魔法科高校の異端者   作:無淵玄白

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第七話『愛憎憤怒』

火狩との戦いの後にシロウの日常に平穏が戻ってきた。触らぬ神に祟りなし。

 

 

シロウのような劣等生のことなど構わずに、己の修養に励んでくれや。

 

ジーザス・クライスト、神は天にいまし、世はなべてこともなし……―――ということは全くなかった。

 

十文字アリサ。

 

A組の優等生にして優秀生。そして最近になって知ったことだが、彼女は十文字家という魔法師の名家のシンデレラだか、みにくいアヒルの子だったとのことだ。

 

認知された以上、庶子という表現は正しくないのだろうが、彼女の存在は色々と魔法師社会ではデリケートなもののようだ。

 

だが、そんなことは『田舎モン』であるシロウからすれば、どうでもいい話だ。

 

シロウの植物の心のような平穏な魔法科高校生活を乱すとんでもない女である。

 

 

(あの時、遠上に余計なことを言わずに待っていれば良かった……)

 

だが後ろがつっかえていたのも事実だった。わざわざ手拝みをしてから、大願成就よろしくIDカードを受け取る遠上に、大げさな。という想いを抱いたのも事実。

 

要するに……不満と義侠心を優先してしまったのだ。

 

そうして、中庭でぼっち飯―――自作のサンドイッチを食っていた。クラスに残って昼飯を食べる皆には、『金髪が来たらば食堂にいると伝えてくれ』と欺瞞情報を渡すように『頼んだ』。

 

迷惑を掛けるのも悪いので、もしも何か強硬手段に出た場合は、カウンターが発動するようにしておきながら……。

 

そんな風に昼食を取っていたところに、誰かがやってきた。

 

こちらの視界に入る500m前から、来るという意図は認識できていた。

 

「やぁ」

 

「……どうも」

 

何だか見たような顔がやってきた。見覚え程度ではあるが、上級生だったかと思いつつ、食事を続行する。

 

胡散臭さ100%の半分メカクレの男は、こちらを見ながら何かを話すタイミングを測っているようだ。

 

「君、いつもここで昼食を摂っているのか?」

 

「そうじゃない時もありますよ。もしかしたらば。あるいは。そして、知らない他人であるあなたにそんなことを教える必要があるんでしょうか?」

 

「僕はこれでも風紀委員でね。色々と生徒のことを気にかけなきゃならないんだよ」

 

「そりゃご苦労さまです。と言いつつも、それで下級生の男子生徒に声をかけるとかキモいですね。キモさ100%です」

 

その言葉に表情筋がピクピク動くのを見た。演技かもしれないが、ともあれ……その誘酔とかいう上級生は、本題に入ってきた。

 

「十文字さん―――ああ、副会長じゃないよ。僕は彼を勇人と呼んでいるからね。一年A組の彼女を随分と遠ざけているそうじゃないか。ヒドイと思わないかい?」

 

「思いませんよ。用向きの程は察せられる。風紀委員の活動で拘束術式を使いたいから、教えろとか寄越せとか。そんなところでしょ」

 

「それも一つだが……どうにも……衛宮君。何かロシア人に対して想うところがあるのかい?」

 

「邪推の限りですね。別に佐渡ヶ島にいたこともないですし、特に新ソ連に憎しみもないですし」

 

メンドクサイ会話だ。誰かの『飼い犬』らしき匂いを見せる男との会話に生臭さを覚えつつも、そろそろ切り上げようと想う。

 

「―――十文字さんに露骨に悪罵を浴びせることもある君は、学内の嫌われ者になりつつある」

 

「そいつは大いに結構。あの女の容姿だか魔法能力だかにだけ、礼賛をくれてやることが、『同調』するってことならば、それこそクソ喰らえですね」

 

警告のつもりで言った言葉だが、誘酔早馬の思惑に反して衛宮シロウは、牙を剥いて―――と形容したくなるような言葉と調子で言ってのけた。

 

「何故、そこまで……?」

 

はっきり言えば、アリサは美少女だし、多くの男子は近づきたい存在のはずだが……勇人の弟にしてアリサの同い年の弟などと違って感情のしこりでなければなんなのか?

 

正直言って……分からない少年だ。

 

「誰かの首輪が着いた犬っころに話す道理はないです」

 

「失礼だな。確かに裏部委員長からはいいように雑事を押し付けられているが」

 

「いいや、そういう意味じゃない。腹黒い連中の飼い犬に話すことはないと言っているんだ」

 

その言葉に――――戯けるように言っていた早馬の心臓を鷲掴みにされた気分だ。

 

自分の所属を、当て推量かもしれない―――どちらとも言える思考の中、衛宮シロウは全てのサンドイッチを食い尽くし―――。

 

「お勤めご苦労さまです。それではおさらば」

 

そんな見事に心を乱された状態でいた早馬を後目に、去っていくのだった。

 

 

 

 

放課後、いつもどおりにアルバイト先へと向かおうとしたシロウだが、イヤな予感がして『気配』を消しつつ校門へと向かうことにした。

 

 

(やはり……)

 

十文字と―――その友人や知人たち……見覚えのない人間もいるのが武蔵坊弁慶よろしく立ちふさがっていた。

 

弁慶ぶん捕ったり!とかするのではないかと想う。

 

校門を通過する人間たちはその連中に恐れおののいたり、何か萎縮するような様子で脇を通り過ぎていた。

 

遠く離れたところからでは、こちらの動きはまだ察知されていないだろう。

 

しかし近づけばどうなるか……。

 

気配遮断で『存在感』を薄くすることも出来る。しかし、十文字の何だか分からない気配察知は、解析しきれていないのだ。

 

万が一を考えて、暗号化された式を上空に投射。

 

「始めちょろちょろ中ぱっぱ」

 

気付いた様子は誰にもない。小声でつぶやくような呪文は魔法師には見えない。そして遂に校門が近づいてきた時、気配遮断をしていたシロウを認識したらしき十文字の顔。

 

そして、次の瞬間には――――。

 

「ぎゃあああああ!!!!」

 

「ひいいい!!!!」

 

阿鼻叫喚―――とまではいかないが、大量の絶叫が起こることになった。

 

その原因は、空から大量に降り落ちる両生類の大群。

 

要はカエルがいきなり一高の校門前に降り注いだのだ。

 

「ファ、ファフロッキーズ現象!?」

 

誰かが都合よくそれに気付いた。とはいえ、そのことで落ち着けるわけもなく、校門前は大混乱。特に生理的嫌悪感をこの手の動物に持つ女子は騒ぎまくる。

 

あの目つき鋭い風紀委員長『裏部亜季』ですら、そうなのだから、この混乱を利用して衛宮シロウはクールに去ることにするのだった。

 

ある種のケスラーシンドローム(因果律加速現象)を利用して、このようなことをしたが、まずまずの成果だ。

 

校門から200mは離れたところで『クリュー』に『なんぼか食べていいよ』と告げることでカエルの学校にカエルたちを帰すのだった。

 

カエルの学校は川の中、いや沼の中―――東京で言えば利根川、多摩川の中かもしれないが、それはさておき……。

 

 

「随分とファンシーな術を使うんだね?」

 

「北の大地の生まれたる私達をナメんな!!」

 

別に北海道にいたからと、多くの生物に耐性があるとは限らない。遠上の家が獣医だからといって、そういうことでもあるまい。

 

よって――――。

 

後ろから声を掛けられても素知らぬ顔で、歩き去っていこうとしたのだが……。

 

「待って!! ちょっと待ってよ衛宮君!!」

 

「十文字か。さっきの言葉は俺に対して言ったのか? だとすれば大間違いだろ。誰かが言っていた通りファフロツキーズ現象でしかない。仮に何者かの術現象だからと俺がやったという証拠なんてないだろ?」

 

反駁を許さぬ怒涛の言葉責めにアリサはうめきつつも、論理によるハラスメント―――ロジハラに関しては無視しつつ、前半部分に関して問いただす。

 

「い、いまさら気付いたかのような物言い……! 衛宮君って本当に意地悪だよね! 私、確かにハーフという人種上そういう風なことあったけれども……けど何か違う!! 私の何が気に食わないのか言ってよ!!」

 

「全部」

 

「うぐっ……ぐ、具体的には!?」

 

何故そこまで聞きたがるのか。別に人間十人十色。青もいれば赤もいるし、白もいる。

 

そもそも劣等生たる自分に優等生たる十文字が構う理由など無いはず。

 

いっそのこと『抗魔布』の術式を教えて金輪際の接触を後腐れなく絶ったほうがよいような気がしていながらも―――。

 

「お前には『主』(しゅ)たるものがない。主体(自己)を持たぬお前は、いつ何時、どこに立とうと、ただの漂流者だ。お前が勝手に俺を調べたように、俺もお前のことを少しばかり調べさせてもらった。いや、それ以前から想っていた所感だが、お前みたいに『己』を持たず、戦うことも、抗うことも出来ない人間は癪に障る」

 

「―――――――」

 

その言葉に心臓を掴まれたような気分になるアリサ。

そして最大級の険相を見せてくる茉莉花。

 

「別に全てを自分で決められる人間はいないだろうさ。物事には抗えぬ『流れ』というものが存在しているだろう。しかし……まぁこれ以上はいいだろう。とにかく―――俺はお前が世間一般では美少女として認知されていたとしても―――お前に自覚は無いだろうが、『サヨリのような女』としか俺には見えないわけだ。だから関わりたくない」

 

途中で言葉を打ち切ったが、それだけでも物凄い悪罵である。普通の女子ならば怒ってそっぽを向いて、無視してもいいはず。

 

だが、アリサとしては……変な感覚ではあるが、そこまで自分を理解されていることに妙な気持ちになる。

 

有り体に言えば―――嬉しかったのだ。

 

幼なじみであり姉妹のように過ごしてきた茉莉花ですら見透せなかった本性。

 

要するに……アリサは、自分が『何者』であるのかというのを定義出来ない不安定な人間なのだ。

 

それは『十文字家の魔法師』であるという窮屈なドレスを着ている現在でも、感じていることなのだから……。

 

寧ろ……自分は■■■に生きていたいぐらいだ。だが、自分が安らげる場所がなくて、自分を曝け出すことも出来ないから、こうなのだ。

 

「んじゃあな。今度こそもう会うこともないようにしてくれ。拘束の術式ぐらいどっかにはあるだろ。あるいは、生徒会の……歯車先輩だったかに調べてもらえよ」

 

思い出したように言われるも名前間違いされた矢車先輩のことだろうが、彼の校章との掛け合いで、それでも通じてしまうことに苦笑する。

 

だが――――。

 

「―――」

 

「……何をやってくれてるのさ?」

 

「見てわからない? アナタの腕に腕組みしているのよ」

 

「……理解できないんだけど。こういうのは好きな男子とか、好意を抱かれてる男子にしてやれよ」

 

「そうね。けどそれは在り来りな答えよ。そして、私

ワタシ(主体)が無いと言った。これこそがアナタに対する(アリサ)なりの答えよ」

 

―――私は、アリサは、アナタの、衛宮シロウのことが知りたい―――

 

 

「―――最初は、どうしてだか分からなかった。けれど、いまならば分かる……アナタはワタシを、何の色眼鏡も無く見ていたから……だから―――違うと思えたんだ」

 

「そりゃ俺が田舎モンだからさ。十師族制度なんて知らない英国―――ブリテン島にいたからな」

 

「そう聞いているわ。けれど―――私の直感は外れて―――」

 

「アリサから離れろ!! この変態!!」

 

いい加減、この訳のわからない蚊帳の外感覚を脱したかったのか、それとも幼なじみを取り戻したかったのか。

 

どちらにせよ。掴みかかろうとしてきた時には―――。

 

「―――!?」

 

「あ、あれ?」

 

アリサが組み付いていたシロウの姿はなく、そこに収まる形で茉莉花とアリサが腕を組み合わせているのだった。

 

代わりにシロウは―――。

 

「我が夫よ。帰りが遅かったのでこのモルガン、そなたの学び舎まで見に来てみれば、このような浮気現場を目撃するとは思いませんでした―――が、いまは置きます。ネコ殿の元で労働する時―――急ぎましょう」

 

少し離れたところ……歩道にてくすんだ金髪の美女。年齢としては自分たちよりも上、流石に母親とまではいかずとも……女子大生程度の年齢だろう美人。

 

くすんだ金髪を黒いリボンでまとめた……どこか人間離れした容姿をしたその美女は、シロウの腕に自分の腕を絡めて、話しかけていたのだ。

 

 

先程までの自分の立ち位置を奪われたアリサとしては憤慨するよりも、悲しさを覚える。

 

「あ、ああ……監視していたのでは?」

 

「まさか―――私はアナタを信頼していますよ。シロウ?」

 

今までに見たことがない衛宮シロウの表情にアリサは納得いかないものを覚える。

 

何なんだあのくすんだ金髪(ホワイトブロンド)の美人は――――――。

 

小陽やあの美人には柔らかい対応で、自分(アリサ)に対しては、あの対応。

 

すなわち――――。

 

 

 

「あの女は誰なのよ!!!!???? エミヤくんの彼女とか、囲われているの!? 色々考えたけど、とにかく明確な関係性を教えてよ!!」

 

「ぐぇええええ!! く、首をしめるな十文字!!! というか先輩方のお白州に引っ立てて真っ向一番にやるのが、これなのかよ!?」

 

―――後日の放課後にて、問い詰められるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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