『ARRRRRRTTTTEEEEE!!!!!』
言葉ではなく声ですら無い咆哮をあげながら双槍を振り回す黒騎士の技量は、尋常なものではない。
双槍を振り回す度に起こる風切り音が只事ではない速度なのだから……。
空気が撹拌されるとしか言えないほどに、大気が乱れる。
(おまけに双槍の内の赤い長槍は問題だ……)
ルーン文字の刻印がなされている赤い方は確実にディスペルウェポンとしての特徴があるらしく、身体強化やある種のマジックアーマーを発動させた魔法師たちを素の身体に戻して貫いていた。
「っ……司波っ―――俺のことはいい。沢木と辰巳などへの回復を優先―――ぐっ!!」
「お言葉ですが、会頭を無視してはマズイでしょう。致命傷になる前に、回復はさせていますので、ご安心を」
先程から自分の秘密がバレてはいるが、この場合仕方ない。
あの大講堂での殺劇で死んでしまった人間を『何とか』蘇らせた達也だが、『死者』としての定義で言えば自分が『戻せる』ところではギリギリ微妙なところであった。
かつて沖縄で妹・母―――その従者を現世に『戻してきた』達也だが、今回のそれはあのときの比ではなかった。
そして何より呻くことしか出来ないほどの苦痛に苛まれている十文字会頭の傷―――。先程からどれだけ治癒を施しても、すぐさま自分の『早戻し』で『貼り付け』を無にするかのように、貫かれた傷が『再現』されるのだ。
現代魔法的な感覚で言えば
そうとしか言えない。
(不治の傷……)
それをどうにかするためにも、そのトリックを打ち壊す必要があるのだが……。
焦燥の思案に耽っていた時に立ち上がった十文字克人が!
「聞け……! 俺を貫いた槍の殆どは、ファランクスを超えて突き刺さる赤槍だっ……!! 赤い方には魔力を打ち壊すか、遮断する能力がある!! しかし、あの少年兵士が、俺に直接突き刺した双槍……!! そのどちらに不治の魔力があるかと言えば―――」
黄色の短槍―――それこそが、十文字会頭を苛む『呪い』の正体!
しかし、それを砕くこと、はたまた達也の『特意手』でどうにか出来るか――――。
(やってみるしかないか)
超常能力を発揮する魔法師が、簡単に打ち倒される現実を前にして、色々と揺らぎそうだが、それでもやらなければ被害が拡大するのだ。
「深雪、恐いだろうが……援護を頼むっ!」
本当ならば安全圏にでも送り込みたい深雪に援護を頼んで、この状況を打破することを目論む。正直、これでどうにかなるかは分からない。それでもあの黒騎士を排除しなければ、いつまでもこうなる。
自分たちの秘密を守るならば、十文字会頭を見殺しにしてでも撤退を選ぶべきだが―――。
「お任せを!! 深雪が、お兄様の活路を切り開いてみせましょう!!」
そして行動は早かった。脚をためてから瞬発した達也の歩法。忍術の限りの脚は黒騎士を幻惑しながら接近を―――なんてのは都合がいい話であり、狂戦士のような様でありながらも黒騎士の迎撃は速い。
長物のリーチを利用して、達也の接近を阻む。
そこに周囲の大気を凍結させるように霜が降りる。直接的な干渉や黒騎士の得物に対する魔法が効かないことは深雪も先刻承知。
ならば周囲のありったけ崩されたあらゆる一校の構造物―――そして地面全てを凍結させる勢いで魔法式が世界を凍結させていこうとするのだが……。
『■■■❚❚❚❚〓〓〓――――!!!!!』
咆哮と共に振るわれる赤い槍、そして黄色い槍……どちらからも受ける圧が深雪の魔法式を砕いていく。
まるで生きながらにして、皮膚を引っ剥がされるような痛みが深雪を苛むが、それでも深雪はCADを持つ手と操る手を離さずに―――血まみれになりながらも兄の計略が成るまでは、凍結をしなければならないのだ。
そして業風嵐舞のような中に傷だらけになりながらも入り込んだ達也は、黒騎士が持つ赤い槍に手を伸ばした。当然、迎撃されるも―――。
一瞬ではあるが十文字会頭が障壁で、こちらと黒騎士の間に境界を作ってくれた。勿論、一瞬のあとには 崩れ去ったが。
しかし、それで十分だった。返す刀で短槍が達也に振るわれる。
真っ直ぐな突き刺し。
さぞ名が天地に轟く武人なのだろう雷鳴のような突きを達也は手のひらで受け止め―――られるわけもなく肘部分にまで深々と突き刺さる短槍。
あまりにも強烈な痛みと圧を前にして深雪が絶妙な制御で脚を固定してくれていなければ、どうなっていたか。
それを見ていた生徒たちが、手を振って擬似的な痛みを堪えているかのようだ。ハートの弱いものは、その流血のシーンだけで卒倒しているようだが……。
だが―――これで―――。
「おああああああ!!!!!!」
―――黒騎士から不治の黄槍を奪えた。
突き刺した黄槍は、どういう原理か達也の手では『碎けない』。だが、裂帛の気合いで間合いを無理やり作った。
達也をして会心の蹴り一発、黒騎士の胴に叩き込んだ結果である。
その上で、痛みに耐えながらすぐさま黄槍を抜く。
さらなる流血。骨も一部は飛び出たかもしれない。
しかし、それを構えて―――飛び出してきた黒騎士の穂先に短槍の柄を合わせた。
「―――ッ!!!」
位置固定の魔法でも中々に、耐えきれないほどの圧。
そのまま吹き飛ばされるのではないかというほどの圧であったが―――。
しかし、赤槍の魔力はやはり『破魔』らしく黄色い槍が碎けて魔力のキラメキに還元されて、破魔の槍はそのままに達也を貫こうとする寸前で。
「司波!! お前の献身に俺は応えるぞ!!!!」
ようやく回復術が効いた十文字克人の全力の障壁術が展開。しかし、破魔の槍を持つ黒騎士は、当然そんなものを病葉も同然に砕く。
しかし、それで後退することが出来た。己の中のエイドス履歴から『自己再生』を試みる。
「達也さん!!」
光井ほのかの心配そうな声が聞こえる。だが、今はそんなことに構っていられない。この黒騎士を倒すためにも―――。
「――――!!!!」
咆哮を上げる黒騎士は―――。
その槍を投げることで刺し貫くことを企図したが。
「やめろバーサーカー」
待て。の言葉で忠犬の様子を見せる黒騎士。声のする方向に眼を向けると、そこにはあの覆面の少年がいた。
「
褒めているようでいて、全く褒めていない言葉に誰もが何も言えない。
あの大講堂でありったけの惨劇を撒き散らしたチャイルドソルジャーにしか見えない体躯の少年が虚空に現れて……虚空を確かな大地として踏みしめながら見下ろしてきた。
「こ、子供!?」
驚くほのか。どうやら彼女は部活最中で大講堂でのことは見ていないようだ。
覆面をした少年は……憎悪と恐怖の間で揺れ動く魔法科高校の生徒を見たあとには……。
「撤収だ。もはやここには用はない。盗るべきものは盗った。壊すべきものは壊した―――殺すべきものは殺した」
剣呑な言葉混じりの命令。背中を向けて黒騎士に告げると……霞のような消え去り方で、一度は『現実』からいなくなる。
そのエイドスの変化も何もかも達也にとっては分からないことだらけだ。
ガラン! と赤槍が地面に落ちる音がこと更に大きく響きながらも、その少年に魔法が効くか―――と言えば。
(――――!!)
その少年にあるありえないほどの情報量と密度と複雑さに卒倒しそうになりながらも。
魔法をいざ掛けようかと、振り向きながらも一瞥が返される。
―――撃てるか?―――
その眼―――ワインレッドに輝くそれを見ながらも、それを諦めざるを得なかった。
空間転移。そうとしか言えない現象で、消え去る少年。
そして改めてあちこちに『眼』をやると無事な建物もヒトもどこにもいなかった。
敗北を喫した。そしてブランシュという存在の脅威はまだ残っているのだとして―――動けるものはいなかった。
それでも……まだ自分たちは折れていない。
このままブランシュを―――もしくはヤツ……黒騎士の使役者を野放しにしておくわけにはいかない。
「十文字会頭、ブランシュを叩きましょう」
「ああ、当然だが……その前に救助・救命活動だ。お前の隠していた回復術―――頼りにさせてもらっていいか?」
「詳細を聞かないでもらえるならば」
「金のガチョウの腹を掻っ捌いて、元の木阿弥にはせんさ」
そして、一高全てを混乱と破壊と恐怖に陥れた存在の情報は思わぬ所から入ってきたのだった。
† † † †
『一高を襲撃したのは国際テロリスト組織『ノーヴル・ファンタズム』の一員『ファンタズム01』『バーサーカー04』で間違いないでしょう……』
「そんな組織が……存在しているんですか?」
手首をさすりながらも画面に映し出された女性軍人の言葉に心底の疑問を出す七草会長の言葉には、生徒会執行室に集められた全員の疑問であった。
『組織自体の本拠・構成メンバーなどの詳細は不明。しかし活動圏内が、欧州ユーラシアから北米・南米が主だったことで、アジア圏での活動においては、然程目立ってはいなかったことが原因でしょう。
しかし、疑惑程度ですが様々な要人暗殺、集団テロ、軍事基地への不審な騒動など……様々なものに関わっていると見られています』
話す藤林響子の表情は目に見えて悪くなっていく。
開示された情報だけ見るならば、こんな右も左も―――中道すら関係ないテロの数々は、
「何故、ブランシュと関わっていたのですか? この組織と接触する方法をブランシュは持っていたのですか?」
『それに関しては現在・USNAの各組織や欧州統一機構などからの返事待ちですが……ユーロポールからの伝手で知った限りでは、ノーブル・ファンタズムは
十文字の質問に明朗ではないが、そんなことを言う響子。
一昔前に流行った『シュート』と『スナイプ』を得手とする国際的スイーパーともトラブルシューターともいえる人物の漫画とは違い、彼らは……能動的に『依頼』を受けるようだ。
そして、今回は一高が狙われた。しかも壊滅的な被害だ。
魔法能力を喪失するほどに、『壊された』存在も多い。
如何に達也が回復させたとしても、おのれに根付いた魔法への不信という心の病は癒せない。
(おまけに、こういう事態に率先して動いた1科生が、その被害者の主な内訳だ)
一高という日本の魔法教育の最前線。そこから飛翔していけるはずの人材の多くが失われたことで、失地回復の芽は中々に出にくい。
『……すでに彼らのチカラの程は分かったはずです。今でもブランシュと契約状態かどうかは分かりませんが、そのIFでこれ以上の被害は好ましくありません。ブランシュの本拠地への逆襲など考えずに大人してくしていなさい』
ブランシュのアジトを教えた小野 遥を睨むようにしながら言った響子の言葉だが、それで収まりがつく人間はここにはいない。
第一、壬生など多くの人間はブランシュに誘拐されたのだ。自ら着いて行った可能性もありえるが……それでも―――
『………止めても無駄のようですね。ですが―――とにかく自分の命を優先してください……それだけです』
響子の言葉は、どちらかといえばここにいる面子全てというよりも達也個人に向けたようにも聞こえた。
そうして1時間後には国防軍と警察の合同チームがブランシュに対する殲滅作戦を行うそうだ。
正規軍を相手に、果たして国際テロ組織『ノーブル・ファンタズム』がどれだけやれるのか、そもそもまだ契約状態なのかは分からない。
それでも……戦うときは来るのだった。それが無謀な戦いであっても立ち向かわなければならない――――――。