魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第六話『緋桜炎舞』

 

放課後

 

まだ入学したての新入生同士の私闘が行われるということはかなり異例―――という訳ではない。

 

「俺達のひとつ上の七草OG’sと七宝OBも、こんなことがあったらしいからな」

 

司波達也世代ほどではないが、語る矢車と三矢の上の世代の伝説も聞き及んでいる。

 

「まぁあの2家は色々あったからね……侍郎君は、この戦いをどう見る?」

 

「どう、とは?」

 

戦力比較とか、そういうことは語れない。そもそも下馬評と成績通りならば圧倒的に火狩が優勢なのは当然。

 

しかし―――――――。

 

(本当に司波先輩のように隠している『異能』があるならば、どうなるかは分からない……)

 

何故、自分たちが最高学年の時にこんなことが起こるのか……。

 

意地悪な神様の試練に苦笑しつつ、眼下にて睨む、髪を掻いている一年生2人を見る。

 

それを見守る上級生と彼らと同じ同級生……。

 

互いの距離は、従来の魔法戦の通りの距離だ。

 

近接攻撃ありの完全なフルコンタクトルール……一応は、いざとなれば大怪我や不幸な事故になる前に、止められるように風紀委員や実力派の魔法師たちがCADを持って見守る。

 

 

「では戦いにおけるルールは確認しているわね? 最終確認として、勝利条件は相手がギブアップを宣言するか、気絶するなりしたらば終了よ。もしも致死性が高い魔法が確認されたらば、その時点で失格……では―――」

 

裏部亜季が最後の説明をして、両者の境界から離れていく―――その上で―――離れたところで手を上げて―――。

 

「始め!!」

 

―――下ろしたことで戦いは始まった。

 

瞬間、お互いの距離を詰めんと動くかとおもいきや―――互いに大きくバックステップ。

 

表情は火狩の方に動揺が走る。対する衛宮は何もない。

 

どうやら引っ掛けられたのは火狩のようだ。

 

「―――声は静かに(shout out sky)私の影は、世界を覆う(shadow a way)―――」

 

そんな無表情の衛宮が、飛び退きながらも……古式ゆかしい『呪文』を唱えたのを、詩奈とアリサは聞き咎めた。

 

厳密に言えばアリサは聞いたわけではないのだが、ともあれ―――戦闘の状況が変わる。

 

衛宮が前傾していることから、アーツ部部長の千種を倒した拳が来ると想っていたのだが……恐らく前のめりになりつつも重心は後方に持っていたからこその動き。

 

そして誘われた。ということだ。

 

予想を透かされた火狩だが、この距離ならば魔法を解き放つ。思考操作型の利点である『打鍵』なしでの魔法は、昨今の魔法師たちにとってトレンドである。

 

火狩―――火のエレメンツを象徴する火狩浄鋳にとっては馴染みの火球が7つ。

 

バレーボールサイズのそれが、直線ではなく―――不規則な軌道で、衛宮士郎に向かうも……。

 

なにかにぶち当たり火球が霧散する。対抗魔法でも掛けられたのか、分からないが、それで判断を遅くするほど火狩とてバカではない。

 

今度は5倍の35もの火球。放たれる勢いとて凄まじい。

 

 

「忙しない限りだな」

 

呟きが聞こえる。言っていろと思いつつ火球を四方八方から着弾させんと操作する。火の玉の嵐。砲弾の雨のごときそれを前にして、衛宮シロウは―――。

 

「上位クラスともなれば、流石の魔法の乱舞。なるほど大道芸としては見事なものだ。だが、殺しの技としてはどうなんだ? 一人相手に35もの大球を投げまくるなんて」

 

嘲るように当然のことのようにそれを回避して退けた。大きな体の捌きもなく最小限の回避。

 

(バカな!?)

 

現象改変系の魔法ではない放出系の魔法ではあるが、火狩の操作は確実に衛宮を穿つように仕向けられているはずなのに、それを躱す衛宮の体術。

 

まるでそれが『どこ』に着弾するかを予期したように、『どこ』に動かすかを予想したように、衛宮は動き―――。

 

「熱が足りない炎だ。手本を見せてやるよ。これが『燃やす』ということだ」

 

衛宮が手を火狩に向けた瞬間。火狩が生き残っている火球を衛宮の背後に食らわせようとした瞬間。

 

「神技再現・愛神羅刹(カーマ・マーラ)

 

蒼い炎が強烈な波濤となって火狩の眼前を圧倒した。

 

強烈な炎の波。『式』の先走りが何一つ見えなかった。幻術かと思うも、それは火狩に近づくたび圧倒的な熱を与えてくる。周囲にいる人間も同じく――――――。

 

そして火狩が操作した火球は衛宮の身体に発生した蒼炎によってかき消された。

 

用意されたバトルフィールドは最新式のワイドオープンなものだ。あらゆる魔法の使用を想定して、硬さも柔らかさも備えている。一も二もなく火狩はその波濤で壁際に追い詰められる前に、脱出を図る。

 

障壁で耐えられる熱量と断じられるほど、火狩の頭は緩くない。

 

自己加速魔法で波濤の覆えていないところから脱出を―――と見せかけて波濤を乗り越える形での脱出を試みる。

 

相手があからさまに左右に逃げ道を作っているところに簡単に乗るほど火狩はバカではない。

 

(次席をナメるなよ!!)

 

助走をつけて『跳躍』からの『移動魔法』でそれを超えた。

 

跳び箱で言えば25段というモンスターボックスの高さを飛び越えた火狩だが、足を蒼炎が焼いたことで、痛みが走る。

 

だが山登り―――クライマーとして鍛えてきた火狩浄緯をナメられては困る。

 

そんな火狩の気持ちなど知らないので、当然、着地の瞬間を狙ってシロウは走る。

 

八極拳歩法『箭疾歩』

 

達人ともなれば一歩にして10m以上もの間合いを詰めたうえで、そこから最大打撃を発揮できる人外の理のクンフーである。

 

アーツ部で千種正茂に披露したその歩法から、拳を予期するも、足の痛みからガードが取れない無防備な火狩に、今度は体当たりが決まる。

 

八極拳 奥義『鉄山靠』

 

広い背中を使って相手の身体から素のままに、内腑へと衝撃を伝える技である。

 

インパクトの瞬間に撓んだ床、踏みしめた震脚のほどで火狩に伝わった衝撃の威力は察せられる。

 

血ではないが吐瀉物を吐き出しながら火狩が盛大に吹っ飛び、再び千種と同じくなるかと想った瞬間。

 

「まだまだぁ!!! ぐぎぎぎぎ!!!」

 

吹っ飛ばされても倒れることを拒否するように四足獣よろしく床に爪を立てて、足で踏ん張り、そして立ち上がる火狩浄偉。

 

ここまでの攻防で、既に火狩はボロボロである。

 

用立てられた魔法戦闘に使うアーマーはズタボロ。対するシロウは、これだけの戦いでも制服にホコリ一つ着いていないように見える。

 

「心意気は買うが、もう終わりだろ。お前が見たいものを俺は見せたつもりだ。これ以上の『魔法問答』は必要ないだろ」

 

正直、これ以上はシロウの秘密の暴露に繋がる。そして、それはマナー違反であると言外に伝えるも。

 

「まだ先輩方は終了を宣言していないっ……」

 

あくまでもプライドを賭けて一矢を報いる。歯をかみしめて痛みに耐えながらも貫く、その姿勢は買うが……。

 

「そういう男だからこそ、俺は少々卑劣を演じる羽目になるんだ―――」

 

離れたところから睥睨するように見てくる火狩に嘆息。

 

再び五指を広げて―――ではなく、その中でも中指を火狩の方向に伸ばしている……向けられている火狩と周囲の人間たちは、そこから何かの術を発動するのかと想っていたが……。

 

「―――クサリ……」

 

「アーシャ?」

 

アリサのつぶやきを茉莉花が聞いた瞬間、火狩は完全に『拘束』された。

 

「な、んだこれは……!?」

 

衛宮シロウの中指から出ている紫色の『鎖』としか表現できないそれが、十重二十重に火狩浄偉に巻き付き、動きを拘束していた。

 

だが、動きを拘束するとしても、今では手を使わずに魔法を使うことも出来る時代で、動きを封じたぐらいでは――――

 

「―――まさか……」

 

身体を全て上から下へと押し付けるような圧を感じる。有り体に言えば倦怠感を憶える。

 

「気付いたようだな。この『鎖』は、魔法師の放射するサイオン全てを強制的に絶無にする―――すなわち演算領域全てを封印するものだ」

 

その言葉と未だに魔法の一つも使えない火狩の様子から全てを悟る。

 

魔法師を強制的に『只人』にする魔法。

魔法を完全に封じる魔法。

 

……あまりにも強烈でかつ無慈悲な魔法(・・)―――ではないという事実を教えられるまで、少し時間がかかるのだが、ともあれその事実を証明するかのように。

 

火狩はサイオンを振り絞ろうとして、それでも何も出来ずに、それどころか締め付けがキツくなると共に項垂れていく。

 

その状態―――非魔法師という魔法に無防備すぎる人種にさせた状態……見せつけるように、衛宮シロウは意趣返しのように巨大な蒼炎の火球をもう片方の手で作り上げる。

 

―――殺しの技を受けてみるか?―――

 

無言で、視線だけで火狩を射抜く。それがいざとなれば本気だと気付いた時点で―――。

 

「―――ギブアップ。降参だ」

 

最後には項垂れたままに敗北宣言が出たことで、ブザーが鳴り響く。

 

項垂れた火狩から鎖が無くなると同時に、衛宮シロウは―――勝鬨をあげるわけでもなく、スタコラサッサと去ろうとしたところに。

 

「待て、お前はそれだけのことが出来るというのに、何故G組にいる?」

 

碓氷会頭は立ちふさがる。威圧的なその様子に気圧されもせずに、口を開く。

 

「試験が苦手なんですよ。そもそもあんな術を系統分類出来るわけもないし、アレ(・・)が出来たとしても現代魔法を達者に扱えることとイコールではないんですし」

 

髪を掻きながら『面倒そうな』言葉が吐かれて、問いかけた碓氷会頭は口を噤む。

ここまで、やる気を無くした後輩が魔法科高校にいるなど、彼としても想定外なのだろう。

 

 

「あれだけの術を行使して体術も抜群……そんな生徒を拾いあげら―――」

 

「―――魔法科高校(ガッコー)では、評価されない項目(ラベル)ですからね」

 

 

シロウの拳の被害者第一号たる千種先輩の教員批判になりそうな言を途中で遮るように言ってから、何だか複雑そうな顔をしているギャラリーを尻目に衛宮シロウはクールドライに去ろうとしたのだが……。

 

「待ってよ!! 衛宮クン!! なんていうか、こう待つ理由がないとか言われそうでアレだけど」

 

「本当に待つ理由はないな十文字。火狩の仇を討つために次は、お前が戦うのか? 今度こそ俺は逃げるぞ」

 

「そんな無意味なことするわけないでしょ!!」

 

その言葉でケガの治療を受けていた火狩のハートに大剣がぶっ刺さる。

 

仇討ちとまではいかずとも何とも無慈悲な言葉に、全員が困惑した顔をする。

 

「その鎖って……全ての魔法師を『サイオン不能』にするの?」

 

「ああ、少なくともこれを破るならば自前の肉体の膂力だけで破る必要がある―――当然、魔術式の産物だから、そんじょそこらのマッチョじゃ破れない……質問はそれぐらいか?」

 

「ううん、本題はここから……衛宮君―――」

 

神妙な面持ちで衛宮シロウを見つめる十文字アリサの姿にやきもきする面子ばかり―――。

 

平気な顔をしているのは、見つめられている衛宮シロウのみ、そしてアリサの瑞々しい唇から紡がれる言葉は―――。

 

 

「その紫の鎖で私を縛って!!」

 

瞬間。シロウの顔が固まる。ギャラリーも似たようなものである。

 

「――――――」

 

無言で正面を向きながらも、驚くべき速度で去っていくシロウ。

 

その歩法は八極拳に非ず、伝説の歌手が創始せし伝説の高速歩行。

 

『月面歩』―――ムーンウォークというもので、武場からというよりもアリサの前から去っていくのだった。

 

端的に言えば……完全にドン引きしたのである。

 

そのままに去っていくシロウを誰も追うことが出来ない。

 

そして―――。

 

「風紀委員の活動で使いたいから、とりあえず感触だけでも教えてほしかったのに……」

 

しょぼんぬ。という言葉が似合いそうなぐらいに落ち込んだアリサの姿がそこにあったのだった。

 

「アリサ、他人の魔法を探るのはマナー違反。そして男子にあんな言動もマナー違反だ。どっちにしても、はしたない真似はやめよう」

 

「なんでそんなに私とお話すること避けたがるんだろ……ヒドイよ……あんまりだよ……」

 

前者よりも後者の方に重きを置いた勇人の言葉も右から左に受け流しつつ、嘆きを放つ。それでも……あの魔法は自分の理想形とも言える。

 

他者を攻撃……殺傷に繋がる行為ではないことで無力化を図る……そして、それを教えてくれるのが―――何故か気になる男子であれば、尚更だったのだが……。

 

ともあれ、去っていったシロウを誰も追うことは出来ず、されど―――回復薬というものを火狩の傍に置いていったシロウのお陰で火狩は完全に回復する。

 

魔法科高校に現れた出自不明の魔法師……という括り(ラベル)すらおこがましい存在は、波乱と破嵐を呼び起こす……。

 

 

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