと言っていますし……赤毛で長身の男子なんて簡単に見つかりそうなのに……」

 

茉莉花、メイ、小陽の三者三様の言葉を聞きながら校舎外の中庭―――未だに桜が咲き誇る中庭に出てきた女子一年ズは、嘆きながらも……そこで昼食を採ることにしたのだ。

 

「衛宮君って何かの隠形でも使っているんですかね? どう考えても浄偉が、ケンカ吹っかけると分かってから隠れてますよね?」

 

「現在の魔法能力……入学時点での成績で『そんなこと 出来るわけがない』とか傲慢に言うわけではないけれど―――っていうかそんなことしているならば、学内での魔法の無断使用だし」

 

CADの有無で魔法の使用を制限出来るほど魔法師は浅い存在ではないが―――。

 

何かの術を放ったとしても、それがサイオン検知器などの記録に残るのならば、痕跡一つも無いのは、なんというか不合理だ。事実、魔法科高校にはそういったものは当然のごとく常設されてるのだが……それを閲覧出来ないのだとしても、スゴク『何か』をされている気分になる。

 

満面に咲き誇る桜の中……まるで迷宮に入り込んだ気分でため息を突いたところに……アリサの『眼』が『何か』を見た。

 

自分たちがいる場所から離れた所で桜を見上げていた、その人は女性だった。容貌ははっきりとはしない。だがアリサが見ていることに気付いたのか、振り返って笑みを見せる。

 

目元は見えない。だが青紫色の長い髪を赤いリボンでサイドを結っている。それだけは分かる―――何気なく『儚い美人』という印象を持ったアリサは―――。

 

その美人の近くに歩いていくことにするのだった。

 

「アーシャ?」

 

茉莉花の疑問の声を聞きながらも、アリサの眼に見えている女性の元へといくと、その女性に近づけば近づくほどに、その輪郭は崩れ去っていき―――立っていた場所に到達したときに、その姿は無くなっていた。

 

「いない……?」

 

何かに化かされたかのように霞か霧のように消え去った女性の姿……されど何かを感じたアリサは、女性が眼を向けていた方向に集中する。

 

凝視。という表現が似合うぐらいに、何かを見つけようと眼を凝らすアリサ。ようやく追いついた後ろの友人たちの前で、ちょっとしたサイオン弾を手から打ち放つ。

 

それは桜の木々の上―――太い幹が二叉に分かれて天空に伸ばしている……ちょっとしたスポット。

 

人一人が寝転がるぐらいはある場所を、それは通り過ぎるはずだったが―――。

 

そこに見えぬ何かが、壁があったかのように消え去った。

 

その現象を見た瞬間。

 

「―――衛宮君! いるんでしょ!?」

 

エイドスでは、そこには何もないとしか認識出来ていない。改変すべき情報体が存在していないから、そこには誰もいないはずだとして誰もが思うはずだが……

 

現象の不可解さを見た瞬間からもはや1も2もなく桜の木を登ることにした。籠城を決め込む男を引きずり出すべく―――。

 

「ヒトの安眠妨害をする。そんな趣味でもあんのかよお前は」

 

「「「!?」」」

 

何をやったのかはいまいち分からない。だが何も無かったはずの虚空に『今までそこにいた』と言わんばかりに衛宮シロウの姿が桜の木に現れたのだった。

 

見つけたアリサ以外が驚愕している様子を何となく感じる。

 

いままで見つけられなかった男子が仰向けで寝ていた。

 

そんな衛宮シロウの姿に誰もが度肝を抜かれて、そしてアリサが登ろうとするのを、制して衛宮は、地上に舞い戻った。

 

その後は―――。

 

「それじゃ」

 

平然と歩いて校舎側に行こうとするのを見て。

 

「いやいやいや! 待ってよ!! 私達、アナタを探していたんだよ!? それを察せれない!?」

 

思いっきり引き留めの言葉を言うのだが、この手の口げんかというか論理の綾では、アリサに勝ち目は薄い。

 

「カガリとかいう一年A組の優秀生がオレにケンカを売ろうとしているってのに、なんだってソイツとつるんでいるお前らと歓談しなきゃなんねーんだ」

 

まるで『火狩の(取巻き)』扱いも同然の言い方に、さしもの茉莉花もむかっ腹を立たせる。

 

だが、もしかしたら周囲の人間はそういう認識かもしれないのだと気付く。

 

「だからといって!!―――ああ、もう!! 出来ることならば私が戦いたい!!!」

 

「どんな因縁でを戦いをするんだよ。そもそもお前と十文字で風紀委員のコンビじゃないか。ふたりはプ○キュアな君たちが、そういうケンカ犬なことをしていいのかね?」

 

「ま、まだ正式に承っていないから! そうでなくても、そういうのはどうなんだという心も分かるけど―――というかいつの時代の魔法少女モノよ……」

 

うがー!!と喚く遠上茉莉花に、れーせーなツッコミを入れる衛宮シロウ、その言に、何故か『ものもうす』十文字アリサ。

 

なんだこの図式―――と困惑気味に想っていた五十里とは違い。

 

「まぁまぁまぁ。 落ち着いてくださいよ衛宮クン。十文字さんや遠上さんがある意味、不躾だったのは事実ですから、そこは申し訳ないです。ごめんなさい」

 

永臣 小陽が仲裁に入るのであった。人懐っこい笑み。火狩が言うコミュ力おばけなもので、さりげないスキンシップをしつつ、言を重ねる。

 

「ただA組の『火狩くん』は、衛宮クンと戦いたいと想って、やきもきしているんですよ。挑戦状を叩きつけることも出来ないで不満を溜め込んでいて」

 

「何だってオレみたいな『劣等生』にそんなことをするんだ。上位クラスは、公然のイジメでもしたいのか?」

 

流石に露悪的な見方ではあるが、ただ何も知らない人間からすれば、そうとしか映らない話ではあろう。

 

傍観者の立場である五十里はそう考えつつも、ここからどう展開するのか、小陽のネゴシエーションは果たして……

 

「そうですね。なんと言っても火狩クン―――ジョーイは、十文字さんに懸想していまして、そんな十文字さんが気になっている衛宮クンをぶちのめしたいという話なんですよ」

 

そんな事実(前半)は初耳だ。そして、そんな理由があっただなんて五十里 明が語った『公的な理由』とはウソだったのかと少しだけ疑念を持つも、それだけが理由とは限らないということなのかと……色々と考えるも、小陽とシロウの会話は続く。

 

「下の名前で呼ぶからには、あんた「永臣 小陽と申します」……ナガトミさんは親しいんだな。火狩と」

 

「そうですね。不本意ながら幼なじみの立場でして、まぁちょっとは『恋の手助け』をしてやりたいなぁという気持ちも、ありおりはべりいまそかりなわけでして♪」

 

「余計にワケワカメになったな。戦う因縁も何もないじゃないか、意味不明だし、そんな風なことでケガするのもバカらしい」

 

「ええ、そういうことで―――、ジョーイ。やめといたら? シロウくんにはシロウくんなりの事情があるみたいだし」

 

その言葉で小陽の視線の方を向くと、ここまで走ってきたらしき火狩の姿があり―――。山岳部にしては荒い息を突いている火狩。

 

疲れは相応にあるようだ。よって―――。

 

「G組の衛宮士郎くんだな?」

 

聴聞会でも見た姿と間違いないが、それでも確認をした火狩に対して――――――。

 

「いや、人違いです」

 

無情すぎる言動が飛んできた。当然、ここまで来てはごまかすことなど出来ないだろうに……その人を食ったような言動に火狩はキレた。

 

「これ以上、誤魔化すようなことをして、……ええいっ!! 勝負してもらうぞ!! 衛宮士郎!! 俺は、部活連の委員の一人として!! キミのような存在を許しておけないんだ!! 僕と戦うことで、キミのチカラを測らなければならないんだ!!」

 

そんな義侠心と不満から勢いよく言う火狩の言葉に―――

 

「ジョーイの言葉をどう思います?」

 

女子の一人が混ぜっ返すようにシロウをけしかけるのだった。

 

「別に『チカラ』を見せつけることもせずに、適当にギブアップすればいいだけな感じがする」

 

今度こそ一発いいのを食らって、『無気力相撲』をしようとシロウは決意するのだった。

 

「ですよねー。別に柔道やボクシングみたいに積極性を疑われる試合運びをしてもマイナスジャッジが下るわけじゃないんですしね♪」

 

「小陽! お、お前はどっちの味方なんだよ!?」

 

その言葉から小陽を除いて全員が火狩を此処に呼び寄せたのは、小陽であることが理解できた。しかし、なんというか……。

 

(な、なんで小陽にはナチュラルに対応しているのかしら? 何かすごく不条理な気分……)

 

アリサとは違い、小陽とは普通に会話している衛宮シロウに少しだけ何とも言えぬ気持ちを抱きながらも、最後の交渉が成される。

 

「とはいえ、まぁ一つ―――ウチの幼なじみと仕合ってもらえませんか? 別に全力でなくてもいいんで、ジョーイの自己満足、ある種の『自慰』みたいなものなんで、適当にやっちゃってくださいよシロウくん」

 

内緒話を装うようなその言葉に火狩はどういう気持になるか分からない。というかアリサとは違い、傍にいても小陽からは離れようとしていないその態度が普通に――――。

 

(ムカつく……)

 

あまりヒトに対してマイナスな印象を持たないアリサだが、こうもあからさまに態度を変節されては、苛立ちも募る。小陽と自分とで何が違うのか。

 

奥歯を噛み締めたい想いを押し殺して成り行きを見守る。

 

「―――――ちなみに永臣さんは、何か部活入ってるの?」

 

「バイク研究部に入ろうかとは想っています」

 

「……まっ、俺は帰宅部だが、魔法系部活の連中はともかく非魔法系部活の人間にまで迷惑をかけるわけにはいかんわな」

 

そんなことを考えていたのか。と少しだけ驚きながらも―――。

 

「お、俺も山岳部で非魔法系部活に入るつもりなんだけど……」

 

「まぁそれは置いておくとしても、能力(タレント)が期待はずれだったからと、あるいは期待以上でも―――どちらにせよ。今後は俺に絡むなよ次席の火狩 浄偉君」

 

「――――――………放課後に行われる勝負次第だ」

 

その頑なな態度に火狩も何かを探ろうとしていることは分かった。しかし、それでも戦うことを選んだ以上、自ずと結果は出ざるを得ないのだ……。

 

 

 

 


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